三姉妹探偵団01 chapter 02 (1)
みっ しまい たんてい だん|
Three Sisters Detective Agency 01 chapter 02 (1)
2 探偵 業 事 始め
たんてい|ぎょう|こと|はじめ
2 Detective work beginning
夕 里子 は 、 放課後 の 校庭 へ と 入って 行った 。
ゆう|さとご||ほうかご||こうてい|||はいって|おこなった
Yuuriko went to the schoolyard after school.
クラブ 活動 の 生徒 たち が 何 人 か 残って いる が 、 それ 以外 は 閑散 と して いる 。
くらぶ|かつどう||せいと|||なん|じん||のこって||||いがい||かんさん|||
Some of the students in the club activities are left, but others are discouraged.
友達 に は 会い たく なかった 。
ともだち|||あい||
I did not want to see my friend.
── あれこれ 言わ れる の が いやな ので は ない 。
|いわ|||||||
── It is not bad to be told that.
それ に 、 そんな こと を 言う 友達 は い ない 。
|||||いう|ともだち|||
There are no friends who say that.
むしろ 、 みんな に 同情 さ れる の が いやだった のである 。
|||どうじょう||||||
Rather, it was disgusting to be sympathetic to everyone.
夕 里子 が 通って いる の は 私立 の 女子 高 で 、 短大 まで は エスカレーター 式 に 進む こと が できる 。
ゆう|さとご||かよって||||しりつ||じょし|たか||たんだい|||えすかれーたー|しき||すすむ|||
Yuuriko is attending a private women's high school and can go to escalator type until junior college.
優秀な 者 は 他の 大学 を 受験 して いた 。
ゆうしゅうな|もの||たの|だいがく||じゅけん||
The excellent ones were taking other university exams.
高校 二 年 から 、 クラス は 大学 受験 組 と 、 短大 組 と に 分 れて 、 授業 も 別々に 行わ れる 。
こうこう|ふた|とし||くらす||だいがく|じゅけん|くみ||たんだい|くみ|||ぶん||じゅぎょう||べつべつに|おこなわ|
From the second year of high school, classes are divided into university exams and junior colleges, and classes are also conducted separately.
夕 里子 も 大学 受験 組 の 中 に 入って いた 。
ゆう|さとご||だいがく|じゅけん|くみ||なか||はいって|
Yuriko was also in the university exam group.
あまり 着 たく は ない が 、 敦子 の 制服 を 借りて 着て 来た 。
|ちゃく|||||あつこ||せいふく||かりて|きて|きた
I didn't want to wear it very much, but I came in with a uniform of Yuzu.
目立ち たく ない から である 。
めだち||||
Because I do not want to stand out.
火事 から 、 十 日 が 過ぎた 。
かじ||じゅう|ひ||すぎた
Ten days have passed since the fire.
── 父 、 佐々 本 周平 は 、 まだ 帰って 来 なかった 。
ちち|ささ|ほん|しゅうへい|||かえって|らい|
父 My father, Shuhei Sasa, hasn't come back yet.
いや 、 まだ 捕まって い なかった 、 と 言った 方 が 正確だろう 。
||つかまって||||いった|かた||せいかくだろう
No, it would be more accurate to say that I had not been caught yet.
目下 、 殺人 容疑 で 指名 手配 さ れて いる のだ 。
もっか|さつじん|ようぎ||しめい|てはい||||
At the moment, they are wanted for murder.
── 殺人 。
さつじん
パパ が 。
ぱぱ|
「 そんな 馬鹿な こと が !
|ばかな||
"That stupid thing is!
誰 だって 、 父 を 知っている 人 なら 、 そんな こと を 信じ は し ない 。
だれ||ちち||しっている|じん|||||しんじ|||
Whoever knows the father does not believe in that.
しかし 、 手配 写真 を 見る 全国 の 人々 の 大部分 は 、 父 を 知ら ない のだ 。
|てはい|しゃしん||みる|ぜんこく||ひとびと||だいぶぶん||ちち||しら||
However, most of the people all over the country who see the arranged photos do not know their father.
そんな 人 たち の 目 に は 、 父 の 顔 が 、 残忍 凶悪な 人殺し の それ らしく 映る だろう 。
|じん|||め|||ちち||かお||ざんにん|きょうあくな|ひとごろし||||うつる|
In the eyes of such people, my father's face will seem like that of a brutal murderous murderer.
校舎 へ 入って 行く と 、 ちょうど 向 う から 担任 の 教師 、 中岡 が 歩いて 来た 。
こうしゃ||はいって|いく|||むかい|||たんにん||きょうし|なかおか||あるいて|きた
When I went to the school building, my teacher, Nakaoka, walked from there just because I was heading.
「 佐々 本 。
ささ|ほん
どうした ん だ 、 こんな 時間 に 」
||||じかん|
What happened, at such time "
「 ちょっと お 話 が あって ……」
||はなし||
"I have a little talk ..."
と 、 夕 里子 は 言った 。
|ゆう|さとご||いった
「 今 帰る ところ だ 。
いま|かえる||
"I am about to return now.
どう だ 、 しるこ でも 食う か 」
||||くう|
How are you going to eat it?
いつも の ぶ っき ら 棒 な 口調 が 、 夕 里子 に は 嬉しかった 。
|||||ぼう||くちょう||ゆう|さとご|||うれしかった
Yuuriko was delighted with his usual bouncy tone.
中岡 は 私立 女子 高 の 教師 らしから ぬ 、 旧 い タイプ の 教師 である 。
なかおか||しりつ|じょし|たか||きょうし|||きゅう||たいぷ||きょうし|
Nakaoka is an old-style teacher who is not a teacher of private high school girls.
夕 里子 は 、 その 野暮ったい 担任 が 割合 に 好きだった 。
ゆう|さとご|||やぼったい|たんにん||わりあい||すきだった
Yuuriko liked that part-time homeroom teacher in proportion.
「 はい 」
学校 の 中 で 話さ ず に 済む ように 気 を 遣って くれた こと が 、 嬉しかった 。
がっこう||なか||はなさ|||すむ||き||つかって||||うれしかった
I was happy that I was careful not to talk in school.
国友 刑事 が 、 被害 者 の 身 許 が 分 った と 知らせ に 来て くれた の は 、 火事 から 四 日 たった 午後 の こと だった 。
くにとも|けいじ||ひがい|もの||み|ゆる||ぶん|||しらせ||きて||||かじ||よっ|ひ||ごご|||
It was only four days after the fire that the detective detective friend came to the news that the victim had been found.
夕 里子 は まだ 片瀬 敦子 の 家 に 、 綾子 と 珠美 は 安東 の 家 に 居候 の 身 だった 。
ゆう|さとご|||かたせ|あつこ||いえ||あやこ||たまみ||あんどう||いえ||いそうろう||み|
Yuuriko was still in the house of Yuko Katase, and Yuko and Shumi were in the house of Andong.
父 は 帰ら ず 、 住む 家 も なく 、 頼る べき 親戚 も ない 。
ちち||かえら||すむ|いえ|||たよる||しんせき||
My father has not returned, there is no house to live in, and no relatives to rely on.
「 一家 心中 で も やろう か 」
いっか|しんじゅう||||
"Can I do it with my family?"
珠美 が 例 に よって 、 おそろしく 現実 的な 提案 を した が 、 幸い 他の 二 人 が 認め なかった 。
たまみ||れい||||げんじつ|てきな|ていあん||||さいわい|たの|ふた|じん||みとめ|
Shumi made a terribly realistic proposal, according to the example, but fortunately the other two people did not admit it.
「── 殺さ れた の は 水口 淳子 と いう 女性 でした 」
ころさ||||みずぐち|あつこ|||じょせい|
"-It was a woman named Mizuki Minato who was killed"
「 水口 ……」
みずぐち
「 聞き 憶 え は ?
きき|おく||
"What do you remember?
夕 里子 は 黙って 首 を 振った 。
ゆう|さとご||だまって|くび||ふった
Yuriko silently shook her head.
外 を 歩いて いて 、 いつの間にか 、 自分 の 家 の 焼け跡 の 前 に 来て いた 。
がい||あるいて||いつのまにか|じぶん||いえ||やけあと||ぜん||きて|
I was walking outside and someday I was in front of the burns of my house.
まだ 立入 禁止 の ロープ が 張って ある 。
|たちいり|きんし||ろーぷ||はって|
There is still a no-entry rope.
「 どういう 人 な んです か ?
|じん|||
"What kind of person is it?
「 会社 勤 め の OL と いう わけで ね 。
かいしゃ|つとむ|||ol||||
"It's just an OL for a company employee.
お 父さん の 恋人 だった んじゃ ない か な 」
|とうさん||こいびと|||||
I guess I was your father 's lover "
「 パパ が そんな ……」
ぱぱ||
"Daddy is such ..."
と 言い かけて 、 夕 里子 は 黙った 。
|いい||ゆう|さとご||だまった
Saying that, Yuriko shut up.
そりゃ 、 パパ だって 男 だ から 、 恋人 ぐらい 作る かも しれ ない 。
|ぱぱ||おとこ|||こいびと||つくる|||
Well, because dad is a man, he may make as much a lover.
「 でも 、 恋人 が できたら 、 絶対 に 私 たち に 隠したり し ませ ん 。
|こいびと|||ぜったい||わたくし|||かくしたり|||
"But if I have a lover, I will never hide it from us.
私 たち に 紹介 して くれ ます 」
わたくし|||しょうかい|||
Will you introduce to us "
「 しかし 、 会社 の 中 で は 、 最近 中年 の 恋人 が できた と 友だち に 話して いた そうだ よ 」
|かいしゃ||なか|||さいきん|ちゅうねん||こいびと||||ともだち||はなして||そう だ|
"But in the company, he told his friends that they had recently made a middle-aged lover."
国友 の 口調 が 、 変った のに 夕 里子 は 気付いた 。
くにとも||くちょう||かわった||ゆう|さとご||きづいた
Yuko Riko noticed that Kunitomo's tone changed.
国友 は ちょっと 照れくさ そうに 、
くにとも|||てれくさ|そう に
Kotomi looks a bit shy,
「 本当 は まだ この こと は 君 たち に 教える な と 三崎 さん から 言わ れて る んだ けど 、 いきなり 新聞 記事 で 読んだら ショック だろう と 思って ね 」
ほんとう||||||きみ|||おしえる|||みさき|||いわ||||||しんぶん|きじ||よんだら|しょっく|||おもって|
"The truth is that Misaki-san still tells me not to teach you this, but I think it would be a shock if you read it in a newspaper article suddenly."
「 ありがとう 」
夕 里子 は 心から そう 言った 。
ゆう|さとご||こころから||いった
Yuriko said so from the bottom of her heart.
「── 水口 淳子 は 妊娠 して いた 。
みずぐち|あつこ||にんしん||
"-Mizuko Mizuguchi was pregnant.
父親 は 非常に 厳格な 人 で 、 ともかく 歯 医者 が 確認 して くれた んだ が 、 そんな 殺さ れ 方 を する もの は うち の 娘 で は ない と 言って きか ない んだ 」
ちちおや||ひじょうに|げんかくな|じん|||は|いしゃ||かくにん||||||ころさ||かた|||||||むすめ|||||いって|||
My father is a very strict person and somehow it has been confirmed by the dentist, but I can not say that it is not my daughter who does such a way of being killed.
「 でも …… もし 本当に その 人 が パパ の 恋人 なら 、 どうして 殺す 必要 が ある んです か ?
||ほんとうに||じん||ぱぱ||こいびと|||ころす|ひつよう||||
"But ... If you really are that dad 's lover, why do you need to kill it?
「 僕 も そう 思う 」
ぼく|||おもう
" I also think so "
と 、 国友 は 肯 いた 。
|くにとも||こう|
And my friend said to me.
「 しかし 、 彼女 の 死体 が この 家 の 中 に あった の は 事実 だ から ね 」
|かのじょ||したい|||いえ||なか|||||じじつ|||
"But it is true that her corpse was inside this house."
「 万が一 、 パパ が その 女 の 人 を 殺した と して も 、 私 たち まで 一緒に 焼き殺そう なんて する はず が あり ませ ん !
まんがいち|ぱぱ|||おんな||じん||ころした||||わたくし|||いっしょに|やきころそう|||||||
"Even if dad killed the woman by any chance, there was no way we could burn it together!
焼け跡 は 、 まだ 生々しかった 。
やけあと|||なまなましかった
The burns were still fresh.
国友 は 困った ように 頭 を かいた 。
くにとも||こまった||あたま||
His friend kept his head in trouble.
「 まあ 、 君 の 言葉 の 方 が 説得 力 は ある な 。
|きみ||ことば||かた||せっとく|ちから|||
"Well, your words are more persuasive.
君 の お 父さん が 発 狂 した なんて 説 より も ね 」
きみ|||とうさん||はつ|くる|||せつ|||
It 's better than your theory that your father went mad. "
夕 里子 は しばらく 黙って いた が 、 やがて 国友 の 顔 を 見た 。
ゆう|さとご|||だまって||||くにとも||かお||みた
Yuuriko was silent for a while, but eventually saw the face of Kotoumi.
「 父 は 、 手配 さ れる んです か ?
ちち||てはい||||
"Will my father be arranged?
「 そういう こと に なる と 思う 。
|||||おもう
"I think that would be the case.
残念だ けど ね 」
ざんねんだ||
It is a pity but
国友 は そう 言って 、「 どこ に いる の か ……。
くにとも|||いって|||||
Kotoumi said, "Where are you .....
出て 来て 弁明 して くれれば 、 警察 だって ちゃんと 調査 する んだ が ……」
でて|きて|べんめい|||けいさつ|||ちょうさ|||
If you come out and excuse me, even the police will investigate properly ... "
と 、 独り言 の ように 付け加えた 。
|ひとりごと|||つけくわえた
And, added as a soliloquy.
「 犯人 を 探す ?
はんにん||さがす
"Look for the culprit?
中岡 は 、 夕 里子 の 言葉 に 、 さすが に びっくり した ようだった 。
なかおか||ゆう|さとご||ことば||||||
Nakaoka was truly surprised by Yuuriko's words.
「 はい 。
父 の 無実 を 晴らして やり たい んです 」
ちち||むじつ||はらして|||
I want to get rid of my father 's innocence. "
「 言う は 易く 、 だ ぞ 」
いう||やすく||
"It's easy to say, I guess"
「 分 って ます 。
ぶん||
"I know.
でも 、 そう し ない と 、 私 たち 、 気 が 済み ませ ん 」
|||||わたくし||き||すみ||
But if we don't, we won't feel like it. "
中岡 は 困った ような 苦い 顔 で 、 ぼ さ ぼ さ の 髪 を 引 張って いた が 、
なかおか||こまった||にがい|かお|||||||かみ||ひ|はって||
Nakaoka had a bitter face like trouble, and was stretching his rough hair,
「 お前 なら やる かも しれ ん な 」
おまえ||||||
"You might do it"
と 、 笑い ながら 言った 。
|わらい||いった
Said while laughing.
「 金 は ある の か 」
きむ||||
"Is there money?"
「 お 金 です か ?
|きむ||
「 資金 が いる だろう 。
しきん|||
"There will be money.
電車 賃 、 バス 代 、 タクシー に だって 乗る かも しれ ん 」
でんしゃ|ちん|ばす|だい|たくしー|||のる|||
Train fares, bus fares, taxis may even get you
「 アルバイト でも して 稼ぎ ます 」
あるばいと|||かせぎ|
"Even part-time workers earn money"
「 その 間 に 犯人 は 逃げ ち まう ぞ 」
|あいだ||はんにん||にげ|||
"In the meantime the criminal will run away"
中岡 は 上 衣 の ポケット から 財布 を 出す と 、 一万 円 札 を 三 枚 抜いて 、 テーブル に 置いた 。
なかおか||うえ|ころも||ぽけっと||さいふ||だす||いちまん|えん|さつ||みっ|まい|ぬいて|てーぶる||おいた
Nakaoka pulled out a purse from his jacket pocket, pulled out three 10,000 yen notes and placed it on the table.
「 貸して やる 」
かして|
"I will lend you"
「 先生 ──」
せんせい
「 貸す んだ 。
かす|
"I'm lending you.
やる んじゃ ない ぞ 。
I'm not going to do it.
後 で バイト でも して 返せよ 」
あと||ばいと|||かえせよ
Please return it later as a part-time job."
「 すみません 」
と 夕 里子 は 頭 を 下げた 。
|ゆう|さとご||あたま||さげた
「 その代り 条件 が ある 」
そのかわり|じょうけん||
"There is a condition instead"
「 何 です か ?
なん||
「 犯人 探し も いい が 、 危険 が 伴う こと を 忘れる な 。
はんにん|さがし||||きけん||ともなう|||わすれる|
"I'm good to look for the perpetrators, but don't forget the dangers.
深追い する と 危 い ぞ 」
ふかおい|||き||
It is dangerous if you chase after it.
「 約束 し ます 」
やくそく||
「 あんまり 当て に なら ん な 」
|あて||||
"Don't count too much"
と 、 中岡 は 笑い ながら 言った 。
|なかおか||わらい||いった
Said Nakaoka while laughing.
「 生徒 に 金 を 貸す の だって 、 教師 と して 感心 した こと じゃ あり ませ ん 」
せいと||きむ||かす|||きょうし|||かんしん||||||
"Lending money to students is not something that I admired as a teacher."
と 、 夕 里子 は 言い返して やった 。
|ゆう|さとご||いいかえして|
And Yuuriko reciprocated.
綾子 は 、 また 大学 の 門 の 前 で 足 を 止めて しまった 。
あやこ|||だいがく||もん||ぜん||あし||とどめて|
Reiko also stopped in front of the university gate.
ここ 三 日間 、 毎日 、 ここ まで 来て は 、 帰って しまう のだ 。
|みっ|にち かん|まいにち|||きて||かえって||
For the last three days, every day I come here and I will come back.
何も 私 が 悪い こと を した わけじゃ ない 。
なにも|わたくし||わるい|||||
Nothing does not mean that I did bad things.
そう 自分 へ 言い聞かせて 、 明日 こそ 、 堂々と 胸 を 張って 入ろう と 思う のだ が 、 こうして やって 来る と 、 その 決心 は くじけて しまう 。
|じぶん||いいきかせて|あした||どうどうと|むね||はって|はいろう||おもう|||||くる|||けっしん|||
Yes, I would like to tell myself, and I think that I will hold my heart proudly tomorrow, but if I come this way, my decision will be lost.
明日 だ 。
あした|
It is tomorrow.
明日 から 来よう 。
あした||こよう
Let's come from tomorrow.
今日 は …… ちょっと 頭痛 も する し ……。
きょう|||ずつう|||
Today ... ... I have some headaches ... ...
卑怯 者 、 弱虫 、 と 責め立てる 自分 自身 の 声 を 聞き ながら 、 綾子 は 、 重い 足取り で 、 駅 へ と 戻って 行った 。
ひきょう|もの|よわむし||せめたてる|じぶん|じしん||こえ||きき||あやこ||おもい|あしどり||えき|||もどって|おこなった
While listening to his own voice, who blames him for being a prisoner, a wimp, Yuko went back to the station with a heavy step.
綾子 だって 、 父 の 無実 を 信じて は いる のである 。
あやこ||ちち||むじつ||しんじて|||
Even Reiko believes in his father's innocence.
しかし 、 夕 里子 の ように 周囲 の 視線 を はね返す だけ の 度胸 が ない 。
|ゆう|さとご|||しゅうい||しせん||はねかえす|||どきょう||
However, like Yuuriko, I do not have the courage to repel my eyes around me.
と いって 、 珠美 の ように 、 却って それ で 周囲 の 同情 を ひき 、 宿題 を 代り に やら せて しまう と いう 要領 の 良 さ も 、 持ち合せて い ない のである 。
||たまみ|||かえって|||しゅうい||どうじょう|||しゅくだい||かわり|||||||ようりょう||よ|||もちあわせて|||
And, like Shumei, it doesn't have the good point of drawing the sympathy around it instead and letting me do my homework instead.
電車 に 乗って 、 綾子 は ため息 ばかり ついて いた 。
でんしゃ||のって|あやこ||ためいき|||
On a train, Reiko kept sighing.
我ながら 情 ない 、 と は 思う のである 。
われながら|じょう||||おもう|
I think that I do not feel sorry.
長女 な のだ から 、 こんな とき に こそ しっかり し なくて は ……。
ちょうじょ|||||||||||
Because I am my eldest daughter, I have to do well at such times ....
でも 、 分 って はいて も 、 でき ない もの は でき ない 、 のである 。
|ぶん||||||||||
But even if you understand it, you can not do what you can not do.
生来 の 内気 さ 、 気 の 弱 さ は 、 この 年齢 に なって 変え られる もの で は ない 。
せいらい||うちき||き||じゃく||||ねんれい|||かえ|||||
The natural shyness and weakness are not something that can be changed at this age.
たぶん 妹 の 二 人 、 特に 夕 里子 が しっかり者 すぎる の も 、 綾子 の そういう 性 向 を 助けた のだろう 。
|いもうと||ふた|じん|とくに|ゆう|さとご||しっかりもの||||あやこ|||せい|むかい||たすけた|
Perhaps two sisters, especially Yuriko, who are too strong, also helped such a tendency of Reiko.
母 が 死んだ 後 、 張り切って 母親 役 を 一 手 に 引き受けた の は 夕 里子 だった 。
はは||しんだ|あと|はりきって|ははおや|やく||ひと|て||ひきうけた|||ゆう|さとご|
It was Yurico Yuko who was persistently taking over the role of the mother after her mother died.
綾子 は 、 おかげ で 少しも 変ら ず 、 のんびり と 毎日 を 送る こと が できた 。
あやこ||||すこしも|かわら||||まいにち||おくる|||
Reiko was able to send her every day leisurely, thanks in no way to any change.
そこ へ 今度 の 事件 である 。
||こんど||じけん|
It is the next incident there.
── どう すれば いい もの やら 、 綾子 は 途方 に 暮れる ばかりだった 。
|||||あやこ||とほう||くれる|
ど う How could I do, Yuzu was just getting lost.
父 が い なく なって 、 佐々 本家 は 無 収入 である 。
ちち|||||ささ|ほんけ||む|しゅうにゅう|
When my father is gone, Sasa Honke has no income.
長女 と して は 大学 を やめて 、 働き に 出る 必要 が あろう 。
ちょうじょ||||だいがく|||はたらき||でる|ひつよう||
As a eldest daughter, I will have to quit college and go to work.
妹 二 人 、 せめて 高校 まで は 出して やり たい 。
いもうと|ふた|じん||こうこう|||だして||
Two sisters, I want to go out to high school at least.
その 程度 の こと は 、 綾子 も 考えて いる 。
|ていど||||あやこ||かんがえて|
That degree is also thinking of dumplings.
ただ 、 実行 に 移せ ない だけ である 。
|じっこう||うつせ|||
It just can not be put into practice.
一 日一日 と 先 へ のばして 、 その 内 に 父 が 帰って 来る ので は ない か 、 何 か 起って 、 全部 が 丸く おさまる んじゃ ない か 、 と 期待 して いる のだった 。
ひと|ひいちにち||さき||||うち||ちち||かえって|くる|||||なん||おこって|ぜんぶ||まるく||||||きたい|||
One day a day, I was expecting that my father would not come back in that day, or if something had happened, that everything would go round.
「── 何 だ 、 大学 は どうした 」
なん||だいがく||
"-What, what happened to the university?"
安東 が 家 から 出て 来る のに 、 ばったり と 出会って しまった 。
あんどう||いえ||でて|くる||||であって|
When Andong came out of his house, he met a bluff.
「 あ 、 先生 ……。
|せんせい
お 休み な んです か 」
|やすみ|||
Is it a holiday?
「 うん 、 今日 は 開校 記念日 だ 。
|きょう||かいこう|きねんび|
"Yes, today is the school anniversary.
珠美 君 は どこ か へ 出かけて 行った ぞ 。
たまみ|きみ|||||でかけて|おこなった|
Tamami-san went out somewhere.
── どうした ん だ ?
ど う What happened?
「 あの ……」
と 言った きり 、 どう 言って いい の か 分 ら ず 、 口 を つぐんで しまう 。
|いった|||いって||||ぶん|||くち|||
As long as I said “I don't know what I should say, I will get in my mouth.”
安東 は 察した らしく 、 綾子 の 肩 を 叩く と 、
あんどう||さっした||あやこ||かた||たたく|
Ando knew that when I hit her shoulder,
「 昼 飯 を 食い に 出て 来た んだ 。
ひる|めし||くい||でて|きた|
"I came out to eat lunch.
一緒に どう だ ?
いっしょに||
How are you together?
と 言った 。
|いった
駅 の 近く まで 歩いて 、 うどん 屋 に 入る と 、 安東 は カツ 丼 を 注文 した 。
えき||ちかく||あるいて||や||はいる||あんどう||かつ|どんぶり||ちゅうもん|
Walking to the vicinity of the station and entering a udon shop, Andong ordered a pork cutlet.
「 同じで いい か ?
おなじで||
"Do you want the same thing?
── じゃ 、 二 つ 」
|ふた|
綾子 は うつむいて いた 。
あやこ|||
Yuko was down.
安東 は お茶 を ゆっくり と すする と 、
あんどう||おちゃ|||||
Andong drinks tea slowly,
「 色々 、 大変だ な 」
いろいろ|たいへんだ|
"Various, it's a big deal."
と 言った 。
|いった
「 すっかり お 世話に なって …… すみません 」
||せわに||
"I am completely indebted ... ... excuse me"
「 そんな こと は 気 に する な 。
|||き|||
"Don't worry about that.
親父 さん が 見付から ない 限り 、 君 たち と して も 動き よう が ない もの な 」
おやじ|||みつから||かぎり|きみ|||||うごき|||||
As long as you can not find your father, you can not move. "
「 そう な んです 」
" That's right "
「 大学 に も 行き にくい んだろう ?
だいがく|||いき||
"It 's hard to go to university, right?
── 分 る よ 。
ぶん||
まあ 元気 出せ 。
|げんき|だせ
Well cheer up.
ビール 飲む か ?
びーる|のむ|
「 いえ …… 飲め ない んです 」
|のめ||
"No ... I can't drink it."
「 そう か 。
じゃ 、 ともかく 食って 元気 を 出す んだ な 」
||くって|げんき||だす||
Well, anyway, I'm eating and getting healthy. "
カツ 丼 が 来る と 、 安東 は 早速 食べ 始めた が 、 綾子 は 手 を つけ ない 。
かつ|どんぶり||くる||あんどう||さっそく|たべ|はじめた||あやこ||て|||
When the pork cutlet came, Andong started eating right away, but the dumplings were out of hand.
「── 何 だ 、 食わ ない の か ?
なん||くわ|||
"-What are you not eating?
「 あの ……」
綾子 は 蚊 の 鳴く ような 声 で 言った 。
あやこ||か||なく||こえ||いった
Reiko said with a moaning voice.
「 私 、 だめな んです 。
わたくし||
"I'm sorry.
カツ は 好きな んです けど 、 カツ 丼 は ……」
かつ||すきな|||かつ|どんぶり|
I like cutlet but I want cutlet ...... "
「 それ なら そう 言えば いい のに 」
|||いえば||
"I would say so if it were so"
「 すみません …… つい ……」
"I'm sorry ... ...... just ..."
綾子 は 目 から 溢れる 涙 を 拭った 。
あやこ||め||あふれる|なみだ||ぬぐった
Reiko wiped out the tears that overflowed from her eyes.
「 いつも こんな 風 で …… だめな んです 、 私 」
||かぜ||||わたくし
"Always like this ... I'm sorry"
何しろ 悲しく なる より 早く 涙 が 出て 来て しまう 性質 な のである 。
なにしろ|かなしく|||はやく|なみだ||でて|きて||せいしつ||
It is the nature that tears come out earlier than it becomes sad.
「 おい 、 泣く な よ 。
|なく||
"Hey, don't cry.
俺 が 泣か せた ように 見える じゃ ない か 」
おれ||なか|||みえる|||
It looks like I let you cry.
「 すみません 」
と 、 また 涙 が 出て 来る 。
||なみだ||でて|くる
And again, tears come out.
少々 涙腺 の パッキン が 古く なって いる の かも しれ ない 。
しょうしょう|るいせん||||ふるく||||||
The packing of the lacrimal gland may be a little old.
安東 が 笑って 、
あんどう||わらって
Andong laughs,
「 君 は 全く 妹 二 人 と は 違う なあ 」
きみ||まったく|いもうと|ふた|じん|||ちがう|
"You are totally different from your two sisters"
と 言った 。
|いった
「 妹 たち は しっかり して る んです けど 」
いもうと|||||||
"My sisters are solid but they are"
「 いや 、 君 の ような 内気な 娘 は 当 節 、 希少 価値 だ ぞ 」
|きみ|||うちきな|むすめ||とう|せつ|きしょう|かち||
"No, a shy girl like you is a rare value in this section."
安東 が 、 綾子 の 肩 へ 、 その 力強い 手 を 置いた 。
あんどう||あやこ||かた|||ちからづよい|て||おいた
Andong put his strong hand on Reiko's shoulder.
綾子 は 胸 が 熱く なった 。
あやこ||むね||あつく|
Reiko has a hot heart.
涙 に うるんだ 目 で 、 じっと 安東 を 見つめて いた ……。
なみだ|||め|||あんどう||みつめて|
I was staring at Andong with tearful eyes ....
「 何 な の よ 、 私 、 忙しい んだ から 」
なん||||わたくし|いそがしい||
"What are you, I am busy?"
と 、 珠美 が ブツブツ 言った 。
|たまみ||ぶつぶつ|いった
And, Tamami said.
「 重要な 話 だって 言った でしょ !
じゅうような|はなし||いった|
"You said it was an important story!
夕 里子 が にらみつける 。
ゆう|さとご||
Yurika sees.
「 分 った わ よ 。
ぶん|||
"I got it.
そんな 、 かみつき そうな 顔 し ないで 」
||そう な|かお||
Don't look like it 's biting like that.
「 生れつき よ 。
うまれつき|
"You are born.
── お 姉さん は ?
|ねえさん|
「 言 っと いたんだ けど ね 」
げん||||
"I said that,"
「 もう いや ねえ 、 時間 ルーズな んだ から 」
|||じかん|るーずな||
"No more, I'm loose in time."
もう そろそろ 表 は 暗く なり かけて いる 。
||ひょう||くらく|||
The table is getting dark soon.
夕 里子 は 、 姉 と 妹 に 、 駅前 で 唯一 の 「 飲める 」 コーヒー を 出す 喫茶 店 に 集合 しろ と 呼びかけた のである 。
ゆう|さとご||あね||いもうと||えきまえ||ゆいいつ||のめる|こーひー||だす|きっさ|てん||しゅうごう|||よびかけた|
Yuuriko called on her sisters and sisters to gather at a coffee shop where they would be the only "drinkable" coffee in front of the station.
ブツブツ 言って いる と 、 綾子 が 入って 来た 。
ぶつぶつ|いって|||あやこ||はいって|きた
When I was saying something, a dumpling came in.
「 ごめん 、 待った ?
|まった
"Sorry, did you wait?
「 お 姉さん 、 今日 は 大学 に 行った ?
|ねえさん|きょう||だいがく||おこなった
"Sister, did you go to university today?
綾子 が ギクリと して 、
あやこ||ぎくりと|
The dumplings are smashing,
「 行った わ よ 。
おこなった||
"I went.
── 本当 よ 」
ほんとう|
「 お 姉さん の 噓 は すぐ ばれる の 」
|ねえさん||||||
"My sister 's niece is going well."
「 噓 じゃ ない って ば !
"If you're not jealous!
門 の 前 まで でも 、 行った こと に 変り ない 。
もん||ぜん|||おこなった|||かわり|
Even before the gate, it does not change to what I went.
「 まあ いい わ 。
"That's good.
ともかく 、 話 が ある の 」
|はなし|||
Anyway, I have a story.
「 その 前 に 、 一 つ 訊 いて いい ?
|ぜん||ひと||じん||
"Before that, can I have one?
と 珠美 。
|たまみ
「 ここ 、 誰 が 払う の ?
|だれ||はらう|
"Who pays here?
「 私 が 払う わ よ 」
わたくし||はらう||
"I'll pay you"
「 じゃ 安心だ 」
|あんしんだ
"Then I'm relieved"
「 がめつい んだ から 、 あんた は 」
"Because I'm getting stuck, you are"
「 こういう 人 が 一 人 い ない と 家計 は 成り立た ない の 」
|じん||ひと|じん||||かけい||なりたた||
"A household can not be built without one such person."
「 じゃ 、 ともかく 話 を する わ 」
||はなし|||
"Well, we will talk anyway."
コーヒー を 飲み ながら 、 夕 里子 は 言った 。
こーひー||のみ||ゆう|さとご||いった
While drinking coffee, Yuuriko said.
「 パパ は 今や 殺人 容疑 で 手配 中 。
ぱぱ||いまや|さつじん|ようぎ||てはい|なか
"Daddy is now arranging for murder.
うち は 焼けて 、 私 たち は 無 収入 、 住所 不定 って わけ 。
||やけて|わたくし|||む|しゅうにゅう|じゅうしょ|ふてい||
My house is burnt, we have no income, no address.
嘆いて たって 始まら ない わ 。
なげいて||はじまら||
I can not start crying.
自分 たち の 手 で 、 何とか し ない と 」
じぶん|||て||なんとか|||
I have to do something with their own hands "
「 どう する の ?
" What to do ?
と 綾子 が 不安 げ に 言った 。
|あやこ||ふあん|||いった
Said Reiko anxiously.
何しろ 夕 里子 は ときどき 無 茶 な こと を 言い出す のだ 。
なにしろ|ゆう|さとご|||む|ちゃ||||いいだす|
After all, Yuriko sometimes makes an outrageous thing.
「 私 たち の 力 で 、 パパ の 無実 を 立証 する の 」
わたくし|||ちから||ぱぱ||むじつ||りっしょう||
「 どう やって ?
" how ?
「 真 犯人 を 見付ける の よ 」
まこと|はんにん||みつける||
「 そんな こと 無理 よ !
||むり|
"That 's impossible!
と 、 綾子 は 啞然 と して 、「 私 たち ── 学生 な の よ 」
|あやこ||啞ぜん|||わたくし||がくせい|||
And Reiko was stunned and said, "We are students."
「 でも 、 幼稚園 や 小学校 の 生徒 と は わけ が 違う わ 。
|ようちえん||しょうがっこう||せいと|||||ちがう|
"But it is different from kindergarten and elementary students.
もう 大人 よ 。
|おとな|
I am already an adult.
それとも お 姉さん は パパ が 殺人 犯 に さ れて て も かまわ ない って いう の ?
||ねえさん||ぱぱ||さつじん|はん||||||||||
Or does it mean that your sister doesn't care if Daddy is a murderer?
「 そ 、 そう じゃ ない けど ……」
"Well, that's not right ... ..."
「 じゃ 、 決定 」
|けってい
"Well, let's decide"
綾子 は 諦めた ように 肩 を 落とした 。
あやこ||あきらめた||かた||おとした
Reiko dropped her shoulder as if she gave up.
いつも こう な んだ 。
This is always the case.
夕 里子 に 強く 言わ れる と 、 何も 反論 でき なく なって しまう 。
ゆう|さとご||つよく|いわ|||なにも|はんろん||||
If it is strongly said by Yuriko, nothing can be refuted.
これ じゃ どっち が 姉 なんだか ……。
||||あね|
Which is my sister ...?
「 でも 、 具体 案 は ある の ?
|ぐたい|あん|||
珠美 は リアルである 。
たまみ||りあるである
Tamami is real.