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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter 02 (1)

三姉妹探偵団01 chapter 02 (1)

2 探偵 業 事 始め

夕 里子 は 、 放課後 の 校庭 へ と 入って 行った 。 クラブ 活動 の 生徒 たち が 何 人 か 残って いる が 、 それ 以外 は 閑散 と して いる 。

友達 に は 会い たく なかった 。 ── あれこれ 言わ れる の が いやな ので は ない 。 それ に 、 そんな こと を 言う 友達 は い ない 。 むしろ 、 みんな に 同情 さ れる の が いやだった のである 。

夕 里子 が 通って いる の は 私立 の 女子 高 で 、 短大 まで は エスカレーター 式 に 進む こと が できる 。 優秀な 者 は 他の 大学 を 受験 して いた 。 高校 二 年 から 、 クラス は 大学 受験 組 と 、 短大 組 と に 分 れて 、 授業 も 別々に 行わ れる 。

夕 里子 も 大学 受験 組 の 中 に 入って いた 。

あまり 着 たく は ない が 、 敦子 の 制服 を 借りて 着て 来た 。 目立ち たく ない から である 。

火事 から 、 十 日 が 過ぎた 。 ── 父 、 佐々 本 周平 は 、 まだ 帰って 来 なかった 。 いや 、 まだ 捕まって い なかった 、 と 言った 方 が 正確だろう 。

目下 、 殺人 容疑 で 指名 手配 さ れて いる のだ 。

── 殺人 。 パパ が 。

「 そんな 馬鹿な こと が ! 誰 だって 、 父 を 知っている 人 なら 、 そんな こと を 信じ は し ない 。 しかし 、 手配 写真 を 見る 全国 の 人々 の 大部分 は 、 父 を 知ら ない のだ 。 そんな 人 たち の 目 に は 、 父 の 顔 が 、 残忍 凶悪な 人殺し の それ らしく 映る だろう 。

校舎 へ 入って 行く と 、 ちょうど 向 う から 担任 の 教師 、 中岡 が 歩いて 来た 。

「 佐々 本 。 どうした ん だ 、 こんな 時間 に 」

「 ちょっと お 話 が あって ……」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 今 帰る ところ だ 。 どう だ 、 しるこ でも 食う か 」

いつも の ぶ っき ら 棒 な 口調 が 、 夕 里子 に は 嬉しかった 。 中岡 は 私立 女子 高 の 教師 らしから ぬ 、 旧 い タイプ の 教師 である 。 夕 里子 は 、 その 野暮ったい 担任 が 割合 に 好きだった 。

「 はい 」

学校 の 中 で 話さ ず に 済む ように 気 を 遣って くれた こと が 、 嬉しかった 。

国友 刑事 が 、 被害 者 の 身 許 が 分 った と 知らせ に 来て くれた の は 、 火事 から 四 日 たった 午後 の こと だった 。

夕 里子 は まだ 片瀬 敦子 の 家 に 、 綾子 と 珠美 は 安東 の 家 に 居候 の 身 だった 。 父 は 帰ら ず 、 住む 家 も なく 、 頼る べき 親戚 も ない 。

「 一家 心中 で も やろう か 」

珠美 が 例 に よって 、 おそろしく 現実 的な 提案 を した が 、 幸い 他の 二 人 が 認め なかった 。

「── 殺さ れた の は 水口 淳子 と いう 女性 でした 」

「 水口 ……」

「 聞き 憶 え は ? 夕 里子 は 黙って 首 を 振った 。

外 を 歩いて いて 、 いつの間にか 、 自分 の 家 の 焼け跡 の 前 に 来て いた 。 まだ 立入 禁止 の ロープ が 張って ある 。

「 どういう 人 な んです か ? 「 会社 勤 め の OL と いう わけで ね 。 お 父さん の 恋人 だった んじゃ ない か な 」

「 パパ が そんな ……」

と 言い かけて 、 夕 里子 は 黙った 。 そりゃ 、 パパ だって 男 だ から 、 恋人 ぐらい 作る かも しれ ない 。

「 でも 、 恋人 が できたら 、 絶対 に 私 たち に 隠したり し ませ ん 。 私 たち に 紹介 して くれ ます 」

「 しかし 、 会社 の 中 で は 、 最近 中年 の 恋人 が できた と 友だち に 話して いた そうだ よ 」

国友 の 口調 が 、 変った のに 夕 里子 は 気付いた 。 国友 は ちょっと 照れくさ そうに 、

「 本当 は まだ この こと は 君 たち に 教える な と 三崎 さん から 言わ れて る んだ けど 、 いきなり 新聞 記事 で 読んだら ショック だろう と 思って ね 」

「 ありがとう 」

夕 里子 は 心から そう 言った 。

「── 水口 淳子 は 妊娠 して いた 。 父親 は 非常に 厳格な 人 で 、 ともかく 歯 医者 が 確認 して くれた んだ が 、 そんな 殺さ れ 方 を する もの は うち の 娘 で は ない と 言って きか ない んだ 」

「 でも …… もし 本当に その 人 が パパ の 恋人 なら 、 どうして 殺す 必要 が ある んです か ? 「 僕 も そう 思う 」

と 、 国友 は 肯 いた 。 「 しかし 、 彼女 の 死体 が この 家 の 中 に あった の は 事実 だ から ね 」

「 万が一 、 パパ が その 女 の 人 を 殺した と して も 、 私 たち まで 一緒に 焼き殺そう なんて する はず が あり ませ ん ! 焼け跡 は 、 まだ 生々しかった 。 国友 は 困った ように 頭 を かいた 。

「 まあ 、 君 の 言葉 の 方 が 説得 力 は ある な 。 君 の お 父さん が 発 狂 した なんて 説 より も ね 」

夕 里子 は しばらく 黙って いた が 、 やがて 国友 の 顔 を 見た 。

「 父 は 、 手配 さ れる んです か ? 「 そういう こと に なる と 思う 。 残念だ けど ね 」

国友 は そう 言って 、「 どこ に いる の か ……。 出て 来て 弁明 して くれれば 、 警察 だって ちゃんと 調査 する んだ が ……」

と 、 独り言 の ように 付け加えた 。

「 犯人 を 探す ? 中岡 は 、 夕 里子 の 言葉 に 、 さすが に びっくり した ようだった 。

「 はい 。 父 の 無実 を 晴らして やり たい んです 」

「 言う は 易く 、 だ ぞ 」

「 分 って ます 。 でも 、 そう し ない と 、 私 たち 、 気 が 済み ませ ん 」

中岡 は 困った ような 苦い 顔 で 、 ぼ さ ぼ さ の 髪 を 引 張って いた が 、

「 お前 なら やる かも しれ ん な 」

と 、 笑い ながら 言った 。 「 金 は ある の か 」

「 お 金 です か ? 「 資金 が いる だろう 。 電車 賃 、 バス 代 、 タクシー に だって 乗る かも しれ ん 」

「 アルバイト でも して 稼ぎ ます 」

「 その 間 に 犯人 は 逃げ ち まう ぞ 」

中岡 は 上 衣 の ポケット から 財布 を 出す と 、 一万 円 札 を 三 枚 抜いて 、 テーブル に 置いた 。

「 貸して やる 」

「 先生 ──」

「 貸す んだ 。 やる んじゃ ない ぞ 。 後 で バイト でも して 返せよ 」

「 すみません 」

と 夕 里子 は 頭 を 下げた 。

「 その代り 条件 が ある 」

「 何 です か ? 「 犯人 探し も いい が 、 危険 が 伴う こと を 忘れる な 。 深追い する と 危 い ぞ 」

「 約束 し ます 」

「 あんまり 当て に なら ん な 」

と 、 中岡 は 笑い ながら 言った 。

「 生徒 に 金 を 貸す の だって 、 教師 と して 感心 した こと じゃ あり ませ ん 」

と 、 夕 里子 は 言い返して やった 。

綾子 は 、 また 大学 の 門 の 前 で 足 を 止めて しまった 。

ここ 三 日間 、 毎日 、 ここ まで 来て は 、 帰って しまう のだ 。 何も 私 が 悪い こと を した わけじゃ ない 。 そう 自分 へ 言い聞かせて 、 明日 こそ 、 堂々と 胸 を 張って 入ろう と 思う のだ が 、 こうして やって 来る と 、 その 決心 は くじけて しまう 。

明日 だ 。 明日 から 来よう 。 今日 は …… ちょっと 頭痛 も する し ……。

卑怯 者 、 弱虫 、 と 責め立てる 自分 自身 の 声 を 聞き ながら 、 綾子 は 、 重い 足取り で 、 駅 へ と 戻って 行った 。

綾子 だって 、 父 の 無実 を 信じて は いる のである 。 しかし 、 夕 里子 の ように 周囲 の 視線 を はね返す だけ の 度胸 が ない 。 と いって 、 珠美 の ように 、 却って それ で 周囲 の 同情 を ひき 、 宿題 を 代り に やら せて しまう と いう 要領 の 良 さ も 、 持ち合せて い ない のである 。

電車 に 乗って 、 綾子 は ため息 ばかり ついて いた 。 我ながら 情 ない 、 と は 思う のである 。 長女 な のだ から 、 こんな とき に こそ しっかり し なくて は ……。 でも 、 分 って はいて も 、 でき ない もの は でき ない 、 のである 。

生来 の 内気 さ 、 気 の 弱 さ は 、 この 年齢 に なって 変え られる もの で は ない 。

たぶん 妹 の 二 人 、 特に 夕 里子 が しっかり者 すぎる の も 、 綾子 の そういう 性 向 を 助けた のだろう 。 母 が 死んだ 後 、 張り切って 母親 役 を 一 手 に 引き受けた の は 夕 里子 だった 。

綾子 は 、 おかげ で 少しも 変ら ず 、 のんびり と 毎日 を 送る こと が できた 。 そこ へ 今度 の 事件 である 。 ── どう すれば いい もの やら 、 綾子 は 途方 に 暮れる ばかりだった 。

父 が い なく なって 、 佐々 本家 は 無 収入 である 。 長女 と して は 大学 を やめて 、 働き に 出る 必要 が あろう 。 妹 二 人 、 せめて 高校 まで は 出して やり たい 。

その 程度 の こと は 、 綾子 も 考えて いる 。 ただ 、 実行 に 移せ ない だけ である 。 一 日一日 と 先 へ のばして 、 その 内 に 父 が 帰って 来る ので は ない か 、 何 か 起って 、 全部 が 丸く おさまる んじゃ ない か 、 と 期待 して いる のだった 。

「── 何 だ 、 大学 は どうした 」

安東 が 家 から 出て 来る のに 、 ばったり と 出会って しまった 。

「 あ 、 先生 ……。 お 休み な んです か 」

「 うん 、 今日 は 開校 記念日 だ 。 珠美 君 は どこ か へ 出かけて 行った ぞ 。 ── どうした ん だ ? 「 あの ……」

と 言った きり 、 どう 言って いい の か 分 ら ず 、 口 を つぐんで しまう 。

安東 は 察した らしく 、 綾子 の 肩 を 叩く と 、

「 昼 飯 を 食い に 出て 来た んだ 。 一緒に どう だ ? と 言った 。

駅 の 近く まで 歩いて 、 うどん 屋 に 入る と 、 安東 は カツ 丼 を 注文 した 。

「 同じで いい か ? ── じゃ 、 二 つ 」

綾子 は うつむいて いた 。 安東 は お茶 を ゆっくり と すする と 、

「 色々 、 大変だ な 」

と 言った 。

「 すっかり お 世話に なって …… すみません 」

「 そんな こと は 気 に する な 。 親父 さん が 見付から ない 限り 、 君 たち と して も 動き よう が ない もの な 」

「 そう な んです 」

「 大学 に も 行き にくい んだろう ? ── 分 る よ 。 まあ 元気 出せ 。 ビール 飲む か ? 「 いえ …… 飲め ない んです 」

「 そう か 。 じゃ 、 ともかく 食って 元気 を 出す んだ な 」

カツ 丼 が 来る と 、 安東 は 早速 食べ 始めた が 、 綾子 は 手 を つけ ない 。 「── 何 だ 、 食わ ない の か ? 「 あの ……」

綾子 は 蚊 の 鳴く ような 声 で 言った 。 「 私 、 だめな んです 。 カツ は 好きな んです けど 、 カツ 丼 は ……」

「 それ なら そう 言えば いい のに 」

「 すみません …… つい ……」

綾子 は 目 から 溢れる 涙 を 拭った 。 「 いつも こんな 風 で …… だめな んです 、 私 」

何しろ 悲しく なる より 早く 涙 が 出て 来て しまう 性質 な のである 。

「 おい 、 泣く な よ 。 俺 が 泣か せた ように 見える じゃ ない か 」

「 すみません 」

と 、 また 涙 が 出て 来る 。 少々 涙腺 の パッキン が 古く なって いる の かも しれ ない 。

安東 が 笑って 、

「 君 は 全く 妹 二 人 と は 違う なあ 」

と 言った 。

「 妹 たち は しっかり して る んです けど 」

「 いや 、 君 の ような 内気な 娘 は 当 節 、 希少 価値 だ ぞ 」

安東 が 、 綾子 の 肩 へ 、 その 力強い 手 を 置いた 。 綾子 は 胸 が 熱く なった 。 涙 に うるんだ 目 で 、 じっと 安東 を 見つめて いた ……。

「 何 な の よ 、 私 、 忙しい んだ から 」

と 、 珠美 が ブツブツ 言った 。

「 重要な 話 だって 言った でしょ ! 夕 里子 が にらみつける 。

「 分 った わ よ 。 そんな 、 かみつき そうな 顔 し ないで 」

「 生れつき よ 。 ── お 姉さん は ? 「 言 っと いたんだ けど ね 」

「 もう いや ねえ 、 時間 ルーズな んだ から 」

もう そろそろ 表 は 暗く なり かけて いる 。 夕 里子 は 、 姉 と 妹 に 、 駅前 で 唯一 の 「 飲める 」 コーヒー を 出す 喫茶 店 に 集合 しろ と 呼びかけた のである 。

ブツブツ 言って いる と 、 綾子 が 入って 来た 。

「 ごめん 、 待った ? 「 お 姉さん 、 今日 は 大学 に 行った ? 綾子 が ギクリと して 、

「 行った わ よ 。 ── 本当 よ 」

「 お 姉さん の 噓 は すぐ ばれる の 」

「 噓 じゃ ない って ば ! 門 の 前 まで でも 、 行った こと に 変り ない 。

「 まあ いい わ 。 ともかく 、 話 が ある の 」

「 その 前 に 、 一 つ 訊 いて いい ? と 珠美 。 「 ここ 、 誰 が 払う の ? 「 私 が 払う わ よ 」

「 じゃ 安心だ 」

「 がめつい んだ から 、 あんた は 」

「 こういう 人 が 一 人 い ない と 家計 は 成り立た ない の 」

「 じゃ 、 ともかく 話 を する わ 」

コーヒー を 飲み ながら 、 夕 里子 は 言った 。

「 パパ は 今や 殺人 容疑 で 手配 中 。 うち は 焼けて 、 私 たち は 無 収入 、 住所 不定 って わけ 。 嘆いて たって 始まら ない わ 。 自分 たち の 手 で 、 何とか し ない と 」

「 どう する の ? と 綾子 が 不安 げ に 言った 。 何しろ 夕 里子 は ときどき 無 茶 な こと を 言い出す のだ 。

「 私 たち の 力 で 、 パパ の 無実 を 立証 する の 」

「 どう やって ? 「 真 犯人 を 見付ける の よ 」

「 そんな こと 無理 よ ! と 、 綾子 は 啞然 と して 、「 私 たち ── 学生 な の よ 」

「 でも 、 幼稚園 や 小学校 の 生徒 と は わけ が 違う わ 。 もう 大人 よ 。 それとも お 姉さん は パパ が 殺人 犯 に さ れて て も かまわ ない って いう の ? 「 そ 、 そう じゃ ない けど ……」

「 じゃ 、 決定 」

綾子 は 諦めた ように 肩 を 落とした 。 いつも こう な んだ 。 夕 里子 に 強く 言わ れる と 、 何も 反論 でき なく なって しまう 。 これ じゃ どっち が 姉 なんだか ……。

「 でも 、 具体 案 は ある の ? 珠美 は リアルである 。


三姉妹探偵団01 chapter 02 (1) みっ しまい たんてい だん| Three Sisters Detective Agency 01 chapter 02 (1)

2  探偵 業 事 始め たんてい|ぎょう|こと|はじめ 2 Detective work beginning

夕 里子 は 、 放課後 の 校庭 へ と 入って 行った 。 ゆう|さとご||ほうかご||こうてい|||はいって|おこなった Yuuriko went to the schoolyard after school. クラブ 活動 の 生徒 たち が 何 人 か 残って いる が 、 それ 以外 は 閑散 と して いる 。 くらぶ|かつどう||せいと|||なん|じん||のこって||||いがい||かんさん||| Some of the students in the club activities are left, but others are discouraged.

友達 に は 会い たく なかった 。 ともだち|||あい|| I did not want to see my friend. ── あれこれ 言わ れる の が いやな ので は ない 。 |いわ||||||| ── It is not bad to be told that. それ に 、 そんな こと を 言う 友達 は い ない 。 |||||いう|ともだち||| There are no friends who say that. むしろ 、 みんな に 同情 さ れる の が いやだった のである 。 |||どうじょう|||||| Rather, it was disgusting to be sympathetic to everyone.

夕 里子 が 通って いる の は 私立 の 女子 高 で 、 短大 まで は エスカレーター 式 に 進む こと が できる 。 ゆう|さとご||かよって||||しりつ||じょし|たか||たんだい|||えすかれーたー|しき||すすむ||| Yuuriko is attending a private women's high school and can go to escalator type until junior college. 優秀な 者 は 他の 大学 を 受験 して いた 。 ゆうしゅうな|もの||たの|だいがく||じゅけん|| The excellent ones were taking other university exams. 高校 二 年 から 、 クラス は 大学 受験 組 と 、 短大 組 と に 分 れて 、 授業 も 別々に 行わ れる 。 こうこう|ふた|とし||くらす||だいがく|じゅけん|くみ||たんだい|くみ|||ぶん||じゅぎょう||べつべつに|おこなわ| From the second year of high school, classes are divided into university exams and junior colleges, and classes are also conducted separately.

夕 里子 も 大学 受験 組 の 中 に 入って いた 。 ゆう|さとご||だいがく|じゅけん|くみ||なか||はいって| Yuriko was also in the university exam group.

あまり 着 たく は ない が 、 敦子 の 制服 を 借りて 着て 来た 。 |ちゃく|||||あつこ||せいふく||かりて|きて|きた I didn't want to wear it very much, but I came in with a uniform of Yuzu. 目立ち たく ない から である 。 めだち|||| Because I do not want to stand out.

火事 から 、 十 日 が 過ぎた 。 かじ||じゅう|ひ||すぎた Ten days have passed since the fire. ── 父 、 佐々 本 周平 は 、 まだ 帰って 来 なかった 。 ちち|ささ|ほん|しゅうへい|||かえって|らい| 父 My father, Shuhei Sasa, hasn't come back yet. いや 、 まだ 捕まって い なかった 、 と 言った 方 が 正確だろう 。 ||つかまって||||いった|かた||せいかくだろう No, it would be more accurate to say that I had not been caught yet.

目下 、 殺人 容疑 で 指名 手配 さ れて いる のだ 。 もっか|さつじん|ようぎ||しめい|てはい|||| At the moment, they are wanted for murder.

── 殺人 。 さつじん パパ が 。 ぱぱ|

「 そんな 馬鹿な こと が ! |ばかな|| "That stupid thing is! 誰 だって 、 父 を 知っている 人 なら 、 そんな こと を 信じ は し ない 。 だれ||ちち||しっている|じん|||||しんじ||| Whoever knows the father does not believe in that. しかし 、 手配 写真 を 見る 全国 の 人々 の 大部分 は 、 父 を 知ら ない のだ 。 |てはい|しゃしん||みる|ぜんこく||ひとびと||だいぶぶん||ちち||しら|| However, most of the people all over the country who see the arranged photos do not know their father. そんな 人 たち の 目 に は 、 父 の 顔 が 、 残忍 凶悪な 人殺し の それ らしく 映る だろう 。 |じん|||め|||ちち||かお||ざんにん|きょうあくな|ひとごろし||||うつる| In the eyes of such people, my father's face will seem like that of a brutal murderous murderer.

校舎 へ 入って 行く と 、 ちょうど 向 う から 担任 の 教師 、 中岡 が 歩いて 来た 。 こうしゃ||はいって|いく|||むかい|||たんにん||きょうし|なかおか||あるいて|きた When I went to the school building, my teacher, Nakaoka, walked from there just because I was heading.

「 佐々 本 。 ささ|ほん どうした ん だ 、 こんな 時間 に 」 ||||じかん| What happened, at such time "

「 ちょっと お 話 が あって ……」 ||はなし|| "I have a little talk ..."

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 今 帰る ところ だ 。 いま|かえる|| "I am about to return now. どう だ 、 しるこ でも 食う か 」 ||||くう| How are you going to eat it?

いつも の ぶ っき ら 棒 な 口調 が 、 夕 里子 に は 嬉しかった 。 |||||ぼう||くちょう||ゆう|さとご|||うれしかった Yuuriko was delighted with his usual bouncy tone. 中岡 は 私立 女子 高 の 教師 らしから ぬ 、 旧 い タイプ の 教師 である 。 なかおか||しりつ|じょし|たか||きょうし|||きゅう||たいぷ||きょうし| Nakaoka is an old-style teacher who is not a teacher of private high school girls. 夕 里子 は 、 その 野暮ったい 担任 が 割合 に 好きだった 。 ゆう|さとご|||やぼったい|たんにん||わりあい||すきだった Yuuriko liked that part-time homeroom teacher in proportion.

「 はい 」

学校 の 中 で 話さ ず に 済む ように 気 を 遣って くれた こと が 、 嬉しかった 。 がっこう||なか||はなさ|||すむ||き||つかって||||うれしかった I was happy that I was careful not to talk in school.

国友 刑事 が 、 被害 者 の 身 許 が 分 った と 知らせ に 来て くれた の は 、 火事 から 四 日 たった 午後 の こと だった 。 くにとも|けいじ||ひがい|もの||み|ゆる||ぶん|||しらせ||きて||||かじ||よっ|ひ||ごご||| It was only four days after the fire that the detective detective friend came to the news that the victim had been found.

夕 里子 は まだ 片瀬 敦子 の 家 に 、 綾子 と 珠美 は 安東 の 家 に 居候 の 身 だった 。 ゆう|さとご|||かたせ|あつこ||いえ||あやこ||たまみ||あんどう||いえ||いそうろう||み| Yuuriko was still in the house of Yuko Katase, and Yuko and Shumi were in the house of Andong. 父 は 帰ら ず 、 住む 家 も なく 、 頼る べき 親戚 も ない 。 ちち||かえら||すむ|いえ|||たよる||しんせき|| My father has not returned, there is no house to live in, and no relatives to rely on.

「 一家 心中 で も やろう か 」 いっか|しんじゅう|||| "Can I do it with my family?"

珠美 が 例 に よって 、 おそろしく 現実 的な 提案 を した が 、 幸い 他の 二 人 が 認め なかった 。 たまみ||れい||||げんじつ|てきな|ていあん||||さいわい|たの|ふた|じん||みとめ| Shumi made a terribly realistic proposal, according to the example, but fortunately the other two people did not admit it.

「── 殺さ れた の は 水口 淳子 と いう 女性 でした 」 ころさ||||みずぐち|あつこ|||じょせい| "-It was a woman named Mizuki Minato who was killed"

「 水口 ……」 みずぐち

「 聞き 憶 え は ? きき|おく|| "What do you remember? 夕 里子 は 黙って 首 を 振った 。 ゆう|さとご||だまって|くび||ふった Yuriko silently shook her head.

外 を 歩いて いて 、 いつの間にか 、 自分 の 家 の 焼け跡 の 前 に 来て いた 。 がい||あるいて||いつのまにか|じぶん||いえ||やけあと||ぜん||きて| I was walking outside and someday I was in front of the burns of my house. まだ 立入 禁止 の ロープ が 張って ある 。 |たちいり|きんし||ろーぷ||はって| There is still a no-entry rope.

「 どういう 人 な んです か ? |じん||| "What kind of person is it? 「 会社 勤 め の OL と いう わけで ね 。 かいしゃ|つとむ|||ol|||| "It's just an OL for a company employee. お 父さん の 恋人 だった んじゃ ない か な 」 |とうさん||こいびと||||| I guess I was your father 's lover "

「 パパ が そんな ……」 ぱぱ|| "Daddy is such ..."

と 言い かけて 、 夕 里子 は 黙った 。 |いい||ゆう|さとご||だまった Saying that, Yuriko shut up. そりゃ 、 パパ だって 男 だ から 、 恋人 ぐらい 作る かも しれ ない 。 |ぱぱ||おとこ|||こいびと||つくる||| Well, because dad is a man, he may make as much a lover.

「 でも 、 恋人 が できたら 、 絶対 に 私 たち に 隠したり し ませ ん 。 |こいびと|||ぜったい||わたくし|||かくしたり||| "But if I have a lover, I will never hide it from us. 私 たち に 紹介 して くれ ます 」 わたくし|||しょうかい||| Will you introduce to us "

「 しかし 、 会社 の 中 で は 、 最近 中年 の 恋人 が できた と 友だち に 話して いた そうだ よ 」 |かいしゃ||なか|||さいきん|ちゅうねん||こいびと||||ともだち||はなして||そう だ| "But in the company, he told his friends that they had recently made a middle-aged lover."

国友 の 口調 が 、 変った のに 夕 里子 は 気付いた 。 くにとも||くちょう||かわった||ゆう|さとご||きづいた Yuko Riko noticed that Kunitomo's tone changed. 国友 は ちょっと 照れくさ そうに 、 くにとも|||てれくさ|そう に Kotomi looks a bit shy,

「 本当 は まだ この こと は 君 たち に 教える な と 三崎 さん から 言わ れて る んだ けど 、 いきなり 新聞 記事 で 読んだら ショック だろう と 思って ね 」 ほんとう||||||きみ|||おしえる|||みさき|||いわ||||||しんぶん|きじ||よんだら|しょっく|||おもって| "The truth is that Misaki-san still tells me not to teach you this, but I think it would be a shock if you read it in a newspaper article suddenly."

「 ありがとう 」

夕 里子 は 心から そう 言った 。 ゆう|さとご||こころから||いった Yuriko said so from the bottom of her heart.

「── 水口 淳子 は 妊娠 して いた 。 みずぐち|あつこ||にんしん|| "-Mizuko Mizuguchi was pregnant. 父親 は 非常に 厳格な 人 で 、 ともかく 歯 医者 が 確認 して くれた んだ が 、 そんな 殺さ れ 方 を する もの は うち の 娘 で は ない と 言って きか ない んだ 」 ちちおや||ひじょうに|げんかくな|じん|||は|いしゃ||かくにん||||||ころさ||かた|||||||むすめ|||||いって||| My father is a very strict person and somehow it has been confirmed by the dentist, but I can not say that it is not my daughter who does such a way of being killed.

「 でも …… もし 本当に その 人 が パパ の 恋人 なら 、 どうして 殺す 必要 が ある んです か ? ||ほんとうに||じん||ぱぱ||こいびと|||ころす|ひつよう|||| "But ... If you really are that dad 's lover, why do you need to kill it? 「 僕 も そう 思う 」 ぼく|||おもう " I also think so "

と 、 国友 は 肯 いた 。 |くにとも||こう| And my friend said to me. 「 しかし 、 彼女 の 死体 が この 家 の 中 に あった の は 事実 だ から ね 」 |かのじょ||したい|||いえ||なか|||||じじつ||| "But it is true that her corpse was inside this house."

「 万が一 、 パパ が その 女 の 人 を 殺した と して も 、 私 たち まで 一緒に 焼き殺そう なんて する はず が あり ませ ん ! まんがいち|ぱぱ|||おんな||じん||ころした||||わたくし|||いっしょに|やきころそう||||||| "Even if dad killed the woman by any chance, there was no way we could burn it together! 焼け跡 は 、 まだ 生々しかった 。 やけあと|||なまなましかった The burns were still fresh. 国友 は 困った ように 頭 を かいた 。 くにとも||こまった||あたま|| His friend kept his head in trouble.

「 まあ 、 君 の 言葉 の 方 が 説得 力 は ある な 。 |きみ||ことば||かた||せっとく|ちから||| "Well, your words are more persuasive. 君 の お 父さん が 発 狂 した なんて 説 より も ね 」 きみ|||とうさん||はつ|くる|||せつ||| It 's better than your theory that your father went mad. "

夕 里子 は しばらく 黙って いた が 、 やがて 国友 の 顔 を 見た 。 ゆう|さとご|||だまって||||くにとも||かお||みた Yuuriko was silent for a while, but eventually saw the face of Kotoumi.

「 父 は 、 手配 さ れる んです か ? ちち||てはい|||| "Will my father be arranged? 「 そういう こと に なる と 思う 。 |||||おもう "I think that would be the case. 残念だ けど ね 」 ざんねんだ|| It is a pity but

国友 は そう 言って 、「 どこ に いる の か ……。 くにとも|||いって||||| Kotoumi said, "Where are you ..... 出て 来て 弁明 して くれれば 、 警察 だって ちゃんと 調査 する んだ が ……」 でて|きて|べんめい|||けいさつ|||ちょうさ||| If you come out and excuse me, even the police will investigate properly ... "

と 、 独り言 の ように 付け加えた 。 |ひとりごと|||つけくわえた And, added as a soliloquy.

「 犯人 を 探す ? はんにん||さがす "Look for the culprit? 中岡 は 、 夕 里子 の 言葉 に 、 さすが に びっくり した ようだった 。 なかおか||ゆう|さとご||ことば|||||| Nakaoka was truly surprised by Yuuriko's words.

「 はい 。 父 の 無実 を 晴らして やり たい んです 」 ちち||むじつ||はらして||| I want to get rid of my father 's innocence. "

「 言う は 易く 、 だ ぞ 」 いう||やすく|| "It's easy to say, I guess"

「 分 って ます 。 ぶん|| "I know. でも 、 そう し ない と 、 私 たち 、 気 が 済み ませ ん 」 |||||わたくし||き||すみ|| But if we don't, we won't feel like it. "

中岡 は 困った ような 苦い 顔 で 、 ぼ さ ぼ さ の 髪 を 引 張って いた が 、 なかおか||こまった||にがい|かお|||||||かみ||ひ|はって|| Nakaoka had a bitter face like trouble, and was stretching his rough hair,

「 お前 なら やる かも しれ ん な 」 おまえ|||||| "You might do it"

と 、 笑い ながら 言った 。 |わらい||いった Said while laughing. 「 金 は ある の か 」 きむ|||| "Is there money?"

「 お 金 です か ? |きむ|| 「 資金 が いる だろう 。 しきん||| "There will be money. 電車 賃 、 バス 代 、 タクシー に だって 乗る かも しれ ん 」 でんしゃ|ちん|ばす|だい|たくしー|||のる||| Train fares, bus fares, taxis may even get you

「 アルバイト でも して 稼ぎ ます 」 あるばいと|||かせぎ| "Even part-time workers earn money"

「 その 間 に 犯人 は 逃げ ち まう ぞ 」 |あいだ||はんにん||にげ||| "In the meantime the criminal will run away"

中岡 は 上 衣 の ポケット から 財布 を 出す と 、 一万 円 札 を 三 枚 抜いて 、 テーブル に 置いた 。 なかおか||うえ|ころも||ぽけっと||さいふ||だす||いちまん|えん|さつ||みっ|まい|ぬいて|てーぶる||おいた Nakaoka pulled out a purse from his jacket pocket, pulled out three 10,000 yen notes and placed it on the table.

「 貸して やる 」 かして| "I will lend you"

「 先生 ──」 せんせい

「 貸す んだ 。 かす| "I'm lending you. やる んじゃ ない ぞ 。 I'm not going to do it. 後 で バイト でも して 返せよ 」 あと||ばいと|||かえせよ Please return it later as a part-time job."

「 すみません 」

と 夕 里子 は 頭 を 下げた 。 |ゆう|さとご||あたま||さげた

「 その代り 条件 が ある 」 そのかわり|じょうけん|| "There is a condition instead"

「 何 です か ? なん|| 「 犯人 探し も いい が 、 危険 が 伴う こと を 忘れる な 。 はんにん|さがし||||きけん||ともなう|||わすれる| "I'm good to look for the perpetrators, but don't forget the dangers. 深追い する と 危 い ぞ 」 ふかおい|||き|| It is dangerous if you chase after it.

「 約束 し ます 」 やくそく||

「 あんまり 当て に なら ん な 」 |あて|||| "Don't count too much"

と 、 中岡 は 笑い ながら 言った 。 |なかおか||わらい||いった Said Nakaoka while laughing.

「 生徒 に 金 を 貸す の だって 、 教師 と して 感心 した こと じゃ あり ませ ん 」 せいと||きむ||かす|||きょうし|||かんしん|||||| "Lending money to students is not something that I admired as a teacher."

と 、 夕 里子 は 言い返して やった 。 |ゆう|さとご||いいかえして| And Yuuriko reciprocated.

綾子 は 、 また 大学 の 門 の 前 で 足 を 止めて しまった 。 あやこ|||だいがく||もん||ぜん||あし||とどめて| Reiko also stopped in front of the university gate.

ここ 三 日間 、 毎日 、 ここ まで 来て は 、 帰って しまう のだ 。 |みっ|にち かん|まいにち|||きて||かえって|| For the last three days, every day I come here and I will come back. 何も 私 が 悪い こと を した わけじゃ ない 。 なにも|わたくし||わるい||||| Nothing does not mean that I did bad things. そう 自分 へ 言い聞かせて 、 明日 こそ 、 堂々と 胸 を 張って 入ろう と 思う のだ が 、 こうして やって 来る と 、 その 決心 は くじけて しまう 。 |じぶん||いいきかせて|あした||どうどうと|むね||はって|はいろう||おもう|||||くる|||けっしん||| Yes, I would like to tell myself, and I think that I will hold my heart proudly tomorrow, but if I come this way, my decision will be lost.

明日 だ 。 あした| It is tomorrow. 明日 から 来よう 。 あした||こよう Let's come from tomorrow. 今日 は …… ちょっと 頭痛 も する し ……。 きょう|||ずつう||| Today ... ... I have some headaches ... ...

卑怯 者 、 弱虫 、 と 責め立てる 自分 自身 の 声 を 聞き ながら 、 綾子 は 、 重い 足取り で 、 駅 へ と 戻って 行った 。 ひきょう|もの|よわむし||せめたてる|じぶん|じしん||こえ||きき||あやこ||おもい|あしどり||えき|||もどって|おこなった While listening to his own voice, who blames him for being a prisoner, a wimp, Yuko went back to the station with a heavy step.

綾子 だって 、 父 の 無実 を 信じて は いる のである 。 あやこ||ちち||むじつ||しんじて||| Even Reiko believes in his father's innocence. しかし 、 夕 里子 の ように 周囲 の 視線 を はね返す だけ の 度胸 が ない 。 |ゆう|さとご|||しゅうい||しせん||はねかえす|||どきょう|| However, like Yuuriko, I do not have the courage to repel my eyes around me. と いって 、 珠美 の ように 、 却って それ で 周囲 の 同情 を ひき 、 宿題 を 代り に やら せて しまう と いう 要領 の 良 さ も 、 持ち合せて い ない のである 。 ||たまみ|||かえって|||しゅうい||どうじょう|||しゅくだい||かわり|||||||ようりょう||よ|||もちあわせて||| And, like Shumei, it doesn't have the good point of drawing the sympathy around it instead and letting me do my homework instead.

電車 に 乗って 、 綾子 は ため息 ばかり ついて いた 。 でんしゃ||のって|あやこ||ためいき||| On a train, Reiko kept sighing. 我ながら 情 ない 、 と は 思う のである 。 われながら|じょう||||おもう| I think that I do not feel sorry. 長女 な のだ から 、 こんな とき に こそ しっかり し なくて は ……。 ちょうじょ||||||||||| Because I am my eldest daughter, I have to do well at such times .... でも 、 分 って はいて も 、 でき ない もの は でき ない 、 のである 。 |ぶん|||||||||| But even if you understand it, you can not do what you can not do.

生来 の 内気 さ 、 気 の 弱 さ は 、 この 年齢 に なって 変え られる もの で は ない 。 せいらい||うちき||き||じゃく||||ねんれい|||かえ||||| The natural shyness and weakness are not something that can be changed at this age.

たぶん 妹 の 二 人 、 特に 夕 里子 が しっかり者 すぎる の も 、 綾子 の そういう 性 向 を 助けた のだろう 。 |いもうと||ふた|じん|とくに|ゆう|さとご||しっかりもの||||あやこ|||せい|むかい||たすけた| Perhaps two sisters, especially Yuriko, who are too strong, also helped such a tendency of Reiko. 母 が 死んだ 後 、 張り切って 母親 役 を 一 手 に 引き受けた の は 夕 里子 だった 。 はは||しんだ|あと|はりきって|ははおや|やく||ひと|て||ひきうけた|||ゆう|さとご| It was Yurico Yuko who was persistently taking over the role of the mother after her mother died.

綾子 は 、 おかげ で 少しも 変ら ず 、 のんびり と 毎日 を 送る こと が できた 。 あやこ||||すこしも|かわら||||まいにち||おくる||| Reiko was able to send her every day leisurely, thanks in no way to any change. そこ へ 今度 の 事件 である 。 ||こんど||じけん| It is the next incident there. ── どう すれば いい もの やら 、 綾子 は 途方 に 暮れる ばかりだった 。 |||||あやこ||とほう||くれる| ど う How could I do, Yuzu was just getting lost.

父 が い なく なって 、 佐々 本家 は 無 収入 である 。 ちち|||||ささ|ほんけ||む|しゅうにゅう| When my father is gone, Sasa Honke has no income. 長女 と して は 大学 を やめて 、 働き に 出る 必要 が あろう 。 ちょうじょ||||だいがく|||はたらき||でる|ひつよう|| As a eldest daughter, I will have to quit college and go to work. 妹 二 人 、 せめて 高校 まで は 出して やり たい 。 いもうと|ふた|じん||こうこう|||だして|| Two sisters, I want to go out to high school at least.

その 程度 の こと は 、 綾子 も 考えて いる 。 |ていど||||あやこ||かんがえて| That degree is also thinking of dumplings. ただ 、 実行 に 移せ ない だけ である 。 |じっこう||うつせ||| It just can not be put into practice. 一 日一日 と 先 へ のばして 、 その 内 に 父 が 帰って 来る ので は ない か 、 何 か 起って 、 全部 が 丸く おさまる んじゃ ない か 、 と 期待 して いる のだった 。 ひと|ひいちにち||さき||||うち||ちち||かえって|くる|||||なん||おこって|ぜんぶ||まるく||||||きたい||| One day a day, I was expecting that my father would not come back in that day, or if something had happened, that everything would go round.

「── 何 だ 、 大学 は どうした 」 なん||だいがく|| "-What, what happened to the university?"

安東 が 家 から 出て 来る のに 、 ばったり と 出会って しまった 。 あんどう||いえ||でて|くる||||であって| When Andong came out of his house, he met a bluff.

「 あ 、 先生 ……。 |せんせい お 休み な んです か 」 |やすみ||| Is it a holiday?

「 うん 、 今日 は 開校 記念日 だ 。 |きょう||かいこう|きねんび| "Yes, today is the school anniversary. 珠美 君 は どこ か へ 出かけて 行った ぞ 。 たまみ|きみ|||||でかけて|おこなった| Tamami-san went out somewhere. ── どうした ん だ ? ど う What happened? 「 あの ……」

と 言った きり 、 どう 言って いい の か 分 ら ず 、 口 を つぐんで しまう 。 |いった|||いって||||ぶん|||くち||| As long as I said “I don't know what I should say, I will get in my mouth.”

安東 は 察した らしく 、 綾子 の 肩 を 叩く と 、 あんどう||さっした||あやこ||かた||たたく| Ando knew that when I hit her shoulder,

「 昼 飯 を 食い に 出て 来た んだ 。 ひる|めし||くい||でて|きた| "I came out to eat lunch. 一緒に どう だ ? いっしょに|| How are you together? と 言った 。 |いった

駅 の 近く まで 歩いて 、 うどん 屋 に 入る と 、 安東 は カツ 丼 を 注文 した 。 えき||ちかく||あるいて||や||はいる||あんどう||かつ|どんぶり||ちゅうもん| Walking to the vicinity of the station and entering a udon shop, Andong ordered a pork cutlet.

「 同じで いい か ? おなじで|| "Do you want the same thing? ── じゃ 、 二 つ 」 |ふた|

綾子 は うつむいて いた 。 あやこ||| Yuko was down. 安東 は お茶 を ゆっくり と すする と 、 あんどう||おちゃ||||| Andong drinks tea slowly,

「 色々 、 大変だ な 」 いろいろ|たいへんだ| "Various, it's a big deal."

と 言った 。 |いった

「 すっかり お 世話に なって …… すみません 」 ||せわに|| "I am completely indebted ... ... excuse me"

「 そんな こと は 気 に する な 。 |||き||| "Don't worry about that. 親父 さん が 見付から ない 限り 、 君 たち と して も 動き よう が ない もの な 」 おやじ|||みつから||かぎり|きみ|||||うごき||||| As long as you can not find your father, you can not move. "

「 そう な んです 」 " That's right "

「 大学 に も 行き にくい んだろう ? だいがく|||いき|| "It 's hard to go to university, right? ── 分 る よ 。 ぶん|| まあ 元気 出せ 。 |げんき|だせ Well cheer up. ビール 飲む か ? びーる|のむ| 「 いえ …… 飲め ない んです 」 |のめ|| "No ... I can't drink it."

「 そう か 。 じゃ 、 ともかく 食って 元気 を 出す んだ な 」 ||くって|げんき||だす|| Well, anyway, I'm eating and getting healthy. "

カツ 丼 が 来る と 、 安東 は 早速 食べ 始めた が 、 綾子 は 手 を つけ ない 。 かつ|どんぶり||くる||あんどう||さっそく|たべ|はじめた||あやこ||て||| When the pork cutlet came, Andong started eating right away, but the dumplings were out of hand. 「── 何 だ 、 食わ ない の か ? なん||くわ||| "-What are you not eating? 「 あの ……」

綾子 は 蚊 の 鳴く ような 声 で 言った 。 あやこ||か||なく||こえ||いった Reiko said with a moaning voice. 「 私 、 だめな んです 。 わたくし|| "I'm sorry. カツ は 好きな んです けど 、 カツ 丼 は ……」 かつ||すきな|||かつ|どんぶり| I like cutlet but I want cutlet ...... "

「 それ なら そう 言えば いい のに 」 |||いえば|| "I would say so if it were so"

「 すみません …… つい ……」 "I'm sorry ... ...... just ..."

綾子 は 目 から 溢れる 涙 を 拭った 。 あやこ||め||あふれる|なみだ||ぬぐった Reiko wiped out the tears that overflowed from her eyes. 「 いつも こんな 風 で …… だめな んです 、 私 」 ||かぜ||||わたくし "Always like this ... I'm sorry"

何しろ 悲しく なる より 早く 涙 が 出て 来て しまう 性質 な のである 。 なにしろ|かなしく|||はやく|なみだ||でて|きて||せいしつ|| It is the nature that tears come out earlier than it becomes sad.

「 おい 、 泣く な よ 。 |なく|| "Hey, don't cry. 俺 が 泣か せた ように 見える じゃ ない か 」 おれ||なか|||みえる||| It looks like I let you cry.

「 すみません 」

と 、 また 涙 が 出て 来る 。 ||なみだ||でて|くる And again, tears come out. 少々 涙腺 の パッキン が 古く なって いる の かも しれ ない 。 しょうしょう|るいせん||||ふるく|||||| The packing of the lacrimal gland may be a little old.

安東 が 笑って 、 あんどう||わらって Andong laughs,

「 君 は 全く 妹 二 人 と は 違う なあ 」 きみ||まったく|いもうと|ふた|じん|||ちがう| "You are totally different from your two sisters"

と 言った 。 |いった

「 妹 たち は しっかり して る んです けど 」 いもうと||||||| "My sisters are solid but they are"

「 いや 、 君 の ような 内気な 娘 は 当 節 、 希少 価値 だ ぞ 」 |きみ|||うちきな|むすめ||とう|せつ|きしょう|かち|| "No, a shy girl like you is a rare value in this section."

安東 が 、 綾子 の 肩 へ 、 その 力強い 手 を 置いた 。 あんどう||あやこ||かた|||ちからづよい|て||おいた Andong put his strong hand on Reiko's shoulder. 綾子 は 胸 が 熱く なった 。 あやこ||むね||あつく| Reiko has a hot heart. 涙 に うるんだ 目 で 、 じっと 安東 を 見つめて いた ……。 なみだ|||め|||あんどう||みつめて| I was staring at Andong with tearful eyes ....

「 何 な の よ 、 私 、 忙しい んだ から 」 なん||||わたくし|いそがしい|| "What are you, I am busy?"

と 、 珠美 が ブツブツ 言った 。 |たまみ||ぶつぶつ|いった And, Tamami said.

「 重要な 話 だって 言った でしょ ! じゅうような|はなし||いった| "You said it was an important story! 夕 里子 が にらみつける 。 ゆう|さとご|| Yurika sees.

「 分 った わ よ 。 ぶん||| "I got it. そんな 、 かみつき そうな 顔 し ないで 」 ||そう な|かお|| Don't look like it 's biting like that.

「 生れつき よ 。 うまれつき| "You are born. ── お 姉さん は ? |ねえさん| 「 言 っと いたんだ けど ね 」 げん|||| "I said that,"

「 もう いや ねえ 、 時間 ルーズな んだ から 」 |||じかん|るーずな|| "No more, I'm loose in time."

もう そろそろ 表 は 暗く なり かけて いる 。 ||ひょう||くらく||| The table is getting dark soon. 夕 里子 は 、 姉 と 妹 に 、 駅前 で 唯一 の 「 飲める 」 コーヒー を 出す 喫茶 店 に 集合 しろ と 呼びかけた のである 。 ゆう|さとご||あね||いもうと||えきまえ||ゆいいつ||のめる|こーひー||だす|きっさ|てん||しゅうごう|||よびかけた| Yuuriko called on her sisters and sisters to gather at a coffee shop where they would be the only "drinkable" coffee in front of the station.

ブツブツ 言って いる と 、 綾子 が 入って 来た 。 ぶつぶつ|いって|||あやこ||はいって|きた When I was saying something, a dumpling came in.

「 ごめん 、 待った ? |まった "Sorry, did you wait? 「 お 姉さん 、 今日 は 大学 に 行った ? |ねえさん|きょう||だいがく||おこなった "Sister, did you go to university today? 綾子 が ギクリと して 、 あやこ||ぎくりと| The dumplings are smashing,

「 行った わ よ 。 おこなった|| "I went. ── 本当 よ 」 ほんとう|

「 お 姉さん の 噓 は すぐ ばれる の 」 |ねえさん|||||| "My sister 's niece is going well."

「 噓 じゃ ない って ば ! "If you're not jealous! 門 の 前 まで でも 、 行った こと に 変り ない 。 もん||ぜん|||おこなった|||かわり| Even before the gate, it does not change to what I went.

「 まあ いい わ 。 "That's good. ともかく 、 話 が ある の 」 |はなし||| Anyway, I have a story.

「 その 前 に 、 一 つ 訊 いて いい ? |ぜん||ひと||じん|| "Before that, can I have one? と 珠美 。 |たまみ 「 ここ 、 誰 が 払う の ? |だれ||はらう| "Who pays here? 「 私 が 払う わ よ 」 わたくし||はらう|| "I'll pay you"

「 じゃ 安心だ 」 |あんしんだ "Then I'm relieved"

「 がめつい んだ から 、 あんた は 」 "Because I'm getting stuck, you are"

「 こういう 人 が 一 人 い ない と 家計 は 成り立た ない の 」 |じん||ひと|じん||||かけい||なりたた|| "A household can not be built without one such person."

「 じゃ 、 ともかく 話 を する わ 」 ||はなし||| "Well, we will talk anyway."

コーヒー を 飲み ながら 、 夕 里子 は 言った 。 こーひー||のみ||ゆう|さとご||いった While drinking coffee, Yuuriko said.

「 パパ は 今や 殺人 容疑 で 手配 中 。 ぱぱ||いまや|さつじん|ようぎ||てはい|なか "Daddy is now arranging for murder. うち は 焼けて 、 私 たち は 無 収入 、 住所 不定 って わけ 。 ||やけて|わたくし|||む|しゅうにゅう|じゅうしょ|ふてい|| My house is burnt, we have no income, no address. 嘆いて たって 始まら ない わ 。 なげいて||はじまら|| I can not start crying. 自分 たち の 手 で 、 何とか し ない と 」 じぶん|||て||なんとか||| I have to do something with their own hands "

「 どう する の ? " What to do ? と 綾子 が 不安 げ に 言った 。 |あやこ||ふあん|||いった Said Reiko anxiously. 何しろ 夕 里子 は ときどき 無 茶 な こと を 言い出す のだ 。 なにしろ|ゆう|さとご|||む|ちゃ||||いいだす| After all, Yuriko sometimes makes an outrageous thing.

「 私 たち の 力 で 、 パパ の 無実 を 立証 する の 」 わたくし|||ちから||ぱぱ||むじつ||りっしょう||

「 どう やって ? " how ? 「 真 犯人 を 見付ける の よ 」 まこと|はんにん||みつける||

「 そんな こと 無理 よ ! ||むり| "That 's impossible! と 、 綾子 は 啞然 と して 、「 私 たち ── 学生 な の よ 」 |あやこ||啞ぜん|||わたくし||がくせい||| And Reiko was stunned and said, "We are students."

「 でも 、 幼稚園 や 小学校 の 生徒 と は わけ が 違う わ 。 |ようちえん||しょうがっこう||せいと|||||ちがう| "But it is different from kindergarten and elementary students. もう 大人 よ 。 |おとな| I am already an adult. それとも お 姉さん は パパ が 殺人 犯 に さ れて て も かまわ ない って いう の ? ||ねえさん||ぱぱ||さつじん|はん|||||||||| Or does it mean that your sister doesn't care if Daddy is a murderer? 「 そ 、 そう じゃ ない けど ……」 "Well, that's not right ... ..."

「 じゃ 、 決定 」 |けってい "Well, let's decide"

綾子 は 諦めた ように 肩 を 落とした 。 あやこ||あきらめた||かた||おとした Reiko dropped her shoulder as if she gave up. いつも こう な んだ 。 This is always the case. 夕 里子 に 強く 言わ れる と 、 何も 反論 でき なく なって しまう 。 ゆう|さとご||つよく|いわ|||なにも|はんろん|||| If it is strongly said by Yuriko, nothing can be refuted. これ じゃ どっち が 姉 なんだか ……。 ||||あね| Which is my sister ...?

「 でも 、 具体 案 は ある の ? |ぐたい|あん||| 珠美 は リアルである 。 たまみ||りあるである Tamami is real.