この素晴らしい世界に祝福を! あぁ、駄女神さま (22)
俺 の スティール ぐらい で は ……。
…… と 、 ベルディア が 、 俺 に 呪い を 掛ける より 早く 。
「 私 の 仲間 に 手 を 出す な ! 普段 は クール な ダクネス が 、 珍しく 感情 を 表 に 出して 、 叫ぶ と 同時 、 当たら ない 重い 大 剣 を 投げ捨てて 、 ベルディア に 向かって 肩 口 から 体当たり した 。
だが ベルディア は 、 凍った 足場 に も かかわら ず それ すら も 易 々 と 身 を かわし 、 余裕 たっぷり に 大 剣 を 握り締める 。
ダクネス は 飛びかかる ため に 、 重い 剣 を 投げて しまった 。
つまり 、 ベルディア の 剣 から 身 を 守る 物 が 無い 。
気 が 付く と 、 俺 は 周り に 叫んで いた 。
「 盗賊 、 頼む ー ! 万 に 一 つ 、 こいつ から 剣 を 奪っち まえば 俺 達 の 勝ち だ ! スティール 使える 奴 は 協力 して くれっ! もしかしたら 、 俺 より も レベル が 高く 、 運 が 強い 奴 が いる かも 知れ ない 。
いつの間にか 潜伏 スキル で 近寄って 来て いた 盗賊 達 が 、 俺 の 呼びかけ に 、 そこかしこ から 姿 を 現した 。
「「「『 スティール 』 ッ ! 」」」
だが 、 次々 と 仕掛けられる スティール は 効果 を 見せ ず 。 ベルディア は 、 もはや 群がる 俺 達 を 気 に する 様子 も なく 、 無防備に なった ダクネス へ と 剣 を 構え ……、 そして 、 持って いた 自分 の 首 を 再び 高々 と 放 り 上げた 。
「「 ああっ!?」」 それ を 見た 冒険 者 達 から 悲鳴 が 上がる 。 ベルディア が 首 を 投げた 後 は 、 両手 を 使って の 、 あの 凄ま じい 連 撃 が 始まる から だ 。
「…… くっ……! それ を 見た ダクネス が 、 小さく 呻く 。
や ばい や ばい や ばい や ばい !
こんな 時 どう すれば いい !?
俺 に は 特殊な 力 も 無ければ 秘め られた 才能 も 無い 。
人 に 胸 を 張って 誇れる ような もの も 無ければ 、 こんな 場面 で 役立つ 技術 も 無い 。
ある の は 人 より 恵まれた 運 の 良 さ 。
後 は 、 子供 の 頃 から 培って きた ゲーム の 知識 。
毎日 ゲーム に ハマって 怠けて いた ツケ が 、 こんな ところ で 回って きた 。 大喜び で 渡って 来た この 異 世界 で 、 このまま 何も 出来 ず に 終わる の か ?
「 ダクネス が ! カズマ 、 ダクネス が ! 俺 の 後ろ で めぐみ ん が 悲痛に 叫ぶ 。
思い出せ ! 相手 は デュラハン だ 、 ロールプレイングゲーム で は 何 が 弱点 だった ?
俺 の 取り柄 と 言ったら 、 ネット ゲーム の 対人 戦 で 、 相手 が 嫌がる 攻撃 方法 を 即座に 見抜く 事 ぐらい だ 。
あいつ を よく 観察 しろ 。
…… 何で あいつ は 、 俺 の 出した 水 を 大袈裟に 避けた ?
…………。
…… 流れる 水 。
それ は 、 メジャーアンデッドモンスター 、 ヴァンパイア も 苦手 と する 物 。
なら 、 あの デュラハン は ?
「 なかなか に 楽しめた よ クルセイダー ! 元 騎士 と して 、 貴 公 と 手 合わせ 出来た 事 に 魔 王様 と 邪 神 に 感謝 を 捧げよう ! さあ 、 これ で ……! 「『 クリエイト ・ ウォーター 』 ッッッ ! 「!?」
正に 今 、 ダクネス に 斬り かかろう と した ベルディア は ……。
ダクネス に 突っ込む 事 は せ ず 、 その 場 に 足 を 止め 。
結局 、 攻撃 する 事 無く 落ちて きた 自分 の 首 を 受け止めた 。
「………… カズマ 、 その ……。 私 は 今 、 結構 真面目に 戦って いる のだ が ……」
代わり に 、 更に ずぶ濡れ に さ れた ダクネス が 恨めし げ に 言って くる 。
本来 なら 謝る 場面 だ が 、 今 は それ どころ じゃ ない 。
俺 は 大声 で 叫び を 上げた 。
「 水 だ ああ ああ ああ あーっ! 5.
「『 クリエイト ・ ウォーター 』! 『 クリエイト ・ ウォーター 』! 『 クリエイト ・ ウォーター 』 ッッッッッ ! 「 く ぬっ! おおっ? っとっ! 俺 を 筆頭 に 、 そこかしこ の 魔法使い 達 が 魔法 を 唱える 。
頭上 から 次々 と 浴びせられる 水 を 、 ベルディア は これ でも か と 躱 して いた 。 くそ 、 弱点っぽい の が 分かった のに 、 そもそも 攻撃 が 当たら ない ! 他の 魔法使い 達 に も 焦り が 見える 。
このまま で は 、 ベルディア に 一 矢 報いる 前 に 皆 の 魔力 が 尽き そうだ 。
と 、 そんな 中 。
「 ねえ 、 一体 何の 騒ぎ な の ? なんで 魔 王 の 幹部 と 水 遊び なんて やって る の ? この 私 が 珍しく 働いて る 間 に 、 カズマったら 何 を 遊んで いる の ? バカな の ? こいつ 、 引っ叩いて やろう か 。 必死で 水 魔法 を 唱える 俺 に 、 今 の 今 まで どこ か に 行って いた アクア が 、 トコトコ と こちら に 歩き ながら とぼけた 事 を 言って きた 。
「 水 だ よ 水 ! あいつ は 水 が 弱点 な んだ よ ! お前 、 仮にも 一応 は かろうじて と は 言え 、 水 の 女神 な んだろう が ! それとも やっぱり 、 お前 は なん ちゃって 女神 な の ? 水 の 一 つ も 出せ ない の か よ !?」
「!? あんた 、 そろそろ 罰 の 一 つ も 当てる わ よ 無礼 者 ! 一応 でも かろうじて でも なん ちゃって でも なく 、 正真正銘 の 水 の 女神 です から ! 水 ? 水 で すって ? あんた の 出す 貧弱な もの じゃ なく 、 洪水 クラス の 水 だって 出せます から ! 謝って ! 水 の 女神 様 を なん ちゃって 女神って 言った 事 、 ちゃんと 謝って ! 出せる の か よ !
いや 、 出せる の なら 早く やれよ !
「 後 で いくら でも 謝って やる から 、 出 せる ん なら とっとと 出せよ この 駄 女神 が ! 「 わ ああ ああ ーっ! 今 、 駄 女神って 言った ! あんた 見て なさい よ 、 女神 の 本気 を 見せて やる から ! 売り言葉 に 買い 言葉 。
俺 の 言葉 に 、 アクア が 一 歩 前 に 出た 。
その アクア の 周囲 に 、 霧 の 様 な 物 が 漂い …………。
……………… えっ? 「 この 雑魚 ども め 、 貴 様 ら の 出せる 程度 の 水 など 、 この 俺 に は ……? ベルディア が 、 ふと アクア を 見て 動き を 止める 。
流石 は 魔 王 の 幹部 と いった 所 だろう か 。
アクア が これ から やろう と する 事 に 、 不穏な 気配 を 感じた のだろう 。
と いう か 、 周囲 に いる 魔法 を 使える 連中 も 、 どこ と 無く 不安 気 な 様子 で アクア を 見て いた 。
アクア が 、 そんな 周囲 の 様子 を 気 に も 留め ず ぼそぼそ と 呟いた 。
「 この世 に 在る 我 が 眷属 よ ……」
アクア の 周り に 現れて いた 霧 が 、 小さな 水 の 玉 と なって 辺り を 漂う 。
その 小さな 水 の 玉 の 一つ一つ に 、 ギュッと 魔力 が 凝縮 されて いる の が 感じ取れる 。 「 水 の 女神 、 アクア が 命ず …………」
…… 嫌な 予感 が する 。
辺り の 空気 が ビリビリ と 震える 、 この 感じ 。
この 不穏な 空気 は 、 めぐみ ん が 爆裂 魔法 を 唱える 時 の もの に 似て いる 。
つまり 、 それ ぐらい に ヤバ そうな 魔法 が 使わ れよう と して いる わけで ……!
その 不穏な 空気 は 、 対峙 する ベルディア も 感じて いた のだろう 。
ベルディア は 、 躊躇 する 事 も 無く 潔く アクア に 背 を 向けて 、 素早く 逃げよう と ……、
…… した ところ に 、 ダクネス が その 前 に 立ち塞がった !
アクア は 両手 を 広げる と 。
「『 セイクリッド ・ クリエイト ・ ウォーター 』! 水 を 生み出す 魔法 を 唱えた 。
6.
確かに 、 アクア は 言った 。
洪水 クラス の 水 だって 出す 事 が 出来る と 。
「 ちょっ……! 待っ…………! 「 ぎ ゃ ー ! 水 、 水 が ああ ああ あー ! 目標 と した ベルディア を 始め 、 周囲 に いた ダクネス や 冒険 者 。 そして 、 離れて いた 俺 やめ ぐみん 、 魔法 を 唱えた アクア まで も が ……。
「 あぶ ……! ちょ 、 お ぼ 、 溺れ ま ……! 「 めぐみ ん 、 めぐみ ー ん ! 摑 まって ろ 、 流さ れる な よ ! 突如 出現 した 水 に 、 その 場 の 全て の 人 が 押し流さ れた 。
膨大な 量 の その 水 は 、 街 の 正門 前 に 盛大な 飛 沫 を 上げ 、 そして 、 街 の 中心 部 へ と 流れて 行く 。
やがて 水 が 引いた その後 に は 、 地面 に ぐったり と 倒れ込む 冒険 者 達 と 、 そして ……。
「 ちょ ……、 ちょ ……っ、 何 を 考えて いる のだ 貴 様 ……。 ば 、 馬鹿な の か ? 大 馬鹿な の か 貴 様 は ……!?」
同じく 、 ぐったり して いた ベルディア が 、 ヨロヨロ し ながら 立ち上がった 。
ベルディア の 意見 に 激しく 同意 したい が 、 今 は そんな 事 を 言って いる 場合 で も ない 。 今 が チャンス だ 、 この 絶好 の ……、
「 今 が チャンス よ 、 この 私 の 凄い 活躍 で あいつ が 弱って る 、 この 絶好 の 機会 に 何とか なさい な カズマ ! 早く 行って 。 ほら 、 早く 行って ! こん の アマー !
こいつ は 後 で 、 公衆 の 面前 で 泣く まで スティール で 剝 いて やろう と 心 に 決める と 、 俺 は ベルディア に 片手 を 突き出し ……!
「 今度 こそ 、 お前 の 武器 を 奪って やる よ ! これ でも 喰 ら え ぇ ! 「 やって みろ ! 弱体 化 した と は 言え 、 駆け出し 冒険 者 の スティール ごとき で 俺 の 武器 は 盗 ら せ は せ ぬ わ ! 俺 と 対峙 した ベルディア は 、 俺 に 向けて 叫び ながら 、 再度 自ら の 首 を 空 高く 投げ 、 両手 で 大 剣 を 構えて 精一杯 の 威厳 を 放つ 。
流石 は 魔 王 の 幹部 の 一 人 。 弱って いる 筈 な のに 、 こうして 対峙 する だけ で 足 が 震えて き そうに なる 。
そんな 、 魔 王 の 幹部 に ……!
「『 スティール 』 ッッッ ! 俺 は 、 全 魔力 を 込めた スティール を 炸裂 さ せた !
それ と 同時に 、 硬くて 冷たい 手応え と 共に 、 ずしり と した 重 さ が 両手 に 伝わった 。
思わず 、 やった か ? と 、 フラグ に なる 様 な 事 を 考えて しまう 。
きっと 、 それ が いけなかった のだろう 。
「「 ああ …………」」
周囲 の 冒険 者 達 から 失望 の 声 が 上がった 。
ベルディア を 見る と 、 剣 を 両手 で 握り締めて いる 。
そのまま 、 俺 に 向けて あの 凄ま じい 斬 撃 を ……。
………… 放つ 事 は 無く 、 そのまま ぽつんと 突っ立って いた 。
………………?
その 場 の 皆 が 、 何 が 起こった の か 分から ず 、 シンと 静まり返って いる と 。
困った 様 な 、 恐る恐る と いった 感じ の 、 小さな 声 が した 。
「 あ 、 あの …………」
それ は ベルディア の 声 だった 。
ベルディア は 、 か細い 声 を 震わせ ながら 。
「 あ 、 あの ……。 ………… 首 、 返して もらえません かね …………? 俺 の 両手 の 間 で 、 ベルディア の 頭 が 呟いた 。
……………………。
「 おい お前 ら 、 サッカー しよ ー ぜ ! サッカーって の は なあ ああ あぁ ! 手 を 使わ ず 、 足 だけ で ボール を 扱う 遊び だ よ おお おお ! 俺 は 冒険 者 達 の 前 に 、 ベルディア の 頭 を 蹴り込んだ !
「 な ああ ああ ああ ! ちょ 、 お いっ、 や 、 やめっ!?」 蹴られて 転がる ベルディア の 頭 は 、 今 まで 焦れて 待って いた 冒険 者 達 の 格好の オモチャ に さ れた 。 「 ひ ゃは は は は ! これ おもし れ ー ! 「 おい 、 こっち こっち ! こっち に も パース ! 「 やめっ!? ちょ 、 いだ だ だ 、 やめ えっ!?」 頭 を 蹴ら れる ベルディア の 、 体 の 方 は 片手 に 剣 を 握った まま 、 前 が 見え ず に うろたえて いる 。 「 おい ダクネス 。 一 太刀 食らわ せたい んだ ろ ? 俺 は 落ちて いた 大 剣 を 拾い上げ 、 ずぶ濡れ で 近寄って くる ダクネス に 渡して やる と 、 荒い 息 を 吐き ながら あちこち から 血 と 水 を 滴ら せて いた ダクネス が 、 それ を 構えて ベルディア の 体 の 前 に ゆら り と 立った 。
その 間 に 、 俺 は アクア に ちょいちょい と 手招き を する 。
羽衣 の 裾 を 絞って いた アクア が それ に 気づき 、 ば たば た と こちら に 駆けて 来る 中 。
ダクネス は 、 大 剣 を 大きく 振り上げ ……!
「 これ はっ! お前 に 殺さ れた 、 私 が 世話に なった あいつ ら の 分 だ ! 何度 も 斬り つける つもり は ない ! まとめて 、 受け取れ えっ!!」 大 剣 を 思い切り 振り下ろした 。 「 ぐ は あっ!?」 遠く で 蹴り 転がされて いた ベルディア の 頭 が 、 人だかり の 中 から くぐもった 声 を 上げた 。 不器用 ながら も 力 は 強い ダクネス の 一撃 は 、 ベルディア の 黒い 鎧 を 打ち砕き 、 胸元 に ざっく り と 大きな 傷 を 与える 。 確か 、 ベルディア は こう 言って いた 。
魔 王様 の 加護 を 受けた この 鎧 、 と 。
「 おし 。 アクア 、 後 は 頼む 」
「 任さ れた わ ! 鎧 の 一部 が 砕け 、 しかも 水 を 浴びて 弱体 化 中 の ベルディア へ 、 アクア の 片手 が 向け られた 。
「『 セイクリッド ・ ターンアンデッド 』 ー ! 「 ちょ 、 待っ……! ぎ ゃあ ああ ああ あー ! アクア の 魔法 を 受けた ベルディア の 悲鳴 が 、 冒険 者 達 の 足元 から 聞こえる 。
流石 に 今度 の ターンアンデッド は 効いた みたいだ 。
ベルディア の 身体 が 白い 光 に 包まれて 、 やがて 薄く なり 、 消えて いく 。 ベルディア の 首 も 消えた の か 、 サッカー を 楽しんで いた 冒険 者 達 が どよめいて いた 。