27.2
私 に は コンビニ の 「声 」が 聞こえて 止まらなかった 。 コンビニ が なりたがって いる 形 、 お 店 に 必要な こと 、それら が 私 の 中 に 流れ込んで くる のだった 。 私 では なく 、コンビニ が 喋って いる のだった 。 私は コンビニ から の 天啓 を 伝達 している だけ な のだった 。 ・・
「はい ! 」 ・・
女の子 は 信頼 しきった 声 で 返事 を した 。 ・・
「それと 、自動ドア に ちょっと 指紋 が たくさん ついて しまってます ね 。 目立つ ところ なので そこも 清掃 して あげて ください 。 あと 、女性 客 が 多い ので 、春雨 スープ が もっと 種類 が ある と いい です ね 。 店長 に 伝えて おいて ください 。 それ と …… 」・・
コンビニ の 「声 」を そのまま 女の子 の 店員 に 伝えて いる と 、・・
「何を してる んだ ! 」 ・・
と いう 怒鳴り声 が した 。 ・・
白羽 さん が いつのまにか トイレ から 出てきて 、私 の 手首 を 掴んで 叫んでいる のだった 。 ・・
「お 客 様 、どう なさった の です か 」・・
反射的 に 答える と 、「ふざけるな ! 」と 言われて 、店 の 外 へ と 連れて 行かれた 。 ・・
「何 、馬鹿な ことを やってる んだ 、お前 は ! 」 ・・
道路 まで 私 を 引き摺って 怒鳴った 白羽 さん に 、私 は 言った 。 ・・
「コンビニ の 『声 』が 聞こえる んです 」・・
私 の 言葉 に 白羽 さん は 、おぞましい もの を みる ような 目 に なった 。 白羽 さん の 顔 を 包んでいる 青白くて 薄い 皮膚 が 、まるで 握りつぶした ように しわくちゃ に なった 。 ・・
それ でも 、私 は 引き下がらなかった 。 ・・
「身体 の 中 に コンビニ の 『声 』が 流れて きて 、止まらない んです 。 私 は この 声 を 聴く ために 生まれて きた んです 」・・
「なに を ……」・・
白羽 さん が 怯えた ような 表情 に なり 、私 は 畳み掛けた 。 ・・
「気 が 付いた ん です 。 私 は 人間 である 以上 に コンビニ 店員 なんです 。 人間 として いびつ で も 、たとえ 食べて 行けなくて の たれ死んでも 、その こと から 逃れられない んです 。 私 の 細胞 全部 が 、コンビニ の ため に 存在 して いる んです 」・・
白羽 さん は 黙って 、しわくちゃ の 皮膚 の 顔 を した まま 、私 の 手首 を 引っ張り 、面接 の 会場 へ と 連れて 行こう と した 。 ・・
「狂って る 。 そんな 生き物 を 、世界 は 許しません よ 。 ムラ の 掟 に 反して いる ! 皆 から 迫害 されて 孤独な 人生 を 送る だけ だ 。 そんな こと より 、僕 の 為 に 働いた ほうが ずっと いい 。 皆 、そのほうが ほっとする し 、納得する 。 全て の 人 が 喜ぶ 生き方 なんです よ 」・・
「一緒に は 行けません 。 私 は コンビニ 店員 と いう 動物 なんです 。 その 本能 を 裏切る こと は できません 」・・
「そんな こと は 許さ れない んだ ! 」 ・・
私 は 背筋 を 伸ばして 、『誓い の 言葉 』を 言う とき の ように 、白羽 さん に 真っ直ぐ 向き合った 。 ・・
「いえ 、誰 に 許されなくて も 、私 は コンビニ 店員 なんです 。 人間 の 私 に は 、ひょっとしたら 白羽 さん が いた ほう が 都合が よくて 、家族 や 友人 も 安心して 、納得する かもしれない 。 でも コンビニ 店員 という 動物 である 私 に とって は 、あなた は まったく 必要ないんです 」・・
こうして 喋って いる 時間 が もったいなかった 。 コンビニ の ために 、また 身体 を 整え ないと いけない 。 もっと 早く 正確に 動いて 、ドリンク の 補充 も 床 の 掃除 も もっと 早く できる ように 、コンビニ の 「声 」に もっと 完璧に 従える ように 、肉体 の すべて を 改造 して いかなくては いけない のだ 。 ・・
「気持ち が 悪い 。 お前 なんか 、人間 じゃ ない 」・・
吐き捨てる ように 白羽 さん が 言った 。 だから さっき から そう 言って いる のに 、と 思いながら 、私 は 白羽 さん に 掴まれて いた 手 を やっと はずして 、自分 の 胸元 で 抱きしめた 。 ・・
お 客 様 に お 釣り を 渡し 、ファーストフード を お 包み する ため の 大切な 手 だ 。 白羽 さん の 粘っこい 汗 が ついている の が 気持ち が 悪くて 、これ で は お 客 様 に 失礼 に なってしまう と 、早く 洗いたくて 仕方 が なかった 。 ・・
「絶対 に 後悔 する ぞ 、絶対 に だ ! 」 ・・
白羽 さん は そう 怒鳴って 、一人 で 駅 の 方 へ と 戻って 行った 。 私 は 鞄 から 携帯 を 取り出した 。 まず は 面接 先 へ 、自分 は コンビニ 店員 だ から 行く こと は できない と 伝えて 、それから 新しい 店 を 探さ なくては ならない 。 ・・
私 は ふと 、さっき 出てきた コンビニ の 窓 ガラス に 映る 自分 の 姿 を 眺めた 。 この 手 も 足 も 、コンビニ の ため に 存在している と 思う と 、ガラス の 中 の 自分 が 、初めて 、意味のある 生き物 に 思えた 。 ・・
「いらっしゃいませ ! 」 ・・
私 は 生まれた ばかりの 甥っ子 と 出会った 病院 の ガラス を 思い出して いた 。 ガラス の 向こう から 、私 と よく 似た 明るい 声 が 響く のが 聞こえる 。 私 の 細胞 全て が 、ガラス の 向こう で 響く 音楽 に 呼応して 、皮膚 の 中 で 蠢いている のを はっきり と 感じていた 。 ・・