ソードアート ・オンライン 1 アインクラッド (11)
|おんらいん|
Sword Art Online 1 Aincrad (11)
Sword Art Online 1 Aincrad (11)
「しかし ……いい の か?
その……」
「なに よ 、君 が もちかけた 話 じゃ ない。
||きみ|||はなし||
他 に 料理 できる 場所 が ない んだから 仕方ない でしょ!
た||りょうり||ばしょ||||しかたない|
」
ぷいっと 顔 を そむけ 、アスナ は そのまま 階段 を とんとん 登って 行って しまう。
|かお||||||かいだん|||のぼって|おこなって|
俺 は 覚悟 を 決めて その あと に 続いた。
おれ||かくご||きめて||||つづいた
I followed him with determination.
「お ……おじゃま します」
おそるおそる ドア を くぐった 俺 は 、言葉 を 失って 立ち尽くした。
|どあ|||おれ||ことば||うしなって|たちつくした
未だかつて 、これほど 整えられた プレイヤー ホーム は 見た こと が ない。
み だ かつて||ととのえられた|ぷれいやー|ほーむ||みた|||
広い リビング 兼 ダイニング と 、隣接 した キッチン に は 明るい 色 の 木製 家具 が しつらえられ 、統一感 の ある モス グリーン の クロス 類 で 飾られて いる。
ひろい|りびんぐ|けん|だいにんぐ||りんせつ||きっちん|||あかるい|いろ||もくせい|かぐ|||とういつ かん||||ぐりーん||くろす|るい||かざられて|
The spacious living and dining room and adjoining kitchen are furnished with light-colored wood furniture and decorated with a uniform moss green cloth.
全て 最高 級 の プレイヤーメイド 品 だろう。
すべて|さいこう|きゅう|||しな|
そのくせ 過度に 装飾 的で は なく 、実に 居心地 の 良 さ そうな 雰囲気 を 漂わせて いる。
|かどに|そうしょく|てきで|||じつに|いごこち||よ||そう な|ふんいき||ただよわせて|
Yet it is not overly decorative, and has a very comfortable atmosphere.
俺 の ねぐら と は 、ひとこと で 言って 雲泥 の 差 だ。
おれ|||||||いって|うんでい||さ|
In a word, it is a world apart from my roost.
招待 し なくて よかった 、と しみじみ 思う。
しょうたい||||||おもう
I am so glad I didn't invite them.
「なあ ……これ 、いくら かかってる の……?
"Hey, ......, how much does this ...... cost?
」
即物的な 俺 の 質問 に、
そく ぶってきな|おれ||しつもん|
「ん ー 、部屋 と 内装 あわせる と 四千 k くらい。
|-|へや||ないそう|||しせん||
着替えて くる から そのへん 適当 に 座って て」
きがえて||||てきとう||すわって|
I'm going to go get changed, so just sit around."
サラリと 答える と アスナ は リビング の 奥 に ある ドア に 消えて 行った。
さらりと|こたえる||||りびんぐ||おく|||どあ||きえて|おこなった
k が 千 を あらわす 短縮 語 な ので 、四千 k と は 四百万 コル の こと である。
||せん|||たんしゅく|ご|||しせん||||しひゃくまん||||
俺 とても 日々 最 前線 に 籠もって いる からに は それ くらい の 金額 は 稼いで いる はずな のだ が 、ちょっと 気 に 入った 剣 や 怪しい 装備 品 に 次々 無駄遣い して しまい 、貯まる ヒマ が ない。
おれ||ひび|さい|ぜんせん||こもって|||||||きんがく||かせいで||||||き||はいった|けん||あやしい|そうび|しな||つぎつぎ|むだづかい|||たまる|ひま||
I should be earning that amount of money from my daily stay at the front lines, but I waste it on the sword that catches my fancy or the weird equipment one after another, and I don't have time to save up.
柄 に も なく 自省 し つつ 、ふかふか の ソファ に どさっと 沈み込む。
え||||じせい|||ふか ふか||||ど さっと|しずみ こむ
やがて 、簡素な 白い 短 衣 と 膝上 丈 の スカート に 着替えた アスナ が 奥 の 部屋 から 現れた。
|かんそな|しろい|みじか|ころも||ひざ じょう|たけ||すかーと||きがえた|||おく||へや||あらわれた
Soon, Asuna emerged from the back room dressed in a simple white shorts and an over-the-knee skirt.
着替え と 言って も 実際 に 脱いだり 着たり の 動作 が ある わけで は なく 、ステータスウインドウ の 装備 フィギュア を 操作 する だけ な のだ が 、着衣 変更 の 数 秒間 は 下着 姿 の 表示 に なって しまう ため 、豪胆 な 野郎 プレイヤー なら いざ知らず 女性 は 人前 で 着替え 操作 を したり する こと は ない。
きがえ||いって||じっさい||ぬいだり|きたり||どうさ||||||||そうび|ふぃぎゅあ||そうさ||||||ちゃくい|へんこう||すう|びょうかん||したぎ|すがた||ひょうじ|||||たけし たん||やろう|ぷれいやー||いざ しら ず|じょせい||ひとまえ||きがえ|そうさ||||||
Changing clothes does not involve actually taking them off or putting them on; it is simply a matter of manipulating the equipment figure in the status window, but the figure is displayed in underwear for a few seconds after the clothes are changed, and women are not supposed to change clothes in public, even if they are bold enough to do so.
俺 たち の 肉体 は 3D オブジェクト の データ に すぎ ない と は 言って も 、二 年 も 過ごして しまう と そんな 認識 は 薄れ かけて 、今 も アスナ の 惜しげも無く 剝 き 出し に された 手足 に 自然 と 目 が 行って しまう。
おれ|||にくたい||d|||でーた||||||いって||ふた|とし||すごして||||にんしき||うすれ||いま||||おし げ も なく|||だし|||てあし||しぜん||め||おこなって|
Even if we say that our bodies are nothing more than 3D object data, after spending two years there, that perception began to fade. My eyes are gone.
そんな 俺 の 内的 葛藤 を 知るよしもない アスナ は 、じろっと 視線 を 投げ 、言った。
|おれ||うち てき|かっとう||しる よし も ない|||じ ろっと|しせん||なげ|いった
Asuna, who had no way of knowing about my internal conflict, looked at me and said, "I'm not sure I know what you mean.
「君 も いつまで そんな 格好 して る の よ」
きみ||||かっこう||||
俺 は 慌てて メニュー 画面 を 呼び出す と 、革 の 戦闘 用 コート と 剣 帯 など の 武装 を 解除 した。
おれ||あわてて|めにゅー|がめん||よびだす||かわ||せんとう|よう|こーと||けん|おび|||ぶそう||かいじょ|
ついでに アイテムウインドウ に 移動 し 、《ラグー ・ラビット の 肉 》を オブジェクト と して 実体化 さ せ 、陶製 の ポット に 入った それ を そっと 目の前 の テーブル に 置く。
|||いどう|||||にく|||||じったい か|||とうせい||ぽっと||はいった||||めのまえ||てーぶる||おく
アスナ は 神妙な 面持ち で それ を 手 に 取り 、中 を 覗き込んだ。
||しんみょうな|おももち||||て||とり|なか||のぞきこんだ
「これ が 伝説 の S 級 食 材 か ー。
||でんせつ||s|きゅう|しょく|ざい||-
……で 、どんな 料理 に する?
||りょうり||
」
「シェ 、シェフ お 任せ コース で 頼む」
|しぇふ||まかせ|こーす||たのむ
「そう ね ……じゃあ シチュー に しましょう。
|||しちゅー||
煮込みって 言う くらい だから ね」
にこみって|いう|||
It's called stew.
そのまま 隣 の 部屋 に 向かう アスナ の 後 を 俺 も ついていく。
|となり||へや||むかう|||あと||おれ||
キッチン は 広々 と して いて 、巨大な 薪 オーブン が しつらえられた 傍ら に は 、一見 して これ も 高級 そうな 料理 道具 アイテム が 数々 並んで いた。
きっちん||ひろびろ||||きょだいな|まき|おーぶん|||かたわら|||いっけん||||こうきゅう|そう な|りょうり|どうぐ|あいてむ||かずかず|ならんで|
アスナ は オーブン の 表面 を ダブルクリック の 要領 で すばやく 二 度 叩いて ポップアップメニュー を 出し 、調理 時間 を 設定 した あと 、棚 から 金属 製 の 鍋 を 取り出した。
||おーぶん||ひょうめん||||ようりょう|||ふた|たび|たたいて|||だし|ちょうり|じかん||せってい|||たな||きんぞく|せい||なべ||とりだした
ポット の 中 の 生肉 を 移し 、いろいろな 香草 と 水 を 満たす と 蓋 を する。
ぽっと||なか||せい にく||うつし||かおり くさ||すい||みたす||ふた||
「ほんと は もっと いろいろ 手順 が ある んだけど。
||||てじゅん|||
I have a lot more procedures to go through.
SAO の 料理 は 簡略 化 さ れ すぎて て つまらない わ」
sao||りょうり||かんりゃく|か||||||
SAO's cuisine is too simplified and boring.
文句 を 言い ながら 、鍋 を オーブン の 中 に 入れて 、メニュー から 調理 開始 ボタン を 押す。
もんく||いい||なべ||おーぶん||なか||いれて|めにゅー||ちょうり|かいし|ぼたん||おす
三百 秒 と 表示 された 待ち 時間 に も 彼女 は てきぱき と 動き回り 、無数に ストック して ある らしい 食 材 アイテム を 次々 と オブジェクト 化 して は 、淀み ない 作業 で 付け合わせ を 作って いく。
さんびゃく|びょう||ひょうじ||まち|じかん|||かのじょ||||うごきまわり|むすうに|すとっく||||しょく|ざい|あいてむ||つぎつぎ|||か|||よどみ||さぎょう||つけ あわせ||つくって|
実際 の 作業 と メニュー 操作 を 一 回 の ミス も 無く こなして いく その 動き に 、俺 は ついつい 見とれて しまう。
じっさい||さぎょう||めにゅー|そうさ||ひと|かい||みす||なく||||うごき||おれ|||みとれて|
わずか 五 分 で 豪華な 食卓 が 整えられ 、俺 と アスナ は 向かい合わせ で 席 に ついた。
|いつ|ぶん||ごうかな|しょくたく||ととのえられ|おれ||||むかいあわせ||せき||
眼前 の 大皿 に は 湯気 を 上げる ブラウン シチュー が たっぷり と 盛り付けられ 、鼻腔 を 刺激 する 芳香 を 伴った 蒸気 が 立ち上って いる。
がんぜん||だい さら|||ゆげ||あげる||しちゅー||||もりつけられ|はな こう||しげき||ほうこう||ともなった|じょうき||たちのぼって|
照り の ある 濃密な ソース に 覆われた 大ぶり な 肉 が ごろごろ と 転がり 、クリーム の 白い 筋 が 描く マーブル 模様 が 実に 魅惑 的だ。
てり|||のうみつな|そーす||おおわれた|おおぶり||にく||||ころがり|くりーむ||しろい|すじ||えがく||もよう||じつに|みわく|てきだ
The large pieces of meat covered with a shiny, rich sauce roll around, and the white streaks of cream create a marble-like pattern that is truly enticing.
俺 たち は いただきます を 言う の も もどかしく スプーン を 取る と 、SAO 内 で 存在 し 得る 最上級 の 食い物 である はずの それ を あんぐり と 頰 張った。
おれ|||||いう||||すぷーん||とる||sao|うち||そんざい||える|さい じょうきゅう||くいもの|||||あん ぐ り|||はった
We took our spoons and began to chow down on what was supposed to be the finest food that could exist in SAO.
口中 に 充満 する 熱 と 香り を たっぷり 味わって から 、柔らかい 肉 に 歯 を 立てる と 、溢れる よう に 肉 汁 が 迸る。
くち ちゅう||じゅうまん||ねつ||かおり|||あじわって||やわらかい|にく||は||たてる||あふれる|||にく|しる||ほとばしる
After savoring the heat and aroma that fills the mouth, the juices overflow as you bite into the tender meat.
SAO に おける 食事 は 、オブジェクト を 歯 が 嚙 み 砕く 感触 を いちいち 演算 で シミュレート して いる わけで は なく 、アーガス と 提携 して いた 環境 プログラム 設計 会社 の 開発 した 《味覚 再生 エンジン 》を 使用 して いる。
sao|||しょくじ||||は||||くだく|かんしょく|||えんざん||||||||||ていけい|||かんきょう|ぷろぐらむ|せっけい|かいしゃ||かいはつ||みかく|さいせい|えんじん||しよう||
The meals in SAO do not simulate the feeling of an object being crunched by teeth, but use a "taste regeneration engine" developed by an environmental program design company that was in partnership with Argus.
これ は あらかじめ プリセット された 、様々な 《物 を 食う 》感覚 を 脳 に 送り込む こと で 使用者 に 現実 の 食事 と 同じ 体験 を さ せる こと が できる と いう もの だ。
|||||さまざまな|ぶつ||くう|かんかく||のう||おくりこむ|||しよう しゃ||げんじつ||しょくじ||おなじ|たいけん||||||||||
もと は ダイエット や 食事 制限 が 必要な 人 の ため に 開発 された もの らしい が 、要は 味 、匂い 、熱 等 を 感じる 脳 の 各 部位 に 偽 の 信号 を 送り込んで 錯覚 さ せる わけだ。
||だいえっと||しょくじ|せいげん||ひつような|じん||||かいはつ|||||ようは|あじ|におい|ねつ|とう||かんじる|のう||かく|ぶい||ぎ||しんごう||おくりこんで|さっかく|||
つまり 俺 たち の 現実 の 肉体 は この 瞬間 も 何 を 食べて いる わけで も なく 、ただ システム が 脳 の 感覚野 を 盛大に 刺激 して いる だけ に すぎ ない。
|おれ|||げんじつ||にくたい|||しゅんかん||なん||たべて||||||しすてむ||のう||かんかく の||せいだいに|しげき||||||
In other words, our actual bodies are not eating anything at this very moment, it's just the system stimulating the sensory cortex of the brain.
だが 、この際 そんな こと を 考える の は 野暮 と いう もの だ。
|このさい||||かんがえる|||やぼ||||
But it would be foolish to think about such things at this time.
今 俺 が 感じて いる 、ログイン して 以来 最高 の 美味 は 間違い なく 本物 だ。
いま|おれ||かんじて||||いらい|さいこう||びみ||まちがい||ほんもの|
俺 と アスナ は 一言 も 発する こと なく 、ただ 大 皿 に スプーン を 突っ込んで は 口 に 運ぶ と いう 作業 を 黙々と 繰り返した。
おれ||||いちげん||はっする||||だい|さら||すぷーん||つっこんで||くち||はこぶ|||さぎょう||もくもくと|くりかえした
やがて 、きれいに ──文字通り シチュー が 存在 した 痕跡 も なく ──食い 尽くされた 皿 と 鍋 を 前 に 、アスナ は 深く 長い ため息 を ついた。
||もじどおり|しちゅー||そんざい||こんせき|||くい|つくされた|さら||なべ||ぜん||||ふかく|ながい|ためいき||
「ああ ……いま まで がんばって 生き残って て よかった……」
||||いきのこって||
"Oh, ......, I'm glad I worked hard and survived until now. ......"
まったく 同感 だった。
|どうかん|
俺 は 久々に 原始 的 欲求 を 心ゆくまで 満たした 充足 感 に 浸り ながら 、不思議な 香り の する お茶 を 啜った。
おれ||ひさびさに|げんし|てき|よっきゅう||こころゆくまで|みたした|じゅうそく|かん||ひたり||ふしぎな|かおり|||おちゃ||せつった
さっき 食べた 肉 や この 茶 は 、実際 に 現実 世界 に 存在 する 食 材 の 味 を 記録 した もの な の か 、それとも パラメータ を 操作 して 作り出した 架空の 味 だろう か。
|たべた|にく|||ちゃ||じっさい||げんじつ|せかい||そんざい||しょく|ざい||あじ||きろく|||||||||そうさ||つくりだした|かくうの|あじ||
そんな こと を ぼんやり 考える。
||||かんがえる
饗宴 の 余韻 に 満ちた 数 分 の 沈黙 を 、俺 の 向かい で お茶 の カップ を 両手 で 抱えた アスナ が ぽつり と 破った。
きょうえん||よいん||みちた|すう|ぶん||ちんもく||おれ||むかい||おちゃ||かっぷ||りょうて||かかえた|||||やぶった
Asuna, who was standing across from me and holding a cup of tea in both hands, broke the silence of several minutes filled with the afterglow of the feast.
「不思議 ね……。
ふしぎ|
なんだか 、この 世界 で 生まれて 今 まで ずっと 暮らして きた みたいな 、そんな 気 が する」
||せかい||うまれて|いま|||くらして||||き||
I feel as if I was born in this world and have lived in it all my life.
「……俺 も 最近 、あっち の 世界 の こと を まるで 思い出さ ない 日 が ある。
おれ||さいきん|||せかい|||||おもいださ||ひ||
...... There are days these days when I don't even think about the other side of the world.
俺 だけ じゃ ない な ……この頃 は 、クリアだ 脱出 だって 血眼 に なる 奴 が 少なく なった」
おれ|||||このごろ||くりあだ|だっしゅつ||ちまなこ|||やつ||すくなく|
I'm not the only one. ...... these days, there are fewer and fewer people who are so desperate to get clear and get out."
「攻略 の ペース 自体 落ちて る わ。
こうりゃく||ぺーす|じたい|おちて||
The pace of the strategy itself is slowing down.
今 最 前線 で 戦ってる プレイヤー なんて 、五百 人 いない でしょう。
いま|さい|ぜんせん||たたかってる|ぷれいやー||ごひゃく|じん||
There are probably no more than 500 players fighting on the front lines right now.
危険 度 の せい だけ じゃ ない ……みんな 、馴染んで きて る。
きけん|たび|||||||なじんで||
この 世界 に……」
|せかい|
俺 は 橙色 の ランプ の 明かり に 照らされた 、物思い に ふける アスナ の 美しい 顔 を そっと 見つめた。
おれ||だいだいいろ||らんぷ||あかり||てらされた|ものおもい|||||うつくしい|かお|||みつめた
I gently stared at the beautiful face of Asuna, who was lost in thought, illuminated by the orange lamp light.
確かに その 顔 は 、生物 と して の 人間 の もの で は ない。
たしかに||かお||せいぶつ||||にんげん|||||
Certainly, the face is not that of a living human being.
なめらかな 肌 、艶やかな 髪 、生き物 と して は 美し すぎる。
|はだ|つや や かな|かみ|いきもの||||うつくし|
しかし 、今 の 俺 に は その 顔 が ポリゴン の 作り 物 に は 最早 見え ない。
|いま||おれ||||かお||||つくり|ぶつ|||さい はやさ|みえ|
However, I can no longer see his face as a polygonal fake.
そういう 生きた 存在 と して 素直に 納得 する こと が できる。
|いきた|そんざい|||すなおに|なっとく||||
I can honestly accept it as such a living existence.
多分 、今 もと の 世界 に 帰還 して 本物 の 人間 を 見たら 、俺 は 激しい 違和感 を 抱く だろう。
たぶん|いま|||せかい||きかん||ほんもの||にんげん||みたら|おれ||はげしい|いわかん||いだく|
俺 は 本当に 帰りたい と 思って いる んだろう か ……あの 世界 に……?
おれ||ほんとうに|かえりたい||おもって|||||せかい|
ふと 浮かんで きた そんな 思考 に 戸惑う。
|うかんで|||しこう||とまどう
毎日 朝 早く 起き 出して 危険な 迷宮 区 に 潜り 、未 踏破 区域 を マッピング し つつ 経験 値 を 稼いで いる の は 、本当に この ゲーム を 脱出 したい から な のだろう か。
まいにち|あさ|はやく|おき|だして|きけんな|めいきゅう|く||くぐり|み|とうは|くいき|||||けいけん|あたい||かせいで||||ほんとうに||げーむ||だっしゅつ|||||
昔 は たしかに そう だった はずだ。
むかし|||||
いつ 死ぬ と も 知れ ない デスゲーム から 早く 抜け出し たかった。
|しぬ|||しれ||||はやく|ぬけだし|
I wanted to get out of the death game as soon as possible.
しかし 、この 世界 で の 生き方 に 慣れて しまった 今 は──。
||せかい|||いき かた||なれて||いま|
「でも 、わたし は 帰りたい」
|||かえりたい
俺 の 内心 の 迷い を 見透かす ような 、歯切れ の いい アスナ の 言葉 が 響いた。
おれ||ないしん||まよい||みすかす||はぎれ|||||ことば||ひびいた
As if seeing through my inner hesitation, I heard Asuna's clear and crisp words.
ハッと して 顔 を 上げる。
はっと||かお||あげる
アスナ は 、珍しく 俺 に 微笑み を 見せる と 、続けて 言った。
||めずらしく|おれ||ほおえみ||みせる||つづけて|いった
「だって 、あっち で やり 残した こと 、いっぱい ある から」
||||のこした||||
Because I have a lot of unfinished business over there.
その 言葉 に 、俺 は 素直に 頷いて いた。
|ことば||おれ||すなおに|うなずいて|
「そう だ な。
俺 たち が がんばら なきゃ 、サポート して くれる 職人 クラス の 連中 に 申し訳 が 立た ない もん な……」
おれ|||||さぽーと|||しょくにん|くらす||れんちゅう||もうしわけ||たた|||
If we don't do our best, we won't be able to apologize to the class of craftspeople who support us. ......
消え ない 迷い を 一緒に 飲み下す よう に 、俺 は お茶 の カップ を 大きく 傾けた。
きえ||まよい||いっしょに|のみくだす|||おれ||おちゃ||かっぷ||おおきく|かたむけた
まだまだ 最上 階 は 遠い。
|さいじょう|かい||とおい
その 時 が 来て から 考えれば いい こと だ。
|じ||きて||かんがえれば|||
We'll just have to wait until the time comes to think about it.
珍しく 素直な 気分 で 、俺 は どう 感謝 の 念 を 伝えよう か と 言葉 を 探し ながら アスナ を 見つめた。
めずらしく|すなおな|きぶん||おれ|||かんしゃ||ねん||つたえよう|||ことば||さがし||||みつめた
すると 、アスナ は 顔 を しかめ ながら 目の前 で 手 を 振り、
|||かお||||めのまえ||て||ふり
Asuna waved her hand in front of me with a frown on her face,
「あ ……あ 、やめて」
Oh, ......, stop.
など と 言う。
||いう
「な 、なんだ よ」
「今 まで そういう カオ した 男 プレイヤー から 、何 度 か 結婚 を 申し込まれた わ」
いま|||かお||おとこ|ぷれいやー||なん|たび||けっこん||もうしこまれた|
I've been asked to marry several times by players I've had relationships with."
「なっ……」
悔しい かな 、戦闘 スキル に は 熟達 して も こういう 場面 に 経験 の 浅い 俺 は 、言葉 を 返す こと も でき ず 口 を ぱくぱく さ せた。
くやしい||せんとう||||じゅくたつ||||ばめん||けいけん||あさい|おれ||ことば||かえす|||||くち||ぱく ぱく||
It was frustrating, but even though I was proficient in combat skills, I was inexperienced in this kind of situation, so I couldn't even reply, my mouth agape.
さぞや 間抜けな 顔 を して いる こと だろう。
|まぬけな|かお|||||
そんな 俺 を 見て 、アスナ は にまっと 笑った。
|おれ||みて|||に まっと|わらった
「その 様子 じゃ 、他 に 仲 の いい 子 と かい ない でしょ 君」
|ようす||た||なか|||こ|||||きみ
By the looks of it, you don't have any other good friends, do you?
「悪かった な ……いい んだ よ ソロ な んだから」
わるかった|||||そろ||
"I'm sorry ......, it's okay, it's a solo thing."
「せっかく MMORPG やってる んだから 、もっと 友達 作れば いい のに」
|mmorpg||||ともだち|つくれば||
アスナ は 笑み を 消す と 、どことなく 姉 か 先生 の ような 口調 で 問いかけて きた。
||えみ||けす|||あね||せんせい|||くちょう||といかけて|
「君 は 、ギルド に 入る 気 は ない の?
きみ||ぎるど||はいる|き|||
」
「え……」
「ベータ 出身者 が 集団 に 馴染ま ない の は 解ってる。
|しゅっしん しゃ||しゅうだん||なじま||||わかってる
I understand that people from Beta don't fit in with the group.
でも ね」
表情 が 更に 真剣 味 を 帯びる。
ひょうじょう||さらに|しんけん|あじ||おびる
The expression on their faces becomes even more serious.
「七十 層 を 超えた あたり から 、モンスター の アルゴリズム に イレギュラー 性 が 増して きて る ような 気 が する んだ」
しちじゅう|そう||こえた||||||||せい||まして||||き|||
"I feel that after the 70th layer, the algorithms of the monsters start to become more irregular.
それ は 俺 も 感じて は いた。
||おれ||かんじて||
CPU の 戦術 が 読み にくく なって きた の は 、当初 から の 設計 な の か 、それとも システム 自体 の 学習 の 結果 な の か。
cpu||せんじゅつ||よみ||||||とうしょ|||せっけい|||||しすてむ|じたい||がくしゅう||けっか|||
Is the fact that CPU tactics have become harder to read a result of the original design, or is it a result of the system's own learning?
後者 だったら 、今後 どんどん 厄介な こと に なり そうだ。
こうしゃ||こんご||やっかいな||||そう だ
「ソロ だ と 、想定外 の 事態 に 対処 でき ない こと が ある わ。
そろ|||そうてい がい||じたい||たいしょ||||||
いつでも 緊急 脱出 できる わけじゃ ない の よ。
|きんきゅう|だっしゅつ|||||
パーティー を 組んで いれば 安全 性 が ずいぶん 違う」
ぱーてぃー||くんで||あんぜん|せい|||ちがう
「安全 マージン は 十分 取ってる よ。
あんぜん|||じゅうぶん|とってる|
I'm taking enough of a safety margin.
忠告 は 有り難く 頂いて おく けど ……ギルド は ちょっと な。
ちゅうこく||ありがたく|いただいて|||ぎるど|||
それ に……」
ここ で よせば いい のに 強 がって 、俺 は 余計な こと を 言った。
|||||つよ||おれ||よけいな|||いった
I could have stopped right there, but I was too strong and said unnecessary things.
「パーティー メンバーって の は 、助け より も 邪魔に なる こと の ほう が 多い し 、俺 の 場合」
ぱーてぃー|めんばーって|||たすけ|||じゃまに||||||おおい||おれ||ばあい
「あら」
"Oh, no."
ちかっ、と 目の前 を 銀色 の 閃光 が よぎった。
||めのまえ||ぎんいろ||せんこう||
と 思った 時 に は 、アスナ の 右手 に 握られた ナイフ が ピタリ と 俺 の 鼻先 に 据えられて いた。
|おもった|じ|||||みぎて||にぎられた|ないふ||ぴたり||おれ||はなさき||すえられて|
細 剣 術 の 基本 技 《リニアー 》だ。
ほそ|けん|じゅつ||きほん|わざ||
It is the basic technique of fine swordsmanship, "Linear.
基本 と は 言え 、圧倒 的な 敏捷 度 パラメータ 補正 の せい で 凄ま じい スピード である。
きほん|||いえ|あっとう|てきな|びんしょう|たび||ほせい||||すごま||すぴーど|
正直な ところ 、技 の 軌道 は まったく 見え なかった。
しょうじきな||わざ||きどう|||みえ|
To be honest, I could not see the trajectory of the technique at all.
ひきつった 笑い と ともに 、俺 は 両手 を 軽く 上げて 降参 の ポーズ を 取った。
|わらい|||おれ||りょうて||かるく|あげて|こうさん||ぽーず||とった
「……解った よ。
わかった|
あんた は 例外 だ」
||れいがい|
You're the exception."
「そ」
面白く も な さ そうな 顔 で ナイフ を 戻し 、それ を 指 の 上 で くるくる 回し ながら 、アスナ は とんでもない こと を 口 に した。
おもしろく||||そう な|かお||ないふ||もどし|||ゆび||うえ|||まわし|||||||くち||
Asuna, with an uninterested look on her face, put the knife back, and while twirling it around on her finger, said something outrageous.
「なら 、しばらく わたし と コンビ 組み なさい。
||||こんび|くみ|
Then follow me for a while.
ボス 攻略 パーティー の 編成 責任者 と して 、君 が ウワサ ほど 強い ヒト な の か 確かめたい と 思って た とこ だし。
ぼす|こうりゃく|ぱーてぃー||へんせい|せきにん しゃ|||きみ||||つよい|ひと||||たしかめたい||おもって|||
As the person in charge of organizing the party to attack the boss, I wanted to see if you are as strong as you are rumored to be.
わたし の 実力 も ちゃんと 教えて 差し上げたい し。
||じつりょく|||おしえて|さしあげたい|
I would also like to teach you how good I am.
あと 今週 の ラッキーカラー 黒 だし」
|こんしゅう|||くろ|
Also, this week's lucky color is black. Dashi."
「な 、なんだ そりゃ!
」