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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 25. 幸福 - 島崎 藤村

25. 幸福 - 島崎 藤村

幸福 - 島崎 藤村

「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行きました 。 誰 でも 幸福 の 欲しく ない 人 は ありません から 、 どこ の 家 を 訪ね まして も 、 みんな 大喜びで 迎えて くれる に ちがい ありません 。 けれども 、 それでは 人 の 心 が よく 分りません 。 そこ で 「 幸福 」 は 貧しい 貧しい 乞食 の ような 服装 を しました 。 誰 か 聞いたら 、 自分 は 「 幸福 」 だ と 言わ ず に 「 貧乏 」 だ と 言う つもりでした 。 そんな 貧しい 服装 を して いて も 、 それ でも 自分 を よく 迎えて くれる 人 が ありましたら 、 その 人 の ところ へ 幸福 を 分けて 置いて 来る つもりでした 。 この 「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行きます と 、 犬 の 飼って ある 家 が ありました 。 その 家 の 前 へ 行って 「 幸福 」 が 立ちました 。 そこ の 家 の 人 は 「 幸福 」 が 来た と は 知りません から 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 家 の 前 に いる の を 見て 、 「 お前 さん は 誰 です か 。」

と 尋ねました 。 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」

「 ああ 、「 貧乏 」 か 。 「 貧乏 」 は 吾家 じゃ お 断り だ 。」

と そこ の 家 の 人 は 戸 を ぴしゃんと しめて しまいました 。 おまけに 、 そこ の 家 に 飼って ある 犬 が おそろしい 声 で 追い立てる ように 鳴きました 。 「 幸福 」 は 早速 ごめん を 蒙り まして 、 今度 は 鶏 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ちました 。 そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら なかった と 見えて 、 いやな もの でも 家 の 前 に 立った ように 顔 を しかめて 、

「 お前 さん は 誰 です か 。」

と 尋ねました 。 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」

「 ああ 、「 貧乏 」 か 、「 貧乏 」 は 吾家 じゃ 沢山だ 。」

と そこ の 家 の 人 は 深い 溜息 を つきました 。 それ から 飼って ある 鶏 に 気 を つけました 。 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 来て 鶏 を 盗んで 行き は し ない か と 思った のでしょう 。

「 コッ 、 コッ 、 コッ 、 コッ 。」

と そこ の [#「 と そこ の 」 は 底 本 で は 「 と そこ の 」] 家 の 鶏 は 用心深い 声 を 出して 鳴きました 。 「 幸福 」 は また そこ の 家 でも ごめん を 蒙り まして 、 今度 は 兎 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ちました 。 「 お前 さん は 誰 です か 。」

「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」

「 ああ 、「 貧乏 」 か 。」

と 言いました が 、 そこ の 家 の 人 が 出て 見る と 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 表 に 立って いました 。 そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら ない ようでした が 、 なさけ と いう もの が ある と 見えて 、 台所 の 方 から おむすび を 一 つ 握って 来て 、

「 さあ 、 これ を お あがり 。」

と 言って くれました 。 そこ の 家 の 人 は 、 黄色い 沢庵 の お こうこ まで その おむすび に 添えて くれました 。 「 グウ 、 グウ 、 グウ 、 グウ 。」

と 兎 は 高い いびき を かいて 、 さも 楽し そうに 昼寝 を して いました 。 「 幸福 」 に は そこ の 家 の 人 の 心 が よく 分りました 。 おむすび 一 つ 、 沢庵 一切 に も 、 人 の 心 の 奥 は 知れる もの です 。 それ を うれしく 思い まして 、 その 兎 の 飼って ある 家 へ 幸福 を 分けて 置いて 来ました 。

25. 幸福 - 島崎 藤村 こうふく|しまさき|ふじむら 25. happiness - Shimazaki Toson 25. le bonheur - Shimazaki Toson 25. felicidade - Shimazaki Toson 25. 幸福-島崎藤村

幸福 - 島崎 藤村 こうふく|しまさき|ふじむら Happiness-Toson Shimazaki

「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行きました 。 こうふく|||いえ||たずねて|いき ました "Happiness" visited various houses. 誰 でも 幸福 の 欲しく ない 人 は ありません から 、 どこ の 家 を 訪ね まして も 、 みんな 大喜びで 迎えて くれる に ちがい ありません 。 だれ||こうふく||ほしく||じん||あり ませ ん||||いえ||たずね||||おおよろこびで|むかえて||||あり ませ ん No one wants happiness, so no matter where you visit, everyone must be overjoyed. けれども 、 それでは 人 の 心 が よく 分りません 。 ||じん||こころ|||ぶん りません However, that doesn't really understand the human mind. そこ で 「 幸福 」 は 貧しい 貧しい 乞食 の ような 服装 を しました 。 ||こうふく||まずしい|まずしい|こじき|||ふくそう||し ました There, "happiness" dressed like a poor, poor beggar. 誰 か 聞いたら 、 自分 は 「 幸福 」 だ と 言わ ず に 「 貧乏 」 だ と 言う つもりでした 。 だれ||きいたら|じぶん||こうふく|||いわ|||びんぼう|||いう| When I asked someone, I intended to say that I was "poor" rather than "happiness." そんな 貧しい 服装 を して いて も 、 それ でも 自分 を よく 迎えて くれる 人 が ありましたら 、 その 人 の ところ へ 幸福 を 分けて 置いて 来る つもりでした 。 |まずしい|ふくそう|||||||じぶん|||むかえて||じん||あり ましたら||じん||||こうふく||わけて|おいて|くる| Even if I was dressed poorly, if there was a person who would welcome me well, I would have shared happiness with that person. この 「 幸福 」 が いろいろな 家 へ 訪ねて 行きます と 、 犬 の 飼って ある 家 が ありました 。 |こうふく|||いえ||たずねて|いき ます||いぬ||かって||いえ||あり ました When this "happiness" visited various houses, there was a house with a dog. その 家 の 前 へ 行って 「 幸福 」 が 立ちました 。 |いえ||ぜん||おこなって|こうふく||たち ました I went to the front of the house and stood "happiness". そこ の 家 の 人 は 「 幸福 」 が 来た と は 知りません から 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 家 の 前 に いる の を 見て 、 ||いえ||じん||こうふく||きた|||しり ませ ん||まずしい|まずしい|こじき|||||いえ||ぜん|||||みて The people there don't know that "happiness" has come, so seeing something like a poor poor beggar in front of the house, 「 お前 さん は 誰 です か 。」 おまえ|||だれ|| "Who are you?"

と 尋ねました 。 |たずね ました I asked. 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 ||びんぼう||

「 ああ 、「 貧乏 」 か 。 |びんぼう| 「 貧乏 」 は 吾家 じゃ お 断り だ 。」 びんぼう||われいえ|||ことわり| "Poverty" is not accepted by my family. "

と そこ の 家 の 人 は 戸 を ぴしゃんと しめて しまいました 。 |||いえ||じん||と||ぴ しゃんと||しまい ました Then the people in the house slammed the door shut. おまけに 、 そこ の 家 に 飼って ある 犬 が おそろしい 声 で 追い立てる ように 鳴きました 。 |||いえ||かって||いぬ|||こえ||おいたてる||なき ました What's more, the dog in that house screamed in a terrifying voice to drive him away. 「 幸福 」 は 早速 ごめん を 蒙り まして 、 今度 は 鶏 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ちました 。 こうふく||さっそく|||かぶり||こんど||にわとり||かって||いえ||ぜん||おこなって|たち ました そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら なかった と 見えて 、 いやな もの でも 家 の 前 に 立った ように 顔 を しかめて 、 ||いえ||じん||こうふく||きた|||しら|||みえて||||いえ||ぜん||たった||かお|| Even the people in the house seemed to have no idea that ``happiness'' had come, and they frowned as if they were standing in front of their house, even if they didn't like it.

「 お前 さん は 誰 です か 。」 おまえ|||だれ||

と 尋ねました 。 |たずね ました 「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 ||びんぼう||

「 ああ 、「 貧乏 」 か 、「 貧乏 」 は 吾家 じゃ 沢山だ 。」 |びんぼう||びんぼう||われいえ||たくさんだ "Oh," poor "or" poor "is a lot in my family. "

と そこ の 家 の 人 は 深い 溜息 を つきました 。 |||いえ||じん||ふかい|ためいき||つき ました and the people of the house let out a deep sigh. それ から 飼って ある 鶏 に 気 を つけました 。 ||かって||にわとり||き||つけ ました Then I took care of my chicken. 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 来て 鶏 を 盗んで 行き は し ない か と 思った のでしょう 。 まずしい|まずしい|こじき|||||きて|にわとり||ぬすんで|いき||||||おもった| You might have wondered if something like a poor poor beggar would come and steal the chicken.

「 コッ 、 コッ 、 コッ 、 コッ 。」

と そこ の [#「 と そこ の 」 は 底 本 で は 「 と そこ の 」] 家 の 鶏 は 用心深い 声 を 出して 鳴きました 。 |||||||そこ|ほん||||||いえ||にわとり||ようじんぶかい|こえ||だして|なき ました And there [# "and there" is "and there" at the bottom] The chicken at home screamed with a cautious voice. 「 幸福 」 は また そこ の 家 でも ごめん を 蒙り まして 、 今度 は 兎 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ちました 。 こうふく|||||いえ||||かぶり||こんど||うさぎ||かって||いえ||ぜん||おこなって|たち ました Happiness also apologized at the house there, and this time went to the house where the rabbit was kept and stood. 「 お前 さん は 誰 です か 。」 おまえ|||だれ||

「 わたし は 「 貧乏 」 で ございます 。」 ||びんぼう||

「 ああ 、「 貧乏 」 か 。」 |びんぼう|

と 言いました が 、 そこ の 家 の 人 が 出て 見る と 、 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 表 に 立って いました 。 |いい ました||||いえ||じん||でて|みる||まずしい|まずしい|こじき|||||ひょう||たって|い ました But when the people in the house came out and saw, something like a poor poor beggar stood on the table. そこ の 家 の 人 も 「 幸福 」 が 来た と は 知ら ない ようでした が 、 なさけ と いう もの が ある と 見えて 、 台所 の 方 から おむすび を 一 つ 握って 来て 、 ||いえ||じん||こうふく||きた|||しら|||||||||||みえて|だいどころ||かた||||ひと||にぎって|きて

「 さあ 、 これ を お あがり 。」 "Come on, take this."

と 言って くれました 。 |いって|くれ ました He said. そこ の 家 の 人 は 、 黄色い 沢庵 の お こうこ まで その おむすび に 添えて くれました 。 ||いえ||じん||きいろい|たくあん||||||||そえて|くれ ました The person at that house even accompanied the yellow rice ball to the yellow rice ball. 「 グウ 、 グウ 、 グウ 、 グウ 。」 ぐう|ぐう|ぐう|ぐう "Guu, Guu, Guu, Guu."

と 兎 は 高い いびき を かいて 、 さも 楽し そうに 昼寝 を して いました 。 |うさぎ||たかい|||||たのし|そう に|ひるね|||い ました The rabbit was snoring high and was taking a nap happily. 「 幸福 」 に は そこ の 家 の 人 の 心 が よく 分りました 。 こうふく|||||いえ||じん||こころ|||ぶん りました "Happiness" really understood the hearts of the people in that house. おむすび 一 つ 、 沢庵 一切 に も 、 人 の 心 の 奥 は 知れる もの です 。 |ひと||たくあん|いっさい|||じん||こころ||おく||しれる|| Even a single rice ball or a whole bowl of takuan can reveal the depths of a person's heart. それ を うれしく 思い まして 、 その 兎 の 飼って ある 家 へ 幸福 を 分けて 置いて 来ました 。 |||おもい|||うさぎ||かって||いえ||こうふく||わけて|おいて|き ました I was happy about that, so I shared my happiness and left it at the house where the rabbit was kept.