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秒速5センチメートル (5 Centimeters per Second), 秒速5センチメートル (7)

秒速 5センチメートル (7)

十二 時 五十 分。 昼 休み 中 の 教室 に は 、いつか どこ か で 聞いた こと の ある クラシック が 流れて いる。 なぜ か この 曲 を 聴く と 、私 は スケート を して いる ペンギン を 思い出して しまう。 いったい この 曲 は 私 の アタマ の 中 で なんの 思い出 と 結びついて る んだろう? 曲名 は な んだっけ と 私 は 考え 、思い出す こと を すぐに 諦めて お母さん の 作って くれた お 弁当 の 卵焼き を 食べる。 甘くて おいしい。 味覚 を 中心 に して 幸せだ な ー と いう 気持ち が じん わりと 広がって くる。 私 は ユッコ と サキ ちゃん の 三 人 で 机 を 寄せあって 昼 ご飯 を 食べて いて 、ふた り は さっき から ずっと 進路 に ついて 話して いる。

「佐々木 さん 、東京 の 大学 受ける らしい よ」

「佐々木 さんって キョウコ の こと?

「違う 違う 、一 組 の」

「ああ 、文芸 部 の 佐々木 さん ね。 さすが だ な ー」

一 組 と 聞いて 、私 は ちょっと 緊張 する。 遠野 くん の クラス だ。 私 の 高校 は 一 学年 三 クラス で 、一 組 と 二 組 が 普通 科 、その 中 でも 一 組 は 進学 を 希望 する 人 たち が 集まって いる。 三 組 は 商業 科 で 、卒業 後 は 専門 学校 に 行く か 就職 する 人 が 多く 、島 に 残る 人 も いちばん 多い。 私 は 三 組 だ。 まだ 訊 いた こと は ない けれど 、遠野 くん は たぶん 大学 に 進学 する のだ と 思う。 彼 は 東京 に 戻りたい んじゃ ない か と なんとなく 感じる。 そんなふうに 考える と 、卵焼き の 味 が 急に 消えて しまった ような 気 が する。

「花 苗 は? 」ふいに ユッコ に 訊 かれ 、私 は 言葉 に 詰まって しまう。

「就職 だっけ? 」と サキ ちゃん が 続けて 訊 く。 うーん ……と 言葉 を 濁して しまう。 分から ない のだ 、自分 でも。

「あんた ホントな ん も 考えて ない よ ね 」と 、呆れた よう に サキ ちゃん が 言う。 「遠野 くん の こと だけ ね 」と ユッコ。 「あいつ ゼッタイ 東京 に 彼女 いる よ 」と サキ ちゃん。 私 は 思わず 本気で 叫んで しまう。

「そんな ぁ!

ふ ふっ、と ふた り が 笑う。 私 の 秘め たる 想い は 彼女 たち に は バレバレ な のだ。

「いい よもう。 購買 で ヨーグルッペ 買って くる 」と ふくれた よう に 言って 、私 は 席 を 立つ。 冗談 めかして は いる けれど 、遠野 貴樹 東京 彼女 説 は 私 に は 結構 こたえる のだ。

「え! あんた また 飲む の !? 二 つ めじゃ ん」

「なんか ノド 乾く んだ もん」

「さっす が サーフィン 少女」

ふた り の 軽口 を 受け流し 、風 が 吹き込む 廊下 を ひとり で歩き ながら 、私 は 壁 に いく つ も 並んだ 額縁 に なんとなく 目 を やる。 発射 台 から 打ち 上がる 瞬間 の 、盛大に 煙 を 噴いて いる ロケット の 写真 だ。 〈H 2ロケット 4号 機 打ち上げ 平成 8年 8月 17日 10時 53分 〉、〈H 2ロケット 6号 機 打ち上げ 平成 9年 11月 28日 6時 27分〉……。 打ち上げ が 成功 する たび に 、NASDA の 人 が やってきて 勝手に 額縁 を 置いて いく と いう 噂 だ。

打ち上げ は 私 も 何度 も 見て いる。 白い 煙 を 引いて どこまでも 昇って ゆく ロケット は 、島 の どこ に いて も はっきり と 見える。 そう いえば ここ 何 年 か は 打ち上げ を 見て いない 気 が する。 この 島 に 来て まだ 五 年 の 遠野 くん は 、打ち上げ を 見た こと が ある のだろう か。 いつか 一緒に 見れたら いい な。 初めて だ と したら ちょっと 感動 する 眺め だ と 思う し 、ふた り だけ で そんな 体験 が できたら 、私 たち の 距離 も ちょっと は 縮まる ような 気 が する。 ああ 、でも 高校 生活 は あと 半年 しか ない のだ し 、その 間 に 打ち上げ は ある のだろう か。 そう だ。 そもそも 私 は それ まで に 本当に 波 に 乗れる よう に なる のだろう か。 いつか 私 の サーフィン を 遠野 くん に 見て 欲しい けれど 、カッコ悪い 姿 は 絶対 に 見られ たく ない し 、彼 に は いつでも 私 の いちばん 良い ところ だけ を 見て いて 欲しい と 思う。 ──あと 半年。 いやいや 、でも ひょっとして 遠野 くん が 卒業 後 も 島 に 残る と いう 可能 性 だって ゼロ じゃ ない。 だ と したら チャンス は まだ いくら で も ある んだ わ 、そ したら 私 の 進路 も 島内 就職 で 決まり だ。 とはいえ 彼 の そういう 姿 は 想像 でき ない んだ よ な ー 、なんとなく 島 が 似合わ ない もん 、あの 人。 うーん。

……こんなふうに 、私 の 悩み は 遠野 くん を 中心 に いつも ぐるぐる と 巡って しまう。 いつまでも 悩み 続けて いる わけに は いか ない んだ と いう こと だけ は 分かって いる のに。

だから 私 は 、波 に 乗れたら 遠野 くん に 告白 する と 、決めて いる のだ。

* * *

午後 七 時 十分。 さっき まで 大気 中 を 満たして いた クマ ゼミ の 声 が 、いつのまにか ヒグラシ の 声 に 変わって いる。 もう すこし したら 今度 は キリギリス の 声 に 変わる だろう。 あたり は もう 薄暗い けれど 、空 に は まだ 夕日 の 光 が 残って いて 高い 雲 が 金色 に 輝いて いる。 じっと 空 を 見上げて いる と 、雲 が 西 に 流れて いる の が 分かる。 さっき まで 海 に いた 時 に は 風 は 逆 向き で オンショア ──沖 から 吹く 風 で 波 の 形 は 良く ない ──だった のに 、今 なら もっと 乗り やすい 波 に なって いる かも しれ ない。 どちら に せよ 立てる 自信 は ない のだ けれど。

校舎 の 陰 から 単 車 置き場 の 方 を 覗く。 バイク は もう 残り すくなく 、校門 付近 に は 生徒 の 姿 も ない。 もう どの 部活 も 終わって いる 時間 な のだ。 私 は つまり 、放課後 サーフィン を して きた 後 に ふたたび 学校 に 戻って きて 、遠野 くん が 単 車 置き場 に 現れる の を 校舎 陰に 隠れて 待って いる のだ けれど (と いう ふうに あらためて 考える と 我ながら ちょっと コワイ )、もしかしたら 今日 は もう 帰って しまった の かも しれ ない。 もう ちょっと 早く 海 から 上がれば 良かった か なあ と 思い つつ 、あと すこし だけ 待って みよう と 思い なおす。

サーフィン 問題 、遠野 くん 問題 、進路 問題 、これ が 目下 の 私 の 三 大 課題 な わけだ けれど 、もちろん 問題 は この 三 つ だけ で は ない。 たとえば 日 に 焼けた 肌。 私 は 決して 地 黒 な わけで は ない のだ けれど (たぶん )、どれ だけ 日焼け 止め を 塗り 込んで も 、私 は 同級 生 の 誰 より も ダントツ に こんがり と 日焼け して いる。 お 姉ちゃん は サーフィン を やって いる のだから あたりまえだ と 言う し 、ユッコ や サキ ちゃん も 健康 的で 可愛い んじゃ ない の と か 言って くれる けれど 、好きな 男の子 より も 色 が 黒い と いう の は 何 か が 致命 的な 気 が する。 遠野 くん の 肌 、色白で きれいだ し。

それ から いまいち 成長 して くれ ない 胸 と か (お 姉ちゃん の 胸 は なぜ か で かい。 同じ DNA な のに なんで だ )、壊滅 的な 数学 の 成績 と か 、私服 の センス の な さ と か 、あまりに も 健康 すぎて ぜんぜん 風邪 を ひけ ない と か (可愛 げ が 足りない 気 が する )、その他 いろいろ。 問題 山積み な のだ 、我ながら。

悲劇 的 要素 を カウント して いて も どう しよう も ない のだ わ と 思い 、もう 一 度 ちらり と 単 車 置き場 を 覗く。 遠く から 見 間違えよう の ない シルエット が 歩いて くる の が 見える。 やった! 待って て 正解 だった 、私って ば サスガ の 判断。 素早く 深呼吸 して 、さりげなく 単 車 置き場 に 向かう。

「あれ 、澄 田。 今 帰り? 」やっぱり 優しい 声。 単 車 置き場 の 電灯 に 照らされて 、だんだん 彼 の 姿 が 見えて くる。 すらりと した 細身 の 体 、すこし 目 に かかる 長 めの 髪 、いつも の 落ち着いた 足取り。

「うん……。 遠野 くん も? 」声 が ちょっと 震えて いる ような 気 が する。 あー もう 、いいかげん 慣れて 欲しい 私。

「ああ。 じゃあ さ 、一緒に 帰ら ない?

──もし 自分 に 犬 みたいな 尻尾 が あったら 、きっと ぶん ぶん と 振って しまって いた と 思う。 ああ 、私 は 犬 じゃ なくて 良かった 、尻尾 が あったら 全部 の 気持ち が 彼 に 筒抜け だった と 真剣に 思って 、そんな こと しか 考えられ ない 自分 に 呆れて 、それ でも 、遠野 くん と の 帰り道 は ひたすら に 幸せな のだ。

私 たち は サトウキビ 畑 に 挟まれた 細い 道 を 一 列 に 並んで 単 車 で 走って いる。 前 を 走って いる 遠野 くん の 後ろ姿 を 見 ながら 、私 は しみじみ と その 幸せ を 噛みしめる。 胸 の 奥 が 熱くて 、サーフィン に 失敗 した 時 の よう に 鼻 の 奥 が すこし ツンと する。 幸せ と 悲しみ は 似て いる と 、理由 も 分から ず に 思う。

最初 から 、遠野 くん は 他の 男の子 たち と は 、どこ か すこし 違って いた。 中学 二 年 の 春 に 彼 は 東京 から この 種子島 に 転校 して きた。 中 二 の 始業 式 の 日 の 彼 の 姿 を 、今 でも はっきり と 覚えて いる。 黒板 の 前 に まっすぐに 立った 見知らぬ 男の子 は ぜんぜん 気後れ も 緊張 も して いない よう に 見えて 、端正な 顔 に 穏やかな 微笑 を 浮かべて いた。

「遠野 貴樹 です。 親 の 仕事 の 都合 で 三 日 前 に 東京 から 引っ越して きました。 転校 に は 慣れて います が 、この 島 に は まだ 慣れて いません。 よろしく お 願い します」

喋る 声 は 早くも なく 遅く も なく 淀み も なく 落ち着いて いて 、しびれて しまう くらい きれいな 標準 語 の アクセント だった。 テレビ の 人 みたいだった。 私 が もし 彼 の 立場 だったら ──超 大 都会 から 超 田舎 (かつ 孤島 )に 転校 して きたら 、あるいは その 逆だった ならば ──きっと 顔 は 真っ赤で アタマ は まっ白 、皆 と は 違う アクセント が 気 に なって しどろもどろに なって いた に 違いない。 それなのに 同い年 である はずの この 人 は どうして こんなふうに 、まるで 目の前 に 誰 も いない か の よう に 緊張 も せ ず 、くっきり と 喋る こと が できる のだろう。 今 まで どんな 生活 を して きて 、黒い 学生 服 に 包まれた この 人 の 中 に は いったい 何 が ある のだろう──。 これほど 強く 何 か を 知りたい と 求めた こと は 人生 で 初めて で 、私 は もう その 瞬間 に 、宿命 的に 恋 に 落ちて いた。

それ から 私 の 人生 は 変わった。 町 も 学校 も 現実 も 、彼 の 向こう側 に 見えた。 授業 中 も 放課後 も 海 で 犬 の 散歩 を して いる 時 で さえ も 、視界 の 隅っこ で いつも 彼 を 捜して いた。 一見 クール で 気取って いる よう に も 見えた 彼 は 実は 気さくで すぐに たくさんの 友人 を 作り 、しかも 同性 ばかり で かたまる ような ガキっぽ さ は 微塵 も なく 、だから 私 も タイミング さえ 合えば 何度 でも 彼 と 話す こと が できた。

高校 で は クラス こそ 違って しまった けれど 、学校 が 同じな の は 奇跡 だった。 とはいえ この 島 に は それ ほど の 選択肢 は ない し 、彼 の 成績 であれば どの 高校 に 行こう が 進路 は 思い の まま だったろう から 、単に 近く の 学校 を 選んだ だけ な の かも しれ ない けれど。 高校 でも 相変わらず 私 は 彼 の こと が 好きで 、その 気持ち は 五 年間 まったく 衰える こと は なく むしろ 日々 すこしずつ 強く なって いった。 彼 の 特別な ひとり に なりたい と いう 気持ち は もちろん あった けれど 、でも 正直 、私 は 好き と いう 気持ち を 抱えて いる だけ で もう 精一杯 だった。 彼 と 付きあった その後 の 日々 なんて 一 ミリ も 想像 でき なかった。 学校 で あるいは 町 で 、遠野 くん の 姿 を 見かける たび に 私 は 彼 を もっと 好きに なって いって しまって 、それ が 怖くて 毎日 が 苦しくて でも それ が 楽しく も あり 、自分 でも どう しよう も ない のだった。

夜 七 時 三十 分。 帰り道 に ある アイショップ と いう コンビニ で 、私 たち は 買い物 を する。 遠野 くん と は 週 に 〇・七回 くらい ──つまり 運 の 良い 時 は 週 に 一 回 、運 の ない 時 は 二 週 に 一 回 くらい の 割合 で 一緒に 帰る こと が できる のだ けれど 、いつ から か アイショップ へ の 寄り道 が 定番 の コース に なった。 コンビニ と いって も 夜 九 時 に は 閉まる し 花 の 種 と か 近所 の おばちゃん の 作った 土 の 付いた 大根 なんか も 売って いる ような お 店 な のだ けれど 、お 菓子 類 の 品揃え も なかなか 充実 して いる。 有線 放送 で は 流行 の J ポップ なんか が かかって いる。 天井 に ず らっと 並んだ 蛍光 灯 が 、狭い 店 内 を 白っぽい 光 で こうこう と 照らして いる。

秒速 5センチメートル (7) びょうそく| 5 Zentimeter pro Sekunde (7) 5 Centimeters per Second (7) 5 centímetros por segundo (7) 5 centimètres par seconde (7) 초속 5cm (7) 5 centimeter per seconde (7) 5 centymetrów na sekundę (7) 5 сантиметров в секунду (7) 秒速5厘米 (7) 秒速5公分 (7)

十二 時 五十 分。 じゅうに|じ|ごじゅう|ぶん Twelve o'clock and fifty minutes. 昼 休み 中 の 教室 に は 、いつか どこ か で 聞いた こと の ある クラシック が 流れて いる。 ひる|やすみ|なか||きょうしつ|||||||きいた||||くらしっく||ながれて| During lunch break, the classroom is filled with classical music that I have heard somewhere before. 午休时间的教室里,放着不知在哪里听过的古典音乐。 なぜ か この 曲 を 聴く と 、私 は スケート を して いる ペンギン を 思い出して しまう。 |||きょく||きく||わたくし||すけーと||||ぺんぎん||おもいだして| For some reason, this song reminds me of Penguin skating. いったい この 曲 は 私 の アタマ の 中 で なんの 思い出 と 結びついて る んだろう? ||きょく||わたくし||||なか|||おもいで||むすびついて|| What memories does this song have in my mind? 曲名 は な んだっけ と 私 は 考え 、思い出す こと を すぐに 諦めて お母さん の 作って くれた お 弁当 の 卵焼き を 食べる。 きょくめい|||||わたくし||かんがえ|おもいだす||||あきらめて|お かあさん||つくって|||べんとう||たまごやき||たべる I think about the name of the song and immediately give up trying to recall it, and eat an egg omelet that my mother has made for me for lunch. 甘くて おいしい。 あまくて| 味覚 を 中心 に して 幸せだ な ー と いう 気持ち が じん わりと 広がって くる。 みかく||ちゅうしん|||しあわせだ||-|||きもち||||ひろがって| The feeling of happiness centered on the sense of taste gradually spreads. 私 は ユッコ と サキ ちゃん の 三 人 で 机 を 寄せあって 昼 ご飯 を 食べて いて 、ふた り は さっき から ずっと 進路 に ついて 話して いる。 わたくし||ゆっこ||さき|||みっ|じん||つくえ||よせあって|ひる|ごはん||たべて||||||||しんろ|||はなして| I, Yuko, Saki and I were eating lunch with our desks huddled together, and the two of us had been talking about our future plans for a while.

「佐々木 さん 、東京 の 大学 受ける らしい よ」 ささき||とうきょう||だいがく|うける|| "Mr. Sasaki, I heard you're applying to a university in Tokyo."

「佐々木 さんって キョウコ の こと? ささき|||| "Mr. Sasaki, you mean Kyoko? "

「違う 違う 、一 組 の」 ちがう|ちがう|ひと|くみ| No, no, no, a pair.

「ああ 、文芸 部 の 佐々木 さん ね。 |ぶんげい|ぶ||ささき|| Oh, you must be Mr. Sasaki from the literature club. さすが だ な ー」 |||- That's what I'm talking about.

一 組 と 聞いて 、私 は ちょっと 緊張 する。 ひと|くみ||きいて|わたくし|||きんちょう| I was a little nervous when I heard that we were a pair. 遠野 くん の クラス だ。 とおの|||くらす| This is Tono's class. 私 の 高校 は 一 学年 三 クラス で 、一 組 と 二 組 が 普通 科 、その 中 でも 一 組 は 進学 を 希望 する 人 たち が 集まって いる。 わたくし||こうこう||ひと|がくねん|みっ|くらす||ひと|くみ||ふた|くみ||ふつう|か||なか||ひと|くみ||しんがく||きぼう||じん|||あつまって| My high school has three classes per grade level, with one and two classes being regular courses, and of these, class one is for those who wish to go on to higher education. 三 組 は 商業 科 で 、卒業 後 は 専門 学校 に 行く か 就職 する 人 が 多く 、島 に 残る 人 も いちばん 多い。 みっ|くみ||しょうぎょう|か||そつぎょう|あと||せんもん|がっこう||いく||しゅうしょく||じん||おおく|しま||のこる|じん|||おおい The third group is a commercial course, and the largest number of graduates go to vocational schools or find jobs, while the largest number of students remain on the island. 私 は 三 組 だ。 わたくし||みっ|くみ| まだ 訊 いた こと は ない けれど 、遠野 くん は たぶん 大学 に 進学 する のだ と 思う。 |じん||||||とおの||||だいがく||しんがく||||おもう I haven't asked him yet, but I think he will probably go to college. 彼 は 東京 に 戻りたい んじゃ ない か と なんとなく 感じる。 かれ||とうきょう||もどりたい||||||かんじる I have a feeling that he wants to go back to Tokyo. そんなふうに 考える と 、卵焼き の 味 が 急に 消えて しまった ような 気 が する。 |かんがえる||たまごやき||あじ||きゅうに|きえて|||き|| When I think of it that way, I feel as if the taste of the omelette has suddenly disappeared.

「花 苗 は? か|なえ| Flower seedlings? 」ふいに ユッコ に 訊 かれ 、私 は 言葉 に 詰まって しまう。 |ゆっこ||じん||わたくし||ことば||つまって| I was at a loss for words when Yukko suddenly asked me, "What do you want to do?

「就職 だっけ? しゅうしょく| "Getting a job," was it? 」と サキ ちゃん が 続けて 訊 く。 |さき|||つづけて|じん| " Saki continued to ask. うーん ……と 言葉 を 濁して しまう。 ||ことば||にごして| Well, ...... and I'm afraid I'm not going to say a word. 分から ない のだ 、自分 でも。 わから|||じぶん| I don't know, even I don't know.

「あんた ホントな ん も 考えて ない よ ね 」と 、呆れた よう に サキ ちゃん が 言う。 |ほんとな|||かんがえて|||||あきれた|||さき|||いう You really have no idea what you're doing," Saki says dismissively. 「遠野 くん の こと だけ ね 」と ユッコ。 とおの|||||||ゆっこ I'm only talking about Tono," said Yucco. 「あいつ ゼッタイ 東京 に 彼女 いる よ 」と サキ ちゃん。 ||とうきょう||かのじょ||||さき| He definitely has a girlfriend in Tokyo," said Saki. 私 は 思わず 本気で 叫んで しまう。 わたくし||おもわず|ほんきで|さけんで| I couldn't help but shout out in earnest.

「そんな ぁ! Oh, no!

ふ ふっ、と ふた り が 笑う。 ||||||わらう They laugh. 私 の 秘め たる 想い は 彼女 たち に は バレバレ な のだ。 わたくし||ひめ||おもい||かのじょ|||||| They know about my secret thoughts and feelings.

「いい よもう。 No problem. 購買 で ヨーグルッペ 買って くる 」と ふくれた よう に 言って 、私 は 席 を 立つ。 こうばい|||かって||||||いって|わたくし||せき||たつ I'm going to buy some yogruppe," I said bloatedly and got up from my seat. 冗談 めかして は いる けれど 、遠野 貴樹 東京 彼女 説 は 私 に は 結構 こたえる のだ。 じょうだん|||||とおの|たかき|とうきょう|かのじょ|せつ||わたくし|||けっこう|| I'm joking, but the Tohno Takaki Tokyo girlfriend theory sounds quite good to me.

「え! あんた また 飲む の !? 二 つ めじゃ ん」 ||のむ||ふた||| Are you drinking again!?

「なんか ノド 乾く んだ もん」 |のど|かわく|| It kind of makes my throat dry.

「さっす が サーフィン 少女」 ||さーふぃん|しょうじょ "That's right. Surfing, girl."

ふた り の 軽口 を 受け流し 、風 が 吹き込む 廊下 を ひとり で歩き ながら 、私 は 壁 に いく つ も 並んだ 額縁 に なんとなく 目 を やる。 |||かるくち||うけながし|かぜ||ふきこむ|ろうか|||であるき||わたくし||かべ|||||ならんだ|がくぶち|||め|| I shrug off their jokes and walk alone through the wind-blown corridor, where I glance at the many frames lined up on the wall. 発射 台 から 打ち 上がる 瞬間 の 、盛大に 煙 を 噴いて いる ロケット の 写真 だ。 はっしゃ|だい||うち|あがる|しゅんかん||せいだいに|けむり||ふいて||ろけっと||しゃしん| This is a photo of a rocket blowing smoke as it lifts off the launch pad. 〈H 2ロケット 4号 機 打ち上げ 平成 8年 8月 17日 10時 53分 〉、〈H 2ロケット 6号 機 打ち上げ 平成 9年 11月 28日 6時 27分〉……。 h|ろけっと|ごう|き|うちあげ|へいせい|とし|つき|ひ|じ|ぶん|h|ろけっと|ごう|き|うちあげ|へいせい|とし|つき|ひ|じ|ぶん H 2 launch vehicle No. 4 launched at 10:53 a.m. on August 17, 1996, and H 2 launch vehicle No. 6 launched at 6:27 a.m. on November 28, 1997. ...... 打ち上げ が 成功 する たび に 、NASDA の 人 が やってきて 勝手に 額縁 を 置いて いく と いう 噂 だ。 うちあげ||せいこう||||nasda||じん|||かってに|がくぶち||おいて||||うわさ| Rumor has it that every time the launch is successful, someone from NASDA comes and places a picture frame on it.

打ち上げ は 私 も 何度 も 見て いる。 うちあげ||わたくし||なんど||みて| I have seen the launch many times. 白い 煙 を 引いて どこまでも 昇って ゆく ロケット は 、島 の どこ に いて も はっきり と 見える。 しろい|けむり||ひいて||のぼって||ろけっと||しま||||||||みえる The rocket, with its white smoke rising to the sky, is clearly visible from anywhere on the island. そう いえば ここ 何 年 か は 打ち上げ を 見て いない 気 が する。 |||なん|とし|||うちあげ||みて||き|| Come to think of it, I don't think I've seen a launch in years. この 島 に 来て まだ 五 年 の 遠野 くん は 、打ち上げ を 見た こと が ある のだろう か。 |しま||きて||いつ|とし||とおの|||うちあげ||みた||||| I wonder if Tono, who has only been on the island for five years, has ever seen a launch before. いつか 一緒に 見れたら いい な。 |いっしょに|みれたら|| I hope we can see it together someday. 初めて だ と したら ちょっと 感動 する 眺め だ と 思う し 、ふた り だけ で そんな 体験 が できたら 、私 たち の 距離 も ちょっと は 縮まる ような 気 が する。 はじめて|||||かんどう||ながめ|||おもう|||||||たいけん|||わたくし|||きょり||||ちぢまる||き|| If it's the first time, I think the view will be a little moving, and if we can experience that just the two of us, I feel like the distance between us will shrink a little. ああ 、でも 高校 生活 は あと 半年 しか ない のだ し 、その 間 に 打ち上げ は ある のだろう か。 ||こうこう|せいかつ|||はんとし||||||あいだ||うちあげ|||| Ah, but there are only half a year left in high school, and I wonder if there will be a launch before then. そう だ。 そもそも 私 は それ まで に 本当に 波 に 乗れる よう に なる のだろう か。 |わたくし|||||ほんとうに|なみ||のれる||||| I wonder if I will be able to really ride the waves by then. いつか 私 の サーフィン を 遠野 くん に 見て 欲しい けれど 、カッコ悪い 姿 は 絶対 に 見られ たく ない し 、彼 に は いつでも 私 の いちばん 良い ところ だけ を 見て いて 欲しい と 思う。 |わたくし||さーふぃん||とおの|||みて|ほしい||かっこわるい|すがた||ぜったい||みられ||||かれ||||わたくし|||よい||||みて||ほしい||おもう I want Tohno-kun to see me surfing someday, but I definitely don't want him to see me looking uncool, and I want him to always see only the best parts of me. ──あと 半年。 |はんとし ──Six months to go. いやいや 、でも ひょっとして 遠野 くん が 卒業 後 も 島 に 残る と いう 可能 性 だって ゼロ じゃ ない。 |||とおの|||そつぎょう|あと||しま||のこる|||かのう|せい|||| I'm sure there is a possibility that Tono might stay on the island after graduation. だ と したら チャンス は まだ いくら で も ある んだ わ 、そ したら 私 の 進路 も 島内 就職 で 決まり だ。 |||ちゃんす|||||||||||わたくし||しんろ||しまうち|しゅうしょく||きまり| If that's the case, there are still plenty of opportunities, and if that's the case, my career will be determined by getting a job on the island. とはいえ 彼 の そういう 姿 は 想像 でき ない んだ よ な ー 、なんとなく 島 が 似合わ ない もん 、あの 人。 |かれ|||すがた||そうぞう||||||-||しま||にあわ||||じん That said, I can't imagine him looking like that, somehow the island doesn't suit him. うーん。

……こんなふうに 、私 の 悩み は 遠野 くん を 中心 に いつも ぐるぐる と 巡って しまう。 |わたくし||なやみ||とおの|||ちゅうしん|||||めぐって| ……Thus, my worries always revolve around Tohno-kun. いつまでも 悩み 続けて いる わけに は いか ない んだ と いう こと だけ は 分かって いる のに。 |なやみ|つづけて||||||||||||わかって|| Even though I know that I can't keep worrying forever.

だから 私 は 、波 に 乗れたら 遠野 くん に 告白 する と 、決めて いる のだ。 |わたくし||なみ||のれたら|とおの|||こくはく|||きめて|| That's why I've decided that if I can catch a wave, I'll confess to Tohno-kun.

* * *

午後 七 時 十分。 ごご|なな|じ|じゅうぶん 7:00 p.m. Enough. さっき まで 大気 中 を 満たして いた クマ ゼミ の 声 が 、いつのまにか ヒグラシ の 声 に 変わって いる。 ||たいき|なか||みたして||くま|ぜみ||こえ|||||こえ||かわって| The voices of the bears that had filled the air earlier in the day had somehow been replaced by the voices of the chiggers. もう すこし したら 今度 は キリギリス の 声 に 変わる だろう。 |||こんど||||こえ||かわる| In a little while, the voice will change to that of a grasshopper. あたり は もう 薄暗い けれど 、空 に は まだ 夕日 の 光 が 残って いて 高い 雲 が 金色 に 輝いて いる。 |||うすぐらい||から||||ゆうひ||ひかり||のこって||たかい|くも||きんいろ||かがやいて| It was already dark, but the sky was still lit with the light of the setting sun, and the high clouds were shining golden. じっと 空 を 見上げて いる と 、雲 が 西 に 流れて いる の が 分かる。 |から||みあげて|||くも||にし||ながれて||||わかる If you look up at the sky, you can see the clouds moving to the west. さっき まで 海 に いた 時 に は 風 は 逆 向き で オンショア ──沖 から 吹く 風 で 波 の 形 は 良く ない ──だった のに 、今 なら もっと 乗り やすい 波 に なって いる かも しれ ない。 ||うみ|||じ|||かぜ||ぎゃく|むき|||おき||ふく|かぜ||なみ||かた||よく||||いま|||のり||なみ|||||| When I was at sea until just a little while ago, the wind was in the opposite direction and it was onshore—the wind was blowing from offshore and the waves were not good—but now the waves may be easier to ride. どちら に せよ 立てる 自信 は ない のだ けれど。 |||たてる|じしん|||| I don't have the confidence to stand up either way.

校舎 の 陰 から 単 車 置き場 の 方 を 覗く。 こうしゃ||かげ||ひとえ|くるま|おきば||かた||のぞく Peeking from the shadow of the school building toward the motorcycle parking lot. バイク は もう 残り すくなく 、校門 付近 に は 生徒 の 姿 も ない。 ばいく|||のこり||こうもん|ふきん|||せいと||すがた|| There aren't many bikes left, and there are no students near the school gate. もう どの 部活 も 終わって いる 時間 な のだ。 ||ぶかつ||おわって||じかん|| It was already the time when all club activities were over. 私 は つまり 、放課後 サーフィン を して きた 後 に ふたたび 学校 に 戻って きて 、遠野 くん が 単 車 置き場 に 現れる の を 校舎 陰に 隠れて 待って いる のだ けれど (と いう ふうに あらためて 考える と 我ながら ちょっと コワイ )、もしかしたら 今日 は もう 帰って しまった の かも しれ ない。 わたくし|||ほうかご|さーふぃん||||あと|||がっこう||もどって||とおの|||ひとえ|くるま|おきば||あらわれる|||こうしゃ|いんに|かくれて|まって||||||||かんがえる||われながら||||きょう|||かえって||||| In other words, after I went surfing after school, I came back to school and waited for Tono-kun to show up in the parking lot behind the school building. A bit scary though), maybe he's already gone home today. もう ちょっと 早く 海 から 上がれば 良かった か なあ と 思い つつ 、あと すこし だけ 待って みよう と 思い なおす。 ||はやく|うみ||あがれば|よかった||||おもい|||||まって|||おもい| While thinking that I should have gotten out of the sea a little earlier, I decided to wait just a little longer.

サーフィン 問題 、遠野 くん 問題 、進路 問題 、これ が 目下 の 私 の 三 大 課題 な わけだ けれど 、もちろん 問題 は この 三 つ だけ で は ない。 さーふぃん|もんだい|とおの||もんだい|しんろ|もんだい|||もっか||わたくし||みっ|だい|かだい|||||もんだい|||みっ||||| Surfing problem, Tohno-kun problem, career problem, these are my three major problems at the moment, but of course these are not the only problems. たとえば 日 に 焼けた 肌。 |ひ||やけた|はだ For example, tanned skin. 私 は 決して 地 黒 な わけで は ない のだ けれど (たぶん )、どれ だけ 日焼け 止め を 塗り 込んで も 、私 は 同級 生 の 誰 より も ダントツ に こんがり と 日焼け して いる。 わたくし||けっして|ち|くろ||||||||||ひやけ|とどめ||ぬり|こんで||わたくし||どうきゅう|せい||だれ|||だんとつ||||ひやけ|| I'm not black by any means (probably), but no matter how much sunscreen I apply, I'm far more tanned than any of my classmates. お 姉ちゃん は サーフィン を やって いる のだから あたりまえだ と 言う し 、ユッコ や サキ ちゃん も 健康 的で 可愛い んじゃ ない の と か 言って くれる けれど 、好きな 男の子 より も 色 が 黒い と いう の は 何 か が 致命 的な 気 が する。 |ねえちゃん||さーふぃん|||||||いう||ゆっこ||さき|||けんこう|てきで|かわいい||||||いって|||すきな|おとこのこ|||いろ||くろい|||||なん|||ちめい|てきな|き|| My sister says it's natural because she surfs, and Yukko and Saki say that they're healthy and cute, but there's something about being blacker than the boy you like. I feel deadly. 遠野 くん の 肌 、色白で きれいだ し。 とおの|||はだ|いろじろで|| Tohno-kun's skin is fair and beautiful.

それ から いまいち 成長 して くれ ない 胸 と か (お 姉ちゃん の 胸 は なぜ か で かい。 |||せいちょう||||むね||||ねえちゃん||むね||||| Then there are the breasts that don't grow very well (for some reason, my sister's breasts are huge. 同じ DNA な のに なんで だ )、壊滅 的な 数学 の 成績 と か 、私服 の センス の な さ と か 、あまりに も 健康 すぎて ぜんぜん 風邪 を ひけ ない と か (可愛 げ が 足りない 気 が する )、その他 いろいろ。 おなじ|dna|||||かいめつ|てきな|すうがく||せいせき|||しふく||せんす||||||||けんこう|||かぜ||||||かわい|||たりない|き|||そのほか| Why?), devastating math results, lack of taste in plain clothes, being too healthy to catch a cold at all (I feel like I'm not cute enough), Other things. 問題 山積み な のだ 、我ながら。 もんだい|やまづみ|||われながら I have a lot of problems, as I said.

悲劇 的 要素 を カウント して いて も どう しよう も ない のだ わ と 思い 、もう 一 度 ちらり と 単 車 置き場 を 覗く。 ひげき|てき|ようそ||かうんと|||||||||||おもい||ひと|たび|||ひとえ|くるま|おきば||のぞく Thinking that counting the tragic elements would be useless, I glanced at the motorcycle parking lot again. 遠く から 見 間違えよう の ない シルエット が 歩いて くる の が 見える。 とおく||み|まちがえよう|||しるえっと||あるいて||||みえる From a distance, I could see an unmistakable silhouette walking towards me. やった! Juhu! I did it! 待って て 正解 だった 、私って ば サスガ の 判断。 まって||せいかい||わたくしって||||はんだん I was right to wait. 素早く 深呼吸 して 、さりげなく 単 車 置き場 に 向かう。 すばやく|しんこきゅう|||ひとえ|くるま|おきば||むかう I took a deep breath and casually headed for the motorcycle parking lot.

「あれ 、澄 田。 |きよし|た Hey, Sumida. 今 帰り? いま|かえり You're home? 」やっぱり 優しい 声。 |やさしい|こえ " I knew it. A gentle voice. 単 車 置き場 の 電灯 に 照らされて 、だんだん 彼 の 姿 が 見えて くる。 ひとえ|くるま|おきば||でんとう||てらされて||かれ||すがた||みえて| The lights of the car lot gradually revealed him to me. すらりと した 細身 の 体 、すこし 目 に かかる 長 めの 髪 、いつも の 落ち着いた 足取り。 ||ほそみ||からだ||め|||ちょう||かみ|||おちついた|あしどり Her slender body, long hair that falls a little short of her eyes, and her usual calm gait.

「うん……。 遠野 くん も? とおの|| 」声 が ちょっと 震えて いる ような 気 が する。 こえ|||ふるえて|||き|| " I feel like my voice is trembling a little. あー もう 、いいかげん 慣れて 欲しい 私。 |||なれて|ほしい|わたくし Ah, I just want you to get used to it.

「ああ。 じゃあ さ 、一緒に 帰ら ない? ||いっしょに|かえら| Well then, why don't you come home with me?

──もし 自分 に 犬 みたいな 尻尾 が あったら 、きっと ぶん ぶん と 振って しまって いた と 思う。 |じぶん||いぬ||しっぽ|||||||ふって||||おもう ──If I had a tail like a dog, I'm sure I would have wagged it. ああ 、私 は 犬 じゃ なくて 良かった 、尻尾 が あったら 全部 の 気持ち が 彼 に 筒抜け だった と 真剣に 思って 、そんな こと しか 考えられ ない 自分 に 呆れて 、それ でも 、遠野 くん と の 帰り道 は ひたすら に 幸せな のだ。 |わたくし||いぬ|||よかった|しっぽ|||ぜんぶ||きもち||かれ||つつぬけ|||しんけんに|おもって||||かんがえられ||じぶん||あきれて|||とおの||||かえりみち||||しあわせな| I seriously think that if I had a tail, he would know everything I'm thinking about.

私 たち は サトウキビ 畑 に 挟まれた 細い 道 を 一 列 に 並んで 単 車 で 走って いる。 わたくし|||さとうきび|はたけ||はさまれた|ほそい|どう||ひと|れつ||ならんで|ひとえ|くるま||はしって| We drove single file along a narrow road flanked by sugar cane fields. 前 を 走って いる 遠野 くん の 後ろ姿 を 見 ながら 、私 は しみじみ と その 幸せ を 噛みしめる。 ぜん||はしって||とおの|||うしろすがた||み||わたくし|||||しあわせ||かみしめる Looking at the back of Tohno-kun running in front of me, I deeply savor that happiness. 胸 の 奥 が 熱くて 、サーフィン に 失敗 した 時 の よう に 鼻 の 奥 が すこし ツンと する。 むね||おく||あつくて|さーふぃん||しっぱい||じ||||はな||おく|||つんと| I had a burning sensation in the back of my chest and a slight twinge in the back of my nose, as if I had failed at surfing. 幸せ と 悲しみ は 似て いる と 、理由 も 分から ず に 思う。 しあわせ||かなしみ||にて|||りゆう||わから|||おもう Without knowing why, I think that happiness and sadness are similar.

最初 から 、遠野 くん は 他の 男の子 たち と は 、どこ か すこし 違って いた。 さいしょ||とおの|||たの|おとこのこ|||||||ちがって| From the beginning, Tono was a little different from the other boys. 中学 二 年 の 春 に 彼 は 東京 から この 種子島 に 転校 して きた。 ちゅうがく|ふた|とし||はる||かれ||とうきょう|||たねがしま||てんこう|| In the spring of his eighth grade year, he transferred from Tokyo to Tanegashima. 中 二 の 始業 式 の 日 の 彼 の 姿 を 、今 でも はっきり と 覚えて いる。 なか|ふた||しぎょう|しき||ひ||かれ||すがた||いま||||おぼえて| I still clearly remember his appearance on the first day of eighth grade. 黒板 の 前 に まっすぐに 立った 見知らぬ 男の子 は ぜんぜん 気後れ も 緊張 も して いない よう に 見えて 、端正な 顔 に 穏やかな 微笑 を 浮かべて いた。 こくばん||ぜん|||たった|みしらぬ|おとこのこ|||きおくれ||きんちょう||||||みえて|たんせいな|かお||おだやかな|びしょう||うかべて| The strange boy, standing straight in front of the blackboard, seemed neither timid nor nervous at all, and had a gentle smile on his handsome face.

「遠野 貴樹 です。 とおの|たかき| My name is Takaki Tono. 親 の 仕事 の 都合 で 三 日 前 に 東京 から 引っ越して きました。 おや||しごと||つごう||みっ|ひ|ぜん||とうきょう||ひっこして| I moved here from Tokyo three days ago due to my parents' work. 転校 に は 慣れて います が 、この 島 に は まだ 慣れて いません。 てんこう|||なれて||||しま||||なれて|いま せ ん I'm used to moving to a new school, but I'm still not used to this island. よろしく お 願い します」 ||ねがい|

喋る 声 は 早くも なく 遅く も なく 淀み も なく 落ち着いて いて 、しびれて しまう くらい きれいな 標準 語 の アクセント だった。 しゃべる|こえ||はやくも||おそく|||よどみ|||おちついて||||||ひょうじゅん|ご||あくせんと| His voice was neither fast, nor slow, nor hesitant, and was calm, and had a beautiful standard accent that made me numb. テレビ の 人 みたいだった。 てれび||じん| He was like a TV person. 私 が もし 彼 の 立場 だったら ──超 大 都会 から 超 田舎 (かつ 孤島 )に 転校 して きたら 、あるいは その 逆だった ならば ──きっと 顔 は 真っ赤で アタマ は まっ白 、皆 と は 違う アクセント が 気 に なって しどろもどろに なって いた に 違いない。 わたくし|||かれ||たちば||ちょう|だい|とかい||ちょう|いなか||ことう||てんこう|||||ぎゃくだった|||かお||まっかで|||まっしろ|みな|||ちがう|あくせんと||き|||||||ちがいない If I were in his position—if I transferred from a super big city to a super rural (and isolated island) school, or vice versa—I'm sure I'd have a bright red face, a pure white head, and a different accent than everyone else's. He must have been confused and flustered. それなのに 同い年 である はずの この 人 は どうして こんなふうに 、まるで 目の前 に 誰 も いない か の よう に 緊張 も せ ず 、くっきり と 喋る こと が できる のだろう。 |おないどし||||じん|||||めのまえ||だれ|||||||きんちょう||||||しゃべる|||| And yet, how could this person, who should be the same age, be able to speak so clearly, as if there was no one in front of him, without being nervous? 今 まで どんな 生活 を して きて 、黒い 学生 服 に 包まれた この 人 の 中 に は いったい 何 が ある のだろう──。 いま|||せいかつ||||くろい|がくせい|ふく||つつまれた||じん||なか||||なん||| What kind of life has he lived up until now, and what exactly is inside this person wrapped in a black school uniform? これほど 強く 何 か を 知りたい と 求めた こと は 人生 で 初めて で 、私 は もう その 瞬間 に 、宿命 的に 恋 に 落ちて いた。 |つよく|なん|||しりたい||もとめた|||じんせい||はじめて||わたくし||||しゅんかん||しゅくめい|てきに|こい||おちて| It was the first time in my life that I wanted to know something so strongly, and at that moment, I was already destined to fall in love.

それ から 私 の 人生 は 変わった。 ||わたくし||じんせい||かわった From then on, my life changed. 町 も 学校 も 現実 も 、彼 の 向こう側 に 見えた。 まち||がっこう||げんじつ||かれ||むこうがわ||みえた The town, the school, and reality could be seen beyond him. 授業 中 も 放課後 も 海 で 犬 の 散歩 を して いる 時 で さえ も 、視界 の 隅っこ で いつも 彼 を 捜して いた。 じゅぎょう|なか||ほうかご||うみ||いぬ||さんぽ||||じ||||しかい||すみっこ|||かれ||さがして| I was always looking for him in the corner of my eye during class, after school, and even when I was walking my dog on the beach. 一見 クール で 気取って いる よう に も 見えた 彼 は 実は 気さくで すぐに たくさんの 友人 を 作り 、しかも 同性 ばかり で かたまる ような ガキっぽ さ は 微塵 も なく 、だから 私 も タイミング さえ 合えば 何度 でも 彼 と 話す こと が できた。 いっけん|||きどって|||||みえた|かれ||じつは|きさくで|||ゆうじん||つくり||どうせい|||||がきっぽ|||みじん||||わたくし||たいみんぐ||あえば|なんど||かれ||はなす||| At first glance, he seemed cool and pretentious, but he was actually friendly and quickly made a lot of friends. I was able to talk to him.

高校 で は クラス こそ 違って しまった けれど 、学校 が 同じな の は 奇跡 だった。 こうこう|||くらす||ちがって|||がっこう||おなじな|||きせき| Although we were in different classes in high school, it was a miracle that we were in the same school. とはいえ この 島 に は それ ほど の 選択肢 は ない し 、彼 の 成績 であれば どの 高校 に 行こう が 進路 は 思い の まま だったろう から 、単に 近く の 学校 を 選んだ だけ な の かも しれ ない けれど。 ||しま||||||せんたくし||||かれ||せいせき|||こうこう||いこう||しんろ||おもい|||||たんに|ちかく||がっこう||えらんだ||||||| That said, there aren't many options on this island, and with his grades, he would have been able to choose whatever high school he wanted, so he may have simply chosen a nearby school. . 高校 でも 相変わらず 私 は 彼 の こと が 好きで 、その 気持ち は 五 年間 まったく 衰える こと は なく むしろ 日々 すこしずつ 強く なって いった。 こうこう||あいかわらず|わたくし||かれ||||すきで||きもち||いつ|ねんかん||おとろえる|||||ひび||つよく|| Even in high school, I still liked him, and my feelings for him never abated over the five years, and rather grew a little stronger each day. 彼 の 特別な ひとり に なりたい と いう 気持ち は もちろん あった けれど 、でも 正直 、私 は 好き と いう 気持ち を 抱えて いる だけ で もう 精一杯 だった。 かれ||とくべつな||||||きもち||||||しょうじき|わたくし||すき|||きもち||かかえて|||||せいいっぱい| Of course, I wanted to be his special person, but to be honest, the feeling of liking him was all I could do. 彼 と 付きあった その後 の 日々 なんて 一 ミリ も 想像 でき なかった。 かれ||つきあった|そのご||ひび||ひと|みり||そうぞう|| I couldn't have imagined the days after that with him. 学校 で あるいは 町 で 、遠野 くん の 姿 を 見かける たび に 私 は 彼 を もっと 好きに なって いって しまって 、それ が 怖くて 毎日 が 苦しくて でも それ が 楽しく も あり 、自分 でも どう しよう も ない のだった。 がっこう|||まち||とおの|||すがた||みかける|||わたくし||かれ|||すきに||||||こわくて|まいにち||くるしくて||||たのしく|||じぶん|||||| Every time I see Tohno-kun at school or on the street, I fall in love with him even more. was.

夜 七 時 三十 分。 よ|なな|じ|さんじゅう|ぶん It is 7:30 at night. 帰り道 に ある アイショップ と いう コンビニ で 、私 たち は 買い物 を する。 かえりみち||||||こんびに||わたくし|||かいもの|| On the way home, we went shopping at a convenience store called iShop. 遠野 くん と は 週 に 〇・七回 くらい ──つまり 運 の 良い 時 は 週 に 一 回 、運 の ない 時 は 二 週 に 一 回 くらい の 割合 で 一緒に 帰る こと が できる のだ けれど 、いつ から か アイショップ へ の 寄り道 が 定番 の コース に なった。 とおの||||しゅう||なな かい|||うん||よい|じ||しゅう||ひと|かい|うん|||じ||ふた|しゅう||ひと|かい|||わりあい||いっしょに|かえる||||||||||||よりみち||じょうばん||こーす|| About 0.7 times a week with Tohno--that is, once a week when we're lucky, and once every two weeks when we're unlucky. A detour to the eye shop has become a standard course. コンビニ と いって も 夜 九 時 に は 閉まる し 花 の 種 と か 近所 の おばちゃん の 作った 土 の 付いた 大根 なんか も 売って いる ような お 店 な のだ けれど 、お 菓子 類 の 品揃え も なかなか 充実 して いる。 こんびに||||よ|ここの|じ|||しまる||か||しゅ|||きんじょ||||つくった|つち||ついた|だいこん|||うって||||てん|||||かし|るい||しなぞろえ|||じゅうじつ|| Even though it's called a convenience store, it closes at 9:00 p.m., and it's a store that sells things like flower seeds and radishes covered in soil made by a local lady, but the selection of sweets is pretty good. Are substantial. 有線 放送 で は 流行 の J ポップ なんか が かかって いる。 ゆうせん|ほうそう|||りゅうこう||j|ぽっぷ|||| On cable broadcasting, trendy J-pop is playing. 天井 に ず らっと 並んだ 蛍光 灯 が 、狭い 店 内 を 白っぽい 光 で こうこう と 照らして いる。 てんじょう||||ならんだ|けいこう|とう||せまい|てん|うち||しろっぽい|ひかり||こう こう||てらして| Fluorescent lights lined up on the ceiling illuminate the narrow interior with a whitish light.