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【公式】窪田等の世界, 【字幕あり】名作朗読『一房の葡萄』作:有島武郎 朗読:窪田等 ■ 小説朗読作品多数 走れメロス・雨ニモマケズ・注文の多い料理店 etc... 作業用BGMや睡眠導入にも (1)

【字幕 あり 】名作 朗読 『一 房 の 葡萄 』作 :有 島 武郎 朗読 :窪田 等 ■ 小説 朗読 作品 多数 走れ メロス ・雨 ニモマケズ ・注文 の 多い 料理 店 etc ... 作業 用 BGM や 睡眠 導入 に も (1)

僕 は 小さい 時 に 絵 を 描く こと が 好きでした。

僕 の 通って いた 学校 は 横浜 の 山手 と いう 所 に ありました が 、そこ い ら は 西洋 人 ばかり 住んで いる 町 で、

僕 の 学校 も 教師 は 西洋 人 ばかり でした 。そして その 学校 の 行き かえり に は いつでも

ホテル や 西洋 人 の 会社 など が ならんで いる 海岸 の 通り を 通る のでした。

通り の 海 添い に 立って 見る と 、真 青 な 海 の 上 に 軍艦 だの 商船 だの が 一 ぱい ならんで いて、

煙突 から 煙 の 出て いる の や 、檣 から 檣 へ 万 国旗 を かけわたした の や が あって、

眼 が いたい ように 綺麗でした。

僕 は よく 岸 に 立って その 景色 を 見渡して 、家 に 帰る と、

覚えて いる だけ を 出来る だけ 美しく 絵 に 描いて 見よう と しました。

けれども あの 透きとおる ような 海 の 藍色 と 、白い 帆前船 など の 水際 近く に 塗って ある 洋 紅 色 と は、

僕 の 持って いる 絵 具 で は どうして も うまく 出せません でした。

いくら 描いて も 描いて も 本当の 景色 で 見る ような 色 に は 描けません でした。

ふと 僕 は 学校 の 友達 の 持って いる 西洋 絵 具 を 思い出しました。

その 友達 は 矢 張 西洋 人 で 、しかも 僕 より 二 つ 位 齢 が 上 でした から、

身長 は 見上げる ように 大きい 子 でした。

ジム と いう その子 の 持って いる 絵 具 は 舶来 の 上等の もの で 、軽い 木 の 箱 の 中 に 、十二 種 の 絵 具 が

小さな 墨 の ように 四角な 形 に かためられて 、二 列 に ならんで いました。

どの 色 も 美しかった が、

とりわけて 藍 と 洋 紅 と は 喫 驚 する ほど 美しい もの でした。

ジム は 僕 より 身長 が 高い くせ に 、絵 は ずっと 下手でした。

それ でも その 絵 具 を ぬる と、

下手な 絵 さえ が なんだか 見ちがえる ように 美しく 見える のです。

僕 は いつでも それ を 羨 しい と 思って いました 。あんな 絵 具 さえ あれば

僕 だって 海 の 景色 を 本当に 海 に 見える ように 描いて 見せる のに なあ と、

自分 の 悪い 絵 具 を 恨み ながら 考えました。

そう したら 、その 日 から ジム の 絵 具 が ほしくって ほしくって たまらなく なりました。

けれども 僕 は なんだか 臆病に なって

パパ に も ママ に も 買って 下さい と 願う 気 に なれ ない ので 、毎日 々々

その 絵 具 の こと を 心 の 中 で 思い つづける ばかりで 幾 日 か 日 が たちました。

今では いつ の 頃 だった か 覚えて は いま せ ん が 秋 だった のでしょう。

葡萄 の 実 が 熟して いた のです から。

天気 は 冬 が 来る 前 の 秋 に よく ある ように 空 の 奥 の 奥 まで 見すかさ れ そうに 霽 れ わたった 日 でした。

僕達 は 先生 と 一緒に 弁当 を たべました が 、その 楽しみな 弁当 の 最中 でも

僕 の 心 は なんだか 落着か ないで 、その 日 の 空 と は うらはらに 暗かった のです。

僕 は 自分 一 人 で 考えこんで いました 。誰 か が 気 が ついて 見たら、

顔 も 屹度 青かった かも 知れません。

僕 は ジム の 絵 具 が ほしくって ほしくって たまらなく なって しまった のです。

胸 が 痛む ほど ほしく なって しまった のです。

ジム は 僕 の 胸 の 中 で 考えて いる こと を 知っている に ちがいない と 思って、

そっと その 顔 を 見る と 、ジム は なんにも 知ら ない ように 、面白 そうに 笑ったり して、

わき に 坐って いる 生徒 と 話 を して いる のです。

でも その 笑って いる の が 僕 の こと を 知っていて 笑って いる ように も 思える し、

何 か 話 を して いる の が 、「いまに 見ろ 、あの 日本 人 が 僕 の 絵 具 を 取る に ちがいない から。」

と いって いる ように も 思える のです。

僕 は いやな 気持ち に なりました。

けれども ジム が 僕 を 疑って いる ように 見えれば 見える ほど 、僕 は その 絵 具 が ほしくて なら なく なる のです。

僕 は かわいい 顔 は して いた かも 知れ ない が 体 も 心 も 弱い 子 でした。

その 上 臆病 者 で 、言いたい こと も 言わ ず に すます ような 質 でした。

だから あんまり 人 から は 、かわいがら れ なかった し 、友達 も ない 方 でした。

昼 御飯 が すむ と 他の 子供 達 は 活 溌 に 運動 場 に 出て 走りまわって 遊び はじめました が、

僕 だけ は なおさら その 日 は 変に 心 が 沈んで 、一 人 だけ 教 場 に 這 入って いました。

そと が 明るい だけ に 教 場 の 中 は 暗く なって 僕 の 心 の 中 の ようでした。

自分 の 席 に 坐って い ながら 僕 の 眼 は 時々 ジム の 卓 (テイブル )の 方 に 走りました。

ナイフ で 色々な いたずら 書き が 彫りつけて あって 、手垢 で 真 黒 に なって いる あの 蓋 を 揚げる と、

その 中 に 本 や 雑記 帳 や 石 板 と 一緒に なって、

飴 の ような 木 の 色 の 絵 具 箱 が ある んだ。

そして その 箱 の 中 に は 小さい 墨 の ような 形 を した 藍 や 洋 紅 の 絵 具 が……

僕 は 顔 が 赤く なった ような 気 が して 、思わず そっぽ を 向いて しまう のです。

けれども すぐ 又 また 横 眼 で ジム の 卓 の 方 を 見 ないで はいら れません でした。

胸 の ところ が どきどき と して 苦しい 程 でした 。じっと 坐って い ながら 夢 で 鬼 に でも 追いかけられた 時 の ように

気 ばかり せかせか して いました。

教 場 に 這 入る 鐘 が かんかん と 鳴りました。

僕 は 思わず ぎょっと して 立 上りました。

生徒 達 が 大きな 声 で 笑ったり 呶 鳴ったり し ながら 、洗面 所 の 方 に 手 を 洗い に 出かけて 行く の が 窓 から 見えました。

僕 は 急に 頭 の 中 が 氷 の ように 冷たく なる の を 気味 悪く 思い ながら、

ふらふら と ジム の 卓 の 所 に 行って 、半分 夢 の ように そこ の 蓋 を 揚げて 見ました。

そこ に は 僕 が 考えて いた とおり 雑 記帳 や 鉛 筆箱 と まじって

見覚え の ある 絵 具 箱 が しまって ありました。

なんの ため だ か 知ら ない が 僕 は あっち こ ち を 見 廻して から 、誰 も 見て いない な と 思う と、

手早く その 箱 の 蓋 を 開けて 藍 と 洋 紅 と の 二 色 を 取上げる が 早い か

ポケット の 中 に 押込みました 。そして 急いで いつも 整列 して 先生 を 待って いる 所 に 走って 行きました。

僕達 は 若い 女 の 先生 に 連れられて 教 場 に 這 入り

銘々 の 席 に 坐りました。

僕 は ジム が どんな 顔 を して いる か 見 たくって たまらなかった けれども、

どうしても そっち の 方 を ふり向く こと が できません でした。

でも 僕 の した こと を 誰 も 気 の ついた 様子 が ない ので、

気味 が 悪い ような 、安心 した ような 心持ち で いました。

僕 の 大好きな 若い 女 の 先生 の 仰 る こと なんか は

耳 に 這 入り は 這 入って も なんの こと だ か ちっとも わかりません でした。

先生 も 時々 不思議 そうに 僕 の 方 を 見て いる ようでした。

僕 は 然 し 先生 の 眼 を 見る の が その 日 に 限って なんだか いやでした。

そんな 風 で 一 時間 が たちました。

なんだか みんな 耳 こすり でも して いる ようだ と 思い ながら 一 時間 が たちました。

教 場 を 出る 鐘 が 鳴った ので 僕 は ほっと 安心 して 溜息 を つきました。

けれども 先生 が 行って しまう と 、僕 は 僕 の 級 で 一 番 大きな、

そして よく 出来る 生徒 に 「ちょっと こっち に お 出 で」

と 肱 の 所 を 掴まれて いました。

僕 の 胸 は 宿題 を なまけた の に 先生 に 名 を 指さ れた 時 の ように 、思わず ど きん と 震え はじめました。

けれども 僕 は 出来る だけ 知ら ない 振り を して い なければ なら ない と 思って、

わざと 平気な 顔 を した つもりで 、仕方 なし に 運動 場 の 隅 に 連れて 行か れました。

「君 は ジム の 絵 具 を 持って いる だろう 。ここ に 出し 給え。」

そう 言って その 生徒 は 僕 の 前 に 大きく 広げた 手 を 突き出しました

そう いわ れる と 僕 は かえって 心 が 落着いて 、「そんな もの 、僕 持って や し ない 。」と、

つい でたらめ を いって しまいました 。そう する と 三四 人 の 友達 と 一緒に 僕 の 側 に 来て いた ジム が、

「僕 は 昼 休み の 前 に ちゃんと 絵 具 箱 を 調べて おいた んだ よ。

一 つ も 失 く なって は い なかった んだ よ 。そして 昼 休み が 済んだら

二 つ 失 く なって いた んだ よ。

休み の 時間 に 教 場 に いた の は 君 だけ じゃ ない か。」

と 少し 言葉 を 震わし ながら 言いかえしました。

僕 は もう 駄目だ と 思う と 急に 頭 の 中 に 血 が 流れこんで 来て 顔 が 真 赤 に なった ようでした。

すると 誰 だった か そこ に 立って いた 一 人 が いきなり 僕 の ポッケット に 手 を さし込もう と しました。

僕 は 一生懸命に そう は さ せまい と しました けれども 、多勢 に 無勢 で 迚 も 叶いません。

僕 の ポッケット の 中 から は 、見る見る マーブル 球 や 鉛 の メンコ など と 一緒に

二 つ の 絵 具 の かたまり が 掴み 出されて しまいました。

「それ 見ろ 」と いわんばかり の 顔 を して 子供 達 は 憎らし そうに 僕 の 顔 を 睨みつけました。

僕 の 体 は ひとりでに ぶるぶる 震えて 、眼 の 前 が 真 暗に なる ようでした。

いい お 天気 な のに 、みんな 休 時間 を 面白 そうに 遊び 廻って いる のに、

僕 だけ は 本当に 心から しおれて しまいました。

あんな こと を なぜ して しまった んだろう 。取りかえし の つか ない こと に なって しまった。

もう 僕 は 駄目だ 。そんなに 思う と 弱虫 だった 僕 は

淋しく 悲しく なって 来て 、しくしく と 泣き出して しまいました。

「泣いて おど か したって 駄目だ よ 。」と よく 出来る 大きな 子 が

馬鹿に する ような 憎み きった ような 声 で 言って、

動く まい と する 僕 を みんな で 寄ってたかって 二 階 に 引 張って 行こう と しました。

僕 は 出来る だけ 行く まい と した けれども とうとう 力まかせに 引きずられて

階子 段 を 登ら せられて しまいました。

そこ に 僕 の 好きな 受持ち の 先生 の 部屋 が ある のです。

やがて その 部屋 の 戸 を ジム が ノック しました 。中 から は やさしく

「お 這 入り 」と いう 先生 の 声 が 聞えました。

僕 は その 部屋 に 這 入る 時 ほど いやだ と 思った こと は またと ありません。

何 か 書きもの を して いた 先生 は どやどや と 這 入って 来た 僕達 を 見る と 、少し 驚いた ようでした。

が 、女 の 癖 に 男 の ように 頸 の 所 で ぶつり と 切った 髪 の 毛 を 右 の 手 で 撫で あげ ながら、

いつも の とおり の やさしい 顔 を こちら に 向けて 、一 寸 首 を かしげた だけ で

何の 御用 と いう 風 を し なさいました。

そう する と よく 出来る 大きな 子 が 前 に 出て 、僕 が ジム の 絵 具 を 取った こと を 委 しく 先生 に 言いつけました。

先生 は 少し 曇った 顔付き を して 真面目に みんな の 顔 や 、半分 泣き かかって いる 僕 の 顔 を 見くらべて いなさ いました が、

僕 に 「それ は 本当です か 。」と 聞か れました。

本当な んだ けれども 、僕 が そんな いやな 奴 だ と いう こと を どうしても 僕 の 好きな 先生 に 知ら れる の が つらかった のです。

だから 僕 は 答える 代り に 本当に 泣き出して しまいました。

先生 は 暫く 僕 を 見つめて いました が 、やがて 生徒 達 に 向って 静かに

「もう いって も よう ございます 。」と いって 、みんな を かえして しまわ れました。

生徒 達 は 少し 物 足ら な そうに どやどや と 下 に 降りて いって しまいました。


【字幕 あり 】名作 朗読 『一 房 の 葡萄 』作 :有 島 武郎 朗読 :窪田 等 ■ 小説 朗読 作品 多数 走れ メロス ・雨 ニモマケズ ・注文 の 多い 料理 店 etc ... 作業 用 BGM や 睡眠 導入 に も (1) じまく||めいさく|ろうどく|ひと|ふさ||ぶどう|さく|ゆう|しま|たけお|ろうどく|くぼた|とう|しょうせつ|ろうどく|さくひん|たすう|はしれ||あめ||ちゅうもん||おおい|りょうり|てん||さぎょう|よう|bgm||すいみん|どうにゅう|| [Untertitel verfügbar] Meisterwerk-Lesung „Ichibo no Grape“ Geschrieben von Takeo Arishima Gelesen von Kubota usw. Viele vorgelesene Romane Hasere Melos, Ame nimo makezu, Restaurants mit vielen Bestellungen usw. Hintergrundmusik für Arbeits- und Schlafeinführung (1) [ Subtitles available ] Masterpiece read aloud ' Ichibo no Grape ' by Takeo Arishima Read by Kubota , etc. ■ Numerous novels read aloud , run , Melos , Ame nimomakezu , restaurants with many orders , etc ... BGM for work and for introducing sleep ( 1) De druiven van de zee" van Takeo Arishima, voorgelezen door Hitoshi Kubota ■ Veel romans voorgelezen: Running Melos, Ame Ni Mo Makezu, Het restaurant van vele bestellingen, enz. BGM voor werk en slaap (1) As Uvas do Mar" de Takeo Arishima, lido por Hitoshi Kubota ■ Muitas leituras de romances: Running Melos, Ame Ni Mo Makezu, The Restaurant of Many Orders, etc... BGM para trabalhar e dormir (1) [Доступны субтитры] Шедевр, прочитанный вслух «Ichibou no Grape» Такео Аришима, прочитанный Кубота, и т. д. Многочисленные романы, прочитанные вслух, бег, мерос, дождь, рестораны с множеством заказов и т. д. 1) 【有字幕】名著阅读《一串葡萄》 作者:有岛武雄 阅读:久保田等人 ■ 小说阅读多:《奔跑吧梅洛斯》、《Ame Nimo Makezu》、《订单多的餐厅》等……还可以用作工作或诱导睡眠的背景音乐 (1 ) 有岛武夫的《海的葡萄》,由久保田仁朗读 ■ 多部小说朗读:《奔跑的梅洛斯》、《Ame Ni Mo Makezu》、《多人餐厅》等。 工作和睡眠 BGM (1)

僕 は 小さい 時 に 絵 を 描く こと が 好きでした。 ぼく||ちいさい|じ||え||えがく|||すきでした I liked drawing when I was little.

僕 の 通って いた 学校 は 横浜 の 山手 と いう 所 に ありました が 、そこ い ら は 西洋 人 ばかり 住んで いる 町 で、 ぼく||かよって||がっこう||よこはま||やまて|||しょ||あり ました||||||せいよう|じん||すんで||まち| The school I went to was in a place called Yamate in Yokohama, and it was a town where only Westerners lived. L'école que j'ai fréquentée se trouvait dans un endroit appelé Yamate à Yokohama, et c'était une ville où seuls les Occidentaux vivaient. Школа, в которую я ходил, находилась в месте под названием Ямате в Иокогаме, и это был город, где жили только жители Запада.

僕 の 学校 も 教師 は 西洋 人 ばかり でした 。そして その 学校 の 行き かえり に は いつでも ぼく||がっこう||きょうし||せいよう|じん|||||がっこう||いき|||| At my school, all the teachers were Westerners. And whenever I go to and from school Dans mon école, tous les professeurs étaient occidentaux. Et chaque fois que je vais à l'école et en reviens В моей школе все учителя были выходцами с Запада. И всякий раз, когда я иду в школу и из школы 在我的学校,所有的老师都是西方人。每当我上下学

ホテル や 西洋 人 の 会社 など が ならんで いる 海岸 の 通り を 通る のでした。 ほてる||せいよう|じん||かいしゃ|||||かいがん||とおり||とおる| It was a coastal street lined with hotels and Western companies. C'était une rue côtière bordée d'hôtels et d'entreprises occidentales. Это была прибрежная улица с отелями и западными компаниями. 这是一条沿海街道,两旁林立着旅馆和西方公司。

通り の 海 添い に 立って 見る と 、真 青 な 海 の 上 に 軍艦 だの 商船 だの が 一 ぱい ならんで いて、 とおり||うみ|そい||たって|みる||まこと|あお||うみ||うえ||ぐんかん||しょうせん|||ひと||| Standing by the sea on the street and looking out, the deep blue sea was lined with warships and merchant ships. Стоя у моря на улице и глядя наружу, глубокое синее море было окружено военными кораблями и торговыми судами. 站在街边的海边放眼望去,深蓝色的海面上停满了军舰和商船。

煙突 から 煙 の 出て いる の や 、檣 から 檣 へ 万 国旗 を かけわたした の や が あって、 えんとつ||けむり||でて||||しょう||しょう||よろず|こっき|||||| There was smoke coming out of the chimneys, and flags of all countries were being stretched from mast to mast. Из труб шел дым, с мачты на мачту развевались флаги всех стран. 烟囱里冒出浓烟,各国国旗从一根桅杆伸到另一根桅杆上。

眼 が いたい ように 綺麗でした。 がん||い たい||きれいでした It was so beautiful that it made my eyes itch. Ее глаза были такими красивыми. 她的眼睛是如此美丽。

僕 は よく 岸 に 立って その 景色 を 見渡して 、家 に 帰る と、 ぼく|||きし||たって||けしき||みわたして|いえ||かえる| I often stand on the shore and look out over the scenery, and when I get home, 我常常站在岸边眺望风景,回到家,

覚えて いる だけ を 出来る だけ 美しく 絵 に 描いて 見よう と しました。 おぼえて||||できる||うつくしく|え||えがいて|みよう||し ました I tried to paint as beautiful a picture as I could from what I could remember. Я старался нарисовать как можно красивее то, что помню. 我试着把我记得的画得尽可能漂亮。

けれども あの 透きとおる ような 海 の 藍色 と 、白い 帆前船 など の 水際 近く に 塗って ある 洋 紅 色 と は、 ||すきとおる||うみ||あいいろ||しろい|ほまえせん|||みずぎわ|ちかく||ぬって||よう|くれない|いろ|| However, the clear indigo of the sea and the crimson painted near the water's edge on the white sailing boats, Однако чистый индиго моря и малиновая краска у кромки воды на белых парусниках, 然而,海水清澈的靛蓝色和白色帆船在水边涂上的深红色,

僕 の 持って いる 絵 具 で は どうして も うまく 出せません でした。 ぼく||もって||え|つぶさ||||||だせ ませ ん| I couldn't get it to work well with the paints I had. Я не мог заставить его хорошо работать с красками, которые у меня были. 我无法让它与我拥有的油漆一起使用。

いくら 描いて も 描いて も 本当の 景色 で 見る ような 色 に は 描けません でした。 |えがいて||えがいて||ほんとうの|けしき||みる||いろ|||えがけ ませ ん| No matter how much I painted, I couldn't get the colors to look like the real scenery. Сколько бы я ни рисовал, мне не удавалось добиться того, чтобы цвета были похожи на настоящие пейзажи. 无论我画多少,我都无法使颜色看起来像真实的风景。

ふと 僕 は 学校 の 友達 の 持って いる 西洋 絵 具 を 思い出しました。 |ぼく||がっこう||ともだち||もって||せいよう|え|つぶさ||おもいだし ました 我突然想起了我同学的西洋画。

その 友達 は 矢 張 西洋 人 で 、しかも 僕 より 二 つ 位 齢 が 上 でした から、 |ともだち||や|ちょう|せいよう|じん|||ぼく||ふた||くらい|よわい||うえ|| That friend was a Westerner, and moreover, he was two years older than me. 那个朋友是西方人,而且比我大两岁。

身長 は 見上げる ように 大きい 子 でした。 しんちょう||みあげる||おおきい|こ| He was tall enough to look up at. 他足够高,可以抬头看。

ジム と いう その子 の 持って いる 絵 具 は 舶来 の 上等の もの で 、軽い 木 の 箱 の 中 に 、十二 種 の 絵 具 が じむ|||その こ||もって||え|つぶさ||はくらい||じょうとうの|||かるい|き||はこ||なか||じゅうに|しゅ||え|つぶさ| The child, Jim, was carrying a fine set of foreign-made paints in a light wooden box with twelve different kinds of paints inside. Краски, которые есть у этого ребенка, Джима, самого высокого качества, импортированные из-за границы, и в светлом деревянном ящике двенадцать видов красок. 吉姆这个孩子的油漆是从国外进口的最优质的油漆。

小さな 墨 の ように 四角な 形 に かためられて 、二 列 に ならんで いました。 ちいさな|すみ|||しかくな|かた||かため られて|ふた|れつ|||い ました They were lined up in two rows, compacted into squares like tiny pieces of ink. Они были выстроены в два ряда, сжаты в квадраты, как крошечные кусочки чернил. 它们排成两排,像小墨块一样被压成正方形。

どの 色 も 美しかった が、 |いろ||うつくしかった| Every color was beautiful, but 每种颜色都很漂亮,但

とりわけて 藍 と 洋 紅 と は 喫 驚 する ほど 美しい もの でした。 |あい||よう|くれない|||きっ|おどろ|||うつくしい|| Indigo and crimson were especially beautiful. Индиго и малиновый были особенно красивы. 靛蓝和深红色特别漂亮。

ジム は 僕 より 身長 が 高い くせ に 、絵 は ずっと 下手でした。 じむ||ぼく||しんちょう||たかい|||え|||へたでした Even though Jim was taller than me, he was much worse at drawing. 尽管吉姆比我高,但他的绘画能力却差得多。

それ でも その 絵 具 を ぬる と、 |||え|つぶさ||| Even so, when I apply the paint, 即便如此,当我涂上油漆时,

下手な 絵 さえ が なんだか 見ちがえる ように 美しく 見える のです。 へたな|え||||みちがえる||うつくしく|みえる| Even a poorly drawn picture looks beautiful in some way. 即使是画得不好的图画在某种程度上看起来也很美。

僕 は いつでも それ を 羨 しい と 思って いました 。あんな 絵 具 さえ あれば ぼく|||||うらや|||おもって|い ました||え|つぶさ|| I've always envied that. If only I had paints like that 我一直很羡慕这一点。如果我有那样的颜料就好了

僕 だって 海 の 景色 を 本当に 海 に 見える ように 描いて 見せる のに なあ と、 ぼく||うみ||けしき||ほんとうに|うみ||みえる||えがいて|みせる||| I wish I could draw the scenery of the sea so that it really looks like the sea. 我希望我能画出大海的景色,让它看起来真的像大海。

自分 の 悪い 絵 具 を 恨み ながら 考えました。 じぶん||わるい|え|つぶさ||うらみ||かんがえ ました I resented my bad paints. 我讨厌我的糟糕油漆。

そう したら 、その 日 から ジム の 絵 具 が ほしくって ほしくって たまらなく なりました。 |||ひ||じむ||え|つぶさ||ほしく って|ほしく って||なり ました Then, from that day on, I couldn't stop wanting Jim's paints. Затем, с того дня, я не мог перестать хотеть краски Джима. 然后,从那天起,我就无法停止想要吉姆的画作。

けれども 僕 は なんだか 臆病に なって |ぼく|||おくびょうに| But I became somewhat timid. 但我有点胆小

パパ に も ママ に も 買って 下さい と 願う 気 に なれ ない ので 、毎日 々々 ぱぱ|||まま|||かって|ください||ねがう|き|||||まいにち| 我不忍心让爸爸妈妈给我买,所以每天

その 絵 具 の こと を 心 の 中 で 思い つづける ばかりで 幾 日 か 日 が たちました。 |え|つぶさ||||こころ||なか||おもい|||いく|ひ||ひ||たち ました I kept thinking about that paint in my mind for several days. Несколько дней я думал об этой краске. 几天来我一直在脑海里想着那幅画。

今では いつ の 頃 だった か 覚えて は いま せ ん が 秋 だった のでしょう。 いまでは|||ころ|||おぼえて||||||あき|| I don't remember when now, but it must have been in the fall. 我不记得现在是什么时候了,但一定是秋天。

葡萄 の 実 が 熟して いた のです から。 ぶどう||み||じゅくして||| Because the grapes were ripe. 因为葡萄熟了。

天気 は 冬 が 来る 前 の 秋 に よく ある ように 空 の 奥 の 奥 まで 見すかさ れ そうに 霽 れ わたった 日 でした。 てんき||ふゆ||くる|ぜん||あき|||||から||おく||おく||みすかさ||そう に|さい|||ひ| It was a day when the sky seemed to be visible deep into the depths of the sky, as is often the case in autumn before winter. Это был день, когда казалось, что небо видно глубоко в небе, как это часто бывает осенью перед зимой. 那一天,天空似乎可以看到深空深处,就像冬天之前的秋天一样。

僕達 は 先生 と 一緒に 弁当 を たべました が 、その 楽しみな 弁当 の 最中 でも ぼくたち||せんせい||いっしょに|べんとう||たべ ました|||たのしみな|べんとう||さい なか| We ate lunch with the teacher, and even in the middle of that fun lunch,

僕 の 心 は なんだか 落着か ないで 、その 日 の 空 と は うらはらに 暗かった のです。 ぼく||こころ|||おちつか|||ひ||から||||くらかった|

僕 は 自分 一 人 で 考えこんで いました 。誰 か が 気 が ついて 見たら、 ぼく||じぶん|ひと|じん||かんがえこんで|い ました|だれ|||き|||みたら I was alone in my thoughts. If someone finds out, 我一个人在想。如果有人注意到,

顔 も 屹度 青かった かも 知れません。 かお||きつど|あおかった||しれ ませ ん

僕 は ジム の 絵 具 が ほしくって ほしくって たまらなく なって しまった のです。 ぼく||じむ||え|つぶさ||ほしく って|ほしく って|||| I was desperate for Jim's paints. 我为吉姆的颜料而死。

胸 が 痛む ほど ほしく なって しまった のです。 むね||いたむ||||| I wanted it so badly that it hurt my heart. Я хотел этого так сильно, что это причиняло боль моему сердцу. 我非常想要它,以至于我的胸部受伤了。

ジム は 僕 の 胸 の 中 で 考えて いる こと を 知っている に ちがいない と 思って、 じむ||ぼく||むね||なか||かんがえて||||しっている||||おもって Thinking that Jim must know what's going on in my head, Думая, что Джим должен знать, что происходит у меня в голове, 我想吉姆一定知道他在我心里想什么,

そっと その 顔 を 見る と 、ジム は なんにも 知ら ない ように 、面白 そうに 笑ったり して、 ||かお||みる||じむ|||しら|||おもしろ|そう に|わらったり| Gently looking at that face, Jim smiled amusingly, as if he didn't know anything about it. Нежно глядя на это лицо, Джим забавно улыбался, как будто ничего о нем не знал. 轻轻地看着他的脸,Jim 笑得好笑,好像他什么都不知道。

わき に 坐って いる 生徒 と 話 を して いる のです。 ||すわって||せいと||はなし|||| I am talking to a student sitting aside. Я разговариваю со студентом, сидящим в стороне. 我正在和坐在我旁边的一个学生说话。

でも その 笑って いる の が 僕 の こと を 知っていて 笑って いる ように も 思える し、 ||わらって||||ぼく||||しっていて|わらって||||おもえる| But that laughter seems to know me and is laughing, Но тот смех будто знает меня и смеется, 但那笑声似乎认识我并笑着,

何 か 話 を して いる の が 、「いまに 見ろ 、あの 日本 人 が 僕 の 絵 具 を 取る に ちがいない から。」 なん||はなし|||||||みろ||にっぽん|じん||ぼく||え|つぶさ||とる||| He was saying something, "Look now, that Japanese must be taking my paints." Они о чем-то говорили, говоря: «Вот смотри, этот японец, должно быть, берет мои краски». 我在谈论一些事情,“现在看,那个日本人必须拿走我的油漆。”

と いって いる ように も 思える のです。 |||||おもえる| It seems to me that you are saying. 好像是这样。

僕 は いやな 気持ち に なりました。 ぼく|||きもち||なり ました I felt bad.

けれども ジム が 僕 を 疑って いる ように 見えれば 見える ほど 、僕 は その 絵 具 が ほしくて なら なく なる のです。 |じむ||ぼく||うたがって|||みえれば|みえる||ぼく|||え|つぶさ|||||| But the more Jim seemed suspicious of me, the more I wanted the paint.

僕 は かわいい 顔 は して いた かも 知れ ない が 体 も 心 も 弱い 子 でした。 ぼく|||かお|||||しれ|||からだ||こころ||よわい|こ| I may have had a cute face, but I was a weak child both physically and mentally. У меня, может быть, и было милое лицо, но я был слабым ребенком как физически, так и умственно.

その 上 臆病 者 で 、言いたい こと も 言わ ず に すます ような 質 でした。 |うえ|おくびょう|もの||いい たい|||いわ|||||しち| On top of that, he was a coward and had the quality of not saying what he wanted to say. Вдобавок ко всему, он был трусом и имел свойство не говорить то, что хотел сказать.

だから あんまり 人 から は 、かわいがら れ なかった し 、友達 も ない 方 でした。 ||じん|||||||ともだち|||かた| That's why people didn't really like me, and I didn't have many friends.

昼 御飯 が すむ と 他の 子供 達 は 活 溌 に 運動 場 に 出て 走りまわって 遊び はじめました が、 ひる|ごはん||||たの|こども|さとる||かつ|はつ||うんどう|じょう||でて|はしりまわって|あそび|はじめ ました| After lunch, the other children enthusiastically went out to the playground and started running around and playing. После обеда остальные дети с энтузиазмом вышли на детскую площадку и начали бегать и играть.

僕 だけ は なおさら その 日 は 変に 心 が 沈んで 、一 人 だけ 教 場 に 這 入って いました。 ぼく|||||ひ||へんに|こころ||しずんで|ひと|じん||きょう|じょう||は|はいって|い ました I was even more depressed that day, and went into the classroom alone. В тот день я был еще более подавлен и пошел в класс один.

そと が 明るい だけ に 教 場 の 中 は 暗く なって 僕 の 心 の 中 の ようでした。 ||あかるい|||きょう|じょう||なか||くらく||ぼく||こころ||なか|| Because it was bright outside, the inside of the classroom was dark, and it felt like it was inside my heart. Потому что снаружи было светло, внутри класса было темно, и мне казалось, что это было в моем сердце.

自分 の 席 に 坐って い ながら 僕 の 眼 は 時々 ジム の 卓 (テイブル )の 方 に 走りました。 じぶん||せき||すわって|||ぼく||がん||ときどき|じむ||すぐる|||かた||はしり ました Even as I sat in my seat, my eyes occasionally rolled over to Jim's table. Даже когда я сидел на своем месте, мои глаза время от времени перекатывались на стол Джима.

ナイフ で 色々な いたずら 書き が 彫りつけて あって 、手垢 で 真 黒 に なって いる あの 蓋 を 揚げる と、 ないふ||いろいろな||かき||ほりつけて||てあか||まこと|くろ|||||ふた||あげる| Various doodles were carved with a knife, and when I fried that lid that was black with finger marks, Ножом были вырезаны разные каракули, и когда я поджарил эту черную от пальцев крышку,

その 中 に 本 や 雑記 帳 や 石 板 と 一緒に なって、 |なか||ほん||ざっき|ちょう||いし|いた||いっしょに| In it, along with books, journals, and slates, В нем, наряду с книгами, журналами и грифельными досками,

飴 の ような 木 の 色 の 絵 具 箱 が ある んだ。 あめ|||き||いろ||え|つぶさ|はこ||| I have a box of paints that looks like candy wood. У меня есть коробка с красками, которая выглядит как конфетное дерево.

そして その 箱 の 中 に は 小さい 墨 の ような 形 を した 藍 や 洋 紅 の 絵 具 が…… ||はこ||なか|||ちいさい|すみ|||かた|||あい||よう|くれない||え|つぶさ| А внутри этой коробки были маленькие чернильные краски индиго и малинового...

僕 は 顔 が 赤く なった ような 気 が して 、思わず そっぽ を 向いて しまう のです。 ぼく||かお||あかく|||き|||おもわず|||むいて|| I feel like my face is turning red, and I instinctively turn away.

けれども すぐ 又 また 横 眼 で ジム の 卓 の 方 を 見 ないで はいら れません でした。 ||また||よこ|がん||じむ||すぐる||かた||み|||れ ませ ん| But then I couldn't help but glance sideways at Jim's table.

胸 の ところ が どきどき と して 苦しい 程 でした 。じっと 坐って い ながら 夢 で 鬼 に でも 追いかけられた 時 の ように むね|||||||くるしい|ほど|||すわって|||ゆめ||おに|||おいかけ られた|じ|| My chest was throbbing and it was painful. Like when I was chased by a demon in a dream while sitting still

気 ばかり せかせか して いました。 き||||い ました I was in a hurry.

教 場 に 這 入る 鐘 が かんかん と 鳴りました。 きょう|じょう||は|はいる|かね||||なり ました The bell rang as we entered the classroom.

僕 は 思わず ぎょっと して 立 上りました。 ぼく||おもわず|||た|のぼり ました I was startled and stood up.

生徒 達 が 大きな 声 で 笑ったり 呶 鳴ったり し ながら 、洗面 所 の 方 に 手 を 洗い に 出かけて 行く の が 窓 から 見えました。 せいと|さとる||おおきな|こえ||わらったり|ど|なったり|||せんめん|しょ||かた||て||あらい||でかけて|いく|||まど||みえ ました

僕 は 急に 頭 の 中 が 氷 の ように 冷たく なる の を 気味 悪く 思い ながら、 ぼく||きゅうに|あたま||なか||こおり|||つめたく||||きみ|わるく|おもい| Feeling uneasy about my head suddenly becoming cold as ice,

ふらふら と ジム の 卓 の 所 に 行って 、半分 夢 の ように そこ の 蓋 を 揚げて 見ました。 ||じむ||すぐる||しょ||おこなって|はんぶん|ゆめ|||||ふた||あげて|み ました I staggered over to Jim's table and half-dreamly lifted the lid.

そこ に は 僕 が 考えて いた とおり 雑 記帳 や 鉛 筆箱 と まじって |||ぼく||かんがえて|||ざつ|きちょう||なまり|ふでばこ|| There, just as I thought, mixed with miscellaneous notes and a pencil case

見覚え の ある 絵 具 箱 が しまって ありました。 みおぼえ|||え|つぶさ|はこ|||あり ました There was a familiar paint box inside.

なんの ため だ か 知ら ない が 僕 は あっち こ ち を 見 廻して から 、誰 も 見て いない な と 思う と、 ||||しら|||ぼく||あっ ち||||み|まわして||だれ||みて||||おもう| I don't know why, but after looking around, I thought that no one was looking.

手早く その 箱 の 蓋 を 開けて 藍 と 洋 紅 と の 二 色 を 取上げる が 早い か てばやく||はこ||ふた||あけて|あい||よう|くれない|||ふた|いろ||とりあげる||はやい| Quickly open the lid of the box and take out the two colors, indigo and crimson.

ポケット の 中 に 押込みました 。そして 急いで いつも 整列 して 先生 を 待って いる 所 に 走って 行きました。 ぽけっと||なか||おしこみ ました||いそいで||せいれつ||せんせい||まって||しょ||はしって|いき ました I shoved it in my pocket. Then I hurriedly ran to the place where the teacher was always waiting in line.

僕達 は 若い 女 の 先生 に 連れられて 教 場 に 這 入り ぼくたち||わかい|おんな||せんせい||つれ られて|きょう|じょう||は|はいり We were led into the classroom by a young female teacher.

銘々 の 席 に 坐りました。 めいめい||せき||すわり ました We sat in our respective seats.

僕 は ジム が どんな 顔 を して いる か 見 たくって たまらなかった けれども、 ぼく||じむ|||かお|||||み|たく って|| I was dying to see what Jim looked like,

どうしても そっち の 方 を ふり向く こと が できません でした。 |||かた||ふりむく|||でき ませ ん| I just couldn't turn around.

でも 僕 の した こと を 誰 も 気 の ついた 様子 が ない ので、 |ぼく|||||だれ||き|||ようす||| But since no one seems to have noticed what I did,

気味 が 悪い ような 、安心 した ような 心持ち で いました。 きみ||わるい||あんしん|||こころもち||い ました I felt an eerie, relieved feeling.

僕 の 大好きな 若い 女 の 先生 の 仰 る こと なんか は ぼく||だいすきな|わかい|おんな||せんせい||あお|||| What my favorite young female teacher said

耳 に 這 入り は 這 入って も なんの こと だ か ちっとも わかりません でした。 みみ||は|はいり||は|はいって|||||||わかり ませ ん| Even if I crawled into my ears, I had no idea what it was.

先生 も 時々 不思議 そうに 僕 の 方 を 見て いる ようでした。 せんせい||ときどき|ふしぎ|そう に|ぼく||かた||みて|| Even the teacher seemed to be looking at me curiously at times.

僕 は 然 し 先生 の 眼 を 見る の が その 日 に 限って なんだか いやでした。 ぼく||ぜん||せんせい||がん||みる||||ひ||かぎって|| However, on that particular day, I didn't like looking into the teacher's eyes.

そんな 風 で 一 時間 が たちました。 |かぜ||ひと|じかん||たち ました An hour passed like that.

なんだか みんな 耳 こすり でも して いる ようだ と 思い ながら 一 時間 が たちました。 ||みみ|||||||おもい||ひと|じかん||たち ました An hour passed, thinking that everyone was rubbing their ears.

教 場 を 出る 鐘 が 鳴った ので 僕 は ほっと 安心 して 溜息 を つきました。 きょう|じょう||でる|かね||なった||ぼく|||あんしん||ためいき||つき ました When the bell rang to leave the classroom, I let out a sigh of relief.

けれども 先生 が 行って しまう と 、僕 は 僕 の 級 で 一 番 大きな、 |せんせい||おこなって|||ぼく||ぼく||きゅう||ひと|ばん|おおきな But when the teacher left, I was the tallest in my class,

そして よく 出来る 生徒 に 「ちょっと こっち に お 出 で」 ||できる|せいと||||||だ| And to the students who can do well, "Come here for a minute."

と 肱 の 所 を 掴まれて いました。 |ひじ||しょ||つかま れて|い ました He was grabbing me by the elbow.

僕 の 胸 は 宿題 を なまけた の に 先生 に 名 を 指さ れた 時 の ように 、思わず ど きん と 震え はじめました。 ぼく||むね||しゅくだい|||||せんせい||な||ささ||じ|||おもわず||||ふるえ|はじめ ました My heart began to tremble involuntarily, like when the teacher called out my name even though I had neglected to do my homework.

けれども 僕 は 出来る だけ 知ら ない 振り を して い なければ なら ない と 思って、 |ぼく||できる||しら||ふり||||||||おもって However, I thought that I should act as ignorant as possible,

わざと 平気な 顔 を した つもりで 、仕方 なし に 運動 場 の 隅 に 連れて 行か れました。 |へいきな|かお||||しかた|||うんどう|じょう||すみ||つれて|いか|れ ました I purposely pretended to be calm, but I was forced to be taken to a corner of the playground.

「君 は ジム の 絵 具 を 持って いる だろう 。ここ に 出し 給え。」 きみ||じむ||え|つぶさ||もって|||||だし|たまえ "You have Jim's paints. Get them out here."

そう 言って その 生徒 は 僕 の 前 に 大きく 広げた 手 を 突き出しました |いって||せいと||ぼく||ぜん||おおきく|ひろげた|て||つきだし ました Saying so, the student held out his outstretched hand in front of me.

そう いわ れる と 僕 は かえって 心 が 落着いて 、「そんな もの 、僕 持って や し ない 。」と、 ||||ぼく|||こころ||おちついて|||ぼく|もって|||| When he said that, I calmed down and said, "I don't have that kind of thing."

つい でたらめ を いって しまいました 。そう する と 三四 人 の 友達 と 一緒に 僕 の 側 に 来て いた ジム が、 ||||しまい ました||||さんし|じん||ともだち||いっしょに|ぼく||がわ||きて||じむ| I accidentally told a nonsense. Then Jim, who had come to my side with three or four friends, said,

「僕 は 昼 休み の 前 に ちゃんと 絵 具 箱 を 調べて おいた んだ よ。 ぼく||ひる|やすみ||ぜん|||え|つぶさ|はこ||しらべて||| "I did a thorough search of the paint box before my lunch break.

一 つ も 失 く なって は い なかった んだ よ 。そして 昼 休み が 済んだら ひと|||うしな|||||||||ひる|やすみ||すんだら I didn't lose a single one. And after lunch break

二 つ 失 く なって いた んだ よ。 ふた||うしな||||| I was missing two.

休み の 時間 に 教 場 に いた の は 君 だけ じゃ ない か。」 やすみ||じかん||きょう|じょう|||||きみ|||| You were the only one in the classroom during recess, weren't you? "

と 少し 言葉 を 震わし ながら 言いかえしました。 |すこし|ことば||ふるわし||いいかえし ました I rephrased with my words slightly trembling.

僕 は もう 駄目だ と 思う と 急に 頭 の 中 に 血 が 流れこんで 来て 顔 が 真 赤 に なった ようでした。 ぼく|||だめだ||おもう||きゅうに|あたま||なか||ち||ながれこんで|きて|かお||まこと|あか||| When I thought that it was all over, blood suddenly started to flow into my head and my face turned bright red.

すると 誰 だった か そこ に 立って いた 一 人 が いきなり 僕 の ポッケット に 手 を さし込もう と しました。 |だれ|||||たって||ひと|じん|||ぼく||||て||さしこもう||し ました Then, someone who was standing there suddenly tried to put his hand in my pocket.

僕 は 一生懸命に そう は さ せまい と しました けれども 、多勢 に 無勢 で 迚 も 叶いません。 ぼく||いっしょうけんめいに||||||し ました||たぜい||ぶぜい||とても||かない ませ ん I tried my best not to let that happen, but I was outnumbered and nothing came of it.

僕 の ポッケット の 中 から は 、見る見る マーブル 球 や 鉛 の メンコ など と 一緒に ぼく||||なか|||みるみる||たま||なまり|||||いっしょに

二 つ の 絵 具 の かたまり が 掴み 出されて しまいました。 ふた|||え|つぶさ||||つかみ|ださ れて|しまい ました

「それ 見ろ 」と いわんばかり の 顔 を して 子供 達 は 憎らし そうに 僕 の 顔 を 睨みつけました。 |みろ||||かお|||こども|さとる||にくらし|そう に|ぼく||かお||にらみつけ ました

僕 の 体 は ひとりでに ぶるぶる 震えて 、眼 の 前 が 真 暗に なる ようでした。 ぼく||からだ||||ふるえて|がん||ぜん||まこと|あんに||

いい お 天気 な のに 、みんな 休 時間 を 面白 そうに 遊び 廻って いる のに、 ||てんき||||きゅう|じかん||おもしろ|そう に|あそび|まわって||

僕 だけ は 本当に 心から しおれて しまいました。 ぼく|||ほんとうに|こころから||しまい ました

あんな こと を なぜ して しまった んだろう 。取りかえし の つか ない こと に なって しまった。 |||||||とりかえし|||||||

もう 僕 は 駄目だ 。そんなに 思う と 弱虫 だった 僕 は |ぼく||だめだ||おもう||よわむし||ぼく|

淋しく 悲しく なって 来て 、しくしく と 泣き出して しまいました。 さびしく|かなしく||きて|||なきだして|しまい ました

「泣いて おど か したって 駄目だ よ 。」と よく 出来る 大きな 子 が ないて||||だめだ||||できる|おおきな|こ|

馬鹿に する ような 憎み きった ような 声 で 言って、 ばかに|||にくみ|||こえ||いって

動く まい と する 僕 を みんな で 寄ってたかって 二 階 に 引 張って 行こう と しました。 うごく||||ぼく||||よってたかって|ふた|かい||ひ|はって|いこう||し ました

僕 は 出来る だけ 行く まい と した けれども とうとう 力まかせに 引きずられて ぼく||できる||いく||||||ちからまかせに|ひきずら れて

階子 段 を 登ら せられて しまいました。 はしご|だん||のぼら|せら れて|しまい ました

そこ に 僕 の 好きな 受持ち の 先生 の 部屋 が ある のです。 ||ぼく||すきな|うけもち||せんせい||へや|||

やがて その 部屋 の 戸 を ジム が ノック しました 。中 から は やさしく ||へや||と||じむ|||し ました|なか|||

「お 這 入り 」と いう 先生 の 声 が 聞えました。 |は|はいり|||せんせい||こえ||きこえ ました

僕 は その 部屋 に 這 入る 時 ほど いやだ と 思った こと は またと ありません。 ぼく|||へや||は|はいる|じ||||おもった||||あり ませ ん I have never felt as uncomfortable as I did when I crawled into that room.

何 か 書きもの を して いた 先生 は どやどや と 這 入って 来た 僕達 を 見る と 、少し 驚いた ようでした。 なん||かきもの||||せんせい||||は|はいって|きた|ぼくたち||みる||すこし|おどろいた|

が 、女 の 癖 に 男 の ように 頸 の 所 で ぶつり と 切った 髪 の 毛 を 右 の 手 で 撫で あげ ながら、 |おんな||くせ||おとこ|||けい||しょ||||きった|かみ||け||みぎ||て||なで|| The woman's right hand stroked her hair, which had been cut off at the neck like a man's in a woman's habit, while the man's right hand stroked her hair,

いつも の とおり の やさしい 顔 を こちら に 向けて 、一 寸 首 を かしげた だけ で |||||かお||||むけて|ひと|すん|くび|||| He turned his usual kind face toward me and gave me a slight craning of his neck.

何の 御用 と いう 風 を し なさいました。 なんの|ごよう|||かぜ|||なさ い ました

そう する と よく 出来る 大きな 子 が 前 に 出て 、僕 が ジム の 絵 具 を 取った こと を 委 しく 先生 に 言いつけました。 ||||できる|おおきな|こ||ぜん||でて|ぼく||じむ||え|つぶさ||とった|||い||せんせい||いいつけ ました

先生 は 少し 曇った 顔付き を して 真面目に みんな の 顔 や 、半分 泣き かかって いる 僕 の 顔 を 見くらべて いなさ いました が、 せんせい||すこし|くもった|かおつき|||まじめに|||かお||はんぶん|なき|||ぼく||かお||みくらべて||い ました|

僕 に 「それ は 本当です か 。」と 聞か れました。 ぼく||||ほんとうです|||きか|れ ました

本当な んだ けれども 、僕 が そんな いやな 奴 だ と いう こと を どうしても 僕 の 好きな 先生 に 知ら れる の が つらかった のです。 ほんとうな|||ぼく||||やつ|||||||ぼく||すきな|せんせい||しら|||||

だから 僕 は 答える 代り に 本当に 泣き出して しまいました。 |ぼく||こたえる|かわり||ほんとうに|なきだして|しまい ました

先生 は 暫く 僕 を 見つめて いました が 、やがて 生徒 達 に 向って 静かに せんせい||しばらく|ぼく||みつめて|い ました|||せいと|さとる||むかい って|しずかに

「もう いって も よう ございます 。」と いって 、みんな を かえして しまわ れました。 |||||||||||れ ました

生徒 達 は 少し 物 足ら な そうに どやどや と 下 に 降りて いって しまいました。 せいと|さとる||すこし|ぶつ|たら||そう に|||した||おりて||しまい ました