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ソードアート・オンライン2 アインクラッド (Sword Art Online 2: Aincrad), ソードアート・オンライン2 アインクラッド (2)

ソードアート ・オンライン 2 アインクラッド (2)

祈り つつ 、陽炎 の よう に 揺らいで いる 転送 ゾーン に 足 を 踏み入れた。 一瞬 の めまい に 似た 感覚 の あと 、眼前 に 広がった の は ──当然の よう に 、今 まで と 何ら 変わら ぬ 深い 森 だった。 木立 の 奥 は 夕闇 に 沈み 、森 を 包んで いる はずの 草原 は かけら も 見え ない。

げん なり し つつ 、再び 歩き 出そう と した 時──。 肩 の 上 で ピナ が さっと 頭 を もたげ 、一声 鋭く 、き ゅるっ! と 鳴いた。 警戒 音 だ。 シリカ は すばやく 腰 から 愛用 の 短 剣 を 抜き 、ピナ の 見据える 方向 へ 身構えた。

数 秒 後 、苔 むした 巨木 の 陰 から 、低い 唸り 声 が 聞こえて きた。 視線 を 集中 する と 、黄色い カーソル が 表示 さ れる。 複数 だ。 二 ……、いや 、三 匹。 モンスター の 名前 は 《ドランクエイプ 》、迷い の 森 で 出現 する 中 で は 最強 クラス の 猿人 だ。 シリカ は 唇 を 嚙 ん だ。

と は 言え──。

レベル 的に は 、それ ほど の 危地 と いう わけで も なかった。

シリカ たち 中層 クラス の プレイヤー が フィールド に 出る 場合 、出現 モンスター に 対して 充分 すぎる ほど の 安全 マージン を 取る の が 通例 である。 目安 的に は 、ソロ で 五 匹 の モンスター に 囲まれた 場合 でも 、回復 手段 無し で 勝てる 程度 以上 、と いう こと に なる。

なぜなら 、最 前線 で ゲーム クリア 目指して 戦う トップ 剣士 たち と は 違い 、中層 プレイヤー が 冒険 を 行う 理由 は 、一つには 日々 の 生活 に 必要な お 金 を 得る ため 、二 つ 目 は 中層 クラス に 留まる ため の 最低 限 の 経験 値 稼ぎ 、三 つ 目 に ぶっちゃ け 退屈しのぎ 、と いった ところ だから だ。 どれ も 、現実 の 死 を 賭ける ほど の 目的 と は 到底 言い難い。 実際 《はじまり の 街 》に は 、死 の 可能 性 を わずかで も 増やす こと を 忌避 した プレイヤー たち が 千人 以上 も 残って いる。

しかしながら 、そこそこ の 食事 を し 、宿屋 の ベッド で 寝る ため に は 定期 的 な 収入 が 必要だ し 、何より プレイヤー の 平均 的 レベル 圏 内 に おさまり 続けて いない と 不安に なって しまう の が MMO プレイヤー の 宿 痾 と いう こと も あって 、ゲーム 開始 から 一 年 半 近く が 経過 した 現在 で は 、ボリューム ゾーン を 形成 する プレイヤー たち は 充分 以上 の マージン を 取った 上 で フィールド に 出かけ 、それなり に 冒険 を 楽しむ よう に なって きて いた。

それゆえ──。 三十五 層 最強 クラス の ドランクエイプ 三 匹 と いえ ども 、竜 使い シリカ の 敵 で は ない 、はずだった。

疲労 した 精神 に 鞭 を 入れて 、シリカ は 短 剣 を 構えた。 肩 から ピナ が ふわり と 飛び上がり 、こちら も 臨戦 態勢 を 取る。

木立 の 奥 から 現れた の は 、全身 を 暗 赤色 の 毛皮 に 包んだ 大柄な 猿人 たち だった。 右手 に 粗末な 棍棒 を 握り 、左手 に は 瓢 簞 に ヒモ を つけた ような 壺 を 下げて いる。

猿人 が 棍棒 を 振り上げ 、犬歯 を むき 出して 雄 叫び を 上げて いる 最中 に 、先手 必勝 と ばかり に シリカ は 先頭 の 一 匹 に 向かって 地 を 蹴った。 短 剣 スキル の 中級 突進 技 《ラピッドバイト 》を 命中 させて 大きく HP を 削り 、そのまま 短 剣 の 身上 である 高速 連続 技 に 持ち込んで 圧倒 する。

ドランクエイプ が 使用 する の は 低 レベル の メイススキル で 、一撃 の 威力 は そこそこ 大きい もの の 攻撃 スピード も 連続 技 の 段 数 も 大した こと は ない。 シリカ は 連 撃 を 的確に 浴びせて は 素早く 飛び退って 敵 の 反撃 を かわし 、また 踏み込む と いう ヒットアンドアウェイ を 繰り返して たちまち 一 匹 目 の HP バー を 減らして いった。 ピナ も 時折 しゃ ぼん 玉 の ような ブレス を 吐き 、猿 の 目 を 幻惑 する。

四 度 目 の アタック で 連続 技 《ファッドエッジ 》を 放ち 、最初の 猿人 に とどめ を 刺そう と した 寸前。

一瞬 の 間 を ついて 、目標 の 右 後方 から 新たな 敵 が 前面 に スイッチ して きた。 シリカ は やむなく 標的 を 変更 し 、二 匹 目 の HP を 削り に かかった。 最初の 猿 は 後方 に 退き 、何やら 左手 の 壺 を 呷って いる──。

と 、視界 の 端で 一 匹 目 の ドランクエイプ の HP バー を チェック して いた シリカ を 驚愕 させる 現象 が 起こった。 バー が かなり の 速度 で 回復 して いく のだ。 どうやら 壺 に は 、何らか の 回復 剤 が 入って いる らしい。

ドランクエイプ と は 以前 に も この 三十五 層 で 戦闘 した こと が あり 、その 時 は 二 匹 を 労せ ず に 蹴散らした。 スイッチ させる 余裕 すら 与え なかった ので 、よもや こんな 特殊 能力 を 持って いる と は 気付か なかった。 シリカ は 歯 嚙 み を し つつ 、二 匹 目 を 確実に 仕留める こと に 全力 を 傾ける。

だが。 猛攻 の 末 に 二 匹 目 の バー を レッド 領域 に まで 減少 さ せ 、とどめ の 強 攻撃 を 見舞う べく 距離 を 取った 瞬間 、またしても 横合い から 無理やり 割り込まれた。 三 匹 目 の ドランクエイプ だ。 見る と 、最初の 猿 は もう ほとんど HP を フル 回復 させて しまって いる。

これ で は キリ が ない。 口 の 奥 に 、焦り の 味 が じわじわ と 広がって いく。

シリカ は 、そもそも ソロ で モンスター と 戦った 経験 が ほとんど なかった。 レベル 的 な 安全 マージン と いう の は あくまで 数値 の 話 であって 、プレイヤー 自身 の スキル は また 別の 問題 だ。 想定 外 の 事態 に 際して 、シリカ の 中 に 生まれた 焦り は 徐々に パニック の 色彩 を 帯び 始める。 徐々に ミス アタック が 増加 し 、それ は 同時に 敵 の 反撃 も 呼ぶ。

三 匹 目 の ドランクエイプ の HP バー を 、どうにか 半分 ほど 減らした 時。 連続 技 に 連続 技 を 繫 げ よう と 深追い し すぎた シリカ の 硬直 時間 を 見逃さ ず 、とうとう 猿人 の 一撃 が クリティカル で 命中 した。

棍棒 は 木 を 削った だけ の 粗末な もの だった が 、重量 ゆえ の 基本 ダメージ と ドランクエイプ の 筋力 補正 に よって 、シリカ の HP は 思い も よら ぬ 量 、三 割 近く も 減少 した。 背中 に 冷たい もの が 走る。

回復 ポーション の 手持ち が 尽きて いる こと も 、シリカ の 動揺 を 大きく した。 ピナ が 回復 ブレス で 回復 させて くれる HP は 一 割 程度 、しかも そう 頻繁に 使える もの で は ない。 それ を 計算 に いれて も 、あと 三 回 同じ ダメージ を 受ける と ──死んで しまう。

死。 その 可能 性 が 脳裏 を 横切った 途端 、シリカ は 竦んで しまった。 腕 が 上がら ない。 脚 が 動か ない。

今 まで 、彼女 に とって 戦闘 と いう の は 、スリル は あって も リアルな 危険 と は 遠い もの だった。 その 延長 線上 に 、本当の 《死 》が 待って いる なんて 思い も し なかった──。

雄 叫び を 上げ 、再び 棍棒 を 高く 振り上げる ドランクエイプ の 前 で 目 を 見開いて 硬直 し ながら 、シリカ は 初めて SAO に おける 対 モンスター 戦 の 何たる か を 悟って いた。 ゲーム であって も 遊び で は ない 、その 矛盾 した 真実 を。

鈍い 唸り と ともに 降り 下ろされた 棍棒 が 、棒立ち に なった シリカ を 襲った。 強烈な 衝撃 に 耐え 切れ ず 、地面 に 倒れて しまう。 HP バー が ぐ いっと 減少 し 、黄色い 注意 域 へ と 突入 する。

もう 、何も 考えられ なかった。 走って 逃げる。 転移 結晶 を 使う。 取り 得る 選択肢 は まだ あった のに 、シリカ は 呆然と 三 たび 振り上げられる 棍棒 を 見つめる こと しか でき なかった。

粗雑な 武器 が 赤い 光 を 放ち 、反射 的に 眼 を 閉じよう と した 、その 寸前。

空中 で 、棍棒 の 前 に 飛び込んだ 小さな 影 が あった。 重苦しい 衝撃 音。 エフェクト 光 と ともに 水色 の 羽毛 が ぱっと 散り 、同時に ささやかな HP バー が 左 端 まで 減少 した。

地面 に 叩きつけられた ピナ は 、首 を 上げ 、つぶらな 青い 瞳 で シリカ を 見つめた。 一声 、小さく 「き ゅる ……」と 鳴いて ──直後 、きらきら した ポリゴン の 欠 片 を 振りまき ながら 砕け 散った。 長い 尾 羽 が 一 枚 ふわり と 宙 を 舞い 、地面 に 落ちた。

シリカ の 中 で 、音 を 立てて 何 か が 切れた。 全身 を 縛って いた 見えない 糸 が 消滅 した。 悲しみ より 先 に 、怒り を 感じた。 たかが 一撃 食らった だけ で パニック を 起こし 、動け なく なって しまった 自分 へ の 怒り。 そして それ 以前 に 、ささいな ケンカ で へそ を 曲げ 、単独 で 森 を 突破 できる と 思い上がった 、愚かな 自分 へ の 怒り を。

シリカ は 俊 敏 な 動き で 飛び退 り 、モンスター の 追撃 を かわす と 、叫び声 を 上げ ながら 敵 に 猛然と 襲い掛かった。 右手 の 短 剣 を 閃 か せ 、猿人 の 体 に 次々 と 叩き込む。

仲間 の 体力 が 減った と 見る や 、再び 割り込もう と して きた 最初 の ドランクエイプ の 棍棒 を 、シリカ は 避け ず に 左手 で 受けた。 直撃 ほど で は ない が HP バー が 減少 する。 しかし それ を 無視 し 、あくまで 三 匹 目 、ピナ を 殺した 敵 を 追う。

小さな 体 を 活 かして 懐 に 飛び込み 、全身 の 力 を 込めて 短 剣 を 猿人 の 胸 に 撃ち込んだ。 クリティカルヒット の 派手な エフェクト と 同時に 、敵 の HP が 消滅 した。 悲鳴。 直後 に 破砕 音。

爆散 する オブジェクト の 破片 の 中 、シリカ は 振り返る と 、無言 で 新たな 目標 へ と 突撃 した。 ゲージ は すでに 赤い 危険 域 に 突入 して いた が 、それ すら も もう 意識 し なかった。 狭 窄 した 視界 の 中 に 、殺す べき 敵 の 姿 だけ が 大きく 広がった。

死 の 恐怖 すら も 忘れ 、振り下ろさ れる 棍棒 の 真 下 に 無謀な 突撃 を 強行 しよう と した 時。

二 匹 並んだ ドランクエイプ を 、その 背後 から 横 一 文字 に 純白の 光 が 薙いだ。

一瞬 で 、猿 たち の 体 が 上下 に 分断 さ れ 、次々 と 絶叫 と 破壊 音 を 振りまき ながら 砕け 散った。

呆然と 立ち尽くした シリカ は 、オブジェクト 片 が 蒸発 して いく その 後ろ に 、一人 の 男性 プレイヤー が 立って いる の を 見た。 黒 髪 に 黒い コート。 背 は それ ほど 高くない が 、男 の 全身 から は 強烈な 威圧 感 が 放出 されて いる よう に 思えた。 本能 的 な 恐怖 を 覚え 、シリカ は わずかに 後 ず さった。 二人 の 目 が 合った。

相手 の 瞳 は 、しかし 穏やかで 、夜 の 闇 の よう に 深かった。 男 は 右手 に 握った 片手 剣 を 背中 の 鞘 に チン 、と 音 を 立てて 収め 、口 を 開いた。

「……すまなかった。 君 の 友達 、助けられ なかった……」

その 声 を 聴いた 途端 、シリカ の 全身 から 力 が 抜けた。 堪えよう も なく 、次々 と 涙 が 溢れて きた。 短 剣 が 手 から 滑り落ち 、地面 に 転がった の も 気づか ず 、シリカ は 視線 を 地面 の 上 の 水色 の 羽根 に 移す と 、その 前 に がくり と 跪いた。

熱く 渦巻いて いた 怒り が 消え去る と 同時に 、とてつもなく 深い 悲しみ と 喪失 感 が 胸 の 奥 に 湧き上がって きた。 それ は 涙 に 形 を 変え 、頰 を とめど なく 流れ 落ちて いく。

使い 魔 の AI に は 、自ら モンスター に 襲い掛かる と いう 行動 パターン は 存在 しない はずだ。 だから あの 時 、振り下ろさ れる 棍棒 の 前 に 飛び込んだ の は ピナ 自身 の 意思 、一 年間 に わたって 共に 暮らして きた シリカ と の 友情 の 証 である と 言えた。

嗚咽 を 洩らし ながら 、両手 を 地面 に つき 、シリカ は 言葉 を 絞り出した。

「お 願い だ よ ……あたし を 独り に し ないで よ ……ピナ……」

水色 の 羽根 は 、しかし 、何の いら え も 返さ なかった。

「……すまなかった」

再び 、黒衣 の 男 の 声 が した。 シリカ は 必死に 涙 を 収め 、首 を 振った。

「……いいえ ……あたし が ……バカだった ん です……。 ありがとう ございます ……助けて くれて……」

嗚咽 を 堪え ながら 、どうにか それ だけ を 口 に する。

男 は ゆっくり 歩み寄って くる と 、シリカ の 前 に 跪き 、再び 遠慮がちな 声 を 発した。


ソードアート ・オンライン 2 アインクラッド (2) |おんらいん| Sword Art Online 2 Aincrad (2) Sword Art Online 2 Aincrad (2) Sword Art Online 2 Aincrad (2) 刀剑神域2艾恩葛朗特 (2)

祈り つつ 、陽炎 の よう に 揺らいで いる 転送 ゾーン に 足 を 踏み入れた。 いのり||かげろう||||ゆらいで||てんそう|ぞーん||あし||ふみいれた 一瞬 の めまい に 似た 感覚 の あと 、眼前 に 広がった の は ──当然の よう に 、今 まで と 何ら 変わら ぬ 深い 森 だった。 いっしゅん||||にた|かんかく|||がんぜん||ひろがった|||とうぜんの|||いま|||なんら|かわら||ふかい|しげる| 木立 の 奥 は 夕闇 に 沈み 、森 を 包んで いる はずの 草原 は かけら も 見え ない。 こだち||おく||ゆうやみ||しずみ|しげる||つつんで|||そうげん||||みえ|

げん なり し つつ 、再び 歩き 出そう と した 時──。 ||||ふたたび|あるき|だそう|||じ 肩 の 上 で ピナ が さっと 頭 を もたげ 、一声 鋭く 、き ゅるっ! かた||うえ|||||あたま|||ひとこえ|するどく|| と 鳴いた。 |ないた 警戒 音 だ。 けいかい|おと| シリカ は すばやく 腰 から 愛用 の 短 剣 を 抜き 、ピナ の 見据える 方向 へ 身構えた。 |||こし||あいよう||みじか|けん||ぬき|||みすえる|ほうこう||みがまえた

数 秒 後 、苔 むした 巨木 の 陰 から 、低い 唸り 声 が 聞こえて きた。 すう|びょう|あと|こけ||きょぼく||かげ||ひくい|うなり|こえ||きこえて| 視線 を 集中 する と 、黄色い カーソル が 表示 さ れる。 しせん||しゅうちゅう|||きいろい|||ひょうじ|| 複数 だ。 ふくすう| 二 ……、いや 、三 匹。 ふた||みっ|ひき モンスター の 名前 は 《ドランクエイプ 》、迷い の 森 で 出現 する 中 で は 最強 クラス の 猿人 だ。 ||なまえ|||まよい||しげる||しゅつげん||なか|||さいきょう|くらす||さる じん| シリカ は 唇 を 嚙 ん だ。 ||くちびる||||

と は 言え──。 ||いえ

レベル 的に は 、それ ほど の 危地 と いう わけで も なかった。 れべる|てきに|||||きち|||||

シリカ たち 中層 クラス の プレイヤー が フィールド に 出る 場合 、出現 モンスター に 対して 充分 すぎる ほど の 安全 マージン を 取る の が 通例 である。 ||ちゅうそう|くらす||ぷれいやー||ふぃーるど||でる|ばあい|しゅつげん|||たいして|じゅうぶん||||あんぜん|||とる|||つうれい| 目安 的に は 、ソロ で 五 匹 の モンスター に 囲まれた 場合 でも 、回復 手段 無し で 勝てる 程度 以上 、と いう こと に なる。 めやす|てきに||そろ||いつ|ひき||||かこまれた|ばあい||かいふく|しゅだん|なし||かてる|ていど|いじょう|||||

なぜなら 、最 前線 で ゲーム クリア 目指して 戦う トップ 剣士 たち と は 違い 、中層 プレイヤー が 冒険 を 行う 理由 は 、一つには 日々 の 生活 に 必要な お 金 を 得る ため 、二 つ 目 は 中層 クラス に 留まる ため の 最低 限 の 経験 値 稼ぎ 、三 つ 目 に ぶっちゃ け 退屈しのぎ 、と いった ところ だから だ。 |さい|ぜんせん||げーむ|くりあ|めざして|たたかう|とっぷ|けんし||||ちがい|ちゅうそう|ぷれいやー||ぼうけん||おこなう|りゆう||ひとつには|ひび||せいかつ||ひつような||きむ||える||ふた||め||ちゅうそう|くらす||とどまる|||さいてい|げん||けいけん|あたい|かせぎ|みっ||め||||たいくつしのぎ||||| どれ も 、現実 の 死 を 賭ける ほど の 目的 と は 到底 言い難い。 ||げんじつ||し||かける|||もくてき|||とうてい|いいがたい 実際 《はじまり の 街 》に は 、死 の 可能 性 を わずかで も 増やす こと を 忌避 した プレイヤー たち が 千人 以上 も 残って いる。 じっさい|||がい|||し||かのう|せい||||ふやす|||きひ||ぷれいやー|||せん り|いじょう||のこって|

しかしながら 、そこそこ の 食事 を し 、宿屋 の ベッド で 寝る ため に は 定期 的 な 収入 が 必要だ し 、何より プレイヤー の 平均 的 レベル 圏 内 に おさまり 続けて いない と 不安に なって しまう の が MMO プレイヤー の 宿 痾 と いう こと も あって 、ゲーム 開始 から 一 年 半 近く が 経過 した 現在 で は 、ボリューム ゾーン を 形成 する プレイヤー たち は 充分 以上 の マージン を 取った 上 で フィールド に 出かけ 、それなり に 冒険 を 楽しむ よう に なって きて いた。 |||しょくじ|||やどや||べっど||ねる||||ていき|てき||しゅうにゅう||ひつようだ||なにより|ぷれいやー||へいきん|てき|れべる|けん|うち|||つづけて|||ふあんに||||||ぷれいやー||やど|あ||||||げーむ|かいし||ひと|とし|はん|ちかく||けいか||げんざい|||ぼりゅーむ|ぞーん||けいせい||ぷれいやー|||じゅうぶん|いじょう||||とった|うえ||ふぃーるど||でかけ|||ぼうけん||たのしむ|||||

それゆえ──。 三十五 層 最強 クラス の ドランクエイプ 三 匹 と いえ ども 、竜 使い シリカ の 敵 で は ない 、はずだった。 さんじゅうご|そう|さいきょう|くらす|||みっ|ひき||||りゅう|つかい|||てき||||

疲労 した 精神 に 鞭 を 入れて 、シリカ は 短 剣 を 構えた。 ひろう||せいしん||むち||いれて|||みじか|けん||かまえた 肩 から ピナ が ふわり と 飛び上がり 、こちら も 臨戦 態勢 を 取る。 かた||||||とびあがり|||りんせん|たいせい||とる

木立 の 奥 から 現れた の は 、全身 を 暗 赤色 の 毛皮 に 包んだ 大柄な 猿人 たち だった。 こだち||おく||あらわれた|||ぜんしん||あん|あかいろ||けがわ||つつんだ|おおがらな|さる じん|| 右手 に 粗末な 棍棒 を 握り 、左手 に は 瓢 簞 に ヒモ を つけた ような 壺 を 下げて いる。 みぎて||そまつな|こんぼう||にぎり|ひだりて|||ひさご|||ひも||||つぼ||さげて|

猿人 が 棍棒 を 振り上げ 、犬歯 を むき 出して 雄 叫び を 上げて いる 最中 に 、先手 必勝 と ばかり に シリカ は 先頭 の 一 匹 に 向かって 地 を 蹴った。 さる じん||こんぼう||ふりあげ|けんし|||だして|おす|さけび||あげて||さい なか||せんて|ひっしょう||||||せんとう||ひと|ひき||むかって|ち||けった 短 剣 スキル の 中級 突進 技 《ラピッドバイト 》を 命中 させて 大きく HP を 削り 、そのまま 短 剣 の 身上 である 高速 連続 技 に 持ち込んで 圧倒 する。 みじか|けん|||ちゅうきゅう|とっしん|わざ|||めいちゅう|さ せて|おおきく|||けずり||みじか|けん||しんじょう||こうそく|れんぞく|わざ||もちこんで|あっとう|

ドランクエイプ が 使用 する の は 低 レベル の メイススキル で 、一撃 の 威力 は そこそこ 大きい もの の 攻撃 スピード も 連続 技 の 段 数 も 大した こと は ない。 ||しよう||||てい|れべる||||いちげき||いりょく|||おおきい|||こうげき|すぴーど||れんぞく|わざ||だん|すう||たいした||| シリカ は 連 撃 を 的確に 浴びせて は 素早く 飛び退って 敵 の 反撃 を かわし 、また 踏み込む と いう ヒットアンドアウェイ を 繰り返して たちまち 一 匹 目 の HP バー を 減らして いった。 ||れん|う||てきかくに|あびせて||すばやく|とびのって|てき||はんげき||||ふみこむ|||||くりかえして||ひと|ひき|め|||ばー||へらして| ピナ も 時折 しゃ ぼん 玉 の ような ブレス を 吐き 、猿 の 目 を 幻惑 する。 ||ときおり|||たま|||||はき|さる||め||げんわく|

四 度 目 の アタック で 連続 技 《ファッドエッジ 》を 放ち 、最初の 猿人 に とどめ を 刺そう と した 寸前。 よっ|たび|め||あたっく||れんぞく|わざ|||はなち|さいしょの|さる じん||||さそう|||すんぜん

一瞬 の 間 を ついて 、目標 の 右 後方 から 新たな 敵 が 前面 に スイッチ して きた。 いっしゅん||あいだ|||もくひょう||みぎ|こうほう||あらたな|てき||ぜんめん||すいっち|| シリカ は やむなく 標的 を 変更 し 、二 匹 目 の HP を 削り に かかった。 |||ひょうてき||へんこう||ふた|ひき|め||||けずり|| 最初の 猿 は 後方 に 退き 、何やら 左手 の 壺 を 呷って いる──。 さいしょの|さる||こうほう||しりぞき|なにやら|ひだりて||つぼ||こうって|

と 、視界 の 端で 一 匹 目 の ドランクエイプ の HP バー を チェック して いた シリカ を 驚愕 させる 現象 が 起こった。 |しかい||はしたで|ひと|ひき|め|||||ばー||ちぇっく|||||きょうがく||げんしょう||おこった バー が かなり の 速度 で 回復 して いく のだ。 ばー||||そくど||かいふく||| どうやら 壺 に は 、何らか の 回復 剤 が 入って いる らしい。 |つぼ|||なんらか||かいふく|ざい||はいって||

ドランクエイプ と は 以前 に も この 三十五 層 で 戦闘 した こと が あり 、その 時 は 二 匹 を 労せ ず に 蹴散らした。 |||いぜん||||さんじゅうご|そう||せんとう||||||じ||ふた|ひき||ろうせ|||けちらした スイッチ させる 余裕 すら 与え なかった ので 、よもや こんな 特殊 能力 を 持って いる と は 気付か なかった。 すいっち||よゆう||あたえ|||||とくしゅ|のうりょく||もって||||きづか| シリカ は 歯 嚙 み を し つつ 、二 匹 目 を 確実に 仕留める こと に 全力 を 傾ける。 ||は||||||ふた|ひき|め||かくじつに|しとめる|||ぜんりょく||かたむける

だが。 猛攻 の 末 に 二 匹 目 の バー を レッド 領域 に まで 減少 さ せ 、とどめ の 強 攻撃 を 見舞う べく 距離 を 取った 瞬間 、またしても 横合い から 無理やり 割り込まれた。 もうこう||すえ||ふた|ひき|め||ばー||れっど|りょういき|||げんしょう|||||つよ|こうげき||みまう||きょり||とった|しゅんかん||よこあい||むりやり|わりこまれた 三 匹 目 の ドランクエイプ だ。 みっ|ひき|め||| 見る と 、最初の 猿 は もう ほとんど HP を フル 回復 させて しまって いる。 みる||さいしょの|さる||||||ふる|かいふく|さ せて||

これ で は キリ が ない。 |||きり|| 口 の 奥 に 、焦り の 味 が じわじわ と 広がって いく。 くち||おく||あせり||あじ||||ひろがって|

シリカ は 、そもそも ソロ で モンスター と 戦った 経験 が ほとんど なかった。 |||そろ||||たたかった|けいけん||| レベル 的 な 安全 マージン と いう の は あくまで 数値 の 話 であって 、プレイヤー 自身 の スキル は また 別の 問題 だ。 れべる|てき||あんぜん|||||||すうち||はなし||ぷれいやー|じしん|||||べつの|もんだい| 想定 外 の 事態 に 際して 、シリカ の 中 に 生まれた 焦り は 徐々に パニック の 色彩 を 帯び 始める。 そうてい|がい||じたい||さいして|||なか||うまれた|あせり||じょじょに|ぱにっく||しきさい||おび|はじめる 徐々に ミス アタック が 増加 し 、それ は 同時に 敵 の 反撃 も 呼ぶ。 じょじょに|みす|あたっく||ぞうか||||どうじに|てき||はんげき||よぶ

三 匹 目 の ドランクエイプ の HP バー を 、どうにか 半分 ほど 減らした 時。 みっ|ひき|め|||||ばー|||はんぶん||へらした|じ 連続 技 に 連続 技 を 繫 げ よう と 深追い し すぎた シリカ の 硬直 時間 を 見逃さ ず 、とうとう 猿人 の 一撃 が クリティカル で 命中 した。 れんぞく|わざ||れんぞく|わざ||||||ふかおい|||||こうちょく|じかん||みのがさ|||さる じん||いちげき||||めいちゅう|

棍棒 は 木 を 削った だけ の 粗末な もの だった が 、重量 ゆえ の 基本 ダメージ と ドランクエイプ の 筋力 補正 に よって 、シリカ の HP は 思い も よら ぬ 量 、三 割 近く も 減少 した。 こんぼう||き||けずった|||そまつな||||じゅうりょう|||きほん|だめーじ||||きんりょく|ほせい|||||||おもい||||りょう|みっ|わり|ちかく||げんしょう| 背中 に 冷たい もの が 走る。 せなか||つめたい|||はしる

回復 ポーション の 手持ち が 尽きて いる こと も 、シリカ の 動揺 を 大きく した。 かいふく|||てもち||つきて||||||どうよう||おおきく| ピナ が 回復 ブレス で 回復 させて くれる HP は 一 割 程度 、しかも そう 頻繁に 使える もの で は ない。 ||かいふく|||かいふく|さ せて||||ひと|わり|ていど|||ひんぱんに|つかえる|||| それ を 計算 に いれて も 、あと 三 回 同じ ダメージ を 受ける と ──死んで しまう。 ||けいさん|||||みっ|かい|おなじ|だめーじ||うける||しんで|

死。 その 可能 性 が 脳裏 を 横切った 途端 、シリカ は 竦んで しまった。 |かのう|せい||のうり||よこぎった|とたん|||すくんで| 腕 が 上がら ない。 うで||あがら| 脚 が 動か ない。 あし||うごか|

今 まで 、彼女 に とって 戦闘 と いう の は 、スリル は あって も リアルな 危険 と は 遠い もの だった。 いま||かのじょ|||せんとう|||||すりる||||りあるな|きけん|||とおい|| その 延長 線上 に 、本当の 《死 》が 待って いる なんて 思い も し なかった──。 |えんちょう|せんじょう||ほんとうの|し||まって|||おもい|||

雄 叫び を 上げ 、再び 棍棒 を 高く 振り上げる ドランクエイプ の 前 で 目 を 見開いて 硬直 し ながら 、シリカ は 初めて SAO に おける 対 モンスター 戦 の 何たる か を 悟って いた。 おす|さけび||あげ|ふたたび|こんぼう||たかく|ふりあげる|||ぜん||め||みひらいて|こうちょく|||||はじめて||||たい||いくさ||なんたる|||さとって| ゲーム であって も 遊び で は ない 、その 矛盾 した 真実 を。 げーむ|||あそび|||||むじゅん||しんじつ|

鈍い 唸り と ともに 降り 下ろされた 棍棒 が 、棒立ち に なった シリカ を 襲った。 にぶい|うなり|||ふり|おろされた|こんぼう||ぼうだち|||||おそった 強烈な 衝撃 に 耐え 切れ ず 、地面 に 倒れて しまう。 きょうれつな|しょうげき||たえ|きれ||じめん||たおれて| HP バー が ぐ いっと 減少 し 、黄色い 注意 域 へ と 突入 する。 |ばー||||げんしょう||きいろい|ちゅうい|いき|||とつにゅう|

もう 、何も 考えられ なかった。 |なにも|かんがえられ| 走って 逃げる。 はしって|にげる 転移 結晶 を 使う。 てんい|けっしょう||つかう 取り 得る 選択肢 は まだ あった のに 、シリカ は 呆然と 三 たび 振り上げられる 棍棒 を 見つめる こと しか でき なかった。 とり|える|せんたくし|||||||ぼうぜんと|みっ||ふりあげられる|こんぼう||みつめる||||

粗雑な 武器 が 赤い 光 を 放ち 、反射 的に 眼 を 閉じよう と した 、その 寸前。 そざつな|ぶき||あかい|ひかり||はなち|はんしゃ|てきに|がん||とじよう||||すんぜん

空中 で 、棍棒 の 前 に 飛び込んだ 小さな 影 が あった。 くうちゅう||こんぼう||ぜん||とびこんだ|ちいさな|かげ|| 重苦しい 衝撃 音。 おもくるしい|しょうげき|おと エフェクト 光 と ともに 水色 の 羽毛 が ぱっと 散り 、同時に ささやかな HP バー が 左 端 まで 減少 した。 |ひかり|||みずいろ||うもう|||ちり|どうじに|||ばー||ひだり|はし||げんしょう|

地面 に 叩きつけられた ピナ は 、首 を 上げ 、つぶらな 青い 瞳 で シリカ を 見つめた。 じめん||たたきつけられた|||くび||あげ||あおい|ひとみ||||みつめた 一声 、小さく 「き ゅる ……」と 鳴いて ──直後 、きらきら した ポリゴン の 欠 片 を 振りまき ながら 砕け 散った。 ひとこえ|ちいさく||||ないて|ちょくご|||||けつ|かた||ふりまき||くだけ|ちった 長い 尾 羽 が 一 枚 ふわり と 宙 を 舞い 、地面 に 落ちた。 ながい|お|はね||ひと|まい|||ちゅう||まい|じめん||おちた

シリカ の 中 で 、音 を 立てて 何 か が 切れた。 ||なか||おと||たてて|なん|||きれた 全身 を 縛って いた 見えない 糸 が 消滅 した。 ぜんしん||しばって||みえ ない|いと||しょうめつ| 悲しみ より 先 に 、怒り を 感じた。 かなしみ||さき||いかり||かんじた たかが 一撃 食らった だけ で パニック を 起こし 、動け なく なって しまった 自分 へ の 怒り。 |いちげき|くらった|||ぱにっく||おこし|うごけ||||じぶん|||いかり そして それ 以前 に 、ささいな ケンカ で へそ を 曲げ 、単独 で 森 を 突破 できる と 思い上がった 、愚かな 自分 へ の 怒り を。 ||いぜん|||けんか||||まげ|たんどく||しげる||とっぱ|||おもいあがった|おろかな|じぶん|||いかり|

シリカ は 俊 敏 な 動き で 飛び退 り 、モンスター の 追撃 を かわす と 、叫び声 を 上げ ながら 敵 に 猛然と 襲い掛かった。 ||しゆん|さとし||うごき||とびの||||ついげき||||さけびごえ||あげ||てき||もうぜんと|おそいかかった 右手 の 短 剣 を 閃 か せ 、猿人 の 体 に 次々 と 叩き込む。 みぎて||みじか|けん||せん|||さる じん||からだ||つぎつぎ||たたきこむ

仲間 の 体力 が 減った と 見る や 、再び 割り込もう と して きた 最初 の ドランクエイプ の 棍棒 を 、シリカ は 避け ず に 左手 で 受けた。 なかま||たいりょく||へった||みる||ふたたび|わりこもう||||さいしょ||||こんぼう||||さけ|||ひだりて||うけた 直撃 ほど で は ない が HP バー が 減少 する。 ちょくげき|||||||ばー||げんしょう| しかし それ を 無視 し 、あくまで 三 匹 目 、ピナ を 殺した 敵 を 追う。 |||むし|||みっ|ひき|め|||ころした|てき||おう

小さな 体 を 活 かして 懐 に 飛び込み 、全身 の 力 を 込めて 短 剣 を 猿人 の 胸 に 撃ち込んだ。 ちいさな|からだ||かつ||ふところ||とびこみ|ぜんしん||ちから||こめて|みじか|けん||さる じん||むね||うちこんだ クリティカルヒット の 派手な エフェクト と 同時に 、敵 の HP が 消滅 した。 ||はでな|||どうじに|てき||||しょうめつ| 悲鳴。 ひめい 直後 に 破砕 音。 ちょくご||はさい|おと

爆散 する オブジェクト の 破片 の 中 、シリカ は 振り返る と 、無言 で 新たな 目標 へ と 突撃 した。 ばくさん||||はへん||なか|||ふりかえる||むごん||あらたな|もくひょう|||とつげき| ゲージ は すでに 赤い 危険 域 に 突入 して いた が 、それ すら も もう 意識 し なかった。 |||あかい|きけん|いき||とつにゅう||||||||いしき|| 狭 窄 した 視界 の 中 に 、殺す べき 敵 の 姿 だけ が 大きく 広がった。 せま|すぼ||しかい||なか||ころす||てき||すがた|||おおきく|ひろがった

死 の 恐怖 すら も 忘れ 、振り下ろさ れる 棍棒 の 真 下 に 無謀な 突撃 を 強行 しよう と した 時。 し||きょうふ|||わすれ|ふりおろさ||こんぼう||まこと|した||むぼうな|とつげき||きょうこう||||じ

二 匹 並んだ ドランクエイプ を 、その 背後 から 横 一 文字 に 純白の 光 が 薙いだ。 ふた|ひき|ならんだ||||はいご||よこ|ひと|もじ||じゅんぱくの|ひかり||ないだ

一瞬 で 、猿 たち の 体 が 上下 に 分断 さ れ 、次々 と 絶叫 と 破壊 音 を 振りまき ながら 砕け 散った。 いっしゅん||さる|||からだ||じょうげ||ぶんだん|||つぎつぎ||ぜっきょう||はかい|おと||ふりまき||くだけ|ちった

呆然と 立ち尽くした シリカ は 、オブジェクト 片 が 蒸発 して いく その 後ろ に 、一人 の 男性 プレイヤー が 立って いる の を 見た。 ぼうぜんと|たちつくした||||かた||じょうはつ||||うしろ||ひとり||だんせい|ぷれいやー||たって||||みた 黒 髪 に 黒い コート。 くろ|かみ||くろい|こーと 背 は それ ほど 高くない が 、男 の 全身 から は 強烈な 威圧 感 が 放出 されて いる よう に 思えた。 せ||||たかく ない||おとこ||ぜんしん|||きょうれつな|いあつ|かん||ほうしゅつ|||||おもえた 本能 的 な 恐怖 を 覚え 、シリカ は わずかに 後 ず さった。 ほんのう|てき||きょうふ||おぼえ||||あと|| 二人 の 目 が 合った。 ふた り||め||あった

相手 の 瞳 は 、しかし 穏やかで 、夜 の 闇 の よう に 深かった。 あいて||ひとみ|||おだやかで|よ||やみ||||ふかかった 男 は 右手 に 握った 片手 剣 を 背中 の 鞘 に チン 、と 音 を 立てて 収め 、口 を 開いた。 おとこ||みぎて||にぎった|かたて|けん||せなか||さや||||おと||たてて|おさめ|くち||あいた

「……すまなかった。 君 の 友達 、助けられ なかった……」 きみ||ともだち|たすけられ|

その 声 を 聴いた 途端 、シリカ の 全身 から 力 が 抜けた。 |こえ||きいた|とたん|||ぜんしん||ちから||ぬけた 堪えよう も なく 、次々 と 涙 が 溢れて きた。 こらえよう|||つぎつぎ||なみだ||あふれて| 短 剣 が 手 から 滑り落ち 、地面 に 転がった の も 気づか ず 、シリカ は 視線 を 地面 の 上 の 水色 の 羽根 に 移す と 、その 前 に がくり と 跪いた。 みじか|けん||て||すべりおち|じめん||ころがった|||きづか||||しせん||じめん||うえ||みずいろ||はね||うつす|||ぜん||||ひざまずいた

熱く 渦巻いて いた 怒り が 消え去る と 同時に 、とてつもなく 深い 悲しみ と 喪失 感 が 胸 の 奥 に 湧き上がって きた。 あつく|うずまいて||いかり||きえさる||どうじに||ふかい|かなしみ||そうしつ|かん||むね||おく||わきあがって| それ は 涙 に 形 を 変え 、頰 を とめど なく 流れ 落ちて いく。 ||なみだ||かた||かえ|||||ながれ|おちて|

使い 魔 の AI に は 、自ら モンスター に 襲い掛かる と いう 行動 パターン は 存在 しない はずだ。 つかい|ま|||||おのずから|||おそいかかる|||こうどう|ぱたーん||そんざい|し ない| だから あの 時 、振り下ろさ れる 棍棒 の 前 に 飛び込んだ の は ピナ 自身 の 意思 、一 年間 に わたって 共に 暮らして きた シリカ と の 友情 の 証 である と 言えた。 ||じ|ふりおろさ||こんぼう||ぜん||とびこんだ||||じしん||いし|ひと|ねんかん|||ともに|くらして|||||ゆうじょう||あかし|||いえた

嗚咽 を 洩らし ながら 、両手 を 地面 に つき 、シリカ は 言葉 を 絞り出した。 おえつ||もらし||りょうて||じめん|||||ことば||しぼりだした

「お 願い だ よ ……あたし を 独り に し ないで よ ……ピナ……」 |ねがい|||||ひとり|||||

水色 の 羽根 は 、しかし 、何の いら え も 返さ なかった。 みずいろ||はね|||なんの||||かえさ|

「……すまなかった」

再び 、黒衣 の 男 の 声 が した。 ふたたび|こくい||おとこ||こえ|| シリカ は 必死に 涙 を 収め 、首 を 振った。 ||ひっしに|なみだ||おさめ|くび||ふった

「……いいえ ……あたし が ……バカだった ん です……。 |||ばかだった|| ありがとう ございます ……助けて くれて……」 ||たすけて|

嗚咽 を 堪え ながら 、どうにか それ だけ を 口 に する。 おえつ||こらえ||||||くち||

男 は ゆっくり 歩み寄って くる と 、シリカ の 前 に 跪き 、再び 遠慮がちな 声 を 発した。 おとこ|||あゆみよって|||||ぜん||ひざまずき|ふたたび|えんりょがちな|こえ||はっした