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ソードアート・オンライン2 アインクラッド (Sword Art Online 2: Aincrad), ソードアート・オンライン2 アインクラッド (12)

ソードアート ・オンライン 2 アインクラッド (12)

激突 の 直前 、再び 右手 を 振りかぶった キリト が 、剣 を 思い切り 壁面 に 突き 立てた。 武器 を グラインダー に かけた 時 の ような 火花 が 盛大に 飛び散る。 が くん 、と いう 衝撃 と ともに 落下 の 勢い が 鈍る。 だが 停 まる に は 至らない。

金属 を 引き裂く ような 音 を 盛大に 立て ながら 、キリト の 剣 が 氷 の 壁 を 削って いく。 あたし は 首 を 動かし 、落ちる 先 を 見 やった。 雪 が 白く 溜まった 穴 の 底 が 見えた。 みるみる 近づいて くる。 激突 まで もう あと 数 秒 も ない。 あたし は 、せめて 悲鳴 だけ は 上げる まい と 必死に 唇 を 嚙 み 、キリト の 体 に しがみついた。

キリト が 剣 から 手 を 離した。 両腕 で あたし を 固く 抱き 、体 を 半 回転 させて 自分 が 下 に なる。 そして──

衝撃。 轟音。

爆発 めいた 勢い で 舞い上がった 雪 が 、ふわふわ と 落ちて きて 頰 に 触れ 、消えた。

その 冷た さ で 、飛び かけた 意識 が 引き戻された。 眼 を 見開く。 至近 距離 に あった キリト の 黒い 瞳 と 視線 が 交差 する。

あたし を きつく 抱きしめた まま 、キリト が 片 頰 を 引き攣ら せてかすかに 笑った。

「……生きて た な」

あたし も どうにか 頷き 、声 を 出した。

「うん ……、生きて た」

数 十 秒 ──ことに よったら 数 分 、あたし たち は そのまま の 姿勢 で 横たわって いた。 動き たく なかった。 キリト の 体 から 伝わる 熱 が 心地よくて 、頭 が ぼうっと する。

しかし やがて キリト は 腕 を 解き 、の そり と 体 を 起こした。 すぐ 近く に 転がって いた 剣 を 拾って 鞘 に 収めて から 、腰 の ポーチ から ハイポーション と お ぼ しき 小 瓶 を ふた つ 取り出し 、一 つ を あたし に 差し出して くる。

「飲 ん どけよ 、一応」

「ん……」

頷いて 、あたし も 上体 を 起こした。 瓶 を 受け取り 、HP バー を 確認 する と 、あたし の ほう は まだ 三 分 の 一 近く 残って いた が 、直接 地面 と 激突 した キリト は レッドゾーン まで 突入 して いた。

栓 を 抜き 、甘 酸っぱい 液体 を 一息 に 飲み干して から 、あたし は キリト の ほう に 向き直った。 ぺた り と 座った まま 、まだ うまく 言う こと を 聞か ない 唇 を 動かす。

「あの ……、あ ……あり が と。 助けて くれて……」

すると キリト は 、例 に よって シニカルな 笑み をかすかに 滲ませ 、言った。

「礼 を 言う の は ちょっと 早い ぜ」

ちらり と 上空 に 視線 を 向ける。

「……ドラゴン が 追って こない の は 助かった けど 、ここ から どう やって 抜け出した もんか……」

「え ……テレポート すれば いい じゃ ない」

あたし は エプロン の ポケット を 探った。 青く 光る 転移 結晶 を つまみ出し 、キリト に 示す。 だが──。

「無駄だろう な。 ここ は もともと プレイヤー を 落っこ と す ため の トラップ だろう。 そんな 手軽な 方法 で 脱出 できる と は 思えない よ」

「そんな……」

あたし は キリト に 目線 で 実際 試して みる と 告げて から 、結晶 を 握り締めて コマンド を 唱えた。

「転移! リンダース!

──あたし の 叫び声 が 、空しく 氷 壁 に 反響 し 、消えて いった。 結晶 は ただ 無言 で 煌 く のみ。

キリト は 表情 を 変え ず に 軽く 肩 を すくめた。

「結晶 が 使える 確信 が あったら 落ちてる 最中 に 使った けど な。 無効 化 空間っぽい 気配 が した から な……」

「…………」

しょんぼり と 俯いて いる と 、キリト が ぽん 、と 頭 に 手 を 置いて きた。 そのまま あたし の 髪 を くしゃくしゃ と 撫でる。

「まあ 、そう 落ち込む な。 結晶 が 使えないって こと は 、逆に 言えば 何 か 脱出 の 方法 が 必ず あるって こと だ」

「……そんな の 、判 んない じゃ ない。 落ちた人 が 百 パーセント 死ぬって 想定 した トラップ かも よ? ……てい うか 、普通 死んで たわ よ」

「なるほど 、それ も そう だ」

キリト が あっけなく 頷く の を 見て 、あたし は 再び がっくり と 脱力 する。

「あ ……あんた ねえ! もう ちょっと 元気づけ なさい よ!!」

思わず 声 を 荒らげる と 、キリト は に やっと 笑って 言った。

「リズ は 怒り 顔 の ほう が 似合ってる ぜ。 その 意気 だ」

「んな……」

不覚に も 赤面 し つつ 硬直 して しまった あたし の 頭 から 手 を 離し 、キリト は 立ち上がった。

「さて と 、いろいろ 試して みる かな……。 アイデア 募集 中!

「…………」

この 状況 に 至って も マイ ペース を 崩さない キリト の 態度 に 、あたし は 苦笑 する しか なかった。 少し だけ 元気 が 出て きた 気 が して 、ぱち ん と 両手 で 頰っぺ た を 叩く と 、あたし も 立ち上がる。

ぐるり と 周囲 を 見渡す と 、そこ は ほぼ 平らな 氷 の 床 に 雪 が 薄く 積もった 、まさに 穴 の 底 だった。 直径 は 上部 と 変わら ず 十 メートル ほど だろう か。 遥か 高み の 入り口 から 、氷 壁 に 反射 し ながら 差し込んで くる 頼りない 夕 陽 の 残照 に ぼんやり と 照らされて いる。 じきに 完全な 暗闇 に 包まれて しまう だろう。

見た ところ 、地面 に も 、周囲 の 壁 に も 抜け道 の ような もの は なかった。 あたし は 腰 に 両手 を 当て 、必死に 頭 を 働かせ 、浮かんで きた 最初 の アイデア を 口 に した。

「えー と ……助け を 呼ぶって いう の は どう かしら」

「うーん 、ここ 、ダンジョン 扱い じゃない か?

だが キリト に あっさり と 否定 されて しまう。

フレンド 登録 して いる プレイヤー 、例えば アスナ に なら 、フレンドメッセージ と いう メール の ような もの で 連絡 する 手段 が ある のだ が 、迷宮 で は その 機能 は 使え ない。 ついでに 言えば 位置 追跡 も でき ない。 念のため メッセージウインドウ を 開いて みた が 、キリト の 言う とおり 使用 不可能だった。

「じゃあ ……ドラゴン 狩り に きた プレイヤー に 大声 で 呼びかける」

「山頂 まで は 高 さ 八十 メートル は あった から なぁ……。 声 は 届か ない だろう な……」

「そっか ……って 、あんた も ちょっと は 考え なさい よ!!」

次々 に 意見 を 退けられ 、あたし が やや ムクレ て 言い返す と 、キリト は とんでもない 事 を 言った。

「壁 を 走って 登る」

「……バカ?

「か どう か 、試して みる か……」

あたし が 啞然 と して 見守る なか 、キリト は 壁 ぎりぎり まで 近づく と 、突然 反対 側 の 壁 目掛けて 凄ま じい 速 さ で ダッシュ した。 床 に 積もった 雪 が 盛大に 舞い上がり 、突風 が あたし の 顔 を 叩く。

壁 に 激突 する 寸前 、キリト は 一瞬 身 を 沈める と 爆発 じ みた 音 と ともに 飛び上がった。 遥か 高み で 壁 に 足 を つき 、そのまま 斜め 上方 へ と 走り はじめる。

「うっそ……」

眼 と 口 を ポカン と あけて 立ち尽くす あたし の 遠い 頭上 で 、キリト が アメリカ 製 C 級 映画 の ニンジャ の ごとく 、氷 壁 を 螺旋 状 に 駆け上がって いく。 みるみる うち に その 姿 は 小さく なり ──三 分 の 一 近く も 登った ところ で 、ツルン と こけた。

「わ ああ ああ ああ あ」

両腕 を ば たば た 振り回し ながら キリト が 落ちて くる。 あたし の 頭 めがけて。

「わ ああ あ!?」

悲鳴 を 上げて 飛び す さる と 、寸前 まで あたし が 立って いた 場所 に 、び たん! と いう 音 と ともに人 型 の 穴 が うがたれた。

一 分 後。 二 本 目 の ポーション を 咥 えた キリト と 並んで 壁 際 に 座り込み 、あたし は 大きく 溜息 を ついた。

「──あんた の こと 、バカだ バカだ と 思って た けど まさか これほど の……」

「……もう ちょっと 助走 距離 が あれば イケ たん だ よ」

「そんな わけ ね ー」

ぼ そり と 呟く。

飲み干した 瓶 を ポーチ に 放り込んだ キリト は 、あたし の ツッコミ を 無視 して 大きく 一 回 伸び を する と 、言った。

「ま 、ともかく 、こう 暗く なっちゃ 今日 は ここ で 野営 だ な。 幸い この 穴 に は モンスター は ポップ しない みたいだ し」

確かに 、夕焼け の 色 は とうに 消え去って 、穴 の 底 は 深い 闇 に 包ま れよう と して いた。

「そう ね……」

「そう と 決まれば 、っと……」

キリト は ウインドウ を 出す と 、指 を 走ら せ 、何やら 次々 と オブジェクト 化 さ せた。

大きな 野営 用 ランタン。 手 鍋。 謎 の 小 袋 幾 つ か。 マグカップ 二 つ。

「……あんた いつも こんな 物持ち 歩いてる の?

「ダンジョン で 夜明かし は 日常茶飯事 だから な」

どうやら 冗談 で は ない らしく 、真顔 で そう 答える と ランタン を クリック して 火 を ともした。 ぼっと いう 音 と ともに 、明るい オレンジ色 の 光 が 辺り を 照らし出す。

ランタン の 上 に 小さな 手 鍋 を 置く と 、キリト は 雪 の 塊 を 拾い上げて 放り込み 、更に 小 袋 の 中身 を ぱぱっと あけた。 蓋 を して 、鍋 を ダブルクリック。 料理 待ち 時間 の ウインドウ が 浮き上がる。

すぐに 、ハーブ の ような 芳香 が あたし の 鼻 を くすぐり はじめた。 よく 考えたら 昼 に ホットドッグ を 齧った きり だ。 ゲンキン な 胃 が 、思い出した よう に 盛んに 空腹 を 訴えて くる。

ポーン 、と いう 効果 音 と 共に タイマー が 消える と 、キリト は 鍋 を 取り上げて 中身 を 二 つ の カップ に 注いだ。

「料理 スキルゼロ だから 味 は 期待 する な よ」

「あり が と……」

差し出された カップ を 受け取る と 、じん わりと した 温かみ が 両手 に 広がった。

スープ は 、香 草 と 干し 肉 を 使った 簡単な もの だった が 、食 材 アイテム の ランク が 高い らしく 、充分 すぎる ほど 美味しかった。 冷えた 体 に 、ゆっくり と 熱 が 沁 み 通って いく。

「なんか ……へんな 感じ……。 現実 じゃない みたい……」

スープ を 飲み ながら 、ぽつり と 呟いて いた。

「こんな ……初めて くる 場所 で 、初めて 会った人 と 、並んで ご飯 食べてる なんて さ……」

「そう か……。 リズ は 職人 クラス だ もん な。 ダンジョン 潜ってる と 、行きずり の プレイヤー と 野良 パーティー 組んで 野営 する と か 、けっこう ある よ」

「ふうん 、そう な ん だ。 ……聞か せて よ。 ダンジョン の 話 と か」

「え 、う 、うん。 そんな 面白い もん じゃない と 思う けど……。 おっと 、その 前 に……」

キリト は 、空 に なった ふた つ の カップ を 回収 する と 、手 鍋 と いっしょに ウインドウ に 放り込んだ。 続けて 操作 し 、今度 は 大きな 布 の 塊 を 二 つ 取り出す。

広げた 所 を 見る と 、それ は 野営 用 の ベッド ロール らしかった。 現実 世界 の シュラフ に 似て いる が 、かなり 大きい。

「高級 品 な ん だ ぜ。 断熱 は 完璧だ し 、対 アクティブモンスター 用 の ハイディング 効果 つき だ」

に やり と 笑い ながら 一 つ を 放って くる。 受け取り 、雪 の 上 に 広げる と 、それ は あたし なら 三人 は 入れる ほど の 大き さ だった。 再び 呆れ ながら 言う。

「よく こんな 物持ち 歩いてる わ ねえ。 しかも 二 つ も……」

「アイテム 所持 容量 は 有効 利用 しない と な」

キリト は 手早く 武装 を 解除 し 、左側 の ベッド ロール の 中 に もぐりこんだ。 あたし も それ に 倣い 、マント と メイス を 外して 袋 状 の 布 の 間 に 体 を 滑り込ま せる。

自慢 する だけ あって 、確かに 中 は 暖かかった。 その 上 見た目 より は ずいぶん ふか ふか と 柔らかい。

ランタン を 間 に 挟み 、一 メートル ほど の 距離 を 置いて あたし たち は 横たわった。 なんだか ──妙に 照れくさい。

気恥ずかし さ を 紛らわす よう に 、あたし は 言った。

「ね 、さっき の 話 、して よ」

「ああ 、うん……」

キリト は 両腕 を 頭 の 下 で 組む と 、ゆっくり と 話し はじめた。

迷宮 区 で 、MPK ──故意 に モンスター を 集めて 、他の プレイヤー を 襲わ せる 悪質な 犯罪者 ──の 罠 に 引っかかった 話。 攻撃 力 は 低い の に 異常に 堅い ボスモンスター と 、交代 で 仮眠 し ながら 丸 二 日 戦い 続けた 話。 レアアイテム の 分配 を する ため に 百人 で サイコロ 転がし 大会 を した 話。

どの 話 も スリリングで 、痛快で 、どこ か ユーモラスだった。 そして 、全て の 話 が 、明らかに 告げて いた。 キリト が 、最 前線 に 挑み 続ける 攻略 組 の 一人 である こと を。

でも 、そう である ならば──。 この人 は 、その 肩 に 数 千 の プレイヤー 全員 の 運命 を 背負って いる のだ。 こんな 、あたし なんか の ため に その 命 を 投げ出して いい人 で は ない はずだ。

あたし は 、体 の 向き を 変え 、キリト の 顔 を 見た。 ランタン の 光 を 照り 返す 黒い 瞳 が 、ちらり と こちら に 向けられた。

「ねえ ……キリト。 聞いて いい……?

「──なんだ よ 、改まって」

「なんで あの 時 、あたし を 助けた の……? 助かる 保証 なんて なかった じゃ ん。 う うん ……あんた も 死んじゃ う 確率 の ほう が 、ずっと 高かった。 それなのに ……なんで……」

キリト の 口元 が 、一瞬 、ほん のかすかに 強 張った。 しかし それ は すぐに 溶け 、穏やかな 声 が 答えた。

「……誰 か を 見殺し に する くらい なら 、一緒に 死んだ ほう が ずっと ましだ。 それ が リズ みたいな 女の子 なら 尚 更 、な」


ソードアート ・オンライン 2 アインクラッド (12) |おんらいん| Sword Art Online 2 Aincrad (12) 刀剑神域2艾恩葛朗特 (12)

激突 の 直前 、再び 右手 を 振りかぶった キリト が 、剣 を 思い切り 壁面 に 突き 立てた。 げきとつ||ちょくぜん|ふたたび|みぎて||ふりかぶった|||けん||おもいきり|へきめん||つき|たてた 武器 を グラインダー に かけた 時 の ような 火花 が 盛大に 飛び散る。 ぶき|||||じ|||ひばな||せいだいに|とびちる が くん 、と いう 衝撃 と ともに 落下 の 勢い が 鈍る。 ||||しょうげき|||らっか||いきおい||なまる だが 停 まる に は 至らない。 |てい||||いたらない

金属 を 引き裂く ような 音 を 盛大に 立て ながら 、キリト の 剣 が 氷 の 壁 を 削って いく。 きんぞく||ひきさく||おと||せいだいに|たて||||けん||こおり||かべ||けずって| あたし は 首 を 動かし 、落ちる 先 を 見 やった。 ||くび||うごかし|おちる|さき||み| 雪 が 白く 溜まった 穴 の 底 が 見えた。 ゆき||しろく|たまった|あな||そこ||みえた みるみる 近づいて くる。 |ちかづいて| 激突 まで もう あと 数 秒 も ない。 げきとつ||||すう|びょう|| あたし は 、せめて 悲鳴 だけ は 上げる まい と 必死に 唇 を 嚙 み 、キリト の 体 に しがみついた。 |||ひめい|||あげる|||ひっしに|くちびる||||||からだ||

キリト が 剣 から 手 を 離した。 ||けん||て||はなした 両腕 で あたし を 固く 抱き 、体 を 半 回転 させて 自分 が 下 に なる。 りょううで||||かたく|いだき|からだ||はん|かいてん|さ せて|じぶん||した|| そして──

衝撃。 しょうげき 轟音。 ごうおん

爆発 めいた 勢い で 舞い上がった 雪 が 、ふわふわ と 落ちて きて 頰 に 触れ 、消えた。 ばくはつ||いきおい||まいあがった|ゆき||||おちて||||ふれ|きえた

その 冷た さ で 、飛び かけた 意識 が 引き戻された。 |つめた|||とび||いしき||ひきもどされた 眼 を 見開く。 がん||みひらく 至近 距離 に あった キリト の 黒い 瞳 と 視線 が 交差 する。 しきん|きょり|||||くろい|ひとみ||しせん||こうさ|

あたし を きつく 抱きしめた まま 、キリト が 片 頰 を 引き攣ら せてかすかに 笑った。 |||だきしめた||||かた|||ひきつら||わらった

「……生きて た な」 いきて||

あたし も どうにか 頷き 、声 を 出した。 |||うなずき|こえ||だした

「うん ……、生きて た」 |いきて|

数 十 秒 ──ことに よったら 数 分 、あたし たち は そのまま の 姿勢 で 横たわって いた。 すう|じゅう|びょう|||すう|ぶん||||||しせい||よこたわって| 動き たく なかった。 うごき|| キリト の 体 から 伝わる 熱 が 心地よくて 、頭 が ぼうっと する。 ||からだ||つたわる|ねつ||ここちよくて|あたま|||

しかし やがて キリト は 腕 を 解き 、の そり と 体 を 起こした。 ||||うで||とき||||からだ||おこした すぐ 近く に 転がって いた 剣 を 拾って 鞘 に 収めて から 、腰 の ポーチ から ハイポーション と お ぼ しき 小 瓶 を ふた つ 取り出し 、一 つ を あたし に 差し出して くる。 |ちかく||ころがって||けん||ひろって|さや||おさめて||こし||ぽーち|||||||しょう|びん||||とりだし|ひと|||||さしだして|

「飲 ん どけよ 、一応」 いん|||いちおう

「ん……」

頷いて 、あたし も 上体 を 起こした。 うなずいて|||じょうたい||おこした 瓶 を 受け取り 、HP バー を 確認 する と 、あたし の ほう は まだ 三 分 の 一 近く 残って いた が 、直接 地面 と 激突 した キリト は レッドゾーン まで 突入 して いた。 びん||うけとり||ばー||かくにん||||||||みっ|ぶん||ひと|ちかく|のこって|||ちょくせつ|じめん||げきとつ||||||とつにゅう||

栓 を 抜き 、甘 酸っぱい 液体 を 一息 に 飲み干して から 、あたし は キリト の ほう に 向き直った。 せん||ぬき|あま|すっぱい|えきたい||ひといき||のみほして||||||||むきなおった ぺた り と 座った まま 、まだ うまく 言う こと を 聞か ない 唇 を 動かす。 |||すわった||||いう|||きか||くちびる||うごかす

「あの ……、あ ……あり が と。 助けて くれて……」 たすけて|

すると キリト は 、例 に よって シニカルな 笑み をかすかに 滲ませ 、言った。 |||れい|||しにかるな|えみ||にじませ|いった

「礼 を 言う の は ちょっと 早い ぜ」 れい||いう||||はやい|

ちらり と 上空 に 視線 を 向ける。 ||じょうくう||しせん||むける

「……ドラゴン が 追って こない の は 助かった けど 、ここ から どう やって 抜け出した もんか……」 ||おって||||たすかった||||||ぬけだした|

「え ……テレポート すれば いい じゃ ない」

あたし は エプロン の ポケット を 探った。 ||えぷろん||ぽけっと||さぐった 青く 光る 転移 結晶 を つまみ出し 、キリト に 示す。 あおく|ひかる|てんい|けっしょう||つまみだし|||しめす だが──。

「無駄だろう な。 むだだろう| ここ は もともと プレイヤー を 落っこ と す ため の トラップ だろう。 |||ぷれいやー||おとっこ|||||| そんな 手軽な 方法 で 脱出 できる と は 思えない よ」 |てがるな|ほうほう||だっしゅつ||||おもえ ない|

「そんな……」

あたし は キリト に 目線 で 実際 試して みる と 告げて から 、結晶 を 握り締めて コマンド を 唱えた。 ||||めせん||じっさい|ためして|||つげて||けっしょう||にぎりしめて|||となえた

「転移! てんい リンダース!

──あたし の 叫び声 が 、空しく 氷 壁 に 反響 し 、消えて いった。 ||さけびごえ||むなしく|こおり|かべ||はんきょう||きえて| 結晶 は ただ 無言 で 煌 く のみ。 けっしょう|||むごん||こう||

キリト は 表情 を 変え ず に 軽く 肩 を すくめた。 ||ひょうじょう||かえ|||かるく|かた||

「結晶 が 使える 確信 が あったら 落ちてる 最中 に 使った けど な。 けっしょう||つかえる|かくしん|||おちてる|さい なか||つかった|| 無効 化 空間っぽい 気配 が した から な……」 むこう|か|くうかんっぽい|けはい||||

「…………」

しょんぼり と 俯いて いる と 、キリト が ぽん 、と 頭 に 手 を 置いて きた。 ||うつむいて|||||||あたま||て||おいて| そのまま あたし の 髪 を くしゃくしゃ と 撫でる。 |||かみ||||なでる

「まあ 、そう 落ち込む な。 ||おちこむ| 結晶 が 使えないって こと は 、逆に 言えば 何 か 脱出 の 方法 が 必ず あるって こと だ」 けっしょう||つかえないって|||ぎゃくに|いえば|なん||だっしゅつ||ほうほう||かならず|||

「……そんな の 、判 んない じゃ ない。 ||はん|ん ない|| 落ちた人 が 百 パーセント 死ぬって 想定 した トラップ かも よ? おちた じん||ひゃく|ぱーせんと|しぬって|そうてい|||| ……てい うか 、普通 死んで たわ よ」 ||ふつう|しんで||

「なるほど 、それ も そう だ」

キリト が あっけなく 頷く の を 見て 、あたし は 再び がっくり と 脱力 する。 |||うなずく|||みて|||ふたたび|||だつりょく|

「あ ……あんた ねえ! もう ちょっと 元気づけ なさい よ!!」 ||げんきづけ||

思わず 声 を 荒らげる と 、キリト は に やっと 笑って 言った。 おもわず|こえ||あららげる||||||わらって|いった

「リズ は 怒り 顔 の ほう が 似合ってる ぜ。 ||いかり|かお||||にあってる| その 意気 だ」 |いき|

「んな……」

不覚に も 赤面 し つつ 硬直 して しまった あたし の 頭 から 手 を 離し 、キリト は 立ち上がった。 ふかくに||せきめん|||こうちょく|||||あたま||て||はなし|||たちあがった

「さて と 、いろいろ 試して みる かな……。 |||ためして|| アイデア 募集 中! あいであ|ぼしゅう|なか

「…………」

この 状況 に 至って も マイ ペース を 崩さない キリト の 態度 に 、あたし は 苦笑 する しか なかった。 |じょうきょう||いたって||まい|ぺーす||くずさ ない|||たいど||||くしょう||| 少し だけ 元気 が 出て きた 気 が して 、ぱち ん と 両手 で 頰っぺ た を 叩く と 、あたし も 立ち上がる。 すこし||げんき||でて||き||||||りょうて|||||たたく||||たちあがる

ぐるり と 周囲 を 見渡す と 、そこ は ほぼ 平らな 氷 の 床 に 雪 が 薄く 積もった 、まさに 穴 の 底 だった。 ||しゅうい||みわたす|||||たいらな|こおり||とこ||ゆき||うすく|つもった||あな||そこ| 直径 は 上部 と 変わら ず 十 メートル ほど だろう か。 ちょっけい||じょうぶ||かわら||じゅう|めーとる||| 遥か 高み の 入り口 から 、氷 壁 に 反射 し ながら 差し込んで くる 頼りない 夕 陽 の 残照 に ぼんやり と 照らされて いる。 はるか|たかみ||いりぐち||こおり|かべ||はんしゃ|||さしこんで||たよりない|ゆう|よう||ざんしょう||||てらされて| じきに 完全な 暗闇 に 包まれて しまう だろう。 |かんぜんな|くらやみ||つつまれて||

見た ところ 、地面 に も 、周囲 の 壁 に も 抜け道 の ような もの は なかった。 みた||じめん|||しゅうい||かべ|||ぬけみち||||| あたし は 腰 に 両手 を 当て 、必死に 頭 を 働かせ 、浮かんで きた 最初 の アイデア を 口 に した。 ||こし||りょうて||あて|ひっしに|あたま||はたらかせ|うかんで||さいしょ||あいであ||くち||

「えー と ……助け を 呼ぶって いう の は どう かしら」 ||たすけ||よぶって|||||

「うーん 、ここ 、ダンジョン 扱い じゃない か? |||あつかい|じゃ ない|

だが キリト に あっさり と 否定 されて しまう。 |||||ひてい||

フレンド 登録 して いる プレイヤー 、例えば アスナ に なら 、フレンドメッセージ と いう メール の ような もの で 連絡 する 手段 が ある のだ が 、迷宮 で は その 機能 は 使え ない。 |とうろく|||ぷれいやー|たとえば|||||||めーる|||||れんらく||しゅだん|||||めいきゅう||||きのう||つかえ| ついでに 言えば 位置 追跡 も でき ない。 |いえば|いち|ついせき||| 念のため メッセージウインドウ を 開いて みた が 、キリト の 言う とおり 使用 不可能だった。 ねんのため|||あいて|||||いう||しよう|ふかのうだった

「じゃあ ……ドラゴン 狩り に きた プレイヤー に 大声 で 呼びかける」 ||かり|||ぷれいやー||おおごえ||よびかける

「山頂 まで は 高 さ 八十 メートル は あった から なぁ……。 さんちょう|||たか||はちじゅう|めーとる|||| 声 は 届か ない だろう な……」 こえ||とどか|||

「そっか ……って 、あんた も ちょっと は 考え なさい よ!!」 ||||||かんがえ||

次々 に 意見 を 退けられ 、あたし が やや ムクレ て 言い返す と 、キリト は とんでもない 事 を 言った。 つぎつぎ||いけん||しりぞけられ||||||いいかえす|||||こと||いった

「壁 を 走って 登る」 かべ||はしって|のぼる

「……バカ? ばか

「か どう か 、試して みる か……」 |||ためして||

あたし が 啞然 と して 見守る なか 、キリト は 壁 ぎりぎり まで 近づく と 、突然 反対 側 の 壁 目掛けて 凄ま じい 速 さ で ダッシュ した。 ||啞ぜん|||みまもる||||かべ|||ちかづく||とつぜん|はんたい|がわ||かべ|めがけて|すごま||はや|||だっしゅ| 床 に 積もった 雪 が 盛大に 舞い上がり 、突風 が あたし の 顔 を 叩く。 とこ||つもった|ゆき||せいだいに|まいあがり|とっぷう||||かお||たたく

壁 に 激突 する 寸前 、キリト は 一瞬 身 を 沈める と 爆発 じ みた 音 と ともに 飛び上がった。 かべ||げきとつ||すんぜん|||いっしゅん|み||しずめる||ばくはつ|||おと|||とびあがった 遥か 高み で 壁 に 足 を つき 、そのまま 斜め 上方 へ と 走り はじめる。 はるか|たかみ||かべ||あし||||ななめ|じょうほう|||はしり|

「うっそ……」

眼 と 口 を ポカン と あけて 立ち尽くす あたし の 遠い 頭上 で 、キリト が アメリカ 製 C 級 映画 の ニンジャ の ごとく 、氷 壁 を 螺旋 状 に 駆け上がって いく。 がん||くち|||||たちつくす|||とおい|ずじょう||||あめりか|せい||きゅう|えいが|||||こおり|かべ||らせん|じょう||かけあがって| みるみる うち に その 姿 は 小さく なり ──三 分 の 一 近く も 登った ところ で 、ツルン と こけた。 ||||すがた||ちいさく||みっ|ぶん||ひと|ちかく||のぼった|||||

「わ ああ ああ ああ あ」

両腕 を ば たば た 振り回し ながら キリト が 落ちて くる。 りょううで|||||ふりまわし||||おちて| あたし の 頭 めがけて。 ||あたま|

「わ ああ あ!?」

悲鳴 を 上げて 飛び す さる と 、寸前 まで あたし が 立って いた 場所 に 、び たん! ひめい||あげて|とび||||すんぜん||||たって||ばしょ||| と いう 音 と ともに人 型 の 穴 が うがたれた。 ||おと||ともに じん|かた||あな||

一 分 後。 ひと|ぶん|あと 二 本 目 の ポーション を 咥 えた キリト と 並んで 壁 際 に 座り込み 、あたし は 大きく 溜息 を ついた。 ふた|ほん|め||||てつ||||ならんで|かべ|さい||すわりこみ|||おおきく|ためいき||

「──あんた の こと 、バカだ バカだ と 思って た けど まさか これほど の……」 |||ばかだ|ばかだ||おもって|||||

「……もう ちょっと 助走 距離 が あれば イケ たん だ よ」 ||じょそう|きょり||||||

「そんな わけ ね ー」 |||-

ぼ そり と 呟く。 |||つぶやく

飲み干した 瓶 を ポーチ に 放り込んだ キリト は 、あたし の ツッコミ を 無視 して 大きく 一 回 伸び を する と 、言った。 のみほした|びん||ぽーち||ほうりこんだ|||||||むし||おおきく|ひと|かい|のび||||いった

「ま 、ともかく 、こう 暗く なっちゃ 今日 は ここ で 野営 だ な。 |||くらく||きょう||||やえい|| 幸い この 穴 に は モンスター は ポップ しない みたいだ し」 さいわい||あな|||||ぽっぷ|し ない||

確かに 、夕焼け の 色 は とうに 消え去って 、穴 の 底 は 深い 闇 に 包ま れよう と して いた。 たしかに|ゆうやけ||いろ|||きえさって|あな||そこ||ふかい|やみ||つつま||||

「そう ね……」

「そう と 決まれば 、っと……」 ||きまれば|

キリト は ウインドウ を 出す と 、指 を 走ら せ 、何やら 次々 と オブジェクト 化 さ せた。 ||||だす||ゆび||はしら||なにやら|つぎつぎ|||か||

大きな 野営 用 ランタン。 おおきな|やえい|よう| 手 鍋。 て|なべ 謎 の 小 袋 幾 つ か。 なぞ||しょう|ふくろ|いく|| マグカップ 二 つ。 |ふた|

「……あんた いつも こんな 物持ち 歩いてる の? |||ものもち|あるいてる|

「ダンジョン で 夜明かし は 日常茶飯事 だから な」 ||よあかし||にちじょうさはんじ||

どうやら 冗談 で は ない らしく 、真顔 で そう 答える と ランタン を クリック して 火 を ともした。 |じょうだん|||||まがお|||こたえる||||||ひ|| ぼっと いう 音 と ともに 、明るい オレンジ色 の 光 が 辺り を 照らし出す。 ||おと|||あかるい|おれんじいろ||ひかり||あたり||てらしだす

ランタン の 上 に 小さな 手 鍋 を 置く と 、キリト は 雪 の 塊 を 拾い上げて 放り込み 、更に 小 袋 の 中身 を ぱぱっと あけた。 ||うえ||ちいさな|て|なべ||おく||||ゆき||かたまり||ひろいあげて|ほうりこみ|さらに|しょう|ふくろ||なかみ||| 蓋 を して 、鍋 を ダブルクリック。 ふた|||なべ|| 料理 待ち 時間 の ウインドウ が 浮き上がる。 りょうり|まち|じかん||||うきあがる

すぐに 、ハーブ の ような 芳香 が あたし の 鼻 を くすぐり はじめた。 ||||ほうこう||||はな||| よく 考えたら 昼 に ホットドッグ を 齧った きり だ。 |かんがえたら|ひる||||かじった|| ゲンキン な 胃 が 、思い出した よう に 盛んに 空腹 を 訴えて くる。 ||い||おもいだした|||さかんに|くうふく||うったえて|

ポーン 、と いう 効果 音 と 共に タイマー が 消える と 、キリト は 鍋 を 取り上げて 中身 を 二 つ の カップ に 注いだ。 |||こうか|おと||ともに|たいまー||きえる||||なべ||とりあげて|なかみ||ふた|||かっぷ||そそいだ

「料理 スキルゼロ だから 味 は 期待 する な よ」 りょうり|||あじ||きたい|||

「あり が と……」

差し出された カップ を 受け取る と 、じん わりと した 温かみ が 両手 に 広がった。 さしだされた|かっぷ||うけとる|||||あたたかみ||りょうて||ひろがった

スープ は 、香 草 と 干し 肉 を 使った 簡単な もの だった が 、食 材 アイテム の ランク が 高い らしく 、充分 すぎる ほど 美味しかった。 すーぷ||かおり|くさ||ほし|にく||つかった|かんたんな||||しょく|ざい|あいてむ||らんく||たかい||じゅうぶん|||おいしかった 冷えた 体 に 、ゆっくり と 熱 が 沁 み 通って いく。 ひえた|からだ||||ねつ||しん||かよって|

「なんか ……へんな 感じ……。 ||かんじ 現実 じゃない みたい……」 げんじつ|じゃ ない|

スープ を 飲み ながら 、ぽつり と 呟いて いた。 すーぷ||のみ||||つぶやいて|

「こんな ……初めて くる 場所 で 、初めて 会った人 と 、並んで ご飯 食べてる なんて さ……」 |はじめて||ばしょ||はじめて|あった じん||ならんで|ごはん|たべてる||

「そう か……。 リズ は 職人 クラス だ もん な。 ||しょくにん|くらす||| ダンジョン 潜ってる と 、行きずり の プレイヤー と 野良 パーティー 組んで 野営 する と か 、けっこう ある よ」 |くぐってる||ゆきずり||ぷれいやー||のら|ぱーてぃー|くんで|やえい||||||

「ふうん 、そう な ん だ。 ……聞か せて よ。 きか|| ダンジョン の 話 と か」 ||はなし||

「え 、う 、うん。 そんな 面白い もん じゃない と 思う けど……。 |おもしろい||じゃ ない||おもう| おっと 、その 前 に……」 ||ぜん|

キリト は 、空 に なった ふた つ の カップ を 回収 する と 、手 鍋 と いっしょに ウインドウ に 放り込んだ。 ||から||||||かっぷ||かいしゅう|||て|なべ|||||ほうりこんだ 続けて 操作 し 、今度 は 大きな 布 の 塊 を 二 つ 取り出す。 つづけて|そうさ||こんど||おおきな|ぬの||かたまり||ふた||とりだす

広げた 所 を 見る と 、それ は 野営 用 の ベッド ロール らしかった。 ひろげた|しょ||みる||||やえい|よう||べっど|ろーる| 現実 世界 の シュラフ に 似て いる が 、かなり 大きい。 げんじつ|せかい||||にて||||おおきい

「高級 品 な ん だ ぜ。 こうきゅう|しな|||| 断熱 は 完璧だ し 、対 アクティブモンスター 用 の ハイディング 効果 つき だ」 だんねつ||かんぺきだ||たい||よう|||こうか||

に やり と 笑い ながら 一 つ を 放って くる。 |||わらい||ひと|||はなって| 受け取り 、雪 の 上 に 広げる と 、それ は あたし なら 三人 は 入れる ほど の 大き さ だった。 うけとり|ゆき||うえ||ひろげる||||||みっり||いれる|||おおき|| 再び 呆れ ながら 言う。 ふたたび|あきれ||いう

「よく こんな 物持ち 歩いてる わ ねえ。 ||ものもち|あるいてる|| しかも 二 つ も……」 |ふた||

「アイテム 所持 容量 は 有効 利用 しない と な」 あいてむ|しょじ|ようりょう||ゆうこう|りよう|し ない||

キリト は 手早く 武装 を 解除 し 、左側 の ベッド ロール の 中 に もぐりこんだ。 ||てばやく|ぶそう||かいじょ||ひだりがわ||べっど|ろーる||なか|| あたし も それ に 倣い 、マント と メイス を 外して 袋 状 の 布 の 間 に 体 を 滑り込ま せる。 ||||ならい|まんと||||はずして|ふくろ|じょう||ぬの||あいだ||からだ||すべりこま|

自慢 する だけ あって 、確かに 中 は 暖かかった。 じまん||||たしかに|なか||あたたかかった その 上 見た目 より は ずいぶん ふか ふか と 柔らかい。 |うえ|みため|||||||やわらかい

ランタン を 間 に 挟み 、一 メートル ほど の 距離 を 置いて あたし たち は 横たわった。 ||あいだ||はさみ|ひと|めーとる|||きょり||おいて||||よこたわった なんだか ──妙に 照れくさい。 |みょうに|てれくさい

気恥ずかし さ を 紛らわす よう に 、あたし は 言った。 きはずかし|||まぎらわす|||||いった

「ね 、さっき の 話 、して よ」 |||はなし||

「ああ 、うん……」

キリト は 両腕 を 頭 の 下 で 組む と 、ゆっくり と 話し はじめた。 ||りょううで||あたま||した||くむ||||はなし|

迷宮 区 で 、MPK ──故意 に モンスター を 集めて 、他の プレイヤー を 襲わ せる 悪質な 犯罪者 ──の 罠 に 引っかかった 話。 めいきゅう|く|||こい||||あつめて|たの|ぷれいやー||おそわ||あくしつな|はんざい しゃ||わな||ひっかかった|はなし 攻撃 力 は 低い の に 異常に 堅い ボスモンスター と 、交代 で 仮眠 し ながら 丸 二 日 戦い 続けた 話。 こうげき|ちから||ひくい|||いじょうに|かたい|||こうたい||かみん|||まる|ふた|ひ|たたかい|つづけた|はなし レアアイテム の 分配 を する ため に 百人 で サイコロ 転がし 大会 を した 話。 ||ぶんぱい|||||ひゃく り|||ころがし|たいかい|||はなし

どの 話 も スリリングで 、痛快で 、どこ か ユーモラスだった。 |はなし||すりりんぐで|つうかいで|||ゆーもらすだった そして 、全て の 話 が 、明らかに 告げて いた。 |すべて||はなし||あきらかに|つげて| キリト が 、最 前線 に 挑み 続ける 攻略 組 の 一人 である こと を。 ||さい|ぜんせん||いどみ|つづける|こうりゃく|くみ||ひとり|||

でも 、そう である ならば──。 この人 は 、その 肩 に 数 千 の プレイヤー 全員 の 運命 を 背負って いる のだ。 この じん|||かた||すう|せん||ぷれいやー|ぜんいん||うんめい||せおって|| こんな 、あたし なんか の ため に その 命 を 投げ出して いい人 で は ない はずだ。 |||||||いのち||なげだして|いい じん||||

あたし は 、体 の 向き を 変え 、キリト の 顔 を 見た。 ||からだ||むき||かえ|||かお||みた ランタン の 光 を 照り 返す 黒い 瞳 が 、ちらり と こちら に 向けられた。 ||ひかり||てり|かえす|くろい|ひとみ||||||むけられた

「ねえ ……キリト。 聞いて いい……? きいて|

「──なんだ よ 、改まって」 ||あらたまって

「なんで あの 時 、あたし を 助けた の……? ||じ|||たすけた| 助かる 保証 なんて なかった じゃ ん。 たすかる|ほしょう|||| う うん ……あんた も 死んじゃ う 確率 の ほう が 、ずっと 高かった。 ||||しんじゃ||かくりつ|||||たかかった それなのに ……なんで……」

キリト の 口元 が 、一瞬 、ほん のかすかに 強 張った。 ||くちもと||いっしゅん|||つよ|はった しかし それ は すぐに 溶け 、穏やかな 声 が 答えた。 ||||とけ|おだやかな|こえ||こたえた

「……誰 か を 見殺し に する くらい なら 、一緒に 死んだ ほう が ずっと ましだ。 だれ|||みごろし|||||いっしょに|しんだ|||| それ が リズ みたいな 女の子 なら 尚 更 、な」 ||||おんなのこ||しよう|こう|