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狼と香辛料 01 (Spice and Wolf), 狼と香辛料 01 (4)

狼 と 香辛料 01 (4)

ニョッヒラ 、と いう の は 今 でも ある 北 の 大地 の 温泉 街 で 、外国 の 王侯 貴族 も 時折 やってくる。

ただ 、この 近辺 で ニョッヒラ の こと を 知っている者 が 何人 いる だろう か。

そんな ロレンス の 思考 を よそ に 、ホロ は 今 まさに 湯 に 浸 かって いる ような ほんわか と した 口調 で そう 言って 、突然 小さく く しゅん と くしゃみ を した。

それ で ようやく ロレンス も 思い出す。 ホロ は 裸 だった。

「う う 、人 の 姿 は 嫌いで は ない が 、いかん せ ん 寒い。 毛 が 少な すぎる」

笑い ながら 言って から 、ホロ は テン の 毛皮 の 山 の 中 に もぐりこんだ。

ロレンス は ホロ の 様子 に 不覚 ながら 少し 笑って しまった が 、少し 気 に なる こと が あった ので 毛皮 の 中 に もぐって いく ホロ に 言葉 を 向けた。

「お前 、さっき も 形 が どう と か 言って た な。 どういう 意味 だ?

そして 、ロレンス の 質問 に ホロ は ぴょ こん と 毛皮 の 山 の 中 から 顔 だけ を 出した。

「まん ま の 意味 じゃ よ。 人 の 形 は 久しぶりに 取る。 可愛い じゃ ろ」

に こり と 笑い ながら そう 言う ので 、つい 胸中 で 同意 して しまった のだ が 、ロレンス は なんとか それ を 顔 に 出さ ず 口 を 開く。 どうにも この 娘 は ロレンス の 調子 を 狂わせる。

「余計な もの が ついてる だけ で お前 は人 だろう。 それとも 何 か。 馬 が人 に なる 話 みたいに 、犬 が人 に でも なった の か」

少し 挑発 する よう に そう 言う と 、ホロ は その 挑発 に 乗った と ばかり に おもむろに 立ち上がった。 それ から くるり と 背中 を 見せて 肩 越し に 振り向いて 、実に 堂々と 言い放った のだった。

「わっち は この 耳 と 尻尾 を 見て わかる とおり 、それはそれは 気高き 狼 よ。 仲間 も 、森 の 動物 も 、村 の人間 も わっち に は 一目 置いて いた。 この 、先っぽ だけ 白い 尻尾 は わっち の 自慢 じゃった。 これ を 見れば 皆 が 褒め称えた もの よ。 この 、尖った 耳 も 自慢 じゃった。 この 耳 は あらゆる 災厄 と あらゆる 噓 を 聞き漏らさ ず 、たくさんの 仲間 達 を たくさんの 危機 から 救って きた。 ヨイツ の 賢 狼 と 言えば 、それ は 他なら ぬ わっち の こと よ」

ふん 、と ホロ は 得意 げ に そう 言った もの の 、すぐに 寒 さ を 思い出した の か 体 を 縮めて 毛皮 の 下 に もぐって しまった。

ただ 、ロレンス は 少し 呆然と して いた。 ホロ の 裸 が 綺麗だった の も ある し 、腰 の 辺り に ついて いた 尻尾 は 、確かに 動いて いた のだ。

耳 だけ なら ず 、尻尾 まで も。

そして 、ロレンス は 先ほど の 遠吠え を 思い出す。 あれ は 紛れ もない 本物 の 狼 の 遠吠え だ。 だ と したら 、まさか 、本当に ホロ は 豊作 の 神 、狼 の ホロ?

「いや 、そんな まさか」

ロレンス は 自問 自答 する よう に 呟いて 、再度 ホロ の ほう を 見る。 対する ホロ は ロレンス の こと など 気 に せず に 、毛皮 の 中 で 温か そうに 目 を 細めて いる。 そんな 様子 は 猫 の よう に も 見え なく は ない が 、問題 は そんな こと で は ない。 ホロ は人 な の か そう でない の か。 それ こそ が 問題 だった。

悪魔 憑 き と 呼ば れる者 は 何も 見た目 が まともな人間 でない から 教会 に 見つかる と まずい ので は ない。 悪魔 憑 き と 呼ば れる者 達 は その 体 の 中 に 悪魔 や 精霊 を 宿して いる ため に 、往々 に して 災い の 源 と なる。 その ため に 教会 は 彼ら を 火 刑 に 処する よう に と 触れて 回って いる。

しかし 、もし ホロ が 何 か 動物 が 姿 を 変えた もの だ と したら 、たくさんの 昔話 や 言い伝え で は それ ら は 大抵人 に 幸運 を 授けたり 奇 蹟 を 起こしたり して くれる。

実際 、もしも ホロ が 本物 の ホロ である の なら 、小麦 取引 に これ 以上 心強い 味方 も いない だろう。

ロレンス は 、意識 を 頭 の 中 から ホロ へ と 向ける。

「ホロ 、と いった か」

「うん?

「お前 、自分 の こと を 狼 だ と 言った が」

「うむ」

「お前 に ついて いる の は 狼 の 耳 と 尻尾 だけ じゃない か。 本物 の 狼 の 化身 なら 、狼 の 姿 も 取れる はずだろう」

ロレンス が そう 言う と 、ホロ は 少し の 間 ぽか ん と して から 、ふと 何 か に 気 が ついた ような 顔 を した。

「ああ 、ぬし は わっち に 狼 の 姿 を 見せろ と?

ホロ の 言葉 に ロレンス は うなずいた が 、実のところ 少し 驚いて いた。

というのも 、てっきり ホロ は 困った 顔 を する か 、あからさまな 噓 を つく と 思った のだ。

しかし 、ホロ は その どちら も でも なく 、嫌 そうな 顔 を した。 本当 なら 軽く 狼 に 戻れる のだ が 、と か 下手な 言い訳 を する より も よほど 説得 力 の ある 嫌 そうな 顔 だ。 そして 、それ から はっきり と 言った。

「それ は 、嫌じゃ」

「な 、なんで だ」

「そっち こそ なんで じゃ」

不機嫌な 顔 で また も 逆に 問わ れ ロレンス は たじろいで しまう が 、ロレンス に とって ホロ が人 である か ない か は 実に 重要な 問題 な のだ。 たじろいだ 体 に 活 を 入れ 、なるべく 会話 の 主導 権 を 取れる よう に と 力 を こめて 口 を 開いた。

「お前 が人 なら 俺 は 教会 に お前 を 突き出そう と 思って いる。 悪魔 憑 き は 災い の 源 だから な。 しかし 、もしも お前 が 本当に 豊作 の 神 ホロ で 、自分 の こと を 狼 の 化身 だ と 言う の なら 、それ を 思いとどまって も いい」

もしも 本物 なら 、動物 の 化身 は 大抵 幸運 を もたらす 使者 と して 話 に 残って いる。 教会 に 突き出す の を 思いとどまる どころ か 、ぶどう 酒 と パン を 振る舞って も よい くらい だ。 が 、そう でない の なら 事態 は 逆転 する。

そして 、ロレンス の 言葉 に ホロ は ますます 嫌 そうに 顔 を ゆがめる と 、鼻 の 頭 に しわ を 寄せた のだった。

「俺 の 聞く 話 じゃ 、動物 の 化身 は 自在に 姿 を 変えられる そう じゃない か。 お前 が 本物 なら 、元 の 姿 に 戻れる だろう?

ホロ は 嫌 そうな 顔 を した まま ロレンス の 話 を 黙って 聞いて いた が 、やがて 小さく ため息 を つく と ゆっくり と 毛皮 の 中 から 体 を 起こした。

「教会 に は 何度 か ひどい 目 に あわされた から の。 突き出さ れる の は ごめん じゃ。 しかし の」

それ から もう 一 度 ため息 を ついて 、ホロ は 自分 の 尻尾 を 撫で ながら 続けた のだった。

「どの 化身 であって も 代償 なし に 姿 を 変える の は 無理じゃ。 ぬし ら も人相 を 変える に は 化粧 を する し 、体型 を 変える に は 食べ物 が 必要じゃ ろう」

「何 か 必要な の か」

「わっち の 場合 は わずかの 麦 か」

なんとなく 豊作 の 神っぽい その 代償 に ロレンス は 妙に 納得 して しまった が 、次の 瞬間 に ぎょっと した。

「それ か 、生き 血 じゃ な」

「生き ……血?

「それほど 量 は いら ぬ が な」

なんでもない こと の よう に 言う あたり が 、とても 思いつき の 噓 に 思え ず ロレンス は 固唾 を 飲んで しまった が 、ハッと して ホロ の 口元 に 目 を やった。 つい さっき 、ロレンス の 落とした 干し 肉 を 拾って かじった 時 に 見えた 、ホロ の 唇 の 下 に ある 二 本 の 牙。

「な ん じゃ 、臆した か や」

と 、そんな 様子 の ロレンス に 向かって ホロ が 苦笑い を する。 ロレンス は 反射 的に 「そんな わけ ある か 」と 答えて いた もの の 、ホロ は 明らかに その 反応 を 楽しんで いた。

しかし 、ホロ は そんな 笑み を やがて 消して 、視線 を ロレンス から ふい と そらす と 言った のだった。

「ぬし が そんな だ と 、なおさら 見せる の は 嫌じゃ」

「な 、なんで だ」

ロレンス は 馬鹿に された 気 が して つい 口調 を 強めて そう 尋ね 返した が 、ホロ は 相変わらず ロレンス の ほう から 視線 を 逸ら した まま ひどく 哀し げ な 口調 で 答えた のだった。

「ぬし は 必ず 恐れおののく から じゃ。 わっち の 姿 の 前 に 、人 も 動物 も 畏怖 の 眼差し を 持って 道 を あけ 、わっち を 特別な 存在 に 祭り上げる。 もう 、わっち は人 であって も 動物 であって も 、そんなふうに される の が 嫌な ん じゃ」

「お 、俺 が お前 の 姿 に 怖がる と でも」

「強 がり を 言う の なら 、せめて 震える 手 を 隠し ん す」

呆れる ような ホロ の 言葉 に ロレンス は つい 自分 の 手 を 見て しまって から 、しまった と 思った 時 に は 遅かった。

「く ふ。 ぬし は 正直者 じゃ の」

ホロ は 少し 楽し そうに そう 言った が 、ロレンス が 言い訳 を する 前 に すっと 表情 を 改める と 矢継ぎ早に 言葉 を 紡ぐ。

「けど 、わっち と して は ぬし が 正直者 である の なら 、狼 の 姿 を 見せ ぬ こと も ない。 さっき の ぬし が 言った 言葉 、本当 か や?

「さっき の?

「わっち が 狼 である の なら 、教会 に は 突き出さ ん」

「む……」

悪魔 憑 き の 中 に は 幻覚 を 使う者 も いる と 聞く。 だから それ だけ で は 即断 でき そうに なかった ので ロレンス は 口ごもった のだ が 、ホロ は それ を 見越して いた よう に 口 を 開いた。

「まあ 、わっち も人 と 動物 を 見る 目 に は 自信 が ある。 ぬし は きっと 約束 を 守って くれる 御 仁 じゃ ろう よ」

いたずらっぽい ホロ の その 物言い に 対し 、ロレンス は ますます 口ごもる しか ない。 そんな こと を 言われて は ここ で 言葉 を 翻す こと など できない から だ。 いい よう に 手玉 に 取られて いる の が ありあり と わかった が 、どう しよう も なかった。

「で は わずか ばかり 見せる が 、全身 は 難儀じゃ。 腕 だけ で 勘弁 して くりゃ れ」

ホロ は そう 言う と おもむろに 腕 を 荷台 の 隅っこ に 伸ばした。

何 か そういう 特殊な 格好 が 必要な の か と 思った の は 一瞬 の こと で 、すぐに ホロ の 行動 の 意味 が わかった。 荷台 の 隅 に 置いて おいた 麦 束 から 、麦 を 数 粒 つまんだ のだ。

「それ を どう する ん だ?

思わず そう 聞いて しまった ロレンス だった が 、ホロ は ロレンス が 言い 終える 前 に 手 に 持って いた 麦 を 口 に 放り込み 、まるで 丸薬 を 飲み下す よう に 目 を 閉じて 飲み込んだ。

籾殻 の ついた まま の 麦 など とても 食えた もの で は ない。 口 に 広がる 嫌な 苦味 を 想像 して ロレンス は 眉 根 に しわ を 寄せた が 、そんな もの は 次の 瞬間 に 吹き飛んだ。

「う 、う う……!

突然 ホロ が うなり 声 を あげ 、左腕 を 抱きかかえる よう に 押さえる と 毛皮 の 上 に 突っ伏した のだ。

とても 演技 に は 見えない それ に ロレンス が 慌てて 声 を かけよう と する と 、その 耳 に 異様な 音 が 飛び込んで きた。

ざ わざ わざわざ わ と いう 、たくさんの 鼠 が 森 の 中 を 走って いく ような 音 だ。 それ が 数 瞬 続いた か と 思う と 、次いで 柔らかい 土 の 中 に 足 を 突っ込んだ 時 の ような ズボッ と いう 鈍い 音 が した。

ロレンス は ただ 驚く だけ で 何も でき なかった。

そして 、その 直後 に は ホロ の あの 細い 腕 が 、体 に 不釣合いな ほど に 巨大な 獣 の 前足 に なって いた のだった。

「む ……ふう。 やはり 不 恰好じゃ の」

あまりに それ が 大きい ため 、おそらく 自分 の 力 で は 支えられない のだろう。 ホロ は 毛皮 の 上 に 肩 から 生えた 獣 の 前足 を 置いて 体 を 横たえた。

「どう じゃ 、信じて くれた か や」

それ から 、ロレンス の ほう を 見上げて そう 言った のだった。

「う ……む……」

しかし 、ロレンス は 返事 も でき ず 、何 度 か 目 を こすったり 頭 を 振ったり し ながら 何度 も それ を 見直した。

こげ茶色 の 毛 足 の 長い 毛 に 覆われた 、実に 見事な 前足 だ。 その 大き さ から 察する に 、その 足 を 持つ 体 は おそらく 馬 に 匹敵 する くらい の 巨大 さ だろう。 その 先端 に ついて いる 爪 など は 、女 が 麦 を 刈る 時 に 使う 鎌 ほど も あった。


狼 と 香辛料 01 (4) おおかみ||こうしんりょう Wolf and Spice 01 (4) Lobo y especias 01 (4) Loup et épices 01 (4) Lobo e Especiaria 01 (4) 狼与香料 01 (4)

ニョッヒラ 、と いう の は 今 でも ある 北 の 大地 の 温泉 街 で 、外国 の 王侯 貴族 も 時折 やってくる。 |||||いま|||きた||だいち||おんせん|がい||がいこく||おうこう|きぞく||ときおり| Nyohhira ist eine Stadt mit heißen Quellen im Norden des Landes, die noch heute existiert, und gelegentlich kommen ausländische Könige und Aristokraten hierher. Nyokhira is a spa town in the northern lands that still exists today, and foreign princes and aristocrats occasionally visit.

ただ 、この 近辺 で ニョッヒラ の こと を 知っている者 が 何人 いる だろう か。 ||きんぺん||||||しっている もの||なん り||| But how many people in the neighborhood know about Nyokhira?

そんな ロレンス の 思考 を よそ に 、ホロ は 今 まさに 湯 に 浸 かって いる ような ほんわか と した 口調 で そう 言って 、突然 小さく く しゅん と くしゃみ を した。 |||しこう||||||いま||ゆ||ひた|||||||くちょう|||いって|とつぜん|ちいさく|||||| While Lawrence was thinking about this, Horo said in a warm tone as if he was soaking in hot water, and suddenly sneezed with a small shudder.

それ で ようやく ロレンス も 思い出す。 |||||おもいだす This finally reminded Lawrence. ホロ は 裸 だった。 ||はだか| Holo was naked.

「う う 、人 の 姿 は 嫌いで は ない が 、いかん せ ん 寒い。 ||じん||すがた||きらいで|||||||さむい I don't mind the sight of people, but it's cold. 毛 が 少な すぎる」 け||すくな| There's too little hair."

笑い ながら 言って から 、ホロ は テン の 毛皮 の 山 の 中 に もぐりこんだ。 わらい||いって||||||けがわ||やま||なか|| After saying this with a laugh, he climbed into a pile of marten pelts.

ロレンス は ホロ の 様子 に 不覚 ながら 少し 笑って しまった が 、少し 気 に なる こと が あった ので 毛皮 の 中 に もぐって いく ホロ に 言葉 を 向けた。 ||||ようす||ふかく||すこし|わらって|||すこし|き|||||||けがわ||なか||||||ことば||むけた Lawrence smiled a little at the sight of Holo, but something was bothering him, so he turned to Holo as he slipped into his furs.

「お前 、さっき も 形 が どう と か 言って た な。 おまえ|||かた|||||いって|| You were talking about the shape earlier. どういう 意味 だ? |いみ| What do you mean?

そして 、ロレンス の 質問 に ホロ は ぴょ こん と 毛皮 の 山 の 中 から 顔 だけ を 出した。 |||しつもん|||||||けがわ||やま||なか||かお|||だした And when Lawrence asked him a question, Hollow poked his head out of the pile of furs.

「まん ま の 意味 じゃ よ。 |||いみ|| It means "as it should be. 人 の 形 は 久しぶりに 取る。 じん||かた||ひさしぶりに|とる It has been a long time since I took human form. 可愛い じゃ ろ」 かわいい|| He's cute.

に こり と 笑い ながら そう 言う ので 、つい 胸中 で 同意 して しまった のだ が 、ロレンス は なんとか それ を 顔 に 出さ ず 口 を 開く。 |||わらい|||いう|||きょうちゅう||どうい||||||||||かお||ださ||くち||あく I couldn't help but agree with him in my heart, but Lawrence managed to keep it out of his face and open his mouth. どうにも この 娘 は ロレンス の 調子 を 狂わせる。 ||むすめ||||ちょうし||くるわせる This girl makes Lawrence slur his words.

「余計な もの が ついてる だけ で お前 は人 だろう。 よけいな|||つい てる|||おまえ|は じん| You're just a person with an extra thing attached to you. それとも 何 か。 |なん| Or something. 馬 が人 に なる 話 みたいに 、犬 が人 に でも なった の か」 うま|が じん|||はなし||いぬ|が じん||||| Like the story of the horse becoming a man, or the dog becoming a man."

少し 挑発 する よう に そう 言う と 、ホロ は その 挑発 に 乗った と ばかり に おもむろに 立ち上がった。 すこし|ちょうはつ|||||いう|||||ちょうはつ||のった|||||たちあがった When I said this in a slightly provocative manner, Hollo took the challenge and stood up. それ から くるり と 背中 を 見せて 肩 越し に 振り向いて 、実に 堂々と 言い放った のだった。 ||||せなか||みせて|かた|こし||ふりむいて|じつに|どうどうと|いいはなった| He then turned around and looked over his shoulder, showing his back, and said, "I'm not going to let you down.

「わっち は この 耳 と 尻尾 を 見て わかる とおり 、それはそれは 気高き 狼 よ。 |||みみ||しっぽ||みて||||けだかき|おおかみ| As you can see from my ears and tail, I am a very noble wolf. 仲間 も 、森 の 動物 も 、村 の人間 も わっち に は 一目 置いて いた。 なかま||しげる||どうぶつ||むら|の にんげん|||||いちもく|おいて| His friends, the animals in the forest, and the people in the village all had their eyes on him. この 、先っぽ だけ 白い 尻尾 は わっち の 自慢 じゃった。 |さきっぽ||しろい|しっぽ||||じまん| I was proud of my white-tipped tail. これ を 見れば 皆 が 褒め称えた もの よ。 ||みれば|みな||ほめたたえた|| It's something everyone admires when they see it. この 、尖った 耳 も 自慢 じゃった。 |とがった|みみ||じまん| He was also proud of his pointed ears. この 耳 は あらゆる 災厄 と あらゆる 噓 を 聞き漏らさ ず 、たくさんの 仲間 達 を たくさんの 危機 から 救って きた。 |みみ|||さいやく|||||ききもらさ|||なかま|さとる|||きき||すくって| These ears have not heard a word of evil or a lie, and have saved many friends from many dangers. ヨイツ の 賢 狼 と 言えば 、それ は 他なら ぬ わっち の こと よ」 ||かしこ|おおかみ||いえば|||ほかなら||||| If anyone is the wise wolf of the Yotes, it's none other than myself."

ふん 、と ホロ は 得意 げ に そう 言った もの の 、すぐに 寒 さ を 思い出した の か 体 を 縮めて 毛皮 の 下 に もぐって しまった。 ||||とくい||||いった||||さむ|||おもいだした|||からだ||ちぢめて|けがわ||した||| Hm," he said proudly, but then he remembered how cold it was and immediately shrank back under his fur.

ただ 、ロレンス は 少し 呆然と して いた。 |||すこし|ぼうぜんと|| Lawrence was a little stunned. ホロ の 裸 が 綺麗だった の も ある し 、腰 の 辺り に ついて いた 尻尾 は 、確かに 動いて いた のだ。 ||はだか||きれいだった|||||こし||あたり||||しっぽ||たしかに|うごいて|| The tail around her waist was definitely moving.

耳 だけ なら ず 、尻尾 まで も。 みみ||||しっぽ|| Not only the ears, but also the tail.

そして 、ロレンス は 先ほど の 遠吠え を 思い出す。 |||さきほど||とおぼえ||おもいだす Lawrence then recalls his earlier howl. あれ は 紛れ もない 本物 の 狼 の 遠吠え だ。 ||まぎれ|も ない|ほんもの||おおかみ||とおぼえ| It was unmistakably the howl of a real wolf. だ と したら 、まさか 、本当に ホロ は 豊作 の 神 、狼 の ホロ? ||||ほんとうに|||ほうさく||かみ|おおかみ|| If so, then, is Holo really Holo the wolf, the god of abundance?

「いや 、そんな まさか」 No, no, no. No way.

ロレンス は 自問 自答 する よう に 呟いて 、再度 ホロ の ほう を 見る。 ||じもん|じとう||||つぶやいて|さいど|||||みる Lawrence muttered to himself and looked at Holo again. 対する ホロ は ロレンス の こと など 気 に せず に 、毛皮 の 中 で 温か そうに 目 を 細めて いる。 たいする|||||||き||せ ず||けがわ||なか||あたたか|そう に|め||ほそめて| Hollo, on the other hand, is not concerned about Lawrence, and squints warmly into the fur. そんな 様子 は 猫 の よう に も 見え なく は ない が 、問題 は そんな こと で は ない。 |ようす||ねこ|||||みえ|||||もんだい|||||| Such an appearance may look like a cat, but that is not the problem. ホロ は人 な の か そう でない の か。 |は じん|||||で ない|| Is Holo a person or not? それ こそ が 問題 だった。 |||もんだい| That was the problem.

悪魔 憑 き と 呼ば れる者 は 何も 見た目 が まともな人間 でない から 教会 に 見つかる と まずい ので は ない。 あくま|ひょう|||よば|れる もの||なにも|みため||まともな にんげん|で ない||きょうかい||みつかる||||| The person who is called demon-possessed is not a normal looking human being and should not be found by the Church. 悪魔 憑 き と 呼ば れる者 達 は その 体 の 中 に 悪魔 や 精霊 を 宿して いる ため に 、往々 に して 災い の 源 と なる。 あくま|ひょう|||よば|れる もの|さとる|||からだ||なか||あくま||せいれい||やどして||||おうおう|||わざわい||げん|| Those who are demon-possessed often become a source of misfortune because they have demons or spirits in their bodies. その ため に 教会 は 彼ら を 火 刑 に 処する よう に と 触れて 回って いる。 |||きょうかい||かれら||ひ|けい||しょする||||ふれて|まわって| For this reason, the Church has been going around asking that they be burned.

しかし 、もし ホロ が 何 か 動物 が 姿 を 変えた もの だ と したら 、たくさんの 昔話 や 言い伝え で は それ ら は 大抵人 に 幸運 を 授けたり 奇 蹟 を 起こしたり して くれる。 ||||なん||どうぶつ||すがた||かえた||||||むかしばなし||いいつたえ||||||たいてい じん||こううん||さずけたり|き|あと||おこしたり|| But if the holos are some kind of animal in disguise, many folktales and legends tell us that they usually bring people good luck or perform miracles.

実際 、もしも ホロ が 本物 の ホロ である の なら 、小麦 取引 に これ 以上 心強い 味方 も いない だろう。 じっさい||||ほんもの||||||こむぎ|とりひき|||いじょう|こころづよい|みかた||| In fact, if Hollo is the real Hollo, he could not be a more reassuring ally in the wheat trade.

ロレンス は 、意識 を 頭 の 中 から ホロ へ と 向ける。 ||いしき||あたま||なか|||||むける Lawrence turns his attention from his head to the holo.

「ホロ 、と いった か」 "Holo, did you say?"

「うん?

「お前 、自分 の こと を 狼 だ と 言った が」 おまえ|じぶん||||おおかみ|||いった| You called yourself a wolf.

「うむ」

「お前 に ついて いる の は 狼 の 耳 と 尻尾 だけ じゃない か。 おまえ||||||おおかみ||みみ||しっぽ||じゃ ない| You have nothing on you but wolf's ears and tail. 本物 の 狼 の 化身 なら 、狼 の 姿 も 取れる はずだろう」 ほんもの||おおかみ||けしん||おおかみ||すがた||とれる| If it's a real wolf incarnate, it should be able to take on the form of a wolf."

ロレンス が そう 言う と 、ホロ は 少し の 間 ぽか ん と して から 、ふと 何 か に 気 が ついた ような 顔 を した。 |||いう||||すこし||あいだ|||||||なん|||き||||かお|| When Lawrence said so, Horo looked blank for a moment and then suddenly looked as if he had noticed something.

「ああ 、ぬし は わっち に 狼 の 姿 を 見せろ と? |||||おおかみ||すがた||みせろ| "Oh, you want me to show you the wolf?

ホロ の 言葉 に ロレンス は うなずいた が 、実のところ 少し 驚いて いた。 ||ことば||||||じつのところ|すこし|おどろいて| Lawrence nodded at Hollo's words, but was actually a little surprised.

というのも 、てっきり ホロ は 困った 顔 を する か 、あからさまな 噓 を つく と 思った のだ。 ||||こまった|かお|||||||||おもった| I had thought that Holo would either look embarrassed or blatantly lie.

しかし 、ホロ は その どちら も でも なく 、嫌 そうな 顔 を した。 ||||||||いや|そう な|かお|| However, Horo was neither of those things, and looked disgusted. 本当 なら 軽く 狼 に 戻れる のだ が 、と か 下手な 言い訳 を する より も よほど 説得 力 の ある 嫌 そうな 顔 だ。 ほんとう||かるく|おおかみ||もどれる|||||へたな|いい わけ||||||せっとく|ちから|||いや|そう な|かお| It's a much more convincing look of disgust than the lame excuse, "If it's true, I could just as easily go back to being a wolf. そして 、それ から はっきり と 言った。 |||||いった And then he said it clearly.

「それ は 、嫌じゃ」 ||いやじゃ I don't like that.

「な 、なんで だ」 What? Why?

「そっち こそ なんで じゃ」 You're sneaking around. Why?

不機嫌な 顔 で また も 逆に 問わ れ ロレンス は たじろいで しまう が 、ロレンス に とって ホロ が人 である か ない か は 実に 重要な 問題 な のだ。 ふきげんな|かお||||ぎゃくに|とわ|||||||||||が じん||||||じつに|じゅうような|もんだい|| Lawrence flinched when he was asked the opposite question again with a sullen look on his face, but for Lawrence, whether or not Hollow was a person was a very important question. たじろいだ 体 に 活 を 入れ 、なるべく 会話 の 主導 権 を 取れる よう に と 力 を こめて 口 を 開いた。 |からだ||かつ||いれ||かいわ||しゅどう|けん||とれる||||ちから|||くち||あいた I tried to energize my floundering body and open my mouth with as much effort as possible to take the initiative in the conversation.

「お前 が人 なら 俺 は 教会 に お前 を 突き出そう と 思って いる。 おまえ|が じん||おれ||きょうかい||おまえ||つきで そう||おもって| If you are a person, I'm thinking of turning you in to the church. 悪魔 憑 き は 災い の 源 だから な。 あくま|ひょう|||わざわい||げん|| Demonic possession is a source of evil. しかし 、もしも お前 が 本当に 豊作 の 神 ホロ で 、自分 の こと を 狼 の 化身 だ と 言う の なら 、それ を 思いとどまって も いい」 ||おまえ||ほんとうに|ほうさく||かみ|||じぶん||||おおかみ||けしん|||いう|||||おもいとどまって|| But if you really are Horo, the god of abundance, and you claim to be a wolf incarnate, then you may be forgiven.

もしも 本物 なら 、動物 の 化身 は 大抵 幸運 を もたらす 使者 と して 話 に 残って いる。 |ほんもの||どうぶつ||けしん||たいてい|こううん|||ししゃ|||はなし||のこって| If real, the animal incarnations are usually recounted as messengers of good fortune. 教会 に 突き出す の を 思いとどまる どころ か 、ぶどう 酒 と パン を 振る舞って も よい くらい だ。 きょうかい||つきだす|||おもいとどまる||||さけ||ぱん||ふるまって|||| They would not only be discouraged from turning him in to the church, but they would even be allowed to serve him wine and bread. が 、そう でない の なら 事態 は 逆転 する。 ||で ない|||じたい||ぎゃくてん| If not, the situation is reversed.

そして 、ロレンス の 言葉 に ホロ は ますます 嫌 そうに 顔 を ゆがめる と 、鼻 の 頭 に しわ を 寄せた のだった。 |||ことば|||||いや|そう に|かお||||はな||あたま||||よせた| At Lawrence's words, Hollo's face twisted in disgust, and he wrinkled the bridge of his nose.

「俺 の 聞く 話 じゃ 、動物 の 化身 は 自在に 姿 を 変えられる そう じゃない か。 おれ||きく|はなし||どうぶつ||けしん||じざいに|すがた||かえられる||じゃ ない| I've heard that animal incarnations can change their forms at will. お前 が 本物 なら 、元 の 姿 に 戻れる だろう? おまえ||ほんもの||もと||すがた||もどれる| If you're real, you can go back to the way you were, right?

ホロ は 嫌 そうな 顔 を した まま ロレンス の 話 を 黙って 聞いて いた が 、やがて 小さく ため息 を つく と ゆっくり と 毛皮 の 中 から 体 を 起こした。 ||いや|そう な|かお||||||はなし||だまって|きいて||||ちいさく|ためいき||||||けがわ||なか||からだ||おこした Holo listened to Lawrence's story in silence with a disgusted look on his face, but then sighed a little and slowly lifted himself out of his fur.

「教会 に は 何度 か ひどい 目 に あわされた から の。 きょうかい|||なんど|||め|||| The church has done me wrong on several occasions," he said. 突き出さ れる の は ごめん じゃ。 つきで さ||||| I don't want to be pushed out. しかし の」 But..."

それ から もう 一 度 ため息 を ついて 、ホロ は 自分 の 尻尾 を 撫で ながら 続けた のだった。 |||ひと|たび|ためいき|||||じぶん||しっぽ||なで||つづけた| Then, with another sigh, he continued stroking his tail.

「どの 化身 であって も 代償 なし に 姿 を 変える の は 無理じゃ。 |けしん|||だいしょう|||すがた||かえる|||むりじゃ It is impossible for any incarnation to change its form without compensation. ぬし ら も人相 を 変える に は 化粧 を する し 、体型 を 変える に は 食べ物 が 必要じゃ ろう」 ||も にんそう||かえる|||けしょう||||たいけい||かえる|||たべもの||ひつようじゃ| You need makeup to change your looks, and food to change your figure.

「何 か 必要な の か」 なん||ひつような|| What do you need?

「わっち の 場合 は わずかの 麦 か」 ||ばあい|||むぎ| In my case, a little bit of wheat.

なんとなく 豊作 の 神っぽい その 代償 に ロレンス は 妙に 納得 して しまった が 、次の 瞬間 に ぎょっと した。 |ほうさく||しんっぽい||だいしょう||||みょうに|なっとく||||つぎの|しゅんかん||| Lawrence was strangely convinced by this somewhat god-like price for a bountiful harvest, but the next moment he was startled.

「それ か 、生き 血 じゃ な」 ||いき|ち|| Or it's life blood.

「生き ……血? いき|ち Live ...... blood?

「それほど 量 は いら ぬ が な」 |りょう||||| You don't need that much.

なんでもない こと の よう に 言う あたり が 、とても 思いつき の 噓 に 思え ず ロレンス は 固唾 を 飲んで しまった が 、ハッと して ホロ の 口元 に 目 を やった。 |||||いう||||おもいつき||||おもえ||||かたず||のんで|||はっと||||くちもと||め|| Lawrence gulped hard, as if it was nothing at all, but then he looked at Holo's mouth. つい さっき 、ロレンス の 落とした 干し 肉 を 拾って かじった 時 に 見えた 、ホロ の 唇 の 下 に ある 二 本 の 牙。 ||||おとした|ほし|にく||ひろって||じ||みえた|||くちびる||した|||ふた|ほん||きば The two fangs under his lips that I saw when I picked up the dried meat that Lawrence had dropped and chewed on it a moment ago.

「な ん じゃ 、臆した か や」 |||おくした|| Well, then, you're in for a rude awakening.

と 、そんな 様子 の ロレンス に 向かって ホロ が 苦笑い を する。 ||ようす||||むかって|||にがわらい|| Hollo smiles bitterly at Lawrence as he looks at him. ロレンス は 反射 的に 「そんな わけ ある か 」と 答えて いた もの の 、ホロ は 明らかに その 反応 を 楽しんで いた。 ||はんしゃ|てきに||||||こたえて||||||あきらかに||はんのう||たのしんで| Although Lawrence reflexively replied, "Of course not," Hollo was clearly enjoying the reaction.

しかし 、ホロ は そんな 笑み を やがて 消して 、視線 を ロレンス から ふい と そらす と 言った のだった。 ||||えみ|||けして|しせん||||||||いった| However, Horo's smile eventually faded and he turned his gaze away from Lawrence and said, "I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry.

「ぬし が そんな だ と 、なおさら 見せる の は 嫌じゃ」 ||||||みせる|||いやじゃ I'd hate to see you like that, even more so.

「な 、なんで だ」 What? Why?

ロレンス は 馬鹿に された 気 が して つい 口調 を 強めて そう 尋ね 返した が 、ホロ は 相変わらず ロレンス の ほう から 視線 を 逸ら した まま ひどく 哀し げ な 口調 で 答えた のだった。 ||ばかに||き||||くちょう||つよめて||たずね|かえした||||あいかわらず|||||しせん||はやら||||かなし|||くちょう||こたえた| Lawrence felt like a fool and asked in a stronger tone, but Hollow replied in a very sad tone while still looking away from Lawrence.

「ぬし は 必ず 恐れおののく から じゃ。 ||かならず|おそれおののく|| "Because you will surely be terrified. わっち の 姿 の 前 に 、人 も 動物 も 畏怖 の 眼差し を 持って 道 を あけ 、わっち を 特別な 存在 に 祭り上げる。 ||すがた||ぜん||じん||どうぶつ||いふ||まなざし||もって|どう|||||とくべつな|そんざい||まつりあげる People and animals alike open their eyes in awe at the sight of Wacchi, and celebrate him as a special being. もう 、わっち は人 であって も 動物 であって も 、そんなふうに される の が 嫌な ん じゃ」 ||は じん|||どうぶつ||||さ れる|||いやな|| I don't like it when people, human or animal, treat me that way anymore.

「お 、俺 が お前 の 姿 に 怖がる と でも」 |おれ||おまえ||すがた||こわがる|| "Oh, you think I'm scared of you?"

「強 がり を 言う の なら 、せめて 震える 手 を 隠し ん す」 つよ|||いう||||ふるえる|て||かくし|| "If you insist, at least hide your trembling hands."

呆れる ような ホロ の 言葉 に ロレンス は つい 自分 の 手 を 見て しまって から 、しまった と 思った 時 に は 遅かった。 あきれる||||ことば|||||じぶん||て||みて|||||おもった|じ|||おそかった At Hollo's astonished words, Lawrence looked at his own hand, and by the time he realized what had happened, it was too late.

「く ふ。 I'm not sure I'm going to be able to do it. ぬし は 正直者 じゃ の」 ||しょうじき しゃ|| You are an honest man.

ホロ は 少し 楽し そうに そう 言った が 、ロレンス が 言い訳 を する 前 に すっと 表情 を 改める と 矢継ぎ早に 言葉 を 紡ぐ。 ||すこし|たのし|そう に||いった||||いい わけ|||ぜん|||ひょうじょう||あらためる||やつぎばやに|ことば||つむぐ Hollo said this with some amusement, but before Lawrence could make any excuses, he quickly changed his expression and spun a string of words.

「けど 、わっち と して は ぬし が 正直者 である の なら 、狼 の 姿 を 見せ ぬ こと も ない。 |||||||しょうじき しゃ||||おおかみ||すがた||みせ|||| But if you are an honest man, I will not let the wolf out of the bag. さっき の ぬし が 言った 言葉 、本当 か や? ||||いった|ことば|ほんとう|| Is it true what the cat just said?

「さっき の? Just now?

「わっち が 狼 である の なら 、教会 に は 突き出さ ん」 ||おおかみ||||きょうかい|||つきで さ| If we are wolves, we will not be thrust into the church.

「む……」

悪魔 憑 き の 中 に は 幻覚 を 使う者 も いる と 聞く。 あくま|ひょう|||なか|||げんかく||つかう もの||||きく I have heard that some demonic possessions use illusions. だから それ だけ で は 即断 でき そうに なかった ので ロレンス は 口ごもった のだ が 、ホロ は それ を 見越して いた よう に 口 を 開いた。 |||||そくだん||そう に|||||くちごもった|||||||みこして||||くち||あいた So, Lawrence was reluctant to make a quick decision, but Holloway seemed to have anticipated this and opened his mouth.

「まあ 、わっち も人 と 動物 を 見る 目 に は 自信 が ある。 ||も じん||どうぶつ||みる|め|||じしん|| Well, I have confidence in my ability to look at people and animals. ぬし は きっと 約束 を 守って くれる 御 仁 じゃ ろう よ」 |||やくそく||まもって||ご|しとし||| I'm sure you are a man of your word.

いたずらっぽい ホロ の その 物言い に 対し 、ロレンス は ますます 口ごもる しか ない。 ||||ものいい||たいし||||くちごもる|| In response to Hollo's mischievous tone, Lawrence could only clam up more and more. そんな こと を 言われて は ここ で 言葉 を 翻す こと など できない から だ。 |||いわれて||||ことば||ひるがえす|||でき ない|| I am not going to change my mind here. いい よう に 手玉 に 取られて いる の が ありあり と わかった が 、どう しよう も なかった。 |||てだま||とられて||||||||||| I could clearly see that I was being played for a fool, but there was nothing I could do about it. Percebi claramente que estava a ser feito de parvo, mas não havia nada que pudesse fazer.

「で は わずか ばかり 見せる が 、全身 は 難儀じゃ。 ||||みせる||ぜんしん||なんぎじゃ He said, "You can see a little bit of me, but the whole body is a challenge. 腕 だけ で 勘弁 して くりゃ れ」 うで|||かんべん||| Just give me a break with the arm."

ホロ は そう 言う と おもむろに 腕 を 荷台 の 隅っこ に 伸ばした。 |||いう|||うで||にだい||すみっこ||のばした Hollo then stretched out his arms to the corner of the cart.

何 か そういう 特殊な 格好 が 必要な の か と 思った の は 一瞬 の こと で 、すぐに ホロ の 行動 の 意味 が わかった。 なん|||とくしゅな|かっこう||ひつような||||おもった|||いっしゅん|||||||こうどう||いみ|| It was only for a moment that I wondered if such a special appearance was necessary, and soon I understood the meaning of Hollo's actions. 荷台 の 隅 に 置いて おいた 麦 束 から 、麦 を 数 粒 つまんだ のだ。 にだい||すみ||おいて||むぎ|たば||むぎ||すう|つぶ|| He picked up a few grains of wheat from a bundle of wheat in the corner of the truck bed.

「それ を どう する ん だ? What are you going to do with it?

思わず そう 聞いて しまった ロレンス だった が 、ホロ は ロレンス が 言い 終える 前 に 手 に 持って いた 麦 を 口 に 放り込み 、まるで 丸薬 を 飲み下す よう に 目 を 閉じて 飲み込んだ。 おもわず||きいて|||||||||いい|おえる|ぜん||て||もって||むぎ||くち||ほうりこみ||がんやく||のみくだす|||め||とじて|のみこんだ Before Lawrence could finish, Horo popped a handful of barley into his mouth and swallowed it down with his eyes closed, as if he were swallowing a pill.

籾殻 の ついた まま の 麦 など とても 食えた もの で は ない。 もみがら|||||むぎ|||くえた|||| Wheat with the hulls still on it is very inedible. 口 に 広がる 嫌な 苦味 を 想像 して ロレンス は 眉 根 に しわ を 寄せた が 、そんな もの は 次の 瞬間 に 吹き飛んだ。 くち||ひろがる|いやな|にがみ||そうぞう||||まゆ|ね||||よせた|||||つぎの|しゅんかん||ふきとんだ The thought of the unpleasant bitterness in his mouth caused Lawrence to wrinkle his brow, but that was quickly dispelled.

「う 、う う……!

突然 ホロ が うなり 声 を あげ 、左腕 を 抱きかかえる よう に 押さえる と 毛皮 の 上 に 突っ伏した のだ。 とつぜん||||こえ|||さわん||だきかかえる|||おさえる||けがわ||うえ||つっふくした| Suddenly, Holo groaned and fell down on his furs, holding his left arm as if he was trying to hold it.

とても 演技 に は 見えない それ に ロレンス が 慌てて 声 を かけよう と する と 、その 耳 に 異様な 音 が 飛び込んで きた。 |えんぎ|||みえ ない|||||あわてて|こえ|||||||みみ||いような|おと||とびこんで| Lawrence was about to call out in a panic, but a strange sound caught his ear.

ざ わざ わざわざ わ と いう 、たくさんの 鼠 が 森 の 中 を 走って いく ような 音 だ。 |||||||ねずみ||しげる||なか||はしって|||おと| It sounds like a lot of rats running through the forest. それ が 数 瞬 続いた か と 思う と 、次いで 柔らかい 土 の 中 に 足 を 突っ込んだ 時 の ような ズボッ と いう 鈍い 音 が した。 ||すう|またた|つづいた|||おもう||ついで|やわらかい|つち||なか||あし||つっこんだ|じ||||||にぶい|おと|| It lasted for a few moments, and then there was a dull thud, as if someone had stuck their foot in soft earth.

ロレンス は ただ 驚く だけ で 何も でき なかった。 |||おどろく|||なにも|| Lawrence could do nothing but be amazed.

そして 、その 直後 に は ホロ の あの 細い 腕 が 、体 に 不釣合いな ほど に 巨大な 獣 の 前足 に なって いた のだった。 ||ちょくご||||||ほそい|うで||からだ||ふつりあいな|||きょだいな|けだもの||まえあし|||| Immediately afterwards, Holo's slender arms became the paws of a beast so huge that they were disproportionate to his body.

「む ……ふう。 I'm going to try to make it look like this: "....... やはり 不 恰好じゃ の」 |ふ|かっこうじゃ| It's still ugly.

あまりに それ が 大きい ため 、おそらく 自分 の 力 で は 支えられない のだろう。 |||おおきい|||じぶん||ちから|||ささえられ ない| It is so large that he probably cannot support it with his own strength. ホロ は 毛皮 の 上 に 肩 から 生えた 獣 の 前足 を 置いて 体 を 横たえた。 ||けがわ||うえ||かた||はえた|けだもの||まえあし||おいて|からだ||よこたえた Holo lay down on the fur with the paws of the beast growing out of his shoulders.

「どう じゃ 、信じて くれた か や」 ||しんじて||| Well, then, do you believe me?

それ から 、ロレンス の ほう を 見上げて そう 言った のだった。 ||||||みあげて||いった| Then he looked up at Lawrence and said, "I'm sorry.

「う ……む……」

しかし 、ロレンス は 返事 も でき ず 、何 度 か 目 を こすったり 頭 を 振ったり し ながら 何度 も それ を 見直した。 |||へんじ||||なん|たび||め|||あたま||ふったり|||なんど||||みなおした But Lawrence could not respond, so he looked at it again and again, rubbing his eyes and shaking his head.

こげ茶色 の 毛 足 の 長い 毛 に 覆われた 、実に 見事な 前足 だ。 こげちゃいろ||け|あし||ながい|け||おおわれた|じつに|みごとな|まえあし| The dark brown fur is covered with long, dark hair, and the paws are truly magnificent. その 大き さ から 察する に 、その 足 を 持つ 体 は おそらく 馬 に 匹敵 する くらい の 巨大 さ だろう。 |おおき|||さっする|||あし||もつ|からだ|||うま||ひってき||||きょだい|| From its size, I would guess that the body with its legs is probably as huge as a horse's. その 先端 に ついて いる 爪 など は 、女 が 麦 を 刈る 時 に 使う 鎌 ほど も あった。 |せんたん||||つめ|||おんな||むぎ||かる|じ||つかう|かま||| The claws on the end of the blade were as long as the sickles used by women to mow the wheat.