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影踏み (Shadowfall by Hideo Yokoyama), 消息:2

消息:2

外 は 風 だった 。 遥か 稜線 の 残照 を ムクドリ の 大群 が 遮って いる 。 真壁 は 路地 の 屋台 で タコ焼き を 包ま せた 。

《 次 は どこ ? し ょぼ くれた 声 だった 。

〈 サツ だ 。 発信 機 の 件 を 確認 して おく 〉

《 ふ ー ん ―― それ だけ ? 〈 女 の 件 も 聞く 〉

《 やっぱり ね 》

〈 興味 が ない の なら しばらく 寝て ろ 〉

県庁 の 東南 の 国道 沿い 、 県 都 を 護 る 雁 谷 署 は もう 当直 態勢 に 入って いた 。 玄関 付近 に 手持ち 無 沙汰 の 制服 が 見えた ので 、 真壁 は 裏 の 駐車 場 に 回り 、 被疑者 押 送 用 の 外 階段 を 上って 鉄 扉 を 押し 開いた 。 煙草 の 煙 が もうもう と 立ちこめる 刑事 一 課 に は 二十 人 ほど の 私服 が いて 、 それ が 幾 つ か の 塊 に 分かれて 頭 を 突き合わせて いた 。

真壁 は 真っ直ぐ 奥 の デスク に 向かった 。

「 聡 介 ――」

声 を 掛ける と 、 パンチ パーマ の 角張った 顔 が 驚く でも なく 振り向いた 。 同じ 係 の 若い 顔 が 二 つ 、 こちら は 相当に 驚いた 顔 で 真壁 を 見た 。

吉川 聡 介 は その パンチ パーマ の 頭 を ゴリゴリ 掻き ながら 無表情で 立ち上がり 、 真壁 の 肩 を 抱く ように して 若手 に 背 を 向ける と 、 押し殺した 声 を 外 耳 道 に 吹き込んで きた 。

「 二度と 名前 で 呼んで み や がれ 、 首 の 骨 ぇ 叩き 折って やる ぞ ! この 男 も 変わら ない 。 鬼瓦 の 面 相 と クルクル よく 回る 頭 で 小学校 時代 から 雁 谷本 町 界隈 の ボス だった 。 級友 を 従え 駄菓子 屋 狙い の 万引き 団 を 結成 し 、 真壁 と 啓二 は いつも 見張り 役 を やらさ れた 。

「 食って くれ 」

真壁 が 包み を 突き出す と 、 吉川 は 真壁 の 肩 を 抱いた まま 振り返り 、 打って変わって にこやかに 「 出所 挨拶 だ そうだ 」 と 若手 に 歯 を 見せた 。 が 、 それ は 一瞬 の こと で 、 次に は また 厚かましい 手 で 強引に 真壁 の 体 の 向き を 変え させ 、 衝立 の ある 奥 の ソファ へ 引きずり込んだ 。 「 の この こ ツラ 出す 馬鹿 が どこ に いる よ 。 馬淵 の 係 が さっぱり で な 、 焦り まくって る んだ 。 お前 、 間違い なく 的に さ れる ぜ 」

その 馬淵 昭信 の 反り返った 般若 顔 が 部屋 の 対 角 に 置か れた ソファ に の 覗いて いた 。 吉川 と 階級 も 机 も 横 並び の 盗 犯 係長 だ 。 どこ の 所轄 も そう である ように 班 と 班 の 手柄 争い は 骨 肉 相 食む 的に 熾烈だ から 、 名 の ある 泥棒 の 出所 は 新たな

「 泥仕合 」 の 火種 と なる 。 まして や 来月 は 『 既届 盗 犯 等 検挙 推進 月間 』――。

「 で 、 何の 用 だ ? 時間 は とれ ねえ ぞ 」

吉川 は もう 貧乏 ゆすり を 始めて いた 。 真壁 は 口元 だけ 笑った 。

「 馬淵 の 心配 より 、 お前 の 懐具合 は どう な んだ 。 俺 を 的 に する 気 は ない の か 」

「 へ ッ ! 二度と ごめん だ ぜ 。 この クソ 野郎 、 黙秘 黙秘 で 俺 に 大 恥 かかせ や がって よ 」

「 その 時 の 話 を 聞か せろ 」

「 ああ ? 「 二 年 前 の 大石 団地 の ヤマ だ 」 吉川 は 真顔 に なった 。

「 いまさら 何 だ 」「 一一〇 番 を 受けた 時 、 どこ に いた ? 「 なんだ と ? 「 稲村 の 女房 が 一一〇 番 した 。 そう だった な ? 「 そう さ 。 だから 俺 たち が 駆けつけた んだろう が 」

「 来る の が 早 過ぎた 。 いくら なんでも な 」

「 わから ねえ 野郎 だ な 。 前 に も 言ったろう が 。 あん 時 たまたま 近場 を 警邏 中 だった んだ 。 そこ へ 一一〇 番 無線 が 飛び込んで ――」

「 俺 の 自転車 に 前もって 悪戯 して あった 。 違う か 」

吉川 の 顔色 が 変わった 。

今回 の 服役 で 得た 唯一 の 収穫 は マイクロ 発信 機 に 関する 情報 だった 。 地方 警察 でも 内々 に 予算 化 さ れ 、 本部 は もとより 一線 の 主だった 所轄 に も 配備 さ れた のだ と いう 話 を 受刑 者 の 一 人 から 聞いた 。

「 自転車 に 玩具 を 仕掛け 、 だから 俺 が 大石 団地 に 入った の を 知った 。 近場 で 張り込んで る 最中 に 稲村 の 家 から 一一〇 番 が 入った ―― そういう こと だった んじゃ ない の か 」

「 ふざけた こと ぬかす んじゃ ねえ 。 玩具って 何 だ よ ? そんな もん 知ら ねえ ぜ 俺 は 」

吉川 はしら を 切り 、 だが 半分 は 開き直って 言い 足した 。

「 あったら 使う だろう よ 。 盗っ人 の クズ 野郎 を ふん じば る ため なら 手段 は 選ば ねえ 」

「 ああ 、 覚えて おく 」

雁 谷 署 の 刑事 一 課 に も 発信 機 が 配備 されて いる 。 それ は 間違い な さ そうだった 。

真壁 は 吉川 を 見据えた 。

「 もう 一 つ 聞か せろ ―― 俺 が 入った 後 、 稲村 の 家 で 変わった こと は なかった か 」

「 なんで お前 が そんな こと 知り た がる ? 「 あった の か 」

吉川 は 訝 し げ に 真壁 を 見つめ 、 が 、 思い出した ように フッと 笑った 。

「 あそ こんち も お前 に 入られて ミソ が つい ち まったん だろう よ 。 たった の 五 日 後 に また 入ら れた ぜ 」

「 また ……? 手口 は 何 だ 」

「〝 宵 空き 〟 だ 。 いま 馬淵 の 係 が 追っ掛け 回して る タマ で な 」

「 他 に は 」

「 あ ? 「 他 に 稲村 の 家 で 騒ぎ は なかった か 」

「 おい 、 何 を 嗅いで る の か 知ら ん けど な 、 無駄だ ぜ 。 もう 稲村 の 家 なんて ねえ んだ よ 」

「 どういう 意味 だ 」

「 入ら れた 後 が もっと 大変で な 。 半年 もし ねえ うち に 旦那 が 保証人 で しくじって 家 屋敷 を 取ら れる わ 、 女房 と 離婚 する わ で ――」

と 、 衝立 の 端 から タコ焼き の 青海苔 を 歯 に つけた 若い の が 顔 だけ 覗かせた 。

「 係長 、 電話 です 」

おう 、 と 腰 を 浮か せた 吉川 を 、 真壁 の 手 が 引き留めた 。

「 稲村 の 女房 は 今 どこ に いる ? 「 そこ まで は 知ら ねえ よ 」

吉川 の 巨体 を 見送る と 、 すぐさま 中 耳 に 声 が した 。 笑い を こらえて いる 。

《 離婚 して た んだ ね 》

〈 らしい な 〉

《って こと は 生きて 別れた わけだ よ ね 》 〈 興味 が ない んじゃ なかった の か 〉 《 ない よ 。 修 兄 ィ も 興味 なく した ろ ? それ に は 答え ず 、 真壁 は 視線 を 壁 に 投げた 。 恭しく 額 に 納まった 『 警察 職員 の 信条 』 の すぐ 下 に 、 課 員 の 三 月 と 四 月 の 当直 予定 表 が 隠す でも なく 貼って ある 。 吉川 の 今月 の 泊まり は 、 三 、 九 、 十六 、 二十三 の 四 回 。 馬淵 は ……。 その 部下 たち は ……。

〈 啓二 ―― 全員 の を 刻 ん どけ 〉

《 あい よ 》

三十 秒 ほど みれば よかった 。 放っておけば 部屋 中 に 貼って ある 刷り物 すべて を 丸々 暗記 して しまう 。 それほど の 能力 を もち ながら 、 その 能力 を なにより 発揮 できた はずの 受験 教育 に ひょいと 背 を 向けた 。

《 はい 、 完了 》

真壁 は 腰 を 上げた 。 電話 に 出て いる パンチ パーマ の 後 頭部 に 一 瞥 を くれ 、 鉄 扉 へ 足 を 向けた 。 お だ を あげる 若手 の 向こう 、 対 角 の ソファ から 肌 で 感じる ほど の 視線 が 届いた 。 吉川 の 忠告 通り 、 馬淵 は かなり 飢えて いる 。 その 般若 顔 に 窪んだ 両眼 に は 、 投票 日 間近の 選挙 参謀 が 票読み を して いる か の ような 血走り が あった 。


消息:2 しょうそく Disappeared:2 Desaparecido: 2 Исчезли: 2 新聞:2

外 は 風 だった 。 がい||かぜ| It was windy outside. 遥か 稜線 の 残照 を ムクドリ の 大群 が 遮って いる 。 はるか|りょうせん||ざんしょう||むくどり||たいぐん||さえぎって| 真壁 は 路地 の 屋台 で タコ焼き を 包ま せた 。 まかべ||ろじ||やたい||たこやき||つつま| Makabe wrapped takoyaki at a stall in an alley. Makabe gói takoyaki tại một quầy hàng trong ngõ.

《 次 は どこ ? つぎ|| し ょぼ くれた 声 だった 。 |||こえ| It was a sloppy voice.

〈 サツ だ 。 さつ| <Satsu. 発信 機 の 件 を 確認 して おく 〉 はっしん|き||けん||かくにん|| Check the status of the transmitter>

《 ふ ー ん ―― それ だけ ? |-||| 《Hmm ――That's it? 〈 女 の 件 も 聞く 〉 おんな||けん||きく <Listen to women>

《 やっぱり ね 》 "Tôi đã nghĩ vậy"

〈 興味 が ない の なら しばらく 寝て ろ 〉 きょうみ||||||ねて| <If you are not interested, sleep for a while>

県庁 の 東南 の 国道 沿い 、 県 都 を 護 る 雁 谷 署 は もう 当直 態勢 に 入って いた 。 けんちょう||とうなん||こくどう|ぞい|けん|と||まもる||がん|たに|しょ|||とうちょく|たいせい||はいって| Along the national highway to the southeast of the prefectural office, the Kariya station, which protects the prefectural capital, was already on duty. 玄関 付近 に 手持ち 無 沙汰 の 制服 が 見えた ので 、 真壁 は 裏 の 駐車 場 に 回り 、 被疑者 押 送 用 の 外 階段 を 上って 鉄 扉 を 押し 開いた 。 げんかん|ふきん||てもち|む|さた||せいふく||みえた||まかべ||うら||ちゅうしゃ|じょう||まわり|ひぎしゃ|お|おく|よう||がい|かいだん||のぼって|くろがね|とびら||おし|あいた I saw a hand-held uniform near the entrance, so Makabe went to the back parking lot, climbed the outer stairs to push the suspect, and pushed the iron door open. 煙草 の 煙 が もうもう と 立ちこめる 刑事 一 課 に は 二十 人 ほど の 私服 が いて 、 それ が 幾 つ か の 塊 に 分かれて 頭 を 突き合わせて いた 。 たばこ||けむり||||たちこめる|けいじ|ひと|か|||にじゅう|じん|||しふく|||||いく||||かたまり||わかれて|あたま||つきあわせて| There were about twenty plain clothes in the Criminal Division, where the smoke of cigarettes was about to rise, and they were divided into several lumps and head-to-head.

真壁 は 真っ直ぐ 奥 の デスク に 向かった 。 まかべ||まっすぐ|おく||ですく||むかった Makabe headed straight to the desk in the back.

「 聡 介 ――」 あきら|かい "Satoshi-"

声 を 掛ける と 、 パンチ パーマ の 角張った 顔 が 驚く でも なく 振り向いた 。 こえ||かける||ぱんち|ぱーま||かくばった|かお||おどろく|||ふりむいた When I called out, the angular face of the punch perm turned around, not surprisingly. 同じ 係 の 若い 顔 が 二 つ 、 こちら は 相当に 驚いた 顔 で 真壁 を 見た 。 おなじ|かかり||わかい|かお||ふた||||そうとうに|おどろいた|かお||まかべ||みた There were two young faces of the same person, who looked at Makabe with a rather surprised face.

吉川 聡 介 は その パンチ パーマ の 頭 を ゴリゴリ 掻き ながら 無表情で 立ち上がり 、 真壁 の 肩 を 抱く ように して 若手 に 背 を 向ける と 、 押し殺した 声 を 外 耳 道 に 吹き込んで きた 。 きちかわ|あきら|かい|||ぱんち|ぱーま||あたま|||かき||むひょうじょうで|たちあがり|まかべ||かた||いだく|||わかて||せ||むける||おしころした|こえ||がい|みみ|どう||ふきこんで| Sousuke Yoshikawa stood up with no expression while scratching the head of the punch perm, and turned his back to the young man as if he was holding Makabe's shoulder, and he blew the killed voice into the ear canal.

「 二度と 名前 で 呼んで み や がれ 、 首 の 骨 ぇ 叩き 折って やる ぞ ! にどと|なまえ||よんで||||くび||こつ||たたき|おって|| "Call me by name again, I'll smash my neck bones! この 男 も 変わら ない 。 |おとこ||かわら| This guy doesn't change either. 鬼瓦 の 面 相 と クルクル よく 回る 頭 で 小学校 時代 から 雁 谷本 町 界隈 の ボス だった 。 おにがわら||おもて|そう||くるくる||まわる|あたま||しょうがっこう|じだい||がん|たにもと|まち|かいわい||ぼす| He has been the boss of the Goose Tanimoto-cho area since he was in elementary school because of the face of Onigawara and his spinning head. Anh ta là ông chủ của khu phố Kariya Honcho từ khi còn học tiểu học với khuôn mặt đầy nếp nhăn và cái đầu xoay tròn. 級友 を 従え 駄菓子 屋 狙い の 万引き 団 を 結成 し 、 真壁 と 啓二 は いつも 見張り 役 を やらさ れた 。 きゅうゆう||したがえ|だがし|や|ねらい||まんびき|だん||けっせい||まかべ||けいじ|||みはり|やく||| Following his classmates, he formed a shoplifting group aiming at a candy store, and Makabe and Keiji were always watching over.

「 食って くれ 」 くって| "Eat me"

真壁 が 包み を 突き出す と 、 吉川 は 真壁 の 肩 を 抱いた まま 振り返り 、 打って変わって にこやかに 「 出所 挨拶 だ そうだ 」 と 若手 に 歯 を 見せた 。 まかべ||つつみ||つきだす||きちかわ||まかべ||かた||いだいた||ふりかえり|うってかわって||しゅっしょ|あいさつ||そう だ||わかて||は||みせた When Makabe pushed out the wrapping, Yoshikawa looked back while holding Makabe's shoulder, and changed his mind and smiled, "It seems to be a greeting from the source," and showed his teeth to the young man. が 、 それ は 一瞬 の こと で 、 次に は また 厚かましい 手 で 強引に 真壁 の 体 の 向き を 変え させ 、 衝立 の ある 奥 の ソファ へ 引きずり込んだ 。 |||いっしゅん||||つぎに|||あつかましい|て||ごういんに|まかべ||からだ||むき||かえ|さ せ|ついたて|||おく||||ひきずりこんだ However, it was only for a moment, and then he forcibly turned the body of Makabe with a brazen hand and dragged it into the sofa in the back where the tsuitate was located. 「 の この こ ツラ 出す 馬鹿 が どこ に いる よ 。 ||||だす|ばか||||| "Where is the idiot who puts out this idiot?" 馬淵 の 係 が さっぱり で な 、 焦り まくって る んだ 。 まぶち||かかり|||||あせり||| Mabuchi's staff isn't refreshing, he's impatient. お前 、 間違い なく   的に さ れる ぜ 」 おまえ|まちがい||てきに||| You will definitely be the target. "

その 馬淵 昭信 の 反り返った 般若 顔 が 部屋 の 対 角 に 置か れた ソファ に の 覗いて いた 。 |まぶち|あきのぶ||そりかえった|はんにゃ|かお||へや||たい|かど||おか|||||のぞいて| The warped Hannya face of Akinobu Mabuchi was peeking into the sofa placed on the opposite corner of the room. 吉川 と 階級 も 机 も 横 並び の 盗 犯 係長 だ 。 きちかわ||かいきゅう||つくえ||よこ|ならび||ぬす|はん|かかりちょう| Yoshikawa and his class and desk are side by side, and he is the chief thief. どこ の 所轄 も そう である ように 班 と 班 の 手柄 争い は 骨 肉 相 食む 的に 熾烈だ から 、 名 の ある 泥棒 の 出所 は 新たな ||しょかつ|||||はん||はん||てがら|あらそい||こつ|にく|そう|はむ|てきに|しれつだ||な|||どろぼう||しゅっしょ||あらたな As with any jurisdiction, the team and the team's dispute over credit is fierce and bone-and-meat, so the source of the well-known thief is new.

「 泥仕合 」 の 火種 と なる 。 どろじあい||ひだね|| It becomes the kind of fire of "mud tie". まして や 来月 は 『 既届 盗 犯 等 検挙 推進 月間 』――。 ||らいげつ||がいとどけ|ぬす|はん|とう|けんきょ|すいしん|げっかん Furthermore, next month will be "Month for promoting the arrest of already-reported thieves, etc."

「 で 、 何の 用 だ ? |なんの|よう| 時間 は とれ ねえ ぞ 」 じかん|||| Bạn không thể dành thời gian."

吉川 は もう 貧乏 ゆすり を 始めて いた 。 きちかわ|||びんぼう|||はじめて| 真壁 は 口元 だけ 笑った 。 まかべ||くちもと||わらった

「 馬淵 の 心配 より 、 お前 の 懐具合 は どう な んだ 。 まぶち||しんぱい||おまえ||ふところぐあい|||| 俺 を 的 に する 気 は ない の か 」 おれ||てき|||き||||

「 へ ッ ! 二度と ごめん だ ぜ 。 にどと||| I'm sorry again. この クソ 野郎 、 黙秘 黙秘 で 俺 に 大 恥 かかせ や がって よ 」 |くそ|やろう|もくひ|もくひ||おれ||だい|はじ|||| This fucking bastard, keep silent, keep me ashamed of me. "

「 その 時 の 話 を 聞か せろ 」 |じ||はなし||きか| "Listen to the story at that time."

「 ああ ? 「 二 年 前 の 大石 団地 の ヤマ だ 」 吉川 は 真顔 に なった 。 ふた|とし|ぜん||おおいし|だんち||やま||きちかわ||まがお|| "It's Yama in the Oishi housing complex two years ago." Yoshikawa became a true face.

「 いまさら 何 だ 」「 一一〇 番 を 受けた 時 、 どこ に いた ? |なん||いちいち|ばん||うけた|じ||| "What's up now?" "Where were you when you received the 110th number?" 「 なんだ と ? " what ? 「 稲村 の 女房 が 一一〇 番 した 。 いなむら||にょうぼう||いちいち|ばん| そう だった な ? Was that so? 「 そう さ 。 "That's right. だから 俺 たち が 駆けつけた んだろう が 」 |おれ|||かけつけた||

「 来る の が 早 過ぎた 。 くる|||はや|すぎた "It was too early to come. いくら なんでも な 」

「 わから ねえ 野郎 だ な 。 ||やろう|| 前 に も 言ったろう が 。 ぜん|||いったろう| あん 時 たまたま 近場 を 警邏 中 だった んだ 。 |じ||ちかば||けいら|なか|| そこ へ 一一〇 番 無線 が 飛び込んで ――」 ||いちいち|ばん|むせん||とびこんで

「 俺 の 自転車 に 前もって 悪戯 して あった 。 おれ||じてんしゃ||まえもって|いたずら|| "I was mischievous on my bike in advance. 違う か 」 ちがう|

吉川 の 顔色 が 変わった 。 きちかわ||かおいろ||かわった Yoshikawa's complexion has changed.

今回 の 服役 で 得た 唯一 の 収穫 は マイクロ 発信 機 に 関する 情報 だった 。 こんかい||ふくえき||えた|ゆいいつ||しゅうかく|||はっしん|き||かんする|じょうほう| The only harvest I got from this prison sentence was information about micro-transmitters. 地方 警察 でも 内々 に 予算 化 さ れ 、 本部 は もとより 一線 の 主だった 所轄 に も 配備 さ れた のだ と いう 話 を 受刑 者 の 一 人 から 聞いた 。 ちほう|けいさつ||ないない||よさん|か|||ほんぶ|||いっせん||おもだった|しょかつ|||はいび||||||はなし||じゅけい|もの||ひと|じん||きいた I heard from one of the prisoners that the local police had been secretly budgeted and deployed not only to the headquarters but also to the main jurisdiction of the line.

「 自転車 に 玩具 を 仕掛け 、 だから 俺 が 大石 団地 に 入った の を 知った 。 じてんしゃ||がんぐ||しかけ||おれ||おおいし|だんち||はいった|||しった "I put a toy on my bicycle, so I knew I was in the Oishi housing complex. 近場 で 張り込んで る 最中 に 稲村 の 家 から 一一〇 番 が 入った ―― そういう こと だった んじゃ ない の か 」 ちかば||はりこんで||さい なか||いなむら||いえ||いちいち|ばん||はいった||||||| The number 110 came in from Inamura's house while I was staking in the vicinity. I think that was the case. "

「 ふざけた こと ぬかす んじゃ ねえ 。 "It's not a playful thing. 玩具って 何 だ よ ? がんぐ って|なん|| そんな もん 知ら ねえ ぜ 俺 は 」 ||しら|||おれ|

吉川 はしら を 切り 、 だが 半分 は 開き直って 言い 足した 。 きちかわ|||きり||はんぶん||ひらきなおって|いい|たした Yoshikawa cut off the legs, but half of them reopened and added.

「 あったら 使う だろう よ 。 |つかう|| "If there is, I will use it. 盗っ人 の クズ 野郎 を ふん じば る ため なら 手段 は 選ば ねえ 」 ぬすっと||くず|やろう|||||||しゅだん||えらば| If you want to get rid of the thief's crap, don't choose the means. "

「 ああ 、 覚えて おく 」 |おぼえて| "Oh, and remember this."

雁 谷 署 の 刑事 一 課 に も 発信 機 が 配備 されて いる 。 がん|たに|しょ||けいじ|ひと|か|||はっしん|き||はいび|さ れて| それ は 間違い な さ そうだった 。 ||まちがい|||そう だった

真壁 は 吉川 を 見据えた 。 まかべ||きちかわ||みすえた

「 もう 一 つ 聞か せろ ―― 俺 が 入った 後 、 稲村 の 家 で 変わった こと は なかった か 」 |ひと||きか||おれ||はいった|あと|いなむら||いえ||かわった|||| "Tell me one more thing--hasn't it changed at Inamura's house after I entered?"

「 なんで お前 が そんな こと 知り た がる ? |おまえ||||しり|| 「 あった の か 」 "Is it there?"

吉川 は 訝 し げ に 真壁 を 見つめ 、 が 、 思い出した ように フッと 笑った 。 きちかわ||いぶか||||まかべ||みつめ||おもいだした||ふっと|わらった Yoshikawa stared at Makabe with a suspicion, but laughed as he remembered.

「 あそ こんち も お前 に 入られて ミソ が つい ち まったん だろう よ 。 |||おまえ||はいら れて|みそ|||||| "I'm sure you got in and the miso got stuck. たった の 五 日 後 に また 入ら れた ぜ 」 ||いつ|ひ|あと|||はいら|| I came back only five days later. "

「 また ……? 手口 は 何 だ 」 てぐち||なん| What is the trick? "

「〝 宵 空き 〟 だ 。 よい|あき| "It's" evening vacant ". いま 馬淵 の 係 が 追っ掛け 回して る タマ で な 」 |まぶち||かかり||おっかけ|まわして||たま|| It's a ball that the person in charge of Mabuchi is chasing around now. "

「 他 に は 」 た||

「 あ ? 「 他 に 稲村 の 家 で 騒ぎ は なかった か 」 た||いなむら||いえ||さわぎ||| "Is there any other fuss at Inamura's house?"

「 おい 、 何 を 嗅いで る の か 知ら ん けど な 、 無駄だ ぜ 。 |なん||かいで||||しら||||むだだ| もう 稲村 の 家 なんて ねえ んだ よ 」 |いなむら||いえ|||| Inamura's house isn't there anymore. "

「 どういう 意味 だ 」 |いみ|

「 入ら れた 後 が もっと 大変で な 。 はいら||あと|||たいへんで| 半年 もし ねえ うち に 旦那 が 保証人 で しくじって 家 屋敷 を 取ら れる わ 、 女房 と 離婚 する わ で ――」 はんとし|||||だんな||ほしょうにん|||いえ|やしき||とら|||にょうぼう||りこん||| Half a year, if my husband messed up with a guarantor and took the house, I'm divorced from my wife. "

と 、 衝立 の 端 から タコ焼き の 青海苔 を 歯 に つけた 若い の が 顔 だけ 覗かせた 。 |ついたて||はし||たこやき||あおのり||は|||わかい|||かお||のぞかせた

「 係長 、 電話 です 」 かかりちょう|でんわ|

おう 、 と 腰 を 浮か せた 吉川 を 、 真壁 の 手 が 引き留めた 。 ||こし||うか||きちかわ||まかべ||て||ひきとめた Makabe's hand held back Yoshikawa, who lifted his hips.

「 稲村 の 女房 は 今 どこ に いる ? いなむら||にょうぼう||いま||| 「 そこ まで は 知ら ねえ よ 」 |||しら||

吉川 の 巨体 を 見送る と 、 すぐさま 中 耳 に 声 が した 。 きちかわ||きょたい||みおくる|||なか|みみ||こえ|| As soon as I saw off Yoshikawa's giant body, I heard a voice in my middle ear. 笑い を こらえて いる 。 わらい||| I'm holding back laughter.

《 離婚 して た んだ ね 》 りこん|||| 《You were divorced》

〈 らしい な 〉

《って こと は 生きて 別れた わけだ よ ね 》 〈 興味 が ない んじゃ なかった の か 〉 《 ない よ 。 |||いきて|わかれた||||きょうみ|||||||| 修 兄 ィ も 興味 なく した ろ ? おさむ|あに|||きょうみ||| それ に は 答え ず 、 真壁 は 視線 を 壁 に 投げた 。 |||こたえ||まかべ||しせん||かべ||なげた 恭しく 額 に 納まった 『 警察 職員 の 信条 』 の すぐ 下 に 、 課 員 の 三 月 と 四 月 の 当直 予定 表 が 隠す でも なく 貼って ある 。 うやうやしく|がく||おさまった|けいさつ|しょくいん||しんじょう|||した||か|いん||みっ|つき||よっ|つき||とうちょく|よてい|ひょう||かくす|||はって| 吉川 の 今月 の 泊まり は 、 三 、 九 、 十六 、 二十三 の 四 回 。 きちかわ||こんげつ||とまり||みっ|ここの|じゅうろく|にじゅうさん||よっ|かい 馬淵 は ……。 まぶち| その 部下 たち は ……。 |ぶか||

〈 啓二 ―― 全員 の を 刻 ん どけ 〉 けいじ|ぜんいん|||きざ|| <Keiji ――Engrave everyone's>

《 あい よ 》

三十 秒 ほど みれば よかった 。 さんじゅう|びょう||| I should have seen it for about 30 seconds. 放っておけば 部屋 中 に 貼って ある 刷り物 すべて を 丸々 暗記 して しまう 。 ほうっておけば|へや|なか||はって||すりもの|||まるまる|あんき|| それほど の 能力 を もち ながら 、 その 能力 を なにより 発揮 できた はずの 受験 教育 に ひょいと 背 を 向けた 。 ||のうりょく|||||のうりょく|||はっき|||じゅけん|きょういく|||せ||むけた

《 はい 、 完了 》 |かんりょう

真壁 は 腰 を 上げた 。 まかべ||こし||あげた 電話 に 出て いる パンチ パーマ の 後 頭部 に 一 瞥 を くれ 、 鉄 扉 へ 足 を 向けた 。 でんわ||でて||ぱんち|ぱーま||あと|とうぶ||ひと|べつ|||くろがね|とびら||あし||むけた お だ を あげる 若手 の 向こう 、 対 角 の ソファ から 肌 で 感じる ほど の 視線 が 届いた 。 ||||わかて||むこう|たい|かど||||はだ||かんじる|||しせん||とどいた 吉川 の 忠告 通り 、 馬淵 は かなり 飢えて いる 。 きちかわ||ちゅうこく|とおり|まぶち|||うえて| As Yoshikawa advised, Mabuchi is quite hungry. その 般若 顔 に 窪んだ 両眼 に は 、 投票 日 間近の 選挙 参謀 が 票読み を して いる か の ような 血走り が あった 。 |はんにゃ|かお||くぼんだ|りょうがん|||とうひょう|ひ|まぢかの|せんきょ|さんぼう||ひょうよみ|||||||ちばしり|| In both eyes, which were dented in the face of the prajna, there was a bloodshed as if the election counselor, who was about to vote, was reading the votes.