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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 04

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 04

4 開いた トランク

どこまでも 続く 闇 の トンネル の ような 夜道 。

── その 奥 に 、 パッと 幻 の ように 、 明るい 光 が 見えて 来た 。

「 ドライブ ・ イン だ 。

── 一休み して 行 くかい ? ハンドル を 握って いた 国 友 は 、 ちょっと 後ろ の 座席 を 振り返って 、 思わず 笑って しまった 。

もちろん 、 深夜 の 長い ドライブ で 、 疲れて は いる のだろう 。

それ に 、 若い のだ し ……。

佐々 本家 の 三 姉妹 は 、 互いに もた れ 合って 、 いとも 安らかに 眠り 込んで いた のである 。

「 このまま 行き ます か 」

と 、 少し スピード を 落し ながら 、 国 友 は 、 助手 席 に 座った 石垣 園子 を 見た 。

「 あと どの くらい かかり ます ? 「 そう です ね 、 たぶん この 様子 なら ……、 二 時間 は かから ない と 思い ます わ 」

と 、 園子 は 言って 、「 でも 、 ずっと 運転 を お 任せ して しまって 、 お 疲れ で は あり ませ ん ?

何 でしたら 、 あそこ で 一息 ついて 行か れたら ──」

「 そう です ね 」

国 友 も 、 無理 は 避け たかった 。

何といっても 、 大事な 夕 里子 ── いや 他の 二 人 だって 大事だ が ── を 乗せて いる のだ 。 事故 は 起し たく ない 。

「 じゃ 、 この 子 たち は 起して も 可哀そうだ 。

手っ取り早く コーヒー でも 飲んで 来 ましょう か 」

国 友 は 、 車 を ドライブ ・ イン の 前 に 寄せた 。

別に 眠気 が さして いる わけで は ない が 、 ここ で 少し 休んで おか ない と 、 これ から 山道 を 上る と いう のに 、 途中 で 眠く なって 来たら 、 大変だ 。

「 じゃ 、 私 も ──」

と 園子 が シートベルト を 外して 、「 少し お腹 が 空き ました わ 。

軽く 食べる もの を ──」

と 、 いきなり 後ろ の 座席 から 、

「 私 も !

と 声 が 上った 。

珠美 が 、 眠 そうな 目 を こすり ながら 、

「 私 も !

お腹 ── 空いた んだ もん 」

欠 伸し ながら も 主張 する 、 その 逞 し さ に 、 国 友 は 吹き出して しまった 。

「 珠美 ったら ……」

夕 里子 は 、 もた れて いた 珠美 が 起き上って 、 ガクッ と 頭 が 落ち 、 目 が 覚めて しまった のである 。

「 何 よ 、 夕 里子 姉ちゃん だって 、 起きた じゃ ない の 」

「 おいおい 、 こんな 所 で ケンカ する な よ 。

── 綾子 君 は ? 綾子 は ただ 一 人 、 我が 道 を 行く と いう 感じ で スヤスヤ と 眠り 込んで いる 。

「 お 姉ちゃん は だめ 。

低 血圧 で 、 起こして も 三十 分 ぐらい は ボーッ と して る から 」

「 そう か 。

じゃ 、 寝か せて おこう 」

「 しばらく は あったかい でしょ 」

と 、 夕 里子 も 少々 無責任に 、 それ でも 一応 自分 が 膝 に かけて いた 毛布 を 綾子 の 肩 に かけて やって から 、 車 の 外 へ 出た 。

「 ワッ !

思わず 声 を 上げる 、 空気 の 冷た さ !

まるで 都心 と は 違う 。

「 もう 、 かなり 山 の 中 だ から ね 」

と 言う 国 友 の 言葉 も 、 白い 息 に なって 風 に 流れて 行く 。

「 きっと 向 うは 雪 です わ 」

と 、 園子 が 言った 。

「 じゃ 、 中 へ 入り ましょう 」

── 小さな ドライブ ・ イン で 、 もちろん 大した もの は なかった が 、 それ でも 、 こんな 場所 なら 、 ホットドッグ も ごちそう に なる 。

みんな ホットドッグ と コーヒー を 取って 、 一 息 つく 。

「── や あ 、 こりゃ 石垣 さん の 奥さん 」

── カウンター の 中 の 、 エプロン を した 中年 男 が 、 園子 を 見て 、 声 を かけた 。

「 あら 、 久しぶり ね 」

と 、 園子 は 笑顔 で 、「 東京 から 、 いつ 戻った の ?

「 もう 二 、 三 週間 前 です よ 。

こっち は 寒い ねえ 」

「 東京 に いる 方 が 楽でしょう に 」

「 貧乏 人 は 働か に ゃ 」

と 、 男 は 笑った 。

「── これ から 東京 です か ? 「 帰る ところ 」

と 、 園子 が 答える 。

「 そう です か 。

じゃ 、 ご 主人 と 一緒で 」

── 園子 の 顔 から 、 ふと 笑み が 消えた 。

夕 里子 は 、 それ に 気付いた 。

外 の 寒 さ で 、 いやで も 目 が 覚め 、 頭 も スッキリ して しまった せい だ 。

園子 は 、 ことさら に さりげない 調子 で 、

「 主人 も ここ に 寄った の ?

と 、 訊 いた 。

「 ええ 。

つい 一 時間 ぐらい 前 かな 。 これ から 帰る ところ だ と おっしゃって ね 。 ── ご 一緒じゃ なかった んです か ? 「 え ?

── いえ 、 もちろん 、 一緒 よ 。 ただ ── 帰り は 明日 に する と か 言って た ので 、 びっくり した だけ 」

いかにも 言い訳 だ 、 と 夕 里子 は 思った 。

なぜ だろう ?

「 じゃ 、 もう 奥さん が お 帰り に なって る と 思って おら れた の かも しれ ませ ん ね 」

「 そう ね 。

── 追い越さ れた の かも 」

園子 は 、 窓 の 外 へ 目 を やって 、「 また お 客 さん だ わ 」

と 言った 。

話 を そらす ため の 言葉 だ 、 と 分 った 。

夕 里子 は 、 チラッ と 国 友 の 方 を 見た が 、 国 友 は 、 運ば れて 来た コーヒー ( と いう より お 湯 に 近かった が ) を 飲み ながら 、 置いて あった スポーツ 新聞 を 広げて いる 。

園子 は 、 明らかに 、 夫 が 東京 へ 行って いた こと を 知ら なかった のだ 。

それ を 知って 、 急に 、 あの 穏やかな 顔 が こわばった 。

そう 。

── 夫 に 愛人 が いる の かも しれ ない 。 東京 に いて 、 時々 会い に 行って る と したら ?

夫 が 、 こんな 時間 に 、 あわてて 妻 より 先 に 山荘 へ 戻ろう と する の も 分 る と いう もの だ 。

それ に ── 園子 が 、 こんな 夜中 に 車 を 走ら せて まで 、 今夜 中 に 山荘 へ 着こう と して いる の も 、 夫 の 在宅 を 確かめ たい と いう 気持 から だった ので は ……。

夕 里子 と して も 、 証拠 の ない 推測 に 過ぎ ない と いう 点 は 認め ざる を 得 なかった が 、 しかし 、 こういう こと を 考えて いる と 、 やたら 楽しく なっちゃ う んだ から 、 全く 、 困った 女の子 である !

── 新しい 客 は 、 かなり にぎやか そうだった 。

小型の 車 から ゾロゾロ と 出て 来た の は 、 若い 、 高校 生 ぐらい の グループ で ……。

「 寒い よう !

と 、 店 の 中 へ 飛び 込んで 来た の は ……。

「 敦子 !

と 、 夕 里子 は 目 を 丸く した 。

「 夕 里子 じゃ ない !

片 瀬 敦子 である 。

「 それ に ── 国 友 さん まで ! 高校 の 、 夕 里子 の 親友 だ 。

── まさか こんな 所 で 、 と 二 人 が びっくり して 顔 を 見合わせて いる と 、 敦子 の 他 の 面々 が ドッと 入って 来て 、 突っ立って いた 敦子 は 、 弾き 飛ばさ れ そうに なって しまった 。

「 キャッ !

「 何 だ 、 おい 、 何 を こんな 所 に 突っ立って んだ よ 」

「 吾郎 !

ほら 、 夕 里子 よ 」

「 夕 里子 ?

── 馬鹿 、 こんな 所 に あの うるさい の が いる わけ ──。 本当だ 」

「 うるさくて 悪かった な 」

と 、 夕 里子 が 言い 返した 。

「 ちょっと ツラ 貸し な 」

「 お 姉ちゃん 、 国 友 さん の 前 だ よ 」

と 、 珠美 が つつく 。

「 百 年 の 恋 も さめちゃ う から 」

「 二 、 三 年 の 恋 なら 大丈夫 よ 」

と 、 夕 里子 は 、 いい加減な こと を 言った 。

「 でも ── びっくり した !

「 どっち が 」

と 、 敦子 は 言った 。

「 夕 里子 、 旅行 に は 出 ない って 言って た じゃ ない の 」

「 急に 事情 が 変った の 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 そっち は 何の グループ ? 「 文芸 部 の 合宿 よ 」

「 あ 、 そう か 。

── 水谷 先生 、 こんにち は 」

「 や あ 、 佐々 本 か !

水谷 は 高校 の 現代 国語 の 教師 である 。

しかし 、 たいてい 、 新入 生 は 誰 でも 、

「 あの 人 、 体育 の 先生 でしょ 」

と 言う のだ 。

確かに 、 イメージ と して は 、 上 背 も あり 、 逞 しく 、 スポーツマン の 印象 。

そして 、 実際 、 スポーツ 万能 な のである 。

女子 学生 に は 、 大いに もてて いる 。

特に 、 二十四 歳 の 若 さ で 独身 !

「── 独身 ?

国 友 は 思わず 訊 き 返した 。

「 あの ── いかつい ゴリラ みたいな 奴 が ? 「 ゴリラ は ない でしょ 」

夕 里子 が 国 友 を にらむ 。

「 ハンサムじゃ ない 。 凄い 人気者 な の よ 、 学校 じゃ 」

「 そう かね ……」

国 友 は 、 面白く な さ そうな 顔 で 、 その テーブル の 方 を 見 やった 。

「 スポーツ 万能 、 授業 は 面白い し 、 その 上 、 詩人 な の 」

「 死人 ?

「 詩人 。

ポエト 。 ── 分 る ? 「 それ ぐらい 分 る !

と 、 国 友 は むき に なって 言った 。

「 僕 だって 、 詩 ぐらい 知って る 。 〈 山 の かなた の 空 遠く 、 山 の あなた は 今 いずこ 〉」

珠美 が ギャハハ 、 と 笑い 出した 。

「── あの ね 、 水谷 先生 は 、 本物 の 詩人 な の 。

詩 の 雑誌 に も 時々 出て る し 、 詩集 も 二 冊 出して る の よ 」

「 ふん 。

── ま 、 結構だ ね 」

と 国 友 は そっぽ を 向いた 。

何の こと は ない 、 妬 いて る のである 。

── 片 瀬 敦子 が 、 夕 里子 たち の テーブル へ やって 来る と 、

「 座って いい ?

「 うん 。

もちろん 。 ── あっ ち は いい の ? 「 一 人 、 はみ出して る の 」

と 、 敦子 は 言った 。

「 美人 は 辛い 」

「 よく 言う よ 」

と 、 夕 里子 は 肘 で つついた 。

「 あら 、 綾子 さん は ?

と 、 敦子 が 訊 く 。

「 うん 、 車 の 中 で 寝て る 」

「 へえ 。

寒く ない ? 「 さあ ね 。

── 珠美 、 ちょっと 見て 来て 」

「 や だ よ 。

この 寒い のに 」

「 あんた 一 番 若い の よ 」

「 関係 ない !

脂肪 の 厚み は お 姉ちゃん の 方 が 上 」

「 何 よ 、 その 言い 方 。

── じゃ 、 ほれ 、 百 円 」

「 ケチ !

── ま 、 いい や 」

百 円 玉 を ポケット に 入れ 、 珠美 は 、 立ち上った 。

さて ── 車 の 中 で 眠って いた 綾子 の 方 は 、 と 言えば ……。

ウーン ……。

綾子 は 、 ちょっと 呻き声 を 上げて 、 身動き した 。

── と 思ったら 、 ドサッ と 横倒し に なって しまった 。

これ で は 、 いくら 鈍い 綾子 でも 、 目 が 覚めよう と いう もの である 。

それ に ── いやに 寒かった 。

ブルッ と 身震い して 、 綾子 は 目 を 開いた 。

「 夕 里子 ──。

珠美 ? 車 の 中 に は 誰 も い ない 。

「 寒い ! 見れば 、 窓 が 開いて いる のだ 。

これ じゃ 寒い はずである 。

車 は 停 って いて 、 国 友 も 石垣 園子 の 姿 も 見え ない 。

でも ── あの 明り は ?

綾子 は 、 やっと 車 が ドライブ ・ イン の 前 に 停 って いる の に 気付いた 。

そう か 。

じゃ 、 みんな 、 あの 店 に 入って る んだ わ 。 それにしても 、 私 一 人 、 置いて く なんて !

きっと 夕 里子 が 、 お 姉ちゃん は どうせ 低 血圧 だ から 、 起き やしない わ よ 、 と か 言った んだ わ 。

綾子 の 推理 も 、 時に は 当る こと が ある 。

「 私 も 行こう か な ……」

と 、 綾子 は ブル ブルッ と 、 犬 みたいに 頭 を 振って 、 窓越し に 、 ドライブ ・ イン の 方 を 見 やった 。

その 反対 側 の 、 開いた 窓 から ── 白い 手 が 、 そっと 中 へ 伸びて 来る 。

綾子 は まるで 気付か なかった 。

その 手 は 、 綾子 の 首 へ と 伸びて 来た 。

そして 、 指 を 一杯に 広げる と 、 つかみ かかろう と ……。

「 ハックション !

綾子 は 派手に クシャミ を した 。

白い 手 は 、 パッと 引っ込んだ 。

「 ああ 、 これ じゃ 風邪 引いちゃ う ……」

と 、 綾子 は 反対 側 の 窓 ヘヒョイ と 目 を やった 。

そこ に は もう 、 白い 手 は 見え なかった 。

「 閉め とか なきゃ 」

綾子 は 、 その 窓 の ガラス を 上げる と 、「 これ で よし 、 と ──」

向き直って ドア を 開けよう と ──。

「 キャッ !

窓 の 所 に グッと 顔 を 押しつけて いる の は ── 珠美 だった 。

「 びっくり さ せ ないで よ !

と 、 綾子 は ドア を 開けて にらんだ 。

「 起きて る と は 思わ なかった んだ もん 」

「 私 だけ 除け者 に して ……」

「 すね ない の 。

── しわ が ふえる よ 」

「 大きな お 世話 よ 」

二 人 は 、 ドライブ ・ イン へ と 入って 行った ……。

「 あれ が 金田 吾郎 君 」

と 、 夕 里子 が 、 紹介 して いる 。

「── ね 、 敦子 」

「 うん ?

「 金田 君 の 隣 の 子 は ?

「 ああ 、 あの 子 、 うち の 高校 じゃ ない の 」

「 でしょ ?

見た こと ない もの 」

「 金田 君 の ガールフレンド よ 」

「 へえ !

文芸 部 って 、 そんな 合宿 が ある の ? 「 まさか 。

ちゃんと 水谷 先生 の 許可 が 取って ある わ よ 。 彼女 ね 、 美人 でしょ ? 「 うん 」

と 肯 いた の は 、 国 友 だった 。

「── ああ 、 もちろん 、 君 たち ほど じゃ ない けど 」

「 わざとらしい の よ 」

「 ね ー え 」

夕 里子 と 敦子 に にらま れて 、 国 友 は あわてて 、 目 を そらした 。

「── あの 子 、 川西 みどり って いう の 。

種 を あかせば ね 、 水谷 先生 の いとこ な んだ 」

「 そう な の 」

と 、 夕 里子 は 肯 いた 。

確かに 美人 である 。

美人 、 と いう 点 で は 敦子 も かなり 目立つ 方 だ が 、 川西 みどり は 、 どこ か 冷たい 、 妖し さ さえ 感じ させる 美人 で 、 その 雰囲気 は 、 敦子 に も ない もの だった 。

「 金田 君 に ゃ 、 もったいない 」

テーブル が 離れて いる から 、 夕 里子 は 、 勝手な こと を 言って いた 。

「── 楽し そうで いい わ ね 」

と 、 その 様子 を 見て いた 石垣 園子 が 微笑み ながら 言った 。

「 みなさん に も 、 泊 って いただき たかった わ 」

「 分 って りゃ 、 民宿 、 予約 し なかった のに なあ !

と 、 敦子 は 悔し がって いる 。

「 キャンセル したら ?

「 まさか 。

これ だけ の 人数 よ 。 そんな わけ に いか ない 」

「 それ も そう ね 。

── ま 、 敦子 は せいぜい 、 孤独 を 楽しんで ちょうだい 」

「 あ !

夕 里子 ったら 、 国 友 さん が いる と 思って ……」

「 あら 、 私 も 孤独 よ 。

ねえ 、 国 友 さん 」

「── もう 勘弁 して くれ よ 」

と 、 国 友 が 情 ない 顔 で 言った 。

「 夕 里子 」

と 、 やっと 目 が 覚めた 様子 の 綾子 が 言った 。

「 雪 だ わ 」

── 本当だった 。

暗い 夜 に 漂う ように 、 白く 雪 片 が 風 に 舞って いる 。

「 や あ 、 本当だ 」

国 友 は 大きく 伸び を して 、「 積ら ない 内 に 、 出かけよう か 」

「 待って 。

お 姉ちゃん が まだ ココア 飲んで る から 」

「 あ 、 そう か 。

── ごめん 。 じゃ 、 先 に 行って エンジン かけ とく よ 。 ゆっくり おい で 」

「 はい 」

綾子 は そう 言って から 、「 窓 、 閉め とき ました から 」

立ち上って 、 歩き かけた 国 友 は 、 振り向いて 、

「 窓 ?

「 ええ 。

開いて た から 」

「 まさか 。

── 閉って た はずだ よ 」

「 そう よ 。

開いて りゃ 分 る よ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 だって ……。

本当に 開いて た の よ 」

「 じゃ 、 ずっと 、 窓 、 開けた まま 寝て たって いう の ?

夕 里子 は 笑って 、「 じゃ 、 お 姉ちゃん 、 とっくに 凍死 して る 」

「 人 を からかって !

だって 本当に ──」

「 夢 、 見た んでしょ 」

「 本当 よ ……」

しかし 、 そう 人 から 言わ れる と 、 強く 言い 返せ ない の が 、 綾子 である 。

しかも 、 その 内 に は 、 本当に 自分 の 方 が 間違って いた ような 気 に なって 来て しまう 。

国 友 が 肩 を すくめて 、

「 ま 、 この 寒い 中 で 、 泥棒 も 出 ない だろう 」

と 言って 、 出口 の 方 へ 歩き 出した 。

「 あ 、 それ から 、 後ろ の トランク が 開いて た みたい 」

と 、 綾子 が また 言った 。

「── お 姉ちゃん 、 大丈夫 ?

「 幻覚 を 見る ように なる と 、 重症 だ よ 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 原因 は ? 失恋 ? 「 姉 を からかう んじゃ ない の 」

と 、 にらんで 、 綾子 は ココア を ガブッ と 飲み 、「 アチッ !

と 、 悲鳴 を 上げた 。

国 友 は 、 外 へ 出る と 、 吹きつけて 来る 寒風 、 そして 雪 片 に 目 を 細く した 。

一 段 と 、 寒く なって いる ようだった 。

車 の 方 へ と 駆けて 行く 。

── ロック を 開け 、 ドア に 手 を かけて ……。 何となく 、 後ろ へ 回って みた 。

トランク が 、 少し 開いて いる 。

綾子 の 言った 通り だ 。

国 友 は 、 大きく 持ち 上げて みた 。 ── 荷物 が 入って いる だけ だ 。

しかし ── 綾子 の 言った 通り だった のだ 。

すると 、 窓 の こと も ?

国 友 は 、 ドア を 開け 、 運転 席 に 座った 。

── 十 分 ほど して 、 夕 里子 たち も 席 を 立って 表 に 出た 。

「 早く 乗 ろ !

凍えちゃ う ! 珠美 が 走り 出す 。

── 夕 里子 と 綾子 は 、 石垣 園子 が 支払い を 終えて 出て 来る の を 待って いた 。

「── ちょっと すみません 」

川西 みどり が 、 戸 を 開けて 出て 来た 。

「 夕 里子 さん って 、 あなた です か 」

「 ええ 。

── 何 ? 川西 みどり は 、 不思議な 眼差し で 、 夕 里子 を 見つめて 、

「 あなた の 顔 、 死 相 が でて る わ 」

と 言った 。

「 ええ ?

夕 里子 は 思わず 訊 き 返した 。

「 あなた 、 死ぬ わ よ 。

── 気 を 付けて 。 むだでしょう けど 」

それ だけ 言う と 、 呆 気 に 取ら れて いる 夕 里子 を 残して 、 さっさと 店 の 中 へ 戻って 行って しまう 。

入れ違い に 、 石垣 園子 が 出て 来た 。

「 お 待た せ した わ ね 。

── 行き ましょう 」

「 ええ 」

夕 里子 は 、 姉 を 促して 、 歩き 出した 。

何 だろう 、 あの 子 は ?

金田 君 も 、 変な ガールフレンド 作った もん だ な ……。

石垣 園子 を 助手 席 に 、 佐々 本 三 姉妹 は 後部 席 に 並んで 落ちつき 、

「 じゃ 、 行こう 」

と 、 国 友 は 、 車 を スタート さ せた 。

「 夕 里子 姉ちゃん 、 ほら 、 手 、 振って る よ !

珠美 に 言わ れて 、 夕 里子 は 、 ドライブ ・ イン の 方 へ 目 を やった 。

白く くもった ガラス を 手 で こすって 、 敦子 が 手 を 振って いる 。

夕 里子 も 手 を 振り 返した 。

車 が 道路 へ 出て 、 走り 出す とき 、 夕 里子 は 、 少し 離れた 窓 の ところ に 、 あの 川西 みどり らしい 姿 が 、 ぼんやり と 立って いる の を 、 目 に 止めた 。

それ は 、 くもった ガラス 越し の 、 白い 影 に 過ぎ なかった が 、 しかし 、 夕 里子 に は 、 川西 みどり に 違いない 、 と 思えた 。

そして 、 見えた はず が ない のに 、 川西 みどり が 、 冷ややかに 笑って いる ように 思えて なら なかった ……。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 04 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

4  開いた トランク あいた|とらんく

どこまでも 続く 闇 の トンネル の ような 夜道 。 |つづく|やみ||とんねる|||よみち

── その 奥 に 、 パッと 幻 の ように 、 明るい 光 が 見えて 来た 。 |おく||ぱっと|まぼろし|||あかるい|ひかり||みえて|きた

「 ドライブ ・ イン だ 。 どらいぶ|いん|

── 一休み して 行 くかい ? ひとやすみ||ぎょう| ハンドル を 握って いた 国 友 は 、 ちょっと 後ろ の 座席 を 振り返って 、 思わず 笑って しまった 。 はんどる||にぎって||くに|とも|||うしろ||ざせき||ふりかえって|おもわず|わらって|

もちろん 、 深夜 の 長い ドライブ で 、 疲れて は いる のだろう 。 |しんや||ながい|どらいぶ||つかれて|||

それ に 、 若い のだ し ……。 ||わかい||

佐々 本家 の 三 姉妹 は 、 互いに もた れ 合って 、 いとも 安らかに 眠り 込んで いた のである 。 ささ|ほんけ||みっ|しまい||たがいに|||あって||やすらかに|ねむり|こんで||

「 このまま 行き ます か 」 |いき||

と 、 少し スピード を 落し ながら 、 国 友 は 、 助手 席 に 座った 石垣 園子 を 見た 。 |すこし|すぴーど||おとし||くに|とも||じょしゅ|せき||すわった|いしがき|そのこ||みた

「 あと どの くらい かかり ます ? 「 そう です ね 、 たぶん この 様子 なら ……、 二 時間 は かから ない と 思い ます わ 」 |||||ようす||ふた|じかん|||||おもい||

と 、 園子 は 言って 、「 でも 、 ずっと 運転 を お 任せ して しまって 、 お 疲れ で は あり ませ ん ? |そのこ||いって|||うんてん|||まかせ||||つかれ|||||

何 でしたら 、 あそこ で 一息 ついて 行か れたら ──」 なん||||ひといき||いか|

「 そう です ね 」

国 友 も 、 無理 は 避け たかった 。 くに|とも||むり||さけ|

何といっても 、 大事な 夕 里子 ── いや 他の 二 人 だって 大事だ が ── を 乗せて いる のだ 。 なんといっても|だいじな|ゆう|さとご||たの|ふた|じん||だいじだ|||のせて|| 事故 は 起し たく ない 。 じこ||おこし||

「 じゃ 、 この 子 たち は 起して も 可哀そうだ 。 ||こ|||おこして||かわいそうだ

手っ取り早く コーヒー でも 飲んで 来 ましょう か 」 てっとりばやく|こーひー||のんで|らい||

国 友 は 、 車 を ドライブ ・ イン の 前 に 寄せた 。 くに|とも||くるま||どらいぶ|いん||ぜん||よせた

別に 眠気 が さして いる わけで は ない が 、 ここ で 少し 休んで おか ない と 、 これ から 山道 を 上る と いう のに 、 途中 で 眠く なって 来たら 、 大変だ 。 べつに|ねむけ||||||||||すこし|やすんで||||||やまみち||のぼる||||とちゅう||ねむく||きたら|たいへんだ

「 じゃ 、 私 も ──」 |わたくし|

と 園子 が シートベルト を 外して 、「 少し お腹 が 空き ました わ 。 |そのこ||||はずして|すこし|おなか||あき||

軽く 食べる もの を ──」 かるく|たべる||

と 、 いきなり 後ろ の 座席 から 、 ||うしろ||ざせき|

「 私 も ! わたくし|

と 声 が 上った 。 |こえ||のぼった

珠美 が 、 眠 そうな 目 を こすり ながら 、 たまみ||ねむ|そう な|め|||

「 私 も ! わたくし|

お腹 ── 空いた んだ もん 」 おなか|あいた||

欠 伸し ながら も 主張 する 、 その 逞 し さ に 、 国 友 は 吹き出して しまった 。 けつ|のし|||しゅちょう|||てい||||くに|とも||ふきだして|

「 珠美 ったら ……」 たまみ|

夕 里子 は 、 もた れて いた 珠美 が 起き上って 、 ガクッ と 頭 が 落ち 、 目 が 覚めて しまった のである 。 ゆう|さとご|||||たまみ||おきあがって|||あたま||おち|め||さめて||

「 何 よ 、 夕 里子 姉ちゃん だって 、 起きた じゃ ない の 」 なん||ゆう|さとご|ねえちゃん||おきた|||

「 おいおい 、 こんな 所 で ケンカ する な よ 。 ||しょ||けんか|||

── 綾子 君 は ? あやこ|きみ| 綾子 は ただ 一 人 、 我が 道 を 行く と いう 感じ で スヤスヤ と 眠り 込んで いる 。 あやこ|||ひと|じん|わが|どう||いく|||かんじ||すやすや||ねむり|こんで|

「 お 姉ちゃん は だめ 。 |ねえちゃん||

低 血圧 で 、 起こして も 三十 分 ぐらい は ボーッ と して る から 」 てい|けつあつ||おこして||さんじゅう|ぶん|||ぼーっ||||

「 そう か 。

じゃ 、 寝か せて おこう 」 |ねか||

「 しばらく は あったかい でしょ 」

と 、 夕 里子 も 少々 無責任に 、 それ でも 一応 自分 が 膝 に かけて いた 毛布 を 綾子 の 肩 に かけて やって から 、 車 の 外 へ 出た 。 |ゆう|さとご||しょうしょう|むせきにんに|||いちおう|じぶん||ひざ||||もうふ||あやこ||かた|||||くるま||がい||でた

「 ワッ !

思わず 声 を 上げる 、 空気 の 冷た さ ! おもわず|こえ||あげる|くうき||つめた|

まるで 都心 と は 違う 。 |としん|||ちがう

「 もう 、 かなり 山 の 中 だ から ね 」 ||やま||なか|||

と 言う 国 友 の 言葉 も 、 白い 息 に なって 風 に 流れて 行く 。 |いう|くに|とも||ことば||しろい|いき|||かぜ||ながれて|いく

「 きっと 向 うは 雪 です わ 」 |むかい|う は|ゆき||

と 、 園子 が 言った 。 |そのこ||いった

「 じゃ 、 中 へ 入り ましょう 」 |なか||はいり|

── 小さな ドライブ ・ イン で 、 もちろん 大した もの は なかった が 、 それ でも 、 こんな 場所 なら 、 ホットドッグ も ごちそう に なる 。 ちいさな|どらいぶ|いん|||たいした||||||||ばしょ||||||

みんな ホットドッグ と コーヒー を 取って 、 一 息 つく 。 |||こーひー||とって|ひと|いき|

「── や あ 、 こりゃ 石垣 さん の 奥さん 」 |||いしがき|||おくさん

── カウンター の 中 の 、 エプロン を した 中年 男 が 、 園子 を 見て 、 声 を かけた 。 かうんたー||なか||えぷろん|||ちゅうねん|おとこ||そのこ||みて|こえ||

「 あら 、 久しぶり ね 」 |ひさしぶり|

と 、 園子 は 笑顔 で 、「 東京 から 、 いつ 戻った の ? |そのこ||えがお||とうきょう|||もどった|

「 もう 二 、 三 週間 前 です よ 。 |ふた|みっ|しゅうかん|ぜん||

こっち は 寒い ねえ 」 ||さむい|

「 東京 に いる 方 が 楽でしょう に 」 とうきょう|||かた||らくでしょう|

「 貧乏 人 は 働か に ゃ 」 びんぼう|じん||はたらか||

と 、 男 は 笑った 。 |おとこ||わらった

「── これ から 東京 です か ? ||とうきょう|| 「 帰る ところ 」 かえる|

と 、 園子 が 答える 。 |そのこ||こたえる

「 そう です か 。

じゃ 、 ご 主人 と 一緒で 」 ||あるじ||いっしょで

── 園子 の 顔 から 、 ふと 笑み が 消えた 。 そのこ||かお|||えみ||きえた

夕 里子 は 、 それ に 気付いた 。 ゆう|さとご||||きづいた

外 の 寒 さ で 、 いやで も 目 が 覚め 、 頭 も スッキリ して しまった せい だ 。 がい||さむ|||||め||さめ|あたま||すっきり||||

園子 は 、 ことさら に さりげない 調子 で 、 そのこ|||||ちょうし|

「 主人 も ここ に 寄った の ? あるじ||||よった|

と 、 訊 いた 。 |じん|

「 ええ 。

つい 一 時間 ぐらい 前 かな 。 |ひと|じかん||ぜん| これ から 帰る ところ だ と おっしゃって ね 。 ||かえる||||| ── ご 一緒じゃ なかった んです か ? |いっしょじゃ||| 「 え ?

── いえ 、 もちろん 、 一緒 よ 。 ||いっしょ| ただ ── 帰り は 明日 に する と か 言って た ので 、 びっくり した だけ 」 |かえり||あした|||||いって|||||

いかにも 言い訳 だ 、 と 夕 里子 は 思った 。 |いいわけ|||ゆう|さとご||おもった

なぜ だろう ?

「 じゃ 、 もう 奥さん が お 帰り に なって る と 思って おら れた の かも しれ ませ ん ね 」 ||おくさん|||かえり|||||おもって||||||||

「 そう ね 。

── 追い越さ れた の かも 」 おいこさ|||

園子 は 、 窓 の 外 へ 目 を やって 、「 また お 客 さん だ わ 」 そのこ||まど||がい||め|||||きゃく|||

と 言った 。 |いった

話 を そらす ため の 言葉 だ 、 と 分 った 。 はなし|||||ことば|||ぶん|

夕 里子 は 、 チラッ と 国 友 の 方 を 見た が 、 国 友 は 、 運ば れて 来た コーヒー ( と いう より お 湯 に 近かった が ) を 飲み ながら 、 置いて あった スポーツ 新聞 を 広げて いる 。 ゆう|さとご||||くに|とも||かた||みた||くに|とも||はこば||きた|こーひー|||||ゆ||ちかかった|||のみ||おいて||すぽーつ|しんぶん||ひろげて|

園子 は 、 明らかに 、 夫 が 東京 へ 行って いた こと を 知ら なかった のだ 。 そのこ||あきらかに|おっと||とうきょう||おこなって||||しら||

それ を 知って 、 急に 、 あの 穏やかな 顔 が こわばった 。 ||しって|きゅうに||おだやかな|かお||

そう 。

── 夫 に 愛人 が いる の かも しれ ない 。 おっと||あいじん|||||| 東京 に いて 、 時々 会い に 行って る と したら ? とうきょう|||ときどき|あい||おこなって|||

夫 が 、 こんな 時間 に 、 あわてて 妻 より 先 に 山荘 へ 戻ろう と する の も 分 る と いう もの だ 。 おっと|||じかん|||つま||さき||さんそう||もどろう|||||ぶん|||||

それ に ── 園子 が 、 こんな 夜中 に 車 を 走ら せて まで 、 今夜 中 に 山荘 へ 着こう と して いる の も 、 夫 の 在宅 を 確かめ たい と いう 気持 から だった ので は ……。 ||そのこ|||よなか||くるま||はしら|||こんや|なか||さんそう||つこう||||||おっと||ざいたく||たしかめ||||きもち||||

夕 里子 と して も 、 証拠 の ない 推測 に 過ぎ ない と いう 点 は 認め ざる を 得 なかった が 、 しかし 、 こういう こと を 考えて いる と 、 やたら 楽しく なっちゃ う んだ から 、 全く 、 困った 女の子 である ! ゆう|さとご||||しょうこ|||すいそく||すぎ||||てん||みとめ|||とく|||||||かんがえて||||たのしく|||||まったく|こまった|おんなのこ|

── 新しい 客 は 、 かなり にぎやか そうだった 。 あたらしい|きゃく||||そう だった

小型の 車 から ゾロゾロ と 出て 来た の は 、 若い 、 高校 生 ぐらい の グループ で ……。 こがたの|くるま||ぞろぞろ||でて|きた|||わかい|こうこう|せい|||ぐるーぷ|

「 寒い よう ! さむい|

と 、 店 の 中 へ 飛び 込んで 来た の は ……。 |てん||なか||とび|こんで|きた||

「 敦子 ! あつこ

と 、 夕 里子 は 目 を 丸く した 。 |ゆう|さとご||め||まるく|

「 夕 里子 じゃ ない ! ゆう|さとご||

片 瀬 敦子 である 。 かた|せ|あつこ|

「 それ に ── 国 友 さん まで ! ||くに|とも|| 高校 の 、 夕 里子 の 親友 だ 。 こうこう||ゆう|さとご||しんゆう|

── まさか こんな 所 で 、 と 二 人 が びっくり して 顔 を 見合わせて いる と 、 敦子 の 他 の 面々 が ドッと 入って 来て 、 突っ立って いた 敦子 は 、 弾き 飛ばさ れ そうに なって しまった 。 ||しょ|||ふた|じん||||かお||みあわせて|||あつこ||た||めんめん||どっと|はいって|きて|つったって||あつこ||はじき|とばさ||そう に||

「 キャッ !

「 何 だ 、 おい 、 何 を こんな 所 に 突っ立って んだ よ 」 なん|||なん|||しょ||つったって|| "What, dude, what are you standing in here?"

「 吾郎 ! われろう

ほら 、 夕 里子 よ 」 |ゆう|さとご|

「 夕 里子 ? ゆう|さとご

── 馬鹿 、 こんな 所 に あの うるさい の が いる わけ ──。 ばか||しょ||||||| 本当だ 」 ほんとうだ

「 うるさくて 悪かった な 」 |わるかった|

と 、 夕 里子 が 言い 返した 。 |ゆう|さとご||いい|かえした

「 ちょっと ツラ 貸し な 」 ||かし|

「 お 姉ちゃん 、 国 友 さん の 前 だ よ 」 |ねえちゃん|くに|とも|||ぜん||

と 、 珠美 が つつく 。 |たまみ||

「 百 年 の 恋 も さめちゃ う から 」 ひゃく|とし||こい||||

「 二 、 三 年 の 恋 なら 大丈夫 よ 」 ふた|みっ|とし||こい||だいじょうぶ|

と 、 夕 里子 は 、 いい加減な こと を 言った 。 |ゆう|さとご||いいかげんな|||いった

「 でも ── びっくり した !

「 どっち が 」

と 、 敦子 は 言った 。 |あつこ||いった

「 夕 里子 、 旅行 に は 出 ない って 言って た じゃ ない の 」 ゆう|さとご|りょこう|||だ|||いって||||

「 急に 事情 が 変った の 」 きゅうに|じじょう||かわった|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 そっち は 何の グループ ? ||なんの|ぐるーぷ 「 文芸 部 の 合宿 よ 」 ぶんげい|ぶ||がっしゅく|

「 あ 、 そう か 。

── 水谷 先生 、 こんにち は 」 みずたに|せんせい||

「 や あ 、 佐々 本 か ! ||ささ|ほん|

水谷 は 高校 の 現代 国語 の 教師 である 。 みずたに||こうこう||げんだい|こくご||きょうし|

しかし 、 たいてい 、 新入 生 は 誰 でも 、 ||しんにゅう|せい||だれ|

「 あの 人 、 体育 の 先生 でしょ 」 |じん|たいいく||せんせい|

と 言う のだ 。 |いう|

確かに 、 イメージ と して は 、 上 背 も あり 、 逞 しく 、 スポーツマン の 印象 。 たしかに|いめーじ||||うえ|せ|||てい||すぽーつまん||いんしょう

そして 、 実際 、 スポーツ 万能 な のである 。 |じっさい|すぽーつ|ばんのう||

女子 学生 に は 、 大いに もてて いる 。 じょし|がくせい|||おおいに||

特に 、 二十四 歳 の 若 さ で 独身 ! とくに|にじゅうし|さい||わか|||どくしん

「── 独身 ? どくしん

国 友 は 思わず 訊 き 返した 。 くに|とも||おもわず|じん||かえした

「 あの ── いかつい ゴリラ みたいな 奴 が ? ||ごりら||やつ| 「 ゴリラ は ない でしょ 」 ごりら|||

夕 里子 が 国 友 を にらむ 。 ゆう|さとご||くに|とも||

「 ハンサムじゃ ない 。 はんさむじゃ| 凄い 人気者 な の よ 、 学校 じゃ 」 すごい|にんきもの||||がっこう|

「 そう かね ……」

国 友 は 、 面白く な さ そうな 顔 で 、 その テーブル の 方 を 見 やった 。 くに|とも||おもしろく|||そう な|かお|||てーぶる||かた||み|

「 スポーツ 万能 、 授業 は 面白い し 、 その 上 、 詩人 な の 」 すぽーつ|ばんのう|じゅぎょう||おもしろい|||うえ|しじん||

「 死人 ? しにん

「 詩人 。 しじん

ポエト 。 ── 分 る ? ぶん| 「 それ ぐらい 分 る ! ||ぶん|

と 、 国 友 は むき に なって 言った 。 |くに|とも|||||いった

「 僕 だって 、 詩 ぐらい 知って る 。 ぼく||し||しって| 〈 山 の かなた の 空 遠く 、 山 の あなた は 今 いずこ 〉」 やま||||から|とおく|やま||||いま| <The sky far from the mountain, far away, the mountain you are now a cousin>>

珠美 が ギャハハ 、 と 笑い 出した 。 たまみ||||わらい|だした

「── あの ね 、 水谷 先生 は 、 本物 の 詩人 な の 。 ||みずたに|せんせい||ほんもの||しじん||

詩 の 雑誌 に も 時々 出て る し 、 詩集 も 二 冊 出して る の よ 」 し||ざっし|||ときどき|でて|||ししゅう||ふた|さつ|だして|||

「 ふん 。

── ま 、 結構だ ね 」 |けっこうだ|

と 国 友 は そっぽ を 向いた 。 |くに|とも||||むいた

何の こと は ない 、 妬 いて る のである 。 なんの||||ねた|||

── 片 瀬 敦子 が 、 夕 里子 たち の テーブル へ やって 来る と 、 かた|せ|あつこ||ゆう|さとご|||てーぶる|||くる|

「 座って いい ? すわって|

「 うん 。

もちろん 。 ── あっ ち は いい の ? 「 一 人 、 はみ出して る の 」 ひと|じん|はみだして||

と 、 敦子 は 言った 。 |あつこ||いった

「 美人 は 辛い 」 びじん||からい

「 よく 言う よ 」 |いう|

と 、 夕 里子 は 肘 で つついた 。 |ゆう|さとご||ひじ||

「 あら 、 綾子 さん は ? |あやこ||

と 、 敦子 が 訊 く 。 |あつこ||じん|

「 うん 、 車 の 中 で 寝て る 」 |くるま||なか||ねて|

「 へえ 。

寒く ない ? さむく| 「 さあ ね 。

── 珠美 、 ちょっと 見て 来て 」 たまみ||みて|きて

「 や だ よ 。

この 寒い のに 」 |さむい|

「 あんた 一 番 若い の よ 」 |ひと|ばん|わかい||

「 関係 ない ! かんけい|

脂肪 の 厚み は お 姉ちゃん の 方 が 上 」 しぼう||あつみ|||ねえちゃん||かた||うえ

「 何 よ 、 その 言い 方 。 なん|||いい|かた

── じゃ 、 ほれ 、 百 円 」 ||ひゃく|えん

「 ケチ !

── ま 、 いい や 」

百 円 玉 を ポケット に 入れ 、 珠美 は 、 立ち上った 。 ひゃく|えん|たま||ぽけっと||いれ|たまみ||たちのぼった

さて ── 車 の 中 で 眠って いた 綾子 の 方 は 、 と 言えば ……。 |くるま||なか||ねむって||あやこ||かた|||いえば

ウーン ……。 うーん

綾子 は 、 ちょっと 呻き声 を 上げて 、 身動き した 。 あやこ|||うめきごえ||あげて|みうごき|

── と 思ったら 、 ドサッ と 横倒し に なって しまった 。 |おもったら|||よこだおし|||

これ で は 、 いくら 鈍い 綾子 でも 、 目 が 覚めよう と いう もの である 。 ||||にぶい|あやこ||め||さめよう||||

それ に ── いやに 寒かった 。 |||さむかった

ブルッ と 身震い して 、 綾子 は 目 を 開いた 。 ぶるっ||みぶるい||あやこ||め||あいた

「 夕 里子 ──。 ゆう|さとご

珠美 ? たまみ 車 の 中 に は 誰 も い ない 。 くるま||なか|||だれ|||

「 寒い ! さむい 見れば 、 窓 が 開いて いる のだ 。 みれば|まど||あいて||

これ じゃ 寒い はずである 。 ||さむい|

車 は 停 って いて 、 国 友 も 石垣 園子 の 姿 も 見え ない 。 くるま||てい|||くに|とも||いしがき|そのこ||すがた||みえ|

でも ── あの 明り は ? ||あかり|

綾子 は 、 やっと 車 が ドライブ ・ イン の 前 に 停 って いる の に 気付いた 。 あやこ|||くるま||どらいぶ|いん||ぜん||てい|||||きづいた

そう か 。

じゃ 、 みんな 、 あの 店 に 入って る んだ わ 。 |||てん||はいって||| それにしても 、 私 一 人 、 置いて く なんて ! |わたくし|ひと|じん|おいて||

きっと 夕 里子 が 、 お 姉ちゃん は どうせ 低 血圧 だ から 、 起き やしない わ よ 、 と か 言った んだ わ 。 |ゆう|さとご|||ねえちゃん|||てい|けつあつ|||おき||||||いった||

綾子 の 推理 も 、 時に は 当る こと が ある 。 あやこ||すいり||ときに||あたる|||

「 私 も 行こう か な ……」 わたくし||いこう||

と 、 綾子 は ブル ブルッ と 、 犬 みたいに 頭 を 振って 、 窓越し に 、 ドライブ ・ イン の 方 を 見 やった 。 |あやこ||ぶる|ぶるっ||いぬ||あたま||ふって|まどごし||どらいぶ|いん||かた||み|

その 反対 側 の 、 開いた 窓 から ── 白い 手 が 、 そっと 中 へ 伸びて 来る 。 |はんたい|がわ||あいた|まど||しろい|て|||なか||のびて|くる

綾子 は まるで 気付か なかった 。 あやこ|||きづか|

その 手 は 、 綾子 の 首 へ と 伸びて 来た 。 |て||あやこ||くび|||のびて|きた

そして 、 指 を 一杯に 広げる と 、 つかみ かかろう と ……。 |ゆび||いっぱいに|ひろげる|||| And if you spread your fingers fully, you will be grasping ... ....

「 ハックション !

綾子 は 派手に クシャミ を した 。 あやこ||はでに|||

白い 手 は 、 パッと 引っ込んだ 。 しろい|て||ぱっと|ひっこんだ

「 ああ 、 これ じゃ 風邪 引いちゃ う ……」 |||かぜ|ひいちゃ|

と 、 綾子 は 反対 側 の 窓 ヘヒョイ と 目 を やった 。 |あやこ||はんたい|がわ||まど|||め||

そこ に は もう 、 白い 手 は 見え なかった 。 ||||しろい|て||みえ|

「 閉め とか なきゃ 」 しめ|と か|

綾子 は 、 その 窓 の ガラス を 上げる と 、「 これ で よし 、 と ──」 あやこ|||まど||がらす||あげる|||||

向き直って ドア を 開けよう と ──。 むきなおって|どあ||あけよう|

「 キャッ !

窓 の 所 に グッと 顔 を 押しつけて いる の は ── 珠美 だった 。 まど||しょ||ぐっと|かお||おしつけて||||たまみ|

「 びっくり さ せ ないで よ !

と 、 綾子 は ドア を 開けて にらんだ 。 |あやこ||どあ||あけて|

「 起きて る と は 思わ なかった んだ もん 」 おきて||||おもわ||| "I did not expect to be awake"

「 私 だけ 除け者 に して ……」 わたくし||のけもの||

「 すね ない の 。

── しわ が ふえる よ 」

「 大きな お 世話 よ 」 おおきな||せわ|

二 人 は 、 ドライブ ・ イン へ と 入って 行った ……。 ふた|じん||どらいぶ|いん|||はいって|おこなった

「 あれ が 金田 吾郎 君 」 ||かなだ|われろう|きみ

と 、 夕 里子 が 、 紹介 して いる 。 |ゆう|さとご||しょうかい||

「── ね 、 敦子 」 |あつこ

「 うん ?

「 金田 君 の 隣 の 子 は ? かなだ|きみ||となり||こ|

「 ああ 、 あの 子 、 うち の 高校 じゃ ない の 」 ||こ|||こうこう|||

「 でしょ ?

見た こと ない もの 」 みた|||

「 金田 君 の ガールフレンド よ 」 かなだ|きみ|||

「 へえ !

文芸 部 って 、 そんな 合宿 が ある の ? ぶんげい|ぶ|||がっしゅく||| 「 まさか 。

ちゃんと 水谷 先生 の 許可 が 取って ある わ よ 。 |みずたに|せんせい||きょか||とって||| 彼女 ね 、 美人 でしょ ? かのじょ||びじん| 「 うん 」

と 肯 いた の は 、 国 友 だった 。 |こう||||くに|とも|

「── ああ 、 もちろん 、 君 たち ほど じゃ ない けど 」 ||きみ|||||

「 わざとらしい の よ 」

「 ね ー え 」 |-|

夕 里子 と 敦子 に にらま れて 、 国 友 は あわてて 、 目 を そらした 。 ゆう|さとご||あつこ||||くに|とも|||め||

「── あの 子 、 川西 みどり って いう の 。 |こ|かわにし||||

種 を あかせば ね 、 水谷 先生 の いとこ な んだ 」 しゅ||||みずたに|せんせい||||

「 そう な の 」

と 、 夕 里子 は 肯 いた 。 |ゆう|さとご||こう|

確かに 美人 である 。 たしかに|びじん|

美人 、 と いう 点 で は 敦子 も かなり 目立つ 方 だ が 、 川西 みどり は 、 どこ か 冷たい 、 妖し さ さえ 感じ させる 美人 で 、 その 雰囲気 は 、 敦子 に も ない もの だった 。 びじん|||てん|||あつこ|||めだつ|かた|||かわにし|||||つめたい|あやし|||かんじ|さ せる|びじん|||ふんいき||あつこ|||||

「 金田 君 に ゃ 、 もったいない 」 かなだ|きみ|||

テーブル が 離れて いる から 、 夕 里子 は 、 勝手な こと を 言って いた 。 てーぶる||はなれて|||ゆう|さとご||かってな|||いって|

「── 楽し そうで いい わ ね 」 たのし|そう で|||

と 、 その 様子 を 見て いた 石垣 園子 が 微笑み ながら 言った 。 ||ようす||みて||いしがき|そのこ||ほおえみ||いった

「 みなさん に も 、 泊 って いただき たかった わ 」 |||はく||||

「 分 って りゃ 、 民宿 、 予約 し なかった のに なあ ! ぶん|||みんしゅく|よやく||||

と 、 敦子 は 悔し がって いる 。 |あつこ||くやし||

「 キャンセル したら ? きゃんせる|

「 まさか 。

これ だけ の 人数 よ 。 |||にんずう| そんな わけ に いか ない 」

「 それ も そう ね 。

── ま 、 敦子 は せいぜい 、 孤独 を 楽しんで ちょうだい 」 |あつこ|||こどく||たのしんで|

「 あ !

夕 里子 ったら 、 国 友 さん が いる と 思って ……」 ゆう|さとご||くに|とも|||||おもって

「 あら 、 私 も 孤独 よ 。 |わたくし||こどく|

ねえ 、 国 友 さん 」 |くに|とも|

「── もう 勘弁 して くれ よ 」 |かんべん|||

と 、 国 友 が 情 ない 顔 で 言った 。 |くに|とも||じょう||かお||いった

「 夕 里子 」 ゆう|さとご

と 、 やっと 目 が 覚めた 様子 の 綾子 が 言った 。 ||め||さめた|ようす||あやこ||いった

「 雪 だ わ 」 ゆき||

── 本当だった 。 ほんとうだった

暗い 夜 に 漂う ように 、 白く 雪 片 が 風 に 舞って いる 。 くらい|よ||ただよう||しろく|ゆき|かた||かぜ||まって|

「 や あ 、 本当だ 」 ||ほんとうだ

国 友 は 大きく 伸び を して 、「 積ら ない 内 に 、 出かけよう か 」 くに|とも||おおきく|のび|||つもら||うち||でかけよう|

「 待って 。 まって

お 姉ちゃん が まだ ココア 飲んで る から 」 |ねえちゃん|||ここあ|のんで||

「 あ 、 そう か 。

── ごめん 。 じゃ 、 先 に 行って エンジン かけ とく よ 。 |さき||おこなって|えんじん||| ゆっくり おい で 」

「 はい 」

綾子 は そう 言って から 、「 窓 、 閉め とき ました から 」 あやこ|||いって||まど|しめ|||

立ち上って 、 歩き かけた 国 友 は 、 振り向いて 、 たちのぼって|あるき||くに|とも||ふりむいて

「 窓 ? まど

「 ええ 。

開いて た から 」 あいて||

「 まさか 。

── 閉って た はずだ よ 」 しまって|||

「 そう よ 。

開いて りゃ 分 る よ 」 あいて||ぶん||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 だって ……。

本当に 開いて た の よ 」 ほんとうに|あいて|||

「 じゃ 、 ずっと 、 窓 、 開けた まま 寝て たって いう の ? ||まど|あけた||ねて|||

夕 里子 は 笑って 、「 じゃ 、 お 姉ちゃん 、 とっくに 凍死 して る 」 ゆう|さとご||わらって|||ねえちゃん||とうし||

「 人 を からかって ! じん||

だって 本当に ──」 |ほんとうに

「 夢 、 見た んでしょ 」 ゆめ|みた|

「 本当 よ ……」 ほんとう|

しかし 、 そう 人 から 言わ れる と 、 強く 言い 返せ ない の が 、 綾子 である 。 ||じん||いわ|||つよく|いい|かえせ||||あやこ|

しかも 、 その 内 に は 、 本当に 自分 の 方 が 間違って いた ような 気 に なって 来て しまう 。 ||うち|||ほんとうに|じぶん||かた||まちがって|||き|||きて|

国 友 が 肩 を すくめて 、 くに|とも||かた||

「 ま 、 この 寒い 中 で 、 泥棒 も 出 ない だろう 」 ||さむい|なか||どろぼう||だ||

と 言って 、 出口 の 方 へ 歩き 出した 。 |いって|でぐち||かた||あるき|だした

「 あ 、 それ から 、 後ろ の トランク が 開いて た みたい 」 |||うしろ||とらんく||あいて||

と 、 綾子 が また 言った 。 |あやこ|||いった

「── お 姉ちゃん 、 大丈夫 ? |ねえちゃん|だいじょうぶ

「 幻覚 を 見る ように なる と 、 重症 だ よ 」 げんかく||みる||||じゅうしょう||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 原因 は ? げんいん| 失恋 ? しつれん 「 姉 を からかう んじゃ ない の 」 あね|||||

と 、 にらんで 、 綾子 は ココア を ガブッ と 飲み 、「 アチッ ! ||あやこ||ここあ||||のみ|

と 、 悲鳴 を 上げた 。 |ひめい||あげた

国 友 は 、 外 へ 出る と 、 吹きつけて 来る 寒風 、 そして 雪 片 に 目 を 細く した 。 くに|とも||がい||でる||ふきつけて|くる|かんぷう||ゆき|かた||め||ほそく|

一 段 と 、 寒く なって いる ようだった 。 ひと|だん||さむく|||

車 の 方 へ と 駆けて 行く 。 くるま||かた|||かけて|いく

── ロック を 開け 、 ドア に 手 を かけて ……。 ろっく||あけ|どあ||て|| 何となく 、 後ろ へ 回って みた 。 なんとなく|うしろ||まわって|

トランク が 、 少し 開いて いる 。 とらんく||すこし|あいて|

綾子 の 言った 通り だ 。 あやこ||いった|とおり|

国 友 は 、 大きく 持ち 上げて みた 。 くに|とも||おおきく|もち|あげて| ── 荷物 が 入って いる だけ だ 。 にもつ||はいって|||

しかし ── 綾子 の 言った 通り だった のだ 。 |あやこ||いった|とおり||

すると 、 窓 の こと も ? |まど|||

国 友 は 、 ドア を 開け 、 運転 席 に 座った 。 くに|とも||どあ||あけ|うんてん|せき||すわった

── 十 分 ほど して 、 夕 里子 たち も 席 を 立って 表 に 出た 。 じゅう|ぶん|||ゆう|さとご|||せき||たって|ひょう||でた

「 早く 乗 ろ ! はやく|じょう|

凍えちゃ う ! こごえちゃ| 珠美 が 走り 出す 。 たまみ||はしり|だす

── 夕 里子 と 綾子 は 、 石垣 園子 が 支払い を 終えて 出て 来る の を 待って いた 。 ゆう|さとご||あやこ||いしがき|そのこ||しはらい||おえて|でて|くる|||まって|

「── ちょっと すみません 」

川西 みどり が 、 戸 を 開けて 出て 来た 。 かわにし|||と||あけて|でて|きた

「 夕 里子 さん って 、 あなた です か 」 ゆう|さとご|||||

「 ええ 。

── 何 ? なん 川西 みどり は 、 不思議な 眼差し で 、 夕 里子 を 見つめて 、 かわにし|||ふしぎな|まなざし||ゆう|さとご||みつめて

「 あなた の 顔 、 死 相 が でて る わ 」 ||かお|し|そう||||

と 言った 。 |いった

「 ええ ?

夕 里子 は 思わず 訊 き 返した 。 ゆう|さとご||おもわず|じん||かえした

「 あなた 、 死ぬ わ よ 。 |しぬ||

── 気 を 付けて 。 き||つけて むだでしょう けど 」

それ だけ 言う と 、 呆 気 に 取ら れて いる 夕 里子 を 残して 、 さっさと 店 の 中 へ 戻って 行って しまう 。 ||いう||ぼけ|き||とら|||ゆう|さとご||のこして||てん||なか||もどって|おこなって|

入れ違い に 、 石垣 園子 が 出て 来た 。 いれちがい||いしがき|そのこ||でて|きた

「 お 待た せ した わ ね 。 |また||||

── 行き ましょう 」 いき|

「 ええ 」

夕 里子 は 、 姉 を 促して 、 歩き 出した 。 ゆう|さとご||あね||うながして|あるき|だした

何 だろう 、 あの 子 は ? なん|||こ|

金田 君 も 、 変な ガールフレンド 作った もん だ な ……。 かなだ|きみ||へんな||つくった|||

石垣 園子 を 助手 席 に 、 佐々 本 三 姉妹 は 後部 席 に 並んで 落ちつき 、 いしがき|そのこ||じょしゅ|せき||ささ|ほん|みっ|しまい||こうぶ|せき||ならんで|おちつき

「 じゃ 、 行こう 」 |いこう

と 、 国 友 は 、 車 を スタート さ せた 。 |くに|とも||くるま||すたーと||

「 夕 里子 姉ちゃん 、 ほら 、 手 、 振って る よ ! ゆう|さとご|ねえちゃん||て|ふって||

珠美 に 言わ れて 、 夕 里子 は 、 ドライブ ・ イン の 方 へ 目 を やった 。 たまみ||いわ||ゆう|さとご||どらいぶ|いん||かた||め||

白く くもった ガラス を 手 で こすって 、 敦子 が 手 を 振って いる 。 しろく||がらす||て|||あつこ||て||ふって|

夕 里子 も 手 を 振り 返した 。 ゆう|さとご||て||ふり|かえした

車 が 道路 へ 出て 、 走り 出す とき 、 夕 里子 は 、 少し 離れた 窓 の ところ に 、 あの 川西 みどり らしい 姿 が 、 ぼんやり と 立って いる の を 、 目 に 止めた 。 くるま||どうろ||でて|はしり|だす||ゆう|さとご||すこし|はなれた|まど|||||かわにし|||すがた||||たって||||め||とどめた

それ は 、 くもった ガラス 越し の 、 白い 影 に 過ぎ なかった が 、 しかし 、 夕 里子 に は 、 川西 みどり に 違いない 、 と 思えた 。 |||がらす|こし||しろい|かげ||すぎ||||ゆう|さとご|||かわにし|||ちがいない||おもえた

そして 、 見えた はず が ない のに 、 川西 みどり が 、 冷ややかに 笑って いる ように 思えて なら なかった ……。 |みえた|||||かわにし|||ひややかに|わらって|||おもえて||