image

銀河鉄道の夜 『宮沢賢治』, 9-2. ジョバンニの切符

9-2. ジョバンニ の 切符

ごと ごと ごと ごと 汽車 は きらびやかな 燐 光 の 川 の 岸 を 進みました 。 向こう の 方 の 窓 を 見る と 、 野原 は まるで 幻 燈 の ようでした 。 百 も 千 も の 大小 さまざま の 三角 標 、 その 大きな もの の 上 に は 赤い 点々 を うった 測量 旗 も 見え 、 野原 の はては それ ら が いちめん 、 たくさん たくさん 集まって ぼ おっと 青白い 霧 の よう 、 そこ から か 、 または もっと 向こう から か 、 ときどき さまざまの 形 の ぼんやり した 狼 煙 の ような もの が 、 かわるがわる きれいな 桔梗 いろ の そら に うちあげられる のでした 。 実に その すきとおった 奇麗な 風 は 、 ばら の におい で いっぱいでした 。

「 いかがです か 。 こういう りんご は お はじめて でしょう 」 向こう の 席 の 燈台 看守 が いつか 黄金 と 紅 で 美しく いろどら れた 大きな りんご を 落とさ ない ように 両手 で 膝 の 上 に かかえて いました 。 「 おや 、 どっから 来た のです か 。 立派です ねえ 。 ここ ら で は こんな りんご が できる のです か 」 青年 は ほんとうに びっくり した らしく 、 燈台 看守 の 両手 に かかえられた 一 もり の りんご を 、 眼 を 細く したり 首 を まげたり し ながら 、 われ を 忘れて ながめて いました 。 「 いや 、 まあ おとり ください 。 どうか 、 まあ おとり ください 」

青年 は 一 つ とって ジョバンニ たち の 方 を ちょっと 見ました 。 「 さあ 、 向こう の 坊ちゃん が た 。 いかが です か 。 おとり ください 」

ジョバンニ は 坊ちゃん と いわ れた ので 、 すこし しゃくに さわって だまって いました が 、 カムパネルラ は 、 「 ありがとう 」 と 言いました 。 すると 青年 は 自分 で とって 一 つ ずつ 二 人 に 送って よこしました ので 、 ジョバンニ も 立って 、 ありがとう と 言いました 。 燈台 看守 は やっと 両腕 が あいた ので 、 こんど は 自分 で 一 つ ずつ 眠って いる 姉弟 の 膝 に そっと 置きました 。 「 どうも ありがとう 。 どこ で できる のです か 。 こんな 立派な りんご は 」

青年 は つくづく 見 ながら 言いました 。 「 この 辺 で は もちろん 農業 は いたします けれどもたいてい ひとりでに いい もの が できる ような 約束 に なって おります 。 農業 だって そんなに 骨 は 折れ は しません 。 たいてい 自分 の 望む 種子 さえ 播 け ば ひとりでに どんどん できます 。 米 だって パシフィック 辺 の ように 殻 も ない し 十 倍 も 大きくて 匂い も いい のです 。 けれども あなた が た の いらっしゃる 方 なら 農業 は もう ありません 。 りんご だって お 菓子 だって 、 かす が 少しも ありません から 、 みんな その ひと その ひと に よって ちがった 、 わずかの いい かおり に なって 毛あな から ちら け て しまう のです 」 にわかに 男の子 が ばっちり 眼 を あいて 言いました 。 「 ああ 、 ぼく いま お母さん の 夢 を みて いた よ 。 お母さん が ね 、 立派な 戸棚 や 本 の ある とこ に いて ね 、 ぼく の 方 を 見て 手 を だして にこにこ にこにこ わらった よ 。 ぼく 、 おっか さん 。 りんご を ひろって きて あげましょう か 、 と 言ったら 眼 が さめちゃった 。 ああ ここ 、 さっき の 汽車 の なか だ ねえ 」

「 その りんご が そこ に あります 。 この おじさん に いただいた のです よ 」 青年 が 言いました 。 「 ありがとう おじさん 。 おや 、 かおる ねえさん まだ 寝て る ねえ 、 ぼく 起こして やろう 。 ねえさん 。 ごらん 、 りんご を もらった よ 。 おきて ごらん 」

姉 は わらって 眼 を さまし 、 まぶし そうに 両手 を 眼 に あてて 、 それ から りんご を 見ました 。 男の子 は まるで パイ を たべる ように 、 もう それ を 食べて いました 。 また せっかく むいた その きれいな 皮 も 、 くるくる コルク 抜き の ような 形 に なって 床 へ 落ちる まで の 間 に はすうっと 、 灰 いろ に 光って 蒸発 して しまう のでした 。 二 人 は りんご をたいせつに ポケット に しまいました 。 川下 の 向こう岸 に 青く 茂った 大きな 林 が 見え 、 その 枝 に は 熟して まっ赤 に 光る まるい 実 が いっぱい 、 その 林 の まん 中 に 高い 高い 三角 標 が 立って 、 森 の 中 から は オーケストラ ベル や ジロフォン に まじって なんとも 言え ず きれいな 音 いろ が 、 とける ように 浸 みる ように 風 に つれて 流れて 来る のでした 。 青年 は ぞくっと して から だ を ふるう ように しました 。 だまって その 譜 を 聞いて いる と 、 そこら に いちめん 黄いろ や 、 うすい 緑 の 明るい 野原 か 敷物 か が ひろがり 、 また まっ白 な 蝋 の ような 露 が 太陽 の 面 を かすめて 行く ように 思わ れました 。 「 まあ 、 あの 烏 」 カムパネルラ の となり の 、 かおる と 呼ば れた 女の子 が 叫びました 。 「 からす で ない 。 みんな かさ さぎ だ 」 カムパネルラ が また 何気なく しかる ように 叫びました ので 、 ジョバンニ は また 思わず 笑い 、 女の子 は きまり 悪 そうに しました 。 まったく 河原 の 青じろい あかり の 上 に 、 黒い 鳥 が たくさん たくさん いっぱいに 列 に なって と まって じっと 川 の 微 光 を 受けて いる のでした 。

「 かさ さぎ です ねえ 、 頭のう しろ の とこ に 毛 が ぴんと 延びてます から 」 青年 は とりなす ように 言いました 。 向こう の 青い 森 の 中 の 三角 標 は すっかり 汽車 の 正面 に 来ました 。 その とき 汽車 の ず うっとうし ろ の 方 から 、 あの 聞き なれた 三〇六 番 の 讃美 歌 の ふし が 聞こえて きました 。 よほど の 人数 で 合唱 して いる らしい のでした 。 青年 は さっと 顔 いろ が 青ざめ 、 たって 一ぺん そっち へ 行き そうに しました が 思いかえして また すわりました 。 かおる 子 は ハンケチ を 顔 に あてて しまいました 。 ジョバンニ まで なんだか 鼻 が 変に なりました 。 けれども いつ と も なく 誰 と も なく その 歌 は 歌い 出さ れ だんだん はっきり 強く なりました 。 思わず ジョバンニ も カムパネルラ も いっしょに うたい だした のです 。

そして 青い 橄欖 の 森 が 、 見え ない 天の川 の 向こう に さめざめ と 光り ながら だんだん うしろ の 方 へ 行って しまい 、 そこ から 流れて 来る あやしい 楽器 の 音 も 、 もう 汽車 の ひびき や 風 の 音 に すりへらされて ず うっと かすかに なりました 。 「 あ 、 孔雀 が いる よ 。 あ 、 孔雀 が いる よ 」

「 あの 森 琴 の 宿 でしょう 。 あたし きっと あの 森 の 中 に むかし の 大きな オーケストラ の 人 たち が 集まって いらっしゃる と 思う わ 、 まわり に は 青い 孔雀 や なんか たくさん いる と 思う わ 」

「 ええ 、 たくさん いたわ 」 女の子 が こたえました 。 ジョバンニ は その 小さく 小さく なって いま は もう 一 つ の 緑 いろ の 貝 ぼたん の ように 見える 森 の 上 に さっさっと 青じろく 時々 光って その 孔雀 が はね を ひろげたり とじたり する 光 の 反射 を 見ました 。 「 そう だ 、 孔雀 の 声 だって さっき 聞こえた 」 カムパネルラ が 女の子 に 言いました 。 「 ええ 、 三十 匹 ぐらい は たしかに いた わ 」 女の子 が 答えました 。 ジョバンニ は にわかに なんとも 言え ず かなしい 気 が して 思わず 、

「 カムパネルラ 、 ここ から は ね おりて 遊んで 行こう よ 」 と こわい 顔 を して 言おう と した くらい でした 。

ところが その とき ジョバンニ は 川下 の 遠く の 方 に 不思議な もの を 見ました 。 それ は たしかに なに か 黒い つる つるした 細長い もの で 、 あの 見え ない 天の川 の 水 の 上 に 飛び出して ちょっと 弓 の ような かたち に 進んで 、 また 水 の 中 に かくれた ようでした 。 おかしい と 思って また よく 気 を つけて いましたら 、 こんど は ずっと 近く で また そんな こと が あった らしい のでした 。 その うち もう あっち でも こっち でも 、 その 黒い つる つるした 変な もの が 水 から 飛び出して 、 まるく 飛んで また 頭から 水 へ くぐる の が たくさん 見えて きました 。 みんな 魚 の ように 川上 へ のぼる らしい のでした 。

「 まあ 、 な んでしょう 。 た あ ちゃん 。 ごらん なさい 。 まあ たくさんだ わ ね 。 なん でしょう あれ 」

眠 そうに 眼 を こすって いた 男の子 は びっくり した ように 立ちあがりました 。 「 なんだろう 」 青年 も 立ちあがりました 。 「 まあ 、 おかしな 魚 だ わ 、 な んでしょう あれ 」

「 海豚 です 」 カムパネルラ が そっち を 見 ながら 答えました 。 「 海豚 だ なんて あたし はじめて だ わ 。 けど ここ 海 じゃ ない んでしょう 」

「 いるか は 海 に いる と きまって いない 」 あの 不思議な 低い 声 が また どこ から かしました 。 ほんとうに その いるか の かたち の おかしい こと は 、 二 つ の ひ れ を ちょうど 両手 を さげて 不動 の 姿勢 を とった ような ふうに して 水 の 中 から 飛び出して 来て 、 うやうやしく 頭 を 下 に して 不動 の 姿勢 の まま また 水 の 中 へ くぐって 行く のでした 。 見え ない 天の川 の 水 も その とき は ゆらゆら と 青い 焔 の ように 波 を あげる のでした 。

「 いるか お 魚 でしょう か 」 女の子 が カムパネルラ に はなしかけました 。 男の子 は ぐったり つか れた ように 席 に もたれて 眠って いました 。 「 いるか 、 魚 じゃ ありません 。 くじら と 同じ ような けだもの です 」 カムパネルラ が 答えました 。 「 あなた くじら 見た こと あって 」

「 僕 あります 。 くじら 、 頭 と 黒い しっぽ だけ 見えます 。 潮 を 吹く と ちょうど 本 に ある ように なります 」 「 くじら なら 大きい わ ねえ 」 「 くじら 大きい です 。 子供 だって いるか ぐらい あります 」 「 そう よ 、 あたし アラビアンナイト で 見た わ 」 姉 は 細い 銀 いろ の 指輪 を いじり ながら おもしろ そうに はなし して いました 。 ( カムパネルラ 、 僕 もう 行っち まう ぞ 。 僕 なんか 鯨 だって 見た こと ないや )

ジョバンニ は まるで たまらない ほど いらいら し ながら 、 それ でも 堅く 、 唇 を 噛んで こらえて 窓 の 外 を 見て いました 。 その 窓 の 外 に は 海豚 の かたち も もう 見え なく なって 川 は 二 つ に わかれました 。 その まっくらな 島 の まん 中 に 高い 高い やぐら が 一 つ 組まれて 、 その 上 に 一 人 の 寛 い 服 を 着て 赤い 帽子 を かぶった 男 が 立って いました 。 そして 両手 に 赤 と 青 の 旗 を もって そら を 見上げて 信号 して いる のでした 。

ジョバンニ が 見て いる 間 その 人 は しきりに 赤い 旗 を ふって いました が 、 にわかに 赤旗 を おろして うしろ に かくす ように し 、 青い 旗 を 高く 高く あげて まるで オーケストラ の 指揮 者 の ように はげしく 振りました 。 すると 空中 に ざ あっと 雨 の ような 音 が して 、 何 か まっくらな もの が 、 いく かたまり も いく かたまり も 鉄砲 丸 の ように 川 の 向こう の 方 へ 飛んで 行く のでした 。 ジョバンニ は 思わず 窓 から からだ を 半分 出して 、 そっち を 見あげました 。 美しい 美しい 桔梗 いろ の がらんと した 空 の 下 を 、 実に 何 万 と いう 小さな 鳥 ども が 、 幾 組 も 幾 組 も めいめい せわしく せわしく 鳴いて 通って 行く のでした 。

「 鳥 が 飛んで 行く な 」 ジョバンニ が 窓 の 外 で 言いました 。 「 どら 」 カムパネルラ も そら を 見ました 。 その とき あの やぐら の 上 の ゆるい 服 の 男 は にわかに 赤い 旗 を あげて 狂気 の ように ふり うごかしました 。 すると ぴたっと 鳥 の 群れ は 通ら なく なり 、 それ と 同時に ぴ しゃ あん と いう つぶれた ような 音 が 川下 の 方 で 起こって 、 それ から しばらく し い ん と しました 。 と 思ったら あの 赤 帽 の 信号 手 が また 青い 旗 を ふって 叫んで いた のです 。

「 いま こそ わたれ わたり鳥 、 いま こそ わたれ わたり鳥 」 その 声 も はっきり 聞こえました 。 それ と いっしょに また 幾 万 と いう 鳥 の 群れ が そら を まっすぐに かけた のです 。 二 人 の 顔 を 出して いる まん 中 の 窓 から あの 女の子 が 顔 を 出して 美しい 頬 を かがやかせ ながら そら を 仰ぎました 。 「 まあ 、 この 鳥 、 たくさんです わ ねえ 、 あら まあ そら の きれいな こと 」 女の子 は ジョバンニ に はなしかけました けれども ジョバンニ は 生意気な 、 いやだ い と 思い ながら 、 だまって 口 を むすんで そら を 見あげて いました 。 女の子 は 小さく ほっと 息 を して 、 だまって 席 へ 戻りました 。 カムパネルラ が きのどく そうに 窓 から 顔 を 引っ込めて 地図 を 見て いました 。 「 あの 人 鳥 へ 教えて る んでしょう か 」 女の子 が そっと カムパネルラ に たずねました 。 「 わたり鳥 へ 信号 して る んです 。 きっと どこ から か の ろし が あがる ため でしょう 」

カムパネルラ が 少し おぼつかな そうに 答えました 。 そして 車 の 中 は し い ん と なりました 。 ジョバンニ は もう頭 を 引っ込め たかった のです けれども 明るい とこ へ 顔 を 出す の が つらかった ので 、 だまって こらえて そのまま 立って 口笛 を 吹いて いました 。 ( どうして 僕 は こんなに かなしい のだろう 。 僕 は もっと こころもち を きれいに 大きく もた なければ いけない 。 あす この 岸 の ず うっと 向こう に まるで けむり の ような 小さな 青い 火 が 見える 。 あれ は ほんとうに しずかで つめたい 。 僕 は あれ を よく 見て こころもち を しずめる んだ )

ジョバンニ は 熱って 痛い あたま を 両手 で 押える ように して 、 そっち の 方 を 見ました 。 ( ああ ほんとうに どこまでも どこまでも 僕 と いっしょに 行く ひと は ない だろう か 。 カムパネルラ だって あんな 女の子 と おもしろ そうに 談 して いる し 僕 は ほんとうに つらい なあ )

ジョバンニ の 眼 は また 泪 で いっぱいに なり 、 天の川 も まるで 遠く へ 行った ように ぼんやり 白く 見える だけ でした 。

その とき 汽車 は だんだん 川 から は なれて 崖 の 上 を 通る ように なりました 。 向こう岸 も また 黒い いろ の 崖 が 川 の 岸 を 下流 に 下る に したがって 、 だんだん 高く なって いく のでした 。 そして ちらっと 大きな とうもろこし の 木 を 見ました 。 その 葉 は ぐるぐる に 縮れ 葉 の 下 に は もう 美しい 緑 いろ の 大きな 苞 が 赤い 毛 を 吐いて 真珠 の ような 実 も ちらっと 見えた のでした 。 それ は だんだん 数 を 増して きて 、 もう いま は 列 の ように 崖 と 線路 と の 間 に ならび 、 思わず ジョバンニ が 窓 から 顔 を 引っ込めて 向こう側 の 窓 を 見ました とき は 、 美しい そら の 野原 の 地平 線 の はて まで 、 その 大きな とうもろこし の 木 が ほとんど いちめんに 植えられて 、 さ や さ や 風 に ゆらぎ 、 その 立派な ちぢれた 葉 の さき から は 、 まるで ひる の 間 に いっぱい 日光 を 吸った 金剛 石 の ように 露 が いっぱいに ついて 、 赤 や 緑 や きらきら 燃えて 光って いる のでした 。 カムパネルラ が 、

「 あれ とうもろこし だ ねえ 」 と ジョバンニ に 言いました けれども 、 ジョバンニ は どうしても 気持ち が なおりません でした から 、 ただ ぶっきらぼうに 野原 を 見た まま 、 「 そう だろう 」 と 答えました 。 その とき 汽車 は だんだん しずかに なって 、 いくつか の シグナル と てん てつ 器 の 灯 を 過ぎ 、 小さな 停車場 に とまりました 。 その 正面 の 青じろい 時計 は かっきり 第 二 時 を 示し 、 風 も なくなり 汽車 も うごか ず 、 しずかな しずかな 野原 の なか に その 振り子 は カチッカチッ と 正しく 時 を 刻んで いく のでした 。 そして まったく その 振り子 の 音 の たえま を 遠く の 遠く の 野原 の はて から 、 かすかな かすかな 旋律 が 糸 の ように 流れて 来る のでした 。

「 新 世界 交響 楽 だ わ 」 向こう の 席 の 姉 が ひとりごと の ように こっち を 見 ながら そっと 言いました 。 全く もう 車 の 中 で は あの 黒 服 の 丈 高い 青年 も 誰 も みんな やさしい 夢 を 見て いる のでした 。

( こんな しずかな いい とこ で 僕 は どうして もっと 愉快に なれ ない だろう 。 どうして こんなに ひと り さびしい のだろう 。 けれども カムパネルラ なんか あんまり ひどい 、 僕 と いっしょに 汽車 に 乗って い ながら 、 まるで あんな 女の子 と ばかり 談 して いる んだ もの 。 僕 は ほんとうに つらい )

ジョバンニ は また 手 で 顔 を 半分 かくす ように して 向こう の 窓 の そと を 見つめて いました 。 すきとおった 硝子 の ような 笛 が 鳴って 汽車 は しずかに 動きだし 、 カムパネルラ も さびし そうに 星 めぐり の 口笛 を 吹きました 。 「 ええ 、 ええ 、 もう この 辺 は ひどい 高原 です から 」

うしろ の 方 で 誰 か としより らしい 人 の 、 いま 眼 が さめた と いう ふうで はきはき 談 して いる 声 が しました 。 「 とうもろこし だって 棒 で 二 尺 も 孔 を あけて おいて そこ へ 播 か ない と はえ ない んです 」

「 そう です か 。 川 まで は よほど ありましょう か ねえ 」 「 ええ 、 ええ 、 河 まで は 二千 尺 から 六千 尺 あります 。 もう まるで ひどい 峡谷 に なって いる んです 」

そう そう ここ は コロラド の 高原 じゃ なかったろう か 、 ジョバンニ は 思わず そう 思いました 。 あの 姉 は 弟 を 自分 の 胸 に よりかから せて 眠ら せ ながら 黒い 瞳 を うっとり と 遠く へ 投げて 何 を 見る でも なし に 考え込んで いる のでした し 、 カムパネルラ は まだ さびし そうに ひと り 口笛 を 吹き 、 男の子 は まるで 絹 で 包んだ りんご の ような 顔 いろ を して ジョバンニ の 見る 方 を 見て いる のでした 。

突然 とうもろこし が なくなって 大きな 黒い 野原 が いっぱいに ひらけました 。 新 世界 交響 楽 は いよいよ はっきり 地平 線 の はて から 湧き 、 その まっ黒 な 野原 の なか を 一 人 の インデアン が 白い 鳥 の 羽根 を 頭 に つけ 、 たくさんの 石 を 腕 と 胸 に かざり 、 小さな 弓 に 矢 を つが えて いちもくさんに 汽車 を 追って 来る のでした 。 「 あら 、 インデアン です よ 。 インデアン です よ 。 おね え さま ごらん なさい 」

黒 服 の 青年 も 眼 を さましました 。 ジョバンニ も カムパネルラ も 立ちあがりました 。 「 走って 来る わ 、 あら 、 走って 来る わ 。 追いかけて いる んでしょう 」

「 いいえ 、 汽車 を 追って る んじゃ ない んです よ 。 猟 を する か 踊る か して る んです よ 」

青年 は いま どこ に いる か 忘れた と いう ふうに ポケット に 手 を 入れて 立ち ながら 言いました 。 まったく インデアン は 半分 は 踊って いる ようでした 。 第 一 かける に して も 足 の ふみ よう が もっと 経済 も とれ 本気に も なれ そうでした 。 にわかに くっきり 白い その 羽根 は 前 の 方 へ 倒れる ように なり 、 インデアン は ぴたっと 立ちどまって 、 すばやく 弓 を 空 に ひきました 。 そこ から 一 羽 の 鶴 が ふらふら と 落ちて 来て 、 また 走り出した インデアン の 大きく ひろげた 両手 に 落ちこみました 。 インデアン は うれし そうに 立って わらいました 。 そして その 鶴 を もって こっち を 見て いる 影 も 、 もう どんどん 小さく 遠く なり 、 電しん ば し ら の 碍子 が きらっき らっと 続いて 二 つ ばかり 光って 、 また とうもろこし の 林 に なって しまいました 。 こっち 側 の 窓 を 見ます と 汽車 は ほんとうに 高い 高い 崖 の 上 を 走って いて 、 その 谷 の 底 に は 川 が やっぱり 幅ひろく 明るく 流れて いた のです 。 「 ええ 、 もう この 辺 から 下り です 。 なん せ こんど は 一ぺん に あの 水面 まで おりて 行く んです から 容易じゃ ありません 。 この 傾斜 が ある もん です から 汽車 は 決して 向こう から こっち へ は 来 ない んです 。 そら 、 もう だんだん 早く なった でしょう 」 さっき の 老人 らしい 声 が 言いました 。



Want to learn a language?


Learn from this text and thousands like it on LingQ.

  • A vast library of audio lessons, all with matching text
  • Revolutionary learning tools
  • A global, interactive learning community.

Language learning online @ LingQ

9-2. ジョバンニ の 切符 ||きっぷ

ごと ごと ごと ごと 汽車 は きらびやかな 燐 光 の 川 の 岸 を 進みました 。 ||||きしゃ|||りん|ひかり||かわ||きし||すすみ ました 向こう の 方 の 窓 を 見る と 、 野原 は まるで 幻 燈 の ようでした 。 むこう||かた||まど||みる||のはら|||まぼろし|とも|| 百 も 千 も の 大小 さまざま の 三角 標 、 その 大きな もの の 上 に は 赤い 点々 を うった 測量 旗 も 見え 、 野原 の はては それ ら が いちめん 、 たくさん たくさん 集まって ぼ おっと 青白い 霧 の よう 、 そこ から か 、 または もっと 向こう から か 、 ときどき さまざまの 形 の ぼんやり した 狼 煙 の ような もの が 、 かわるがわる きれいな 桔梗 いろ の そら に うちあげられる のでした 。 ひゃく||せん|||だいしょう|||さんかく|しるべ||おおきな|||うえ|||あかい|てんてん|||そくりょう|き||みえ|のはら|||||||||あつまって|||あおじろい|きり||||||||むこう|||||かた||||おおかみ|けむり|||||||ききょう|||||うちあげ られる| 実に その すきとおった 奇麗な 風 は 、 ばら の におい で いっぱいでした 。 じつに|||きれいな|かぜ||||||

「 いかがです か 。 こういう りんご は お はじめて でしょう 」 向こう の 席 の 燈台 看守 が いつか 黄金 と 紅 で 美しく いろどら れた 大きな りんご を 落とさ ない ように 両手 で 膝 の 上 に かかえて いました 。 ||||||むこう||せき||とうだい|かんしゅ|||おうごん||くれない||うつくしく|||おおきな|||おとさ|||りょうて||ひざ||うえ|||い ました 「 おや 、 どっから 来た のです か 。 |ど っ から|きた|| 立派です ねえ 。 りっぱです| ここ ら で は こんな りんご が できる のです か 」 青年 は ほんとうに びっくり した らしく 、 燈台 看守 の 両手 に かかえられた 一 もり の りんご を 、 眼 を 細く したり 首 を まげたり し ながら 、 われ を 忘れて ながめて いました 。 ||||||||||せいねん||||||とうだい|かんしゅ||りょうて||かかえ られた|ひと|||||がん||ほそく||くび|||||||わすれて||い ました 「 いや 、 まあ おとり ください 。 どうか 、 まあ おとり ください 」

青年 は 一 つ とって ジョバンニ たち の 方 を ちょっと 見ました 。 せいねん||ひと||||||かた|||み ました 「 さあ 、 向こう の 坊ちゃん が た 。 |むこう||ぼっちゃん|| いかが です か 。 おとり ください 」

ジョバンニ は 坊ちゃん と いわ れた ので 、 すこし しゃくに さわって だまって いました が 、 カムパネルラ は 、 「 ありがとう 」 と 言いました 。 ||ぼっちゃん|||||||||い ました||||||いい ました すると 青年 は 自分 で とって 一 つ ずつ 二 人 に 送って よこしました ので 、 ジョバンニ も 立って 、 ありがとう と 言いました 。 |せいねん||じぶん|||ひと|||ふた|じん||おくって|よこし ました||||たって|||いい ました 燈台 看守 は やっと 両腕 が あいた ので 、 こんど は 自分 で 一 つ ずつ 眠って いる 姉弟 の 膝 に そっと 置きました 。 とうだい|かんしゅ|||りょううで||||||じぶん||ひと|||ねむって||してい||ひざ|||おき ました 「 どうも ありがとう 。 どこ で できる のです か 。 こんな 立派な りんご は 」 |りっぱな||

青年 は つくづく 見 ながら 言いました 。 せいねん|||み||いい ました 「 この 辺 で は もちろん 農業 は いたします けれどもたいてい ひとりでに いい もの が できる ような 約束 に なって おります 。 |ほとり||||のうぎょう||いたし ます|けれども たいてい|||||||やくそく|||おり ます 農業 だって そんなに 骨 は 折れ は しません 。 のうぎょう|||こつ||おれ||し ませ ん たいてい 自分 の 望む 種子 さえ 播 け ば ひとりでに どんどん できます 。 |じぶん||のぞむ|しゅし||ばん|||||でき ます 米 だって パシフィック 辺 の ように 殻 も ない し 十 倍 も 大きくて 匂い も いい のです 。 べい|||ほとり|||から||||じゅう|ばい||おおきくて|におい||| けれども あなた が た の いらっしゃる 方 なら 農業 は もう ありません 。 ||||||かた||のうぎょう|||あり ませ ん りんご だって お 菓子 だって 、 かす が 少しも ありません から 、 みんな その ひと その ひと に よって ちがった 、 わずかの いい かおり に なって 毛あな から ちら け て しまう のです 」 にわかに 男の子 が ばっちり 眼 を あいて 言いました 。 |||かし||||すこしも|あり ませ ん|||||||||||||||けあな||||||||おとこのこ||ばっ ちり|がん|||いい ました 「 ああ 、 ぼく いま お母さん の 夢 を みて いた よ 。 |||お かあさん||ゆめ|||| お母さん が ね 、 立派な 戸棚 や 本 の ある とこ に いて ね 、 ぼく の 方 を 見て 手 を だして にこにこ にこにこ わらった よ 。 お かあさん|||りっぱな|とだな||ほん|||||||||かた||みて|て|||||| ぼく 、 おっか さん 。 |お っか| りんご を ひろって きて あげましょう か 、 と 言ったら 眼 が さめちゃった 。 ||||あげ ましょう|||いったら|がん||さめちゃ った ああ ここ 、 さっき の 汽車 の なか だ ねえ 」 ||||きしゃ||||

「 その りんご が そこ に あります 。 |||||あり ます この おじさん に いただいた のです よ 」 青年 が 言いました 。 ||||||せいねん||いい ました 「 ありがとう おじさん 。 おや 、 かおる ねえさん まだ 寝て る ねえ 、 ぼく 起こして やろう 。 ||||ねて||||おこして| ねえさん 。 ごらん 、 りんご を もらった よ 。 おきて ごらん 」

姉 は わらって 眼 を さまし 、 まぶし そうに 両手 を 眼 に あてて 、 それ から りんご を 見ました 。 あね|||がん||||そう に|りょうて||がん|||||||み ました 男の子 は まるで パイ を たべる ように 、 もう それ を 食べて いました 。 おとこのこ|||ぱい|||||||たべて|い ました また せっかく むいた その きれいな 皮 も 、 くるくる コルク 抜き の ような 形 に なって 床 へ 落ちる まで の 間 に はすうっと 、 灰 いろ に 光って 蒸発 して しまう のでした 。 |||||かわ|||こるく|ぬき|||かた|||とこ||おちる|||あいだ||はすう っと|はい|||ひかって|じょうはつ||| 二 人 は りんご をたいせつに ポケット に しまいました 。 ふた|じん|||を たいせつに|ぽけっと||しまい ました 川下 の 向こう岸 に 青く 茂った 大きな 林 が 見え 、 その 枝 に は 熟して まっ赤 に 光る まるい 実 が いっぱい 、 その 林 の まん 中 に 高い 高い 三角 標 が 立って 、 森 の 中 から は オーケストラ ベル や ジロフォン に まじって なんとも 言え ず きれいな 音 いろ が 、 とける ように 浸 みる ように 風 に つれて 流れて 来る のでした 。 かわしも||むこうぎし||あおく|しげった|おおきな|りん||みえ||えだ|||じゅくして|まっ あか||ひかる||み||||りん|||なか||たかい|たかい|さんかく|しるべ||たって|しげる||なか|||おーけすとら|べる||||||いえ|||おと|||||ひた|||かぜ|||ながれて|くる| 青年 は ぞくっと して から だ を ふるう ように しました 。 せいねん||ぞく っと|||||||し ました だまって その 譜 を 聞いて いる と 、 そこら に いちめん 黄いろ や 、 うすい 緑 の 明るい 野原 か 敷物 か が ひろがり 、 また まっ白 な 蝋 の ような 露 が 太陽 の 面 を かすめて 行く ように 思わ れました 。 ||ふ||きいて||||||きいろ|||みどり||あかるい|のはら||しきもの|||||まっしろ||ろう|||ろ||たいよう||おもて|||いく||おもわ|れ ました 「 まあ 、 あの 烏 」 カムパネルラ の となり の 、 かおる と 呼ば れた 女の子 が 叫びました 。 ||からす|||||||よば||おんなのこ||さけび ました 「 からす で ない 。 みんな かさ さぎ だ 」 カムパネルラ が また 何気なく しかる ように 叫びました ので 、 ジョバンニ は また 思わず 笑い 、 女の子 は きまり 悪 そうに しました 。 |||||||なにげなく|||さけび ました|||||おもわず|わらい|おんなのこ|||あく|そう に|し ました まったく 河原 の 青じろい あかり の 上 に 、 黒い 鳥 が たくさん たくさん いっぱいに 列 に なって と まって じっと 川 の 微 光 を 受けて いる のでした 。 |かわはら||あおじろい|||うえ||くろい|ちょう|||||れつ||||||かわ||び|ひかり||うけて||

「 かさ さぎ です ねえ 、 頭のう しろ の とこ に 毛 が ぴんと 延びてます から 」 青年 は とりなす ように 言いました 。 ||||ずのう|||||け|||のびて ます||せいねん||||いい ました 向こう の 青い 森 の 中 の 三角 標 は すっかり 汽車 の 正面 に 来ました 。 むこう||あおい|しげる||なか||さんかく|しるべ|||きしゃ||しょうめん||き ました その とき 汽車 の ず うっとうし ろ の 方 から 、 あの 聞き なれた 三〇六 番 の 讃美 歌 の ふし が 聞こえて きました 。 ||きしゃ||||||かた|||きき||みっ|むっ|ばん||さんび|うた||||きこえて|き ました よほど の 人数 で 合唱 して いる らしい のでした 。 ||にんずう||がっしょう|||| 青年 は さっと 顔 いろ が 青ざめ 、 たって 一ぺん そっち へ 行き そうに しました が 思いかえして また すわりました 。 せいねん|||かお|||あおざめ||いっぺん|||いき|そう に|し ました||おもいかえして||すわり ました かおる 子 は ハンケチ を 顔 に あてて しまいました 。 |こ||||かお|||しまい ました ジョバンニ まで なんだか 鼻 が 変に なりました 。 |||はな||へんに|なり ました けれども いつ と も なく 誰 と も なく その 歌 は 歌い 出さ れ だんだん はっきり 強く なりました 。 |||||だれ|||||うた||うたい|ださ||||つよく|なり ました 思わず ジョバンニ も カムパネルラ も いっしょに うたい だした のです 。 おもわず||||||||

そして 青い 橄欖 の 森 が 、 見え ない 天の川 の 向こう に さめざめ と 光り ながら だんだん うしろ の 方 へ 行って しまい 、 そこ から 流れて 来る あやしい 楽器 の 音 も 、 もう 汽車 の ひびき や 風 の 音 に すりへらされて ず うっと かすかに なりました 。 |あおい|かんらん||しげる||みえ||あまのがわ||むこう||||ひかり|||||かた||おこなって||||ながれて|くる||がっき||おと|||きしゃ||||かぜ||おと||すりへらさ れて||う っと||なり ました 「 あ 、 孔雀 が いる よ 。 |くじゃく||| あ 、 孔雀 が いる よ 」 |くじゃく|||

「 あの 森 琴 の 宿 でしょう 。 |しげる|こと||やど| あたし きっと あの 森 の 中 に むかし の 大きな オーケストラ の 人 たち が 集まって いらっしゃる と 思う わ 、 まわり に は 青い 孔雀 や なんか たくさん いる と 思う わ 」 |||しげる||なか||||おおきな|おーけすとら||じん|||あつまって|||おもう|||||あおい|くじゃく||||||おもう|

「 ええ 、 たくさん いたわ 」 女の子 が こたえました 。 |||おんなのこ||こたえ ました ジョバンニ は その 小さく 小さく なって いま は もう 一 つ の 緑 いろ の 貝 ぼたん の ように 見える 森 の 上 に さっさっと 青じろく 時々 光って その 孔雀 が はね を ひろげたり とじたり する 光 の 反射 を 見ました 。 |||ちいさく|ちいさく|||||ひと|||みどり|||かい||||みえる|しげる||うえ||さっ さっと|あおじろく|ときどき|ひかって||くじゃく|||||||ひかり||はんしゃ||み ました 「 そう だ 、 孔雀 の 声 だって さっき 聞こえた 」 カムパネルラ が 女の子 に 言いました 。 ||くじゃく||こえ|||きこえた|||おんなのこ||いい ました 「 ええ 、 三十 匹 ぐらい は たしかに いた わ 」 女の子 が 答えました 。 |さんじゅう|ひき||||||おんなのこ||こたえ ました ジョバンニ は にわかに なんとも 言え ず かなしい 気 が して 思わず 、 ||||いえ|||き|||おもわず

「 カムパネルラ 、 ここ から は ね おりて 遊んで 行こう よ 」 と こわい 顔 を して 言おう と した くらい でした 。 ||||||あそんで|いこう||||かお|||いおう||||

ところが その とき ジョバンニ は 川下 の 遠く の 方 に 不思議な もの を 見ました 。 |||||かわしも||とおく||かた||ふしぎな|||み ました それ は たしかに なに か 黒い つる つるした 細長い もの で 、 あの 見え ない 天の川 の 水 の 上 に 飛び出して ちょっと 弓 の ような かたち に 進んで 、 また 水 の 中 に かくれた ようでした 。 |||||くろい|||ほそながい||||みえ||あまのがわ||すい||うえ||とびだして||ゆみ|||||すすんで||すい||なか||| おかしい と 思って また よく 気 を つけて いましたら 、 こんど は ずっと 近く で また そんな こと が あった らしい のでした 。 ||おもって|||き|||いま したら||||ちかく|||||||| その うち もう あっち でも こっち でも 、 その 黒い つる つるした 変な もの が 水 から 飛び出して 、 まるく 飛んで また 頭から 水 へ くぐる の が たくさん 見えて きました 。 |||あっ ち|||||くろい|||へんな|||すい||とびだして||とんで||あたまから|すい||||||みえて|き ました みんな 魚 の ように 川上 へ のぼる らしい のでした 。 |ぎょ|||かわかみ||||

「 まあ 、 な んでしょう 。 た あ ちゃん 。 ごらん なさい 。 まあ たくさんだ わ ね 。 なん でしょう あれ 」

眠 そうに 眼 を こすって いた 男の子 は びっくり した ように 立ちあがりました 。 ねむ|そう に|がん||||おとこのこ|||||たちあがり ました 「 なんだろう 」 青年 も 立ちあがりました 。 |せいねん||たちあがり ました 「 まあ 、 おかしな 魚 だ わ 、 な んでしょう あれ 」 ||ぎょ|||||

「 海豚 です 」 カムパネルラ が そっち を 見 ながら 答えました 。 いるか||||||み||こたえ ました 「 海豚 だ なんて あたし はじめて だ わ 。 いるか|||||| けど ここ 海 じゃ ない んでしょう 」 ||うみ|||

「 いるか は 海 に いる と きまって いない 」 あの 不思議な 低い 声 が また どこ から かしました 。 ||うみ|||||||ふしぎな|ひくい|こえ|||||かし ました ほんとうに その いるか の かたち の おかしい こと は 、 二 つ の ひ れ を ちょうど 両手 を さげて 不動 の 姿勢 を とった ような ふうに して 水 の 中 から 飛び出して 来て 、 うやうやしく 頭 を 下 に して 不動 の 姿勢 の まま また 水 の 中 へ くぐって 行く のでした 。 |||||||||ふた|||||||りょうて|||ふどう||しせい||||||すい||なか||とびだして|きて||あたま||した|||ふどう||しせい||||すい||なか|||いく| 見え ない 天の川 の 水 も その とき は ゆらゆら と 青い 焔 の ように 波 を あげる のでした 。 みえ||あまのがわ||すい|||||||あおい|ほのお|||なみ|||

「 いるか お 魚 でしょう か 」 女の子 が カムパネルラ に はなしかけました 。 ||ぎょ|||おんなのこ||||はなしかけ ました 男の子 は ぐったり つか れた ように 席 に もたれて 眠って いました 。 おとこのこ||||||せき||もた れて|ねむって|い ました 「 いるか 、 魚 じゃ ありません 。 |ぎょ||あり ませ ん くじら と 同じ ような けだもの です 」 カムパネルラ が 答えました 。 ||おなじ||||||こたえ ました 「 あなた くじら 見た こと あって 」 ||みた||

「 僕 あります 。 ぼく|あり ます くじら 、 頭 と 黒い しっぽ だけ 見えます 。 |あたま||くろい|||みえ ます 潮 を 吹く と ちょうど 本 に ある ように なります 」 「 くじら なら 大きい わ ねえ 」 「 くじら 大きい です 。 しお||ふく|||ほん||||なり ます|||おおきい||||おおきい| 子供 だって いるか ぐらい あります 」 「 そう よ 、 あたし アラビアンナイト で 見た わ 」 姉 は 細い 銀 いろ の 指輪 を いじり ながら おもしろ そうに はなし して いました 。 こども||||あり ます||||||みた||あね||ほそい|ぎん|||ゆびわ|||||そう に|||い ました ( カムパネルラ 、 僕 もう 行っち まう ぞ 。 |ぼく||ぎょう っち|| 僕 なんか 鯨 だって 見た こと ないや ) ぼく||くじら||みた||

ジョバンニ は まるで たまらない ほど いらいら し ながら 、 それ でも 堅く 、 唇 を 噛んで こらえて 窓 の 外 を 見て いました 。 ||||||||||かたく|くちびる||かんで||まど||がい||みて|い ました その 窓 の 外 に は 海豚 の かたち も もう 見え なく なって 川 は 二 つ に わかれました 。 |まど||がい|||いるか|||||みえ|||かわ||ふた|||わかれ ました その まっくらな 島 の まん 中 に 高い 高い やぐら が 一 つ 組まれて 、 その 上 に 一 人 の 寛 い 服 を 着て 赤い 帽子 を かぶった 男 が 立って いました 。 ||しま|||なか||たかい|たかい|||ひと||くま れて||うえ||ひと|じん||ひろし||ふく||きて|あかい|ぼうし|||おとこ||たって|い ました そして 両手 に 赤 と 青 の 旗 を もって そら を 見上げて 信号 して いる のでした 。 |りょうて||あか||あお||き|||||みあげて|しんごう|||

ジョバンニ が 見て いる 間 その 人 は しきりに 赤い 旗 を ふって いました が 、 にわかに 赤旗 を おろして うしろ に かくす ように し 、 青い 旗 を 高く 高く あげて まるで オーケストラ の 指揮 者 の ように はげしく 振りました 。 ||みて||あいだ||じん|||あかい|き|||い ました|||あかはた||||||||あおい|き||たかく|たかく|||おーけすとら||しき|もの||||ふり ました すると 空中 に ざ あっと 雨 の ような 音 が して 、 何 か まっくらな もの が 、 いく かたまり も いく かたまり も 鉄砲 丸 の ように 川 の 向こう の 方 へ 飛んで 行く のでした 。 |くうちゅう|||あっ と|あめ|||おと|||なん|||||||||||てっぽう|まる|||かわ||むこう||かた||とんで|いく| ジョバンニ は 思わず 窓 から からだ を 半分 出して 、 そっち を 見あげました 。 ||おもわず|まど||||はんぶん|だして|||みあげ ました 美しい 美しい 桔梗 いろ の がらんと した 空 の 下 を 、 実に 何 万 と いう 小さな 鳥 ども が 、 幾 組 も 幾 組 も めいめい せわしく せわしく 鳴いて 通って 行く のでした 。 うつくしい|うつくしい|ききょう|||||から||した||じつに|なん|よろず|||ちいさな|ちょう|||いく|くみ||いく|くみ|||||ないて|かよって|いく|

「 鳥 が 飛んで 行く な 」 ジョバンニ が 窓 の 外 で 言いました 。 ちょう||とんで|いく||||まど||がい||いい ました 「 どら 」 カムパネルラ も そら を 見ました 。 |||||み ました その とき あの やぐら の 上 の ゆるい 服 の 男 は にわかに 赤い 旗 を あげて 狂気 の ように ふり うごかしました 。 |||||うえ|||ふく||おとこ|||あかい|き|||きょうき||||うごかし ました すると ぴたっと 鳥 の 群れ は 通ら なく なり 、 それ と 同時に ぴ しゃ あん と いう つぶれた ような 音 が 川下 の 方 で 起こって 、 それ から しばらく し い ん と しました 。 |ぴた っと|ちょう||むれ||とおら|||||どうじに||||||||おと||かわしも||かた||おこって||||||||し ました と 思ったら あの 赤 帽 の 信号 手 が また 青い 旗 を ふって 叫んで いた のです 。 |おもったら||あか|ぼう||しんごう|て|||あおい|き|||さけんで||

「 いま こそ わたれ わたり鳥 、 いま こそ わたれ わたり鳥 」 その 声 も はっきり 聞こえました 。 |||わたりどり||||わたりどり||こえ|||きこえ ました それ と いっしょに また 幾 万 と いう 鳥 の 群れ が そら を まっすぐに かけた のです 。 ||||いく|よろず|||ちょう||むれ|||||| 二 人 の 顔 を 出して いる まん 中 の 窓 から あの 女の子 が 顔 を 出して 美しい 頬 を かがやかせ ながら そら を 仰ぎました 。 ふた|じん||かお||だして|||なか||まど|||おんなのこ||かお||だして|うつくしい|ほお||||||あおぎ ました 「 まあ 、 この 鳥 、 たくさんです わ ねえ 、 あら まあ そら の きれいな こと 」 女の子 は ジョバンニ に はなしかけました けれども ジョバンニ は 生意気な 、 いやだ い と 思い ながら 、 だまって 口 を むすんで そら を 見あげて いました 。 ||ちょう||||||||||おんなのこ||||はなしかけ ました||||なまいきな||||おもい|||くち|||||みあげて|い ました 女の子 は 小さく ほっと 息 を して 、 だまって 席 へ 戻りました 。 おんなのこ||ちいさく||いき||||せき||もどり ました カムパネルラ が きのどく そうに 窓 から 顔 を 引っ込めて 地図 を 見て いました 。 |||そう に|まど||かお||ひっこめて|ちず||みて|い ました 「 あの 人 鳥 へ 教えて る んでしょう か 」 女の子 が そっと カムパネルラ に たずねました 。 |じん|ちょう||おしえて||||おんなのこ|||||たずね ました 「 わたり鳥 へ 信号 して る んです 。 わたりどり||しんごう||| きっと どこ から か の ろし が あがる ため でしょう 」

カムパネルラ が 少し おぼつかな そうに 答えました 。 ||すこし||そう に|こたえ ました そして 車 の 中 は し い ん と なりました 。 |くるま||なか||||||なり ました ジョバンニ は もう頭 を 引っ込め たかった のです けれども 明るい とこ へ 顔 を 出す の が つらかった ので 、 だまって こらえて そのまま 立って 口笛 を 吹いて いました 。 ||もうとう||ひっこめ||||あかるい|||かお||だす||||||||たって|くちぶえ||ふいて|い ました ( どうして 僕 は こんなに かなしい のだろう 。 |ぼく|||| 僕 は もっと こころもち を きれいに 大きく もた なければ いけない 。 ぼく||||||おおきく||| あす この 岸 の ず うっと 向こう に まるで けむり の ような 小さな 青い 火 が 見える 。 ||きし|||う っと|むこう||||||ちいさな|あおい|ひ||みえる あれ は ほんとうに しずかで つめたい 。 僕 は あれ を よく 見て こころもち を しずめる んだ ) ぼく|||||みて||||

ジョバンニ は 熱って 痛い あたま を 両手 で 押える ように して 、 そっち の 方 を 見ました 。 ||ねつ って|いたい|||りょうて||おさえる|||||かた||み ました ( ああ ほんとうに どこまでも どこまでも 僕 と いっしょに 行く ひと は ない だろう か 。 ||||ぼく|||いく||||| カムパネルラ だって あんな 女の子 と おもしろ そうに 談 して いる し 僕 は ほんとうに つらい なあ ) |||おんなのこ|||そう に|だん||||ぼく||||

ジョバンニ の 眼 は また 泪 で いっぱいに なり 、 天の川 も まるで 遠く へ 行った ように ぼんやり 白く 見える だけ でした 。 ||がん|||なみだ||||あまのがわ|||とおく||おこなった|||しろく|みえる||

その とき 汽車 は だんだん 川 から は なれて 崖 の 上 を 通る ように なりました 。 ||きしゃ|||かわ||||がけ||うえ||とおる||なり ました 向こう岸 も また 黒い いろ の 崖 が 川 の 岸 を 下流 に 下る に したがって 、 だんだん 高く なって いく のでした 。 むこうぎし|||くろい|||がけ||かわ||きし||かりゅう||くだる||||たかく||| そして ちらっと 大きな とうもろこし の 木 を 見ました 。 ||おおきな|||き||み ました その 葉 は ぐるぐる に 縮れ 葉 の 下 に は もう 美しい 緑 いろ の 大きな 苞 が 赤い 毛 を 吐いて 真珠 の ような 実 も ちらっと 見えた のでした 。 |は||||ちぢれ|は||した||||うつくしい|みどり|||おおきな|ほう||あかい|け||はいて|しんじゅ|||み|||みえた| それ は だんだん 数 を 増して きて 、 もう いま は 列 の ように 崖 と 線路 と の 間 に ならび 、 思わず ジョバンニ が 窓 から 顔 を 引っ込めて 向こう側 の 窓 を 見ました とき は 、 美しい そら の 野原 の 地平 線 の はて まで 、 その 大きな とうもろこし の 木 が ほとんど いちめんに 植えられて 、 さ や さ や 風 に ゆらぎ 、 その 立派な ちぢれた 葉 の さき から は 、 まるで ひる の 間 に いっぱい 日光 を 吸った 金剛 石 の ように 露 が いっぱいに ついて 、 赤 や 緑 や きらきら 燃えて 光って いる のでした 。 |||すう||まして|||||れつ|||がけ||せんろ|||あいだ|||おもわず|||まど||かお||ひっこめて|むこうがわ||まど||み ました|||うつくしい|||のはら||ちへい|せん|||||おおきな|||き||||うえ られて|||||かぜ||||りっぱな||は||||||||あいだ|||にっこう||すった|こんごう|いし|||ろ||||あか||みどり|||もえて|ひかって|| カムパネルラ が 、

「 あれ とうもろこし だ ねえ 」 と ジョバンニ に 言いました けれども 、 ジョバンニ は どうしても 気持ち が なおりません でした から 、 ただ ぶっきらぼうに 野原 を 見た まま 、 「 そう だろう 」 と 答えました 。 |||||||いい ました|||||きもち||なおり ませ ん|||||のはら||みた|||||こたえ ました その とき 汽車 は だんだん しずかに なって 、 いくつか の シグナル と てん てつ 器 の 灯 を 過ぎ 、 小さな 停車場 に とまりました 。 ||きしゃ|||||いく つ か||しぐなる||||うつわ||とう||すぎ|ちいさな|ていしゃば||とまり ました その 正面 の 青じろい 時計 は かっきり 第 二 時 を 示し 、 風 も なくなり 汽車 も うごか ず 、 しずかな しずかな 野原 の なか に その 振り子 は カチッカチッ と 正しく 時 を 刻んで いく のでした 。 |しょうめん||あおじろい|とけい||か っきり|だい|ふた|じ||しめし|かぜ|||きしゃ||||||のはら|||||ふりこ||||まさしく|じ||きざんで|| そして まったく その 振り子 の 音 の たえま を 遠く の 遠く の 野原 の はて から 、 かすかな かすかな 旋律 が 糸 の ように 流れて 来る のでした 。 |||ふりこ||おと||||とおく||とおく||のはら||||||せんりつ||いと|||ながれて|くる|

「 新 世界 交響 楽 だ わ 」 向こう の 席 の 姉 が ひとりごと の ように こっち を 見 ながら そっと 言いました 。 しん|せかい|こうきょう|がく|||むこう||せき||あね|||||||み|||いい ました 全く もう 車 の 中 で は あの 黒 服 の 丈 高い 青年 も 誰 も みんな やさしい 夢 を 見て いる のでした 。 まったく||くるま||なか||||くろ|ふく||たけ|たかい|せいねん||だれ||||ゆめ||みて||

( こんな しずかな いい とこ で 僕 は どうして もっと 愉快に なれ ない だろう 。 |||||ぼく||||ゆかいに||| どうして こんなに ひと り さびしい のだろう 。 けれども カムパネルラ なんか あんまり ひどい 、 僕 と いっしょに 汽車 に 乗って い ながら 、 まるで あんな 女の子 と ばかり 談 して いる んだ もの 。 |||||ぼく|||きしゃ||のって|||||おんなのこ|||だん|||| 僕 は ほんとうに つらい ) ぼく|||

ジョバンニ は また 手 で 顔 を 半分 かくす ように して 向こう の 窓 の そと を 見つめて いました 。 |||て||かお||はんぶん||||むこう||まど||||みつめて|い ました すきとおった 硝子 の ような 笛 が 鳴って 汽車 は しずかに 動きだし 、 カムパネルラ も さびし そうに 星 めぐり の 口笛 を 吹きました 。 |がらす|||ふえ||なって|きしゃ|||うごきだし||||そう に|ほし|||くちぶえ||ふき ました 「 ええ 、 ええ 、 もう この 辺 は ひどい 高原 です から 」 ||||ほとり|||こうげん||

うしろ の 方 で 誰 か としより らしい 人 の 、 いま 眼 が さめた と いう ふうで はきはき 談 して いる 声 が しました 。 ||かた||だれ||||じん|||がん|||||||だん|||こえ||し ました 「 とうもろこし だって 棒 で 二 尺 も 孔 を あけて おいて そこ へ 播 か ない と はえ ない んです 」 ||ぼう||ふた|しゃく||あな||||||ばん||||||

「 そう です か 。 川 まで は よほど ありましょう か ねえ 」 「 ええ 、 ええ 、 河 まで は 二千 尺 から 六千 尺 あります 。 かわ||||あり ましょう|||||かわ|||にせん|しゃく||ろくせん|しゃく|あり ます もう まるで ひどい 峡谷 に なって いる んです 」 |||きょうこく||||

そう そう ここ は コロラド の 高原 じゃ なかったろう か 、 ジョバンニ は 思わず そう 思いました 。 ||||ころらど||こうげん||||||おもわず||おもい ました あの 姉 は 弟 を 自分 の 胸 に よりかから せて 眠ら せ ながら 黒い 瞳 を うっとり と 遠く へ 投げて 何 を 見る でも なし に 考え込んで いる のでした し 、 カムパネルラ は まだ さびし そうに ひと り 口笛 を 吹き 、 男の子 は まるで 絹 で 包んだ りんご の ような 顔 いろ を して ジョバンニ の 見る 方 を 見て いる のでした 。 |あね||おとうと||じぶん||むね||||ねむら|||くろい|ひとみ||||とおく||なげて|なん||みる||||かんがえこんで||||||||そう に|||くちぶえ||ふき|おとこのこ|||きぬ||つつんだ||||かお||||||みる|かた||みて||

突然 とうもろこし が なくなって 大きな 黒い 野原 が いっぱいに ひらけました 。 とつぜん||||おおきな|くろい|のはら|||ひらけ ました 新 世界 交響 楽 は いよいよ はっきり 地平 線 の はて から 湧き 、 その まっ黒 な 野原 の なか を 一 人 の インデアン が 白い 鳥 の 羽根 を 頭 に つけ 、 たくさんの 石 を 腕 と 胸 に かざり 、 小さな 弓 に 矢 を つが えて いちもくさんに 汽車 を 追って 来る のでした 。 しん|せかい|こうきょう|がく||||ちへい|せん||||わき||まっ くろ||のはら||||ひと|じん||||しろい|ちょう||はね||あたま||||いし||うで||むね|||ちいさな|ゆみ||や|||||きしゃ||おって|くる| 「 あら 、 インデアン です よ 。 インデアン です よ 。 おね え さま ごらん なさい 」

黒 服 の 青年 も 眼 を さましました 。 くろ|ふく||せいねん||がん||さまし ました ジョバンニ も カムパネルラ も 立ちあがりました 。 ||||たちあがり ました 「 走って 来る わ 、 あら 、 走って 来る わ 。 はしって|くる|||はしって|くる| 追いかけて いる んでしょう 」 おいかけて||

「 いいえ 、 汽車 を 追って る んじゃ ない んです よ 。 |きしゃ||おって||||| 猟 を する か 踊る か して る んです よ 」 りょう||||おどる|||||

青年 は いま どこ に いる か 忘れた と いう ふうに ポケット に 手 を 入れて 立ち ながら 言いました 。 せいねん|||||||わすれた||||ぽけっと||て||いれて|たち||いい ました まったく インデアン は 半分 は 踊って いる ようでした 。 |||はんぶん||おどって|| 第 一 かける に して も 足 の ふみ よう が もっと 経済 も とれ 本気に も なれ そうでした 。 だい|ひと|||||あし||||||けいざい|||ほんきに|||そう でした にわかに くっきり 白い その 羽根 は 前 の 方 へ 倒れる ように なり 、 インデアン は ぴたっと 立ちどまって 、 すばやく 弓 を 空 に ひきました 。 ||しろい||はね||ぜん||かた||たおれる|||||ぴた っと|たちどまって||ゆみ||から||ひき ました そこ から 一 羽 の 鶴 が ふらふら と 落ちて 来て 、 また 走り出した インデアン の 大きく ひろげた 両手 に 落ちこみました 。 ||ひと|はね||つる||||おちて|きて||はしりだした|||おおきく||りょうて||おちこみ ました インデアン は うれし そうに 立って わらいました 。 |||そう に|たって|わらい ました そして その 鶴 を もって こっち を 見て いる 影 も 、 もう どんどん 小さく 遠く なり 、 電しん ば し ら の 碍子 が きらっき らっと 続いて 二 つ ばかり 光って 、 また とうもろこし の 林 に なって しまいました 。 ||つる|||||みて||かげ||||ちいさく|とおく||でんしん|||||がいし||きら っき|ら っと|つづいて|ふた|||ひかって||||りん|||しまい ました こっち 側 の 窓 を 見ます と 汽車 は ほんとうに 高い 高い 崖 の 上 を 走って いて 、 その 谷 の 底 に は 川 が やっぱり 幅ひろく 明るく 流れて いた のです 。 |がわ||まど||み ます||きしゃ|||たかい|たかい|がけ||うえ||はしって|||たに||そこ|||かわ|||はばひろく|あかるく|ながれて|| 「 ええ 、 もう この 辺 から 下り です 。 |||ほとり||くだり| なん せ こんど は 一ぺん に あの 水面 まで おりて 行く んです から 容易じゃ ありません 。 ||||いっぺん|||すいめん|||いく|||よういじゃ|あり ませ ん この 傾斜 が ある もん です から 汽車 は 決して 向こう から こっち へ は 来 ない んです 。 |けいしゃ||||||きしゃ||けっして|むこう|||||らい|| そら 、 もう だんだん 早く なった でしょう 」 さっき の 老人 らしい 声 が 言いました 。 |||はやく|||||ろうじん||こえ||いい ました

×

We use cookies to help make LingQ better. By visiting the site, you agree to our cookie policy.