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或る女 - 有島武郎(アクセス), 5.2 或る女

5.2 或る 女

正面 から はね返さ れた 古藤 は 黙って しまった 。 しかし 葉子 も 勢い に 乗って 追い 迫る ような 事 は し なかった 。 矢 頃 を 計って から 語気 を かえて ずっと 下手に なって 、・・

「 妙に お 思い に なった でしょう ね 。 わるう ございまして ね 。 こんな 所 に 来て いて 、 お 酒 なんか 飲む の は ほんとうに 悪い と 思った んです けれども 、 気分 が ふさいで 来る と 、 わたし に は これ より ほか に お 薬 は ない んです もの 。 さっき の ように 苦しく なって 来る と 私 は いつでも 湯 を 熱 めに して 浴って から 、 お 酒 を 飲み 過ぎる くらい 飲んで 寝る んです の 。 そう する と 」・・

と いって 、 ちょっと いいよどんで 見せて 、・・

「 十 分 か 二十 分 ぐっすり 寝入る んです の よ …… 痛み も 何も 忘れて しまって いい 心持ち に ……。 それ から 急に 頭 が かっと 痛んで 来ます の 。 そして それ と 一緒に 気 が めいり 出して 、 もうもう どうして いい か わから なく なって 、 子供 の ように 泣き つづける と 、 その うち に また 眠たく なって 一寝入り します の よ 。 そう する と その あと は いくらか さっぱり する んです 。 …… 父 や 母 が 死んで しまって から 、 頼み も し ない のに 親類 たち から よけいな 世話 を やか れたり 、 他 人力 な ん ぞ を あて に せ ず に 妹 二 人 を 育てて 行か なければ なら ない と 思ったり する と 、 わたし の ような 、 他人 様 と 違って 風変わりな 、…… そら 、 五 本 の 骨 でしょう 」・・

と さびしく 笑った 。 ・・

「 それ です もの どうぞ 堪忍 して ちょうだい 。 思いきり 泣きたい 時 でも 知らん顔 を して 笑って 通して いる と 、 こんな わたし みたいな 気まぐれ 者 に なる んです 。 気まぐれで も しなければ 生きて 行け なく なる んです 。 男 の かた に は この 心持ち は お わかり に は なら ない かも しれ ない けれども 」・・

こう いって る うち に 葉子 は 、 ふと 木部 と の 恋 が はかなく 破れた 時 の 、 われ に も なく 身 に しみ渡る さびし み や 、 死ぬ まで 日陰 者 で あら ねば なら ぬ 私 生子 の 定子 の 事 や 、 計ら ず も きょう まのあたり 見た 木部 の 、 心から やつれた 面影 など を 思い起こした 。 そして さらに 、 母 の 死んだ 夜 、 日ごろ は 見向き も し なかった 親類 たち が 寄り集まって 来て 、 早月 家 に は 毛 の 末 ほど も 同情 の ない 心 で 、 早月 家 の 善後策 に ついて 、 さも 重大 らしく 勝手気ままな 事 を 親切 ご かし に しゃべり 散らす の を 聞か さ れた 時 、 どうにでも なれ と いう 気 に なって 、 暴れ 抜いた 事 が 、 自分 に さえ 悲しい 思い出 と なって 、 葉子 の 頭 の 中 を 矢 の ように 早く ひらめき 通った 。 葉子 の 顔 に は 人 に 譲って は いない 自信 の 色 が 現われ 始めた 。 ・・

「 母 の 初七日 の 時 も ね 、 わたし は たて 続け に ビール を 何 杯 飲みましたろう 。 なんでも びん が そこ い ら に ごろごろ ころがりました 。 そして しまい に は 何 が なんだか 夢中に なって 、 宅 に 出入り する お 医者 さん の 膝 を 枕 に 、 泣き寝入り に 寝入って 、 夜中 を あなた 二 時間 の 余 も 寝 続けて しまいました わ 。 親類 の 人 たち は それ を 見る と 一 人 帰り 二 人 帰り して 、 相談 も 何も めちゃくちゃに なった んですって 。 母 の 写真 を 前 に 置 い と いて 、 わたし は そんな 事 まで する 人間 です の 。 お あきれ に なった でしょう ね 。 いやな やつ でしょう 。 あなた の ような 方 から 御覧 に なったら 、 さぞ いやな 気 が なさいましょう ねえ 」・・

「 え ゝ 」・・

と 古藤 は 目 も 動かさ ず に ぶっきらぼうに 答えた 。 ・・

「 それ でも あなた 」・・

と 葉子 は 切な さ そうに 半ば 起き上がって 、・・

「 外面 だけ で 人 の する 事 を なんとか おっしゃる の は 少し 残酷です わ 。 …… い ゝ え ね 」・・

と 古藤 の 何 か いい出そう と する の を さえぎって 、 今度 は きっと すわり 直った 。 ・・

「 わたし は 泣き言 を いって 他人 様 に も 泣いて いた だこう なんて 、 そんな 事 は これ ん ばかり も 思 や しません と も …… なる なら どこ か に 大砲 の ような 大きな 力 の 強い 人 が いて 、 その 人 が 真剣に 怒って 、 葉子 の ような 人 非 人 は こうして やる ぞ と いって 、 わたし を 押えつけて 心臓 でも 頭 でも くだけて 飛んで しまう ほど 折 檻 を して くれたら と 思う んです の 。 どの 人 も どの 人 も ちゃんと 自分 を 忘れ ないで 、 いいかげんに 怒ったり 、 いいかげんに 泣いたり して いる んです から ねえ 。 なん だって こう 生温い んでしょう 。 ・・

義一 さん ( 葉子 が 古藤 を こう名 で 呼んだ の は この 時 が 始めて だった ) あなた が けさ 、 心 の 正直な なんとか だ と おっしゃった 木村 に 縁 づく ように なった の も 、 その 晩 の 事 です 。 五十川 が 親類 じゅう に 賛成 さして 、 晴れがましく も わたし を みんな の 前 に 引き出して おいて 、 罪人 に でも いう ように 宣告 して しまった のです 。 わたし が 一口 でも いおう と すれば 、 五十川 の いう に は 母 の 遺言 ですって 。 死人 に 口なし 。 ほんとに 木村 は あなた が おっしゃった ような 人間 ね 。 仙台 で あんな 事 が あった でしょう 。 あの 時 知事 の 奥さん はじめ 母 の ほう は なんとか し よう が 娘 の ほう は 保証 が でき ない と おっしゃった んです と さ 」・・

いい 知ら ぬ 侮 蔑 の 色 が 葉子 の 顔 に みなぎった 。 ・・

「 ところが 木村 は 自分 の 考え を 押し通し も し ないで 、 おめおめ と 新聞 に は 母 だけ の 名 を 出して あの 広告 を した んです の 。 ・・

母 だけ が いい 人 に なれば だれ だって わたし を …… そうでしょう 。 その あげく に 木村 はしゃ あし ゃあ と わたし を 妻 に したい んですって 、 義一 さん 、 男って それ で いい もの な んです か 。 まあ ね 物 の 譬 え が です わ 。 それとも 言葉 で は なんといっても むだだ から 、 実行 的に わたし の 潔白 を 立てて やろう と でも いう んでしょう か 」・・

そう いって 激昂 しきった 葉子 は かみ 捨てる ように かん高く ほ ゝ と 笑った 。 ・・

「 いったい わたし は ちょっと した 事 で 好ききらい の できる 悪い 質 な んです から ね 。 と いって わたし は あなた の ような 生一本で も ありません の よ 。 ・・

母 の 遺言 だ から 木村 と 夫婦 に なれ 。 早く 身 を 堅 め て 地道に 暮らさ なければ 母 の 名誉 を けがす 事 に なる 。 妹 だって 裸 で お 嫁入り も でき まい と いわ れれば 、 わたし 立派に 木村 の 妻 に なって 御覧 に いれます 。 その代わり 木村 が 少し つらい だけ 。 ・・

こんな 事 を あなた の 前 で いって は さぞ 気 を 悪く なさる でしょう が 、 真 直 な あなた だ と 思います から 、 わたし も その 気 で 何もかも 打ち明けて 申して しまいます の よ 。 わたし の 性質 や 境遇 は よく 御存じ です わ ね 。 こんな 性質 で こんな 境遇 に いる わたし が こう 考える の に もし 間違い が あったら 、 どうか 遠慮 なく おっしゃって ください 。 ・・

あ ゝ いやだった 事 。 義一 さん 、 わたし こんな 事 は おくび に も 出さ ず に 今 の 今 まで しっかり 胸 に しまって 我慢 して いた のです けれども 、 きょう は どうした ん でしょう 、 なんだか 遠い 旅 に でも 出た ような さびしい 気 に なって しまって ……」・・

弓 弦 を 切って 放した ように 言葉 を 消して 葉子 は うつむいて しまった 。 日 は いつのまにか とっぷり と 暮れて いた 。 じめじめ と 降り続く 秋雨 に 湿った 夜風 が 細々と 通って 来て 、 湿気 で たるんだ 障子 紙 を そっと あおって 通った 。 古藤 は 葉子 の 顔 を 見る の を 避ける ように 、 そこら に 散らばった 服地 や 帽子 など を ながめ 回して 、 なんと 返答 を して いい の か 、 いう べき 事 は 腹 に ある けれども 言葉 に は 現わせ ない ふうだった 。 部屋 は 息 気 苦しい ほど しんと なった 。 ・・

葉子 は 自分 の 言葉 から 、 その 時 の ありさま から 、 妙に やる 瀬 ない さびしい 気分 に なって いた 。 強い 男 の 手 で 思い 存分 両 肩 でも 抱きすくめて ほしい ような たよりな さ を 感じた 。 そして 横 腹 に 深々と 手 を やって 、 さし込む 痛み を こらえる らしい 姿 を して いた 。 古藤 は やや しばらく して から 何 か 決心 した らしく まともに 葉子 を 見よう と した が 、 葉子 の 切な さ そうな 哀れな 様子 を 見る と 、 驚いた 顔つき を して われ知らず 葉子 の ほう に いざ り 寄った 。 葉子 は すかさず 豹 の ように なめらかに 身 を 起こして いち早く も しっかり 古藤 の さし出す 手 を 握って いた 。 そして 、・・

「 義一 さん 」・・

と 震え を 帯びて いった 声 は 存分に 涙 に ぬれて いる ように 響いた 。 古藤 は 声 を わななか して 、・・

「 木村 は そんな 人間 じゃ ありません よ 」・・

と だけ いって 黙って しまった 。 ・・

だめだった と 葉子 は その 途端 に 思った 。 葉子 の 心持ち と 古藤 の 心持ち と は ちぐはぐに なって いる のだ 。 なんという 響き の 悪い 心 だろう と 葉子 は それ を さげすんだ 。 しかし 様子 に は そんな 心持ち は 少しも 見せ ないで 、 頭から 肩 へ かけて のな よ や かな 線 を 風 の 前 の てっせん の 蔓 の ように 震わせ ながら 、 二三 度 深々と うなずいて 見せた 。 ・・

しばらく して から 葉子 は 顔 を 上げた が 、 涙 は 少しも 目 に たまって は い なかった 。 そして いとしい 弟 で も いたわる ように ふとん から 立ち上がり ざま 、・・

「 すみません でした 事 、 義一 さん 、 あなた 御飯 は まだ でした の ね 」・・

と いい ながら 、 腹 の 痛む の を こらえる ような 姿 で 古藤 の 前 を 通りぬけた 。 湯 で ほんのり と 赤らんだ 素足 に 古藤 の 目 が 鋭く ちらっと 宿った の を 感じ ながら 、 障子 を 細目 に あけて 手 を ならした 。 ・・

葉子 は その 晩 不思議に 悪魔 じみ た 誘惑 を 古藤 に 感じた 。 童 貞 で 無 経験 で 恋 の 戯れ に は なんの おもしろみ も な さ そうな 古藤 、 木村 に 対して と いわ ず 、 友だち に 対して 堅苦しい 義務 観念 の 強い 古藤 、 そういう 男 に 対して 葉子 は 今 まで なんの 興味 を も 感じ なかった ばかり か 、 働き の ない 没 情 漢 と 見限って 、 口先 ばかり で 人間 並み の あしらい を して いた のだ 。 しかし その 晩 葉子 は この 少年 の ような 心 を 持って 肉 の 熟した 古藤 に 罪 を 犯さ せて 見 たくって たまらなく なった 。 一夜 の うち に 木村 と は 顔 も 合わせる 事 の でき ない 人間 に して 見 たくって たまらなく なった 。 古藤 の 童 貞 を 破る 手 を 他の 女 に 任せる の が ねたましくて たまらなく なった 。 幾 枚 も 皮 を かぶった 古藤 の 心 の どん底 に 隠れて いる 欲 念 を 葉子 の 蠱惑 力 で 掘り起こして 見 たくって たまらなく なった 。 ・・

気取ら れ ない 範囲 で 葉子 が あらん限り の 謎 を 与えた に も かかわら ず 、 古藤 が 堅く なって しまって それ に 応ずる けしき の ない の を 見る と 葉子 は ますます いらだった 。 そして その 晩 は 腹 が 痛んで どうしても 東京 に 帰れ ない から 、 いやで も 横浜 に 宿って くれ と いい出した 。 しかし 古藤 は 頑として きか なかった 。 そして 自分 で 出かけて 行って 、 品 も あろう 事か まっ赤 な 毛布 を 一 枚 買って 帰って 来た 。 葉子 は とうとう 我 を 折って 最 終列車 で 東京 に 帰る 事 に した 。 ・・

一 等 の 客車 に は 二 人 の ほか に 乗客 は なかった 。 葉子 は ふとした 出来心 から 古藤 を おとしいれよう と した 目論見 に 失敗 して 、 自分 の 征服 力 に 対する かすかな 失望 と 、 存分の 不快 と を 感じて いた 。 客車 の 中 で は また いろいろ と 話そう と いって 置き ながら 、 汽車 が 動き出す と すぐ 、 古藤 の 膝 の そば で 毛布 に くるまった まま 新 橋 まで 寝 通して しまった 。 ・・

新 橋 に 着いて から 古藤 が 船 の 切符 を 葉子 に 渡して 人力車 を 二 台 傭って 、 その 一 つ に 乗る と 、 葉子 は それ に かけよって 懐中 から 取り出した 紙 入れ を 古藤 の 膝 に ほうり出して 、 左 の 鬢 を やさしく かき上げ ながら 、・・

「 きょう の お 立て替え を どうぞ その 中 から …… あす は きっと いら しって ください まし ね …… お 待ち 申します こと よ …… さようなら 」・・ と いって 自分 も もう 一 つ の 車 に 乗った 。 葉子 の 紙 入れ の 中 に は 正 金 銀行 から 受け取った 五十 円 金貨 八 枚 が はいって いる 。 そして 葉子 は 古藤 が それ を くずして 立て替え を 取る 気づかい の ない の を 承知 して いた 。

5.2 或る 女 ある|おんな 5.2 Eine Frau 5.2 A Woman 5.2 Una mujer 5.2 Une femme 5.2 Bir kadın

正面 から はね返さ れた 古藤 は 黙って しまった 。 しょうめん||はねかえさ||ことう||だまって| Furuto, who was bounced back from the front, fell silent. しかし 葉子 も 勢い に 乗って 追い 迫る ような 事 は し なかった 。 |ようこ||いきおい||のって|おい|せまる||こと||| However, Yoko didn't get the momentum and pursue him. 矢 頃 を 計って から 語気 を かえて ずっと 下手に なって 、・・ や|ころ||はかって||ごき||||へたに| After measuring the time, I changed my tone and became much worse...

「 妙に お 思い に なった でしょう ね 。 みょうに||おもい|||| わるう ございまして ね 。 I'm sorry. こんな 所 に 来て いて 、 お 酒 なんか 飲む の は ほんとうに 悪い と 思った んです けれども 、 気分 が ふさいで 来る と 、 わたし に は これ より ほか に お 薬 は ない んです もの 。 |しょ||きて|||さけ||のむ||||わるい||おもった|||きぶん|||くる||||||||||くすり|||| Being in a place like this, I thought it was really bad to drink alcohol, but when I feel down, there's no other medicine than this. さっき の ように 苦しく なって 来る と 私 は いつでも 湯 を 熱 めに して 浴って から 、 お 酒 を 飲み 過ぎる くらい 飲んで 寝る んです の 。 |||くるしく||くる||わたくし|||ゆ||ねつ|||よく って|||さけ||のみ|すぎる||のんで|ねる|| When I'm in pain like before, I always warm up the water and take a bath, then drink too much alcohol before going to bed. そう する と 」・・

と いって 、 ちょっと いいよどんで 見せて 、・・ ||||みせて Say it, show it to me with a bit of a sigh, and...

「 十 分 か 二十 分 ぐっすり 寝入る んです の よ …… 痛み も 何も 忘れて しまって いい 心持ち に ……。 じゅう|ぶん||にじゅう|ぶん||ねいる||||いたみ||なにも|わすれて|||こころもち| "I'm going to sleep soundly for ten or twenty minutes... I feel like I'm forgetting all the pain... それ から 急に 頭 が かっと 痛んで 来ます の 。 ||きゅうに|あたま||か っと|いたんで|き ます| Then suddenly my head hurts. そして それ と 一緒に 気 が めいり 出して 、 もうもう どうして いい か わから なく なって 、 子供 の ように 泣き つづける と 、 その うち に また 眠たく なって 一寝入り します の よ 。 |||いっしょに|き|||だして||||||||こども|||なき|||||||ねむたく||ひとねいり|し ます|| And along with that, I lose my temper, and I don't know what to do anymore, and if I keep crying like a child, I'll get sleepy again and fall asleep. そう する と その あと は いくらか さっぱり する んです 。 …… 父 や 母 が 死んで しまって から 、 頼み も し ない のに 親類 たち から よけいな 世話 を やか れたり 、 他 人力 な ん ぞ を あて に せ ず に 妹 二 人 を 育てて 行か なければ なら ない と 思ったり する と 、 わたし の ような 、 他人 様 と 違って 風変わりな 、…… そら 、 五 本 の 骨 でしょう 」・・ ちち||はは||しんで|||たのみ|||||しんるい||||せわ||||た|じんりょく||||||||||いもうと|ふた|じん||そだてて|いか|||||おもったり||||||たにん|さま||ちがって|ふうがわりな||いつ|ほん||こつ| ……Since my father and mother died, my relatives have taken care of me without even asking for it, and I have to raise my two younger sisters without depending on others. If you think you can't, then you'll be like me, different from other people, and eccentric... So, five bones, right?"

と さびしく 笑った 。 ||わらった ・・

「 それ です もの どうぞ 堪忍 して ちょうだい 。 ||||かんにん|| "That's it, please be patient. 思いきり 泣きたい 時 でも 知らん顔 を して 笑って 通して いる と 、 こんな わたし みたいな 気まぐれ 者 に なる んです 。 おもいきり|なき たい|じ||しらんかお|||わらって|とおして||||||きまぐれ|もの||| 気まぐれで も しなければ 生きて 行け なく なる んです 。 きまぐれで||し なければ|いきて|いけ||| 男 の かた に は この 心持ち は お わかり に は なら ない かも しれ ない けれども 」・・ おとこ||||||こころもち||||||||||| A man may not understand this feeling, but..."

こう いって る うち に 葉子 は 、 ふと 木部 と の 恋 が はかなく 破れた 時 の 、 われ に も なく 身 に しみ渡る さびし み や 、 死ぬ まで 日陰 者 で あら ねば なら ぬ 私 生子 の 定子 の 事 や 、 計ら ず も きょう まのあたり 見た 木部 の 、 心から やつれた 面影 など を 思い起こした 。 |||||ようこ|||きべ|||こい|||やぶれた|じ||||||み||しみわたる||||しぬ||ひかげ|もの||||||わたくし|いくこ||さだこ||こと||はから|||||みた|きべ||こころから||おもかげ|||おもいおこした As they were talking, Yoko suddenly began to feel the loneliness that permeated her when her love with Kibe was broken, and about her illegitimate child, Teiko, who had to remain in the shadows until she died. Then, I remembered the emaciated image of the wood that I happened to see around today. そして さらに 、 母 の 死んだ 夜 、 日ごろ は 見向き も し なかった 親類 たち が 寄り集まって 来て 、 早月 家 に は 毛 の 末 ほど も 同情 の ない 心 で 、 早月 家 の 善後策 に ついて 、 さも 重大 らしく 勝手気ままな 事 を 親切 ご かし に しゃべり 散らす の を 聞か さ れた 時 、 どうにでも なれ と いう 気 に なって 、 暴れ 抜いた 事 が 、 自分 に さえ 悲しい 思い出 と なって 、 葉子 の 頭 の 中 を 矢 の ように 早く ひらめき 通った 。 ||はは||しんだ|よ|ひごろ||みむき||||しんるい|||よりあつまって|きて|さつき|いえ|||け||すえ|||どうじょう|||こころ||さつき|いえ||ぜんごさく||||じゅうだい||かってきままな|こと||しんせつ|||||ちらす|||きか|||じ|||||き|||あばれ|ぬいた|こと||じぶん|||かなしい|おもいで|||ようこ||あたま||なか||や|||はやく||かよった And then, on the night my mother died, my relatives who usually didn't pay attention to me gathered together, and with the least sympathy for the Hayatsuki family, I asked them about the Hayatsuki family's remedial measures. When I heard him kindly talk about such a serious and selfish thing, I felt like I could do anything, and the fact that I went on a rampage became a sad memory for Yoko. An idea flashed through my head like an arrow. 葉子 の 顔 に は 人 に 譲って は いない 自信 の 色 が 現われ 始めた 。 ようこ||かお|||じん||ゆずって|||じしん||いろ||あらわれ|はじめた Yoko's face began to show the color of unyielding confidence. ・・

「 母 の 初七日 の 時 も ね 、 わたし は たて 続け に ビール を 何 杯 飲みましたろう 。 はは||しょなのか||じ||||||つづけ||びーる||なん|さかずき|のみ ましたろう "Even on my mother's first seven days, how many glasses of beer did I drink in a row? なんでも びん が そこ い ら に ごろごろ ころがりました 。 ||||||||ころがり ました そして しまい に は 何 が なんだか 夢中に なって 、 宅 に 出入り する お 医者 さん の 膝 を 枕 に 、 泣き寝入り に 寝入って 、 夜中 を あなた 二 時間 の 余 も 寝 続けて しまいました わ 。 ||||なん|||むちゅうに||たく||でいり|||いしゃ|||ひざ||まくら||なきねいり||ねいって|よなか|||ふた|じかん||よ||ね|つづけて|しまい ました| And in the end, I was crazy about what happened, and the doctor's knees going in and out of the house were put on my pillow, I fell asleep in tears, and I slept in the middle of the night for more than two hours. 親類 の 人 たち は それ を 見る と 一 人 帰り 二 人 帰り して 、 相談 も 何も めちゃくちゃに なった んですって 。 しんるい||じん|||||みる||ひと|じん|かえり|ふた|じん|かえり||そうだん||なにも|||んです って 母 の 写真 を 前 に 置 い と いて 、 わたし は そんな 事 まで する 人間 です の 。 はは||しゃしん||ぜん||お|||||||こと|||にんげん|| Putting a picture of my mother in front of me, I'm the kind of person who would go so far as to do that. お あきれ に なった でしょう ね 。 You must have been amazed. いやな やつ でしょう 。 あなた の ような 方 から 御覧 に なったら 、 さぞ いやな 気 が なさいましょう ねえ 」・・ |||かた||ごらん|||||き||なさい ましょう|

「 え ゝ 」・・

と 古藤 は 目 も 動かさ ず に ぶっきらぼうに 答えた 。 |ことう||め||うごかさ||||こたえた Furudo replied bluntly without moving his eyes. ・・

「 それ でも あなた 」・・

と 葉子 は 切な さ そうに 半ば 起き上がって 、・・ |ようこ||せつな||そう に|なかば|おきあがって And Yoko half got up with a sad look...

「 外面 だけ で 人 の する 事 を なんとか おっしゃる の は 少し 残酷です わ 。 がいめん|||じん|||こと||||||すこし|ざんこくです| "It's a little cruel to talk about what people do from the outside. …… い ゝ え ね 」・・

と 古藤 の 何 か いい出そう と する の を さえぎって 、 今度 は きっと すわり 直った 。 |ことう||なん||いいだそう||||||こんど||||なおった I interrupted Furuto's attempt to say something, and this time I'm sure he sat down. ・・

「 わたし は 泣き言 を いって 他人 様 に も 泣いて いた だこう なんて 、 そんな 事 は これ ん ばかり も 思 や しません と も …… なる なら どこ か に 大砲 の ような 大きな 力 の 強い 人 が いて 、 その 人 が 真剣に 怒って 、 葉子 の ような 人 非 人 は こうして やる ぞ と いって 、 わたし を 押えつけて 心臓 でも 頭 でも くだけて 飛んで しまう ほど 折 檻 を して くれたら と 思う んです の 。 ||なきごと|||たにん|さま|||ないて|||||こと||||||おも||し ませ ん||||||||たいほう|||おおきな|ちから||つよい|じん||||じん||しんけんに|いかって|ようこ|||じん|ひ|じん|||||||||おさえつけて|しんぞう||あたま|||とんで|||お|おり|||||おもう|| どの 人 も どの 人 も ちゃんと 自分 を 忘れ ないで 、 いいかげんに 怒ったり 、 いいかげんに 泣いたり して いる んです から ねえ 。 |じん|||じん|||じぶん||わすれ|||いかったり||ないたり||||| なん だって こう 生温い んでしょう 。 |||なまぬるい| ・・

義一 さん ( 葉子 が 古藤 を こう名 で 呼んだ の は この 時 が 始めて だった ) あなた が けさ 、 心 の 正直な なんとか だ と おっしゃった 木村 に 縁 づく ように なった の も 、 その 晩 の 事 です 。 ぎいち||ようこ||ことう||こう な||よんだ||||じ||はじめて|||||こころ||しょうじきな|||||きむら||えん|||||||ばん||こと| Yoshikazu (This was the first time that Yoko called Furuto by that name.) It was also that night that you became friends with Kimura, who you said was honest in your heart. . 五十川 が 親類 じゅう に 賛成 さして 、 晴れがましく も わたし を みんな の 前 に 引き出して おいて 、 罪人 に でも いう ように 宣告 して しまった のです 。 いそがわ||しんるい|||さんせい||はれがましく||||||ぜん||ひきだして||ざいにん|||||せんこく||| Isogawa agreed with his relatives, brought me out in front of everyone, and condemned me as if I were a sinner. わたし が 一口 でも いおう と すれば 、 五十川 の いう に は 母 の 遺言 ですって 。 ||ひとくち|||||いそがわ|||||はは||ゆいごん|で すって 死人 に 口なし 。 しにん||くちなし ほんとに 木村 は あなた が おっしゃった ような 人間 ね 。 |きむら||||||にんげん| Kimura really is the kind of person you said. 仙台 で あんな 事 が あった でしょう 。 せんだい|||こと||| あの 時 知事 の 奥さん はじめ 母 の ほう は なんとか し よう が 娘 の ほう は 保証 が でき ない と おっしゃった んです と さ 」・・ |じ|ちじ||おくさん||はは||||||||むすめ||||ほしょう||||||||

いい 知ら ぬ 侮 蔑 の 色 が 葉子 の 顔 に みなぎった 。 |しら||あなど|さげす||いろ||ようこ||かお|| ・・

「 ところが 木村 は 自分 の 考え を 押し通し も し ないで 、 おめおめ と 新聞 に は 母 だけ の 名 を 出して あの 広告 を した んです の 。 |きむら||じぶん||かんがえ||おしとおし||||||しんぶん|||はは|||な||だして||こうこく|||| ・・

母 だけ が いい 人 に なれば だれ だって わたし を …… そうでしょう 。 はは||||じん|||||||そう でしょう その あげく に 木村 はしゃ あし ゃあ と わたし を 妻 に したい んですって 、 義一 さん 、 男って それ で いい もの な んです か 。 |||きむら|||||||つま||し たい|んです って|ぎいち||おとこ って||||||| After that, he said that he wanted Kimura and I to be his wives, Mr. Yoshikazu. まあ ね 物 の 譬 え が です わ 。 ||ぶつ||ひ|||| それとも 言葉 で は なんといっても むだだ から 、 実行 的に わたし の 潔白 を 立てて やろう と でも いう んでしょう か 」・・ |ことば||||||じっこう|てきに|||けっぱく||たてて|||||| Or, since words are useless, are you trying to prove my innocence in action?”

そう いって 激昂 しきった 葉子 は かみ 捨てる ように かん高く ほ ゝ と 笑った 。 ||げきこう||ようこ|||すてる||かんだかく||||わらった ・・

「 いったい わたし は ちょっと した 事 で 好ききらい の できる 悪い 質 な んです から ね 。 |||||こと||すききらい|||わるい|しち|||| "After all, I'm the bad type of being able to like or dislike little things. と いって わたし は あなた の ような 生一本で も ありません の よ 。 |||||||きいっぽんで||あり ませ ん|| ・・

母 の 遺言 だ から 木村 と 夫婦 に なれ 。 はは||ゆいごん|||きむら||ふうふ|| 早く 身 を 堅 め て 地道に 暮らさ なければ 母 の 名誉 を けがす 事 に なる 。 はやく|み||かた|||じみちに|くらさ||はは||めいよ|||こと|| 妹 だって 裸 で お 嫁入り も でき まい と いわ れれば 、 わたし 立派に 木村 の 妻 に なって 御覧 に いれます 。 いもうと||はだか|||よめいり||||||||りっぱに|きむら||つま|||ごらん||いれ ます If you say that even my little sister can't get married naked, I'll be Kimura's wife and look after you. その代わり 木村 が 少し つらい だけ 。 そのかわり|きむら||すこし|| ・・

こんな 事 を あなた の 前 で いって は さぞ 気 を 悪く なさる でしょう が 、 真 直 な あなた だ と 思います から 、 わたし も その 気 で 何もかも 打ち明けて 申して しまいます の よ 。 |こと||||ぜん|||||き||わるく||||まこと|なお|||||おもい ます|||||き||なにもかも|うちあけて|もうして|しまい ます|| わたし の 性質 や 境遇 は よく 御存じ です わ ね 。 ||せいしつ||きょうぐう|||ごぞんじ||| こんな 性質 で こんな 境遇 に いる わたし が こう 考える の に もし 間違い が あったら 、 どうか 遠慮 なく おっしゃって ください 。 |せいしつ|||きょうぐう||||||かんがえる||||まちがい||||えんりょ||| ・・

あ ゝ いやだった 事 。 |||こと Oh, I didn't like it. 義一 さん 、 わたし こんな 事 は おくび に も 出さ ず に 今 の 今 まで しっかり 胸 に しまって 我慢 して いた のです けれども 、 きょう は どうした ん でしょう 、 なんだか 遠い 旅 に でも 出た ような さびしい 気 に なって しまって ……」・・ ぎいち||||こと|||||ださ|||いま||いま|||むね|||がまん|||||||||||とおい|たび|||でた|||き|||

弓 弦 を 切って 放した ように 言葉 を 消して 葉子 は うつむいて しまった 。 ゆみ|げん||きって|はなした||ことば||けして|ようこ||| As if she had cut a bowstring and let it go, Yoko muffled her words and hung her head down. 日 は いつのまにか とっぷり と 暮れて いた 。 ひ|||||くれて| Before I knew it, the sun had set completely. じめじめ と 降り続く 秋雨 に 湿った 夜風 が 細々と 通って 来て 、 湿気 で たるんだ 障子 紙 を そっと あおって 通った 。 ||ふりつづく|あきさめ||しめった|よかぜ||さいさいと|かよって|きて|しっけ|||しょうじ|かみ||||かよった 古藤 は 葉子 の 顔 を 見る の を 避ける ように 、 そこら に 散らばった 服地 や 帽子 など を ながめ 回して 、 なんと 返答 を して いい の か 、 いう べき 事 は 腹 に ある けれども 言葉 に は 現わせ ない ふうだった 。 ことう||ようこ||かお||みる|||さける||||ちらばった|ふくじ||ぼうし||||まわして||へんとう||||||||こと||はら||||ことば|||あらわせ|| 部屋 は 息 気 苦しい ほど しんと なった 。 へや||いき|き|くるしい||| ・・

葉子 は 自分 の 言葉 から 、 その 時 の ありさま から 、 妙に やる 瀬 ない さびしい 気分 に なって いた 。 ようこ||じぶん||ことば|||じ||||みょうに||せ|||きぶん||| 強い 男 の 手 で 思い 存分 両 肩 でも 抱きすくめて ほしい ような たよりな さ を 感じた 。 つよい|おとこ||て||おもい|ぞんぶん|りょう|かた||だきすくめて||||||かんじた I felt a sense of helplessness, as if I wanted a strong man's hand to hold me on both shoulders. そして 横 腹 に 深々と 手 を やって 、 さし込む 痛み を こらえる らしい 姿 を して いた 。 |よこ|はら||しんしんと|て|||さしこむ|いたみ||||すがた||| And it had a hand deep on its side, as if it was trying to endure the pain that was thrusting into it. 古藤 は やや しばらく して から 何 か 決心 した らしく まともに 葉子 を 見よう と した が 、 葉子 の 切な さ そうな 哀れな 様子 を 見る と 、 驚いた 顔つき を して われ知らず 葉子 の ほう に いざ り 寄った 。 ことう||||||なん||けっしん||||ようこ||みよう||||ようこ||せつな||そう な|あわれな|ようす||みる||おどろいた|かおつき|||われしらず|ようこ||||||よった After a while, Furuto seemed to have made up his mind and tried to look straight at Yoko, but when he saw Yoko's pitiful expression, he looked surprised and unwittingly rushed over to Yoko. . 葉子 は すかさず 豹 の ように なめらかに 身 を 起こして いち早く も しっかり 古藤 の さし出す 手 を 握って いた 。 ようこ|||ひょう||||み||おこして|いちはやく|||ことう||さしだす|て||にぎって| そして 、・・

「 義一 さん 」・・ ぎいち|

と 震え を 帯びて いった 声 は 存分に 涙 に ぬれて いる ように 響いた 。 |ふるえ||おびて||こえ||ぞんぶんに|なみだ|||||ひびいた His trembling voice resounded as if he was full of tears. 古藤 は 声 を わななか して 、・・ ことう||こえ|||

「 木村 は そんな 人間 じゃ ありません よ 」・・ きむら|||にんげん||あり ませ ん| "Kimura is not that kind of person."

と だけ いって 黙って しまった 。 |||だまって| ・・

だめだった と 葉子 は その 途端 に 思った 。 ||ようこ|||とたん||おもった Yoko thought at once that it was no good. 葉子 の 心持ち と 古藤 の 心持ち と は ちぐはぐに なって いる のだ 。 ようこ||こころもち||ことう||こころもち|||||| なんという 響き の 悪い 心 だろう と 葉子 は それ を さげすんだ 。 |ひびき||わるい|こころ|||ようこ|||| What a nasty-sounding heart, Yoko despised it. しかし 様子 に は そんな 心持ち は 少しも 見せ ないで 、 頭から 肩 へ かけて のな よ や かな 線 を 風 の 前 の てっせん の 蔓 の ように 震わせ ながら 、 二三 度 深々と うなずいて 見せた 。 |ようす||||こころもち||すこしも|みせ||あたまから|かた|||||||せん||かぜ||ぜん||||つる|||ふるわせ||ふみ|たび|しんしんと||みせた ・・

しばらく して から 葉子 は 顔 を 上げた が 、 涙 は 少しも 目 に たまって は い なかった 。 |||ようこ||かお||あげた||なみだ||すこしも|め||||| そして いとしい 弟 で も いたわる ように ふとん から 立ち上がり ざま 、・・ ||おとうと|||||||たちあがり|

「 すみません でした 事 、 義一 さん 、 あなた 御飯 は まだ でした の ね 」・・ ||こと|ぎいち|||ごはん||||| "I'm sorry, Mr. Yoshikazu, you haven't had your meal yet."

と いい ながら 、 腹 の 痛む の を こらえる ような 姿 で 古藤 の 前 を 通りぬけた 。 |||はら||いたむ|||||すがた||ことう||ぜん||とおりぬけた 湯 で ほんのり と 赤らんだ 素足 に 古藤 の 目 が 鋭く ちらっと 宿った の を 感じ ながら 、 障子 を 細目 に あけて 手 を ならした 。 ゆ||||あからんだ|すあし||ことう||め||するどく||やどった|||かんじ||しょうじ||さいもく|||て|| ・・

葉子 は その 晩 不思議に 悪魔 じみ た 誘惑 を 古藤 に 感じた 。 ようこ|||ばん|ふしぎに|あくま|||ゆうわく||ことう||かんじた 童 貞 で 無 経験 で 恋 の 戯れ に は なんの おもしろみ も な さ そうな 古藤 、 木村 に 対して と いわ ず 、 友だち に 対して 堅苦しい 義務 観念 の 強い 古藤 、 そういう 男 に 対して 葉子 は 今 まで なんの 興味 を も 感じ なかった ばかり か 、 働き の ない 没 情 漢 と 見限って 、 口先 ばかり で 人間 並み の あしらい を して いた のだ 。 わらべ|さだ||む|けいけん||こい||たわむれ||||||||そう な|ことう|きむら||たいして||||ともだち||たいして|かたくるしい|ぎむ|かんねん||つよい|ことう||おとこ||たいして|ようこ||いま|||きょうみ|||かんじ||||はたらき|||ぼつ|じょう|かん||みかぎって|くちさき|||にんげん|なみ|||||| しかし その 晩 葉子 は この 少年 の ような 心 を 持って 肉 の 熟した 古藤 に 罪 を 犯さ せて 見 たくって たまらなく なった 。 ||ばん|ようこ|||しょうねん|||こころ||もって|にく||じゅくした|ことう||ざい||おかさ||み|たく って|| 一夜 の うち に 木村 と は 顔 も 合わせる 事 の でき ない 人間 に して 見 たくって たまらなく なった 。 いちや||||きむら|||かお||あわせる|こと||||にんげん|||み|たく って|| 古藤 の 童 貞 を 破る 手 を 他の 女 に 任せる の が ねたましくて たまらなく なった 。 ことう||わらべ|さだ||やぶる|て||たの|おんな||まかせる||||| 幾 枚 も 皮 を かぶった 古藤 の 心 の どん底 に 隠れて いる 欲 念 を 葉子 の 蠱惑 力 で 掘り起こして 見 たくって たまらなく なった 。 いく|まい||かわ|||ことう||こころ||どんぞこ||かくれて||よく|ねん||ようこ||こわく|ちから||ほりおこして|み|たく って|| ・・

気取ら れ ない 範囲 で 葉子 が あらん限り の 謎 を 与えた に も かかわら ず 、 古藤 が 堅く なって しまって それ に 応ずる けしき の ない の を 見る と 葉子 は ますます いらだった 。 きどら|||はんい||ようこ||あらんかぎり||なぞ||あたえた|||||ことう||かたく|||||おうずる||||||みる||ようこ||| そして その 晩 は 腹 が 痛んで どうしても 東京 に 帰れ ない から 、 いやで も 横浜 に 宿って くれ と いい出した 。 ||ばん||はら||いたんで||とうきょう||かえれ|||||よこはま||やどって|||いいだした しかし 古藤 は 頑として きか なかった 。 |ことう||がんとして|| そして 自分 で 出かけて 行って 、 品 も あろう 事か まっ赤 な 毛布 を 一 枚 買って 帰って 来た 。 |じぶん||でかけて|おこなって|しな|||ことか|まっ あか||もうふ||ひと|まい|かって|かえって|きた 葉子 は とうとう 我 を 折って 最 終列車 で 東京 に 帰る 事 に した 。 ようこ|||われ||おって|さい|しゅうれっしゃ||とうきょう||かえる|こと|| ・・

一 等 の 客車 に は 二 人 の ほか に 乗客 は なかった 。 ひと|とう||きゃくしゃ|||ふた|じん||||じょうきゃく|| 葉子 は ふとした 出来心 から 古藤 を おとしいれよう と した 目論見 に 失敗 して 、 自分 の 征服 力 に 対する かすかな 失望 と 、 存分の 不快 と を 感じて いた 。 ようこ|||できごころ||ことう|||||もくろみ||しっぱい||じぶん||せいふく|ちから||たいする||しつぼう||ぞんぶんの|ふかい|||かんじて| Yoko, out of sheer urge, failed in her attempt to bring down Kodo, and she felt a faint disappointment at her own conquest power and a great deal of displeasure. 客車 の 中 で は また いろいろ と 話そう と いって 置き ながら 、 汽車 が 動き出す と すぐ 、 古藤 の 膝 の そば で 毛布 に くるまった まま 新 橋 まで 寝 通して しまった 。 きゃくしゃ||なか||||||はなそう|||おき||きしゃ||うごきだす|||ことう||ひざ||||もうふ||||しん|きょう||ね|とおして| In the passenger car, I said that we should talk about various things again, but as soon as the train started moving, I fell asleep all the way to Shinbashi wrapped in a blanket by Furuto's lap. ・・

新 橋 に 着いて から 古藤 が 船 の 切符 を 葉子 に 渡して 人力車 を 二 台 傭って 、 その 一 つ に 乗る と 、 葉子 は それ に かけよって 懐中 から 取り出した 紙 入れ を 古藤 の 膝 に ほうり出して 、 左 の 鬢 を やさしく かき上げ ながら 、・・ しん|きょう||ついて||ことう||せん||きっぷ||ようこ||わたして|じんりきしゃ||ふた|だい|よう って||ひと|||のる||ようこ|||||かいちゅう||とりだした|かみ|いれ||ことう||ひざ||ほうりだして|ひだり||びん|||かきあげ|

「 きょう の お 立て替え を どうぞ その 中 から …… あす は きっと いら しって ください まし ね …… お 待ち 申します こと よ …… さようなら 」・・ |||たてかえ||||なか|||||||||||まち|もうし ます||| "Please pay for today's payment from among them... I'm sure you'll come tomorrow... I'll be waiting for you... Goodbye." と いって 自分 も もう 一 つ の 車 に 乗った 。 ||じぶん|||ひと|||くるま||のった I said and got into another car. 葉子 の 紙 入れ の 中 に は 正 金 銀行 から 受け取った 五十 円 金貨 八 枚 が はいって いる 。 ようこ||かみ|いれ||なか|||せい|きむ|ぎんこう||うけとった|ごじゅう|えん|きんか|やっ|まい||| Eight fifty-yen gold coins received from the specie bank are in Yoko's paper pouch. そして 葉子 は 古藤 が それ を くずして 立て替え を 取る 気づかい の ない の を 承知 して いた 。 |ようこ||ことう|||||たてかえ||とる|きづかい|||||しょうち|| And Yoko knew that Furuto didn't care about breaking it up and paying for it.