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狼と香辛料 01 (Spice and Wolf), 狼と香辛料 01 (7)

狼 と 香辛料 01 (7)

そして 、そんな ホロ は 服 の 具合 を 確かめる ついで の よう に 、口 を 開いた のだった。

「わっち は ぬし と 旅 が したい。 ダメ か や?

媚 び る 訳 でもない 笑顔。 媚 び て くれれば まだ 断り よう も ある と いう のに 、ホロ は 楽し そうに そう 言う のだ。

ロレンス は 小さく ため息 を つく。

少なくとも 、こそ 泥 の ような 真似 だけ は し な さ そうだ。 油断 して は ならない が 、共に 旅 を する くらい なら いい だろう。 それ に 、ホロ と このまま 別れ 一人 で 旅 を すれば 、今 まで 以上 に 独り が 身 に しみ そうだった。

「これ も 何 か の 縁 だ。 いい だろう」

ロレンス が そう 言う と 、ホロ は やっぱり 喜ぶ わけで も なく 、ただ 単に 、笑った のだった。

「ただし 、食い 扶持 は 自分 で 稼げよ。 俺 も 楽な 商売 を して いる わけじゃ ない。 豊作 の 神 だろう と 俺 の 財布 まで は 豊作 に できない だろう から な」

「わっち も タダ 飯 を もらって 安穏 と して いられる ほど 恥知らず じゃあ りんせん。 わっち は 賢 狼 ホロ じゃ。 誇り 高き 狼 じゃ」

少し むくれて そんな こと を 言う と 、とたん に 幼く 見える。 しかし 、それ が わざと やって いる こと だ と わからない ほど ロレンス の 目 も 節穴 じゃ ない。

案の定 、それ から すぐに ホロ は 吹き出して 、ケタ ケタ と 笑った のだった。

「じゃ が 、誇り 高き 狼 が 昨日 みたいな 醜態 を 晒して ちゃ 、笑い話 に も な りんせん が な」

自嘲 する よう に 笑い ながら 言う あたり 、取り乱して いた の は 本心 の ようだった。

「ま 、よろしく の ……えー と」

「ロレンス。 クラフト ・ロレンス。 仕事 上 じゃ ロレンス で 通ってる」

「うん 、ロレンス。 この先 未来 永 劫 、ぬし の 名 はわっち が 美談 に して語り継が せよう」

胸 を 張って そう 言った ホロ の 頭 の 上 で 、狼 の 耳 が 得意 げ に 揺れる。 案外 本気で 言って いる の かも しれ ない。 そんな 様子 を 見る と 幼稚な の か 老 獪 な の か わかり づらい。 ころころ と 変わる 山 の 天気 の ようだ。

いや 、そんなふうに わかり づらい 時点 で 老 獪 な のだろう。 ロレンス は すぐに 思い 直して 、荷台 の 上 から 手 を 差し出した。 相手 を きちんと 一人 の 存在 と して 認めた 証拠 だ。

ホロ は に こり と 笑って それ を 摑 む。

小さい が 、温かい 娘 の 手 だった。

「とりあえず な 、もう じき 雨 が 降る。 はやく 行った ほう が よい ぞ」

「な ……そういう こと は 早く 言え!

ロレンス は 怒鳴り 、馬 が それ に 驚いて いなないた。 昨日 の 夕方 の 時点 で は とても 雨 など 降り そうに なかった のに 、確かに 空 を 見上げれば うっすら と 雲 が 覆って いる。 慌てて 出発 準備 に 取り掛かる ロレンス を 見て ホロ は ケタ ケタ と 笑う。 それ でも 笑い ながら てきぱき と 荷台 に 乗り込んで 、寝 崩した 毛皮 を 手早く 纏めて 覆い を かける あたり 、仕事 に ついた ばかりの 小僧 より か は 断然 使え そうだった。

「川 は 機嫌 が 悪い。 少し 離れて 歩く の が よか ろ」

馬 を 起こし 、桶 を 片付け 、手綱 を 握って 御者 台 に つく と 、ホロ も 荷台 から ひらり と 飛び乗って きた。

一人 で は 少し 広 すぎる そこ も 、二人 で は 少し 狭い。

ただ 、寒 さ は しのげ る ので ちょうど よい。

奇妙な 二人 旅 が 、馬 の いななき と 共に 始まった のだった。

土砂降り 、と いう 言葉 が 見事に 当てはまる ほど の 雨 だった。 昼 過ぎ 頃 に 後ろ から 迫って きた 雨 に ついに 追いつかれた ロレンス 達 は 、雨 で 煙る 視界 の 中 、教会 を 見つけて これ 幸い と 飛び込んだ。 修道院 と 違い 、ロレンス 達 の ような 行商人 や 旅人 、それ に 巡礼者 など を 泊めたり 道中 の 無事 を 神 に 祈ったり して その 寄付 で 運営 を して いる ところ だから 、ロレンス 達 の 突然の 訪問 に も 歓迎 こそ した もの の 嫌な 顔 一 つ し なかった。

ただ 、いくら なんでも 教会 の 中 で 狼 の 耳 と 尻尾 を 持った 娘 を 大手 振ら して 歩か せる わけに も いか ない。 とっさに 妻 と 称し 、顔 に やけど を 負って いる ため に フード を 外し た がらない 、と 噓 を ついて 薄手 の 外套 を かぶせて おいた。

ホロ が 外套 の 下 で ニヤニヤ 笑って いた の が わかった が 、ホロ も 自分 と 教会 と の 関係 が わかって いる ようで 演技 も それなり だった。 何度 か 教会 から ひどい 目 に あった と いう の も 噓 で は ない のだろう。

それ に 、例え ホロ が 悪魔 憑 き で は なく 狼 の 化身 であった と して も 、それ は 教会 に とって 問題 に なら ない。 教会 に とって は 教会 の 崇める 神 以外 すべて が 異 教 の 神 であり 、悪魔 の 手先 な のだから。

そんな 教会 の 門 を くぐり 難なく 部屋 を 一 つ 借りて 、ロレンス が 雨 に 濡れた 荷物 の 手入れ を して から 部屋 に 戻る と 、件 の ホロ は 上半身 裸 に なって 髪 の 毛 を 絞って いた。 綺麗な 茶色 の 髪 の 毛 から 、ぼ た ぼ た と 品 無く 水 が 落ちる。 穴 だらけ の 板張り の 床 な ので 今さら 多少 水 を 落とした ところ で 文句 を 言わ れる こと もない だろう が 、ロレンス は どこ に 目 を やる べき か と そっち に 困る。

「ふ ふ 、わっち の やけど を 冷たい 雨 で 冷やし ん す」

そんな ロレンス を よそ に 、あの 噓 が 愉快な の か 不愉快な の か ホロ が 少し 笑う。 それ から 顔 に 張り付いた 髪 の 毛 を どける と 前髪 を 豪快に かき上げた。

そんな 勇まし さ は 確かに 狼 の それ と いって も いい ような 気 が する し 、水 に 濡れて ば さば さ に なった 髪 の 毛 は 狼 の 力強い 毛 に 見え なく も なかった。

「毛皮 は 大丈夫だった じゃ ろ。 あれ は よほど 良い テン の 毛皮 じゃ。 あの テン の 育った 山 に はわっち の ような の が いる の かも しれ ん」

「高値 で 売れる か」

「そりゃ あわ か りんせん。 わっち は 毛皮 商人 じゃ ご ざん せ ん」

至極 もっともな 答え に ロレンス は うなずいて 、ずぶ濡れ の 自分 の 服 も 脱いで 絞り 始めた。

「ああ 、そうだ。 あの 麦 だ が 、どう すれば いい」

そう 言い ながら 上着 を 絞り 終え 、ズボン も 絞ろう と 思った が ホロ が いる こと を 思い出し 、手 を 止めて ホロ の ほう を 見れば ホロ は まったく ロレンス など そこ に いない か の よう に 真っ裸 に なって 服 を 絞って いる。 なんとなく 悔しくて 、ロレンス も 大胆に 裸 に なって 服 を 絞る。

「ん 、どうって どういう こと か や?

「脱穀 すれば いい の か 、と か 、あの まま の ほう が いい 、と か。 もっとも 、あの 麦 に お前 が 宿って いる と いう 話 が 本当ならば 、だが」

少し からかう よう に そう 言って やった が 、ホロ は 口 の 端で 少し 笑った だけ で 相手 に し なかった。

「わっち が 生きて いる 限り 、あの 麦 が 腐ったり 枯れたり する こと は あり ん せ ん。 ただ 、食べられたり 燃やされたり すりつぶして 土 に 混ぜられたり する と 、わっち は い なく なって しまう かも しら ん。 邪魔 なら 脱穀 して 保管 して おいて も 大丈夫じゃ し 、そっち の ほう が よい かも しら ん」

「なるほど。 じゃあ あと で 麦 粒 に して 袋 に でも 入れて おく か。 自分 で 持って いたい だろう?

「助かる の。 首 から 提げられる と なお よい」

ホロ が そう 言う ので つい 首 の 辺り に 視線 を やって しまい 、ロレンス は 慌てて 視線 を そらした のだった。

「ただ 、あの 麦 は 別の 土地 に 売り込み に 行きたい ん だ が な。 それ くらい の 麦 は 残して おいて いい か」

気 を 落ち着け つつ そう 質問 した 直後 、ば さば さ と 音 が した ので 何かと 思えば ホロ の 尻尾 が 勢い よく 振られて いた。 ふさふさ の 尻尾 は 毛 の 質 も 良い ようで 、実に よく 水 を はじく。 ロレンス は 飛び散る 水 に 顔 を しかめた が 、ホロ は 少しも 悪びれ なかった。

「作物 は その 土地 に ある から こそ よく 実る 、と いう もの が 多い。 まあ 、すぐに 枯れる の が 落ち じゃ。 行く だけ 無駄 と いう もの よ」

絞り 終えた 服 を 前 に 少し 思案 顔 の ホロ だった が 、代え の 服 などない ので 諦めた よう に しわ しわ の それ を 再び 着る。 ロレンス が 今 着て いる ような 安物 で は ない ので 水 の 切れ も いい。 ロレンス は 少し 理不尽な 何 か を 感じ つつ も 、同じく 絞り 終えた 自分 の 服 を 着 終わって から うなずいた。

「まあ 、大広間 の ほう に 行って 服 を 乾かそう。 この 雨 だ。 俺 ら の ような 連中 を 見込んで 暖炉 に 火 が 入って いる はずだ」

「うん。 それ は よい 案 じゃ 、と」

ホロ は そう 言って 薄手 の 外套 で すっぽり と 頭 を 包む。 包んで から 、また ケタ ケタ と 笑った。

「何 か おかしい か?

「ふ ふ 、やけど した から 顔 を 隠す 、なんて の はわっち に は ねえ 発想 だから よ」

「ほう。 なら 、お前 は どう 思う ん だ?

ホロ は 外套 を 少し めくって 顔 を 覗かせる と 、誇らしげに 言った のだった。

「そんな やけど は わっち の 証。 この 尻尾 と 耳 と 同じ。 二 つ とない わっち の 証 と 思う まで よ」

なるほど な 、と ちょっと そんな 口上 に 感心 する。 ただ 、それ は ホロ が 実際 に そんな 傷 を 負って いない から こそ 言える ので は ない か 、なんて 意地悪な こと も 思って みたり した。

ホロ の 言葉 が 、そんな 胸中 に 入り込む。

「ぬし が 何 を 考え とる か わかる よ」

外套 の 下 で ホロ が いたずらっぽく 笑う。 に やり 、と 釣り 上がった 唇 の 右側 辺り に 、鋭い 牙 が 顔 を 出した。

「ためしに 傷つけて みる か や?

その 挑戦 的 な ホロ の 表情 に ロレンス は 意地 を 張り たく なく も なかった が 、ここ で ロレンス が 挑発 に 乗って 短 剣 を 出せば 本当に 引き下がれ なく なる かも しれ ない。

ホロ は なんとなく 本気で こういう こと を 言い そうだ。 ただし 、それ を わざと 挑発 的に 言う の は 茶目っ気 だろう。

「俺 も 男 だ。 そんな 綺麗な 顔 に 傷 は つけられない な」

だから 、そんなふうに 答えたら ホロ は 待ちかねて いた 贈り物 を もらった か の よう に 笑い 、いたずらっぽく 身 を 寄せて きた。 その とたん 、ふわり 、と どことなく 甘い 匂い が ロレンス の 体 を 刺激 する。 思わず 手 が 動いて 抱きしめ そうだった。

ただ 、ホロ は そんな ロレンス の こと など お構いなしに 、露骨に くん くん 鼻 を ならす と 少し 離れて 言った のだった。

「ぬし は 雨 に 濡れて も まだ 臭い の。 狼 の わっち が 言う ん じゃ。 間違い ない」

「ぬ 、こっの」

半ば 本気で 拳 を 放った が 、ひょいと かわされて たたら を 踏む。 ホロ は ニヤニヤ 笑い ながら 、小 首 を かしげて 後 を 続けた。

「狼 でも 毛づくろい は する。 ぬし は ええ 男 じゃ と 思う よ。 少し は 身 奇麗に し や さんせ」

それ が からかい か 本気 か は わから なかった が 、ホロ みたいな 娘 に 言わ れる と 少し その 気 に なって しまう。 これ まで 身 奇麗 と は 商談 に おいて それ が 有利に 働く か どう か と いった 、そんな こと ばかり を 基準 に 判断 して いた ので 、それ が 女 に 気 に 入ら れる もの か どう か など 考えた こと も ない。

相手 が 女 商人 ならば さ も あり な ん だ が 、生憎 と 女 商人 など 見た こと が ない。

ただ 、どう 答えた もの か わから ない。 だから ロレンス は そっぽ を 向いて 、黙り 込んだ。

「ま 、その 髭 は わっち も 良い と 思う」

下あご を 適度に 覆って いる 髭 は なかなか 評判 が 良い。 この 点 は 素直に 受け取り 、ロレンス は 少し 誇らしげに ホロ の ほう を 振り向く。

「ただ 、わっち は もう 少し 長い ほう が 好きじゃ な」

長い 髭 は あまり 商人 受け が 良く ない。 ロレンス は 反射 的に そう 思った のだ が 、ホロ は 両手 の人差し指 で 鼻 の 辺り から 頰 に かけて ピッピッ と 線 を 引いた のだった。

「こう 、狼 の よう に の」


狼 と 香辛料 01 (7) おおかみ||こうしんりょう Spice and Wolf 01 (7) Lobo y especias 01 (7) 香料与狼 01 (7) 狼与香料 01 (7)

そして 、そんな ホロ は 服 の 具合 を 確かめる ついで の よう に 、口 を 開いた のだった。 ||||ふく||ぐあい||たしかめる|||||くち||あいた| Then, as if to check his clothes, he opened his mouth.

「わっち は ぬし と 旅 が したい。 ||||たび|| I want to travel with you. ダメ か や? だめ|| No?

媚 び る 訳 でもない 笑顔。 び|||やく|でも ない|えがお A smile that is not flirtatious. 媚 び て くれれば まだ 断り よう も ある と いう のに 、ホロ は 楽し そうに そう 言う のだ。 び|||||ことわり|||||||||たのし|そう に||いう| He could have turned them down if they had flirted with him, but instead he said so with amusement.

ロレンス は 小さく ため息 を つく。 ||ちいさく|ためいき|| Lawrence sighs a little.

少なくとも 、こそ 泥 の ような 真似 だけ は し な さ そうだ。 すくなくとも||どろ|||まね||||||そう だ At least, they are not going to do something like mud. 油断 して は ならない が 、共に 旅 を する くらい なら いい だろう。 ゆだん|||なら ない||ともに|たび|||||| We must not be too careful, but it is okay to travel together. それ に 、ホロ と このまま 別れ 一人 で 旅 を すれば 、今 まで 以上 に 独り が 身 に しみ そうだった。 |||||わかれ|ひとり||たび|||いま||いじょう||ひとり||み|||そう だった Besides, if I left Holo at this point and traveled alone, I was going to be even more alone than before.

「これ も 何 か の 縁 だ。 ||なん|||えん| I was very happy to be able to work with them. いい だろう」 I'm sure."

ロレンス が そう 言う と 、ホロ は やっぱり 喜ぶ わけで も なく 、ただ 単に 、笑った のだった。 |||いう|||||よろこぶ|||||たんに|わらった| When Lawrence said this, Hollo was not pleased after all, but simply laughed.

「ただし 、食い 扶持 は 自分 で 稼げよ。 |くい|ふち||じぶん||かせげよ But you must earn your own food. 俺 も 楽な 商売 を して いる わけじゃ ない。 おれ||らくな|しょうばい||||| I'm not in a cushy business either. 豊作 の 神 だろう と 俺 の 財布 まで は 豊作 に できない だろう から な」 ほうさく||かみ|||おれ||さいふ|||ほうさく||でき ない||| Even the God of Harvest can't make my wallet rich, you know."

「わっち も タダ 飯 を もらって 安穏 と して いられる ほど 恥知らず じゃあ りんせん。 ||ただ|めし|||あんおん|||いら れる||はじしらず|| I am not so shameless as to be able to enjoy a free meal in peace. わっち は 賢 狼 ホロ じゃ。 ||かしこ|おおかみ|| I am Wise Wolf Hollow. 誇り 高き 狼 じゃ」 ほこり|たかき|おおかみ| Proud wolf.

少し むくれて そんな こと を 言う と 、とたん に 幼く 見える。 すこし|||||いう||||おさなく|みえる When you say something like that with a little bit of a scowl, you instantly look very young. しかし 、それ が わざと やって いる こと だ と わからない ほど ロレンス の 目 も 節穴 じゃ ない。 |||||||||わから ない||||め||ふしあな|| However, Lawrence's eyes are not so blind as to not see that he is doing this on purpose.

案の定 、それ から すぐに ホロ は 吹き出して 、ケタ ケタ と 笑った のだった。 あんのじょう||||||ふきだして|けた|けた||わらった| Sure enough, Holo immediately burst out laughing.

「じゃ が 、誇り 高き 狼 が 昨日 みたいな 醜態 を 晒して ちゃ 、笑い話 に も な りんせん が な」 ||ほこり|たかき|おおかみ||きのう||しゅうたい||さらして||わらいばなし|||||| But it's no laughing matter for a proud wolf to be as ugly as he was yesterday."

自嘲 する よう に 笑い ながら 言う あたり 、取り乱して いた の は 本心 の ようだった。 じちょう||||わらい||いう||とりみだして||||ほんしん|| When he said this with a self-mocking laugh, it seemed that he really meant that he was distraught.

「ま 、よろしく の ……えー と」 Well, hello to you at .......

「ロレンス。 クラフト ・ロレンス。 くらふと| Craft Lawrence. 仕事 上 じゃ ロレンス で 通ってる」 しごと|うえ||||かよってる I go by Lawrence at work.

「うん 、ロレンス。 この先 未来 永 劫 、ぬし の 名 はわっち が 美談 に して語り継が せよう」 このさき|みらい|なが|ごう|||な|||びだん||して かたりつが| I will make your name a beautiful story to be passed down from generation to generation."

胸 を 張って そう 言った ホロ の 頭 の 上 で 、狼 の 耳 が 得意 げ に 揺れる。 むね||はって||いった|||あたま||うえ||おおかみ||みみ||とくい|||ゆれる The wolf's ears wag proudly above his head as he said this. 案外 本気で 言って いる の かも しれ ない。 あんがい|ほんきで|いって||||| He may be saying this more seriously than expected. そんな 様子 を 見る と 幼稚な の か 老 獪 な の か わかり づらい。 |ようす||みる||ようちな|||ろう|かい||||| It is difficult to tell whether he is childish or cunning. ころころ と 変わる 山 の 天気 の ようだ。 ||かわる|やま||てんき|| It is like the weather in the mountains that changes from one day to the next.

いや 、そんなふうに わかり づらい 時点 で 老 獪 な のだろう。 ||||じてん||ろう|かい|| No, he must be cunning if he is so difficult to understand. ロレンス は すぐに 思い 直して 、荷台 の 上 から 手 を 差し出した。 |||おもい|なおして|にだい||うえ||て||さしだした Lawrence quickly reconsidered and reached out his hand from the back of the truck. 相手 を きちんと 一人 の 存在 と して 認めた 証拠 だ。 あいて|||ひとり||そんざい|||みとめた|しょうこ| It is proof that you have acknowledged the other person as an individual.

ホロ は に こり と 笑って それ を 摑 む。 |||||わらって|||| Holo smiles and grabs it.

小さい が 、温かい 娘 の 手 だった。 ちいさい||あたたかい|むすめ||て| They were small, but warm, daughter's hands.

「とりあえず な 、もう じき 雨 が 降る。 ||||あめ||ふる For the time being, it will rain soon. はやく 行った ほう が よい ぞ」 |おこなった|||| You'd better get moving.

「な ……そういう こと は 早く 言え! ||||はやく|いえ You can tell me that at ...... as soon as you can!

ロレンス は 怒鳴り 、馬 が それ に 驚いて いなないた。 ||どなり|うま||||おどろいて| Lawrence yelled and the horse whinnied in surprise. 昨日 の 夕方 の 時点 で は とても 雨 など 降り そうに なかった のに 、確かに 空 を 見上げれば うっすら と 雲 が 覆って いる。 きのう||ゆうがた||じてん||||あめ||ふり|そう に|||たしかに|から||みあげれば|||くも||おおって| Yesterday evening, it was very unlikely to rain, but if you look up at the sky, you can see a slight cloud cover. 慌てて 出発 準備 に 取り掛かる ロレンス を 見て ホロ は ケタ ケタ と 笑う。 あわてて|しゅっぱつ|じゅんび||とりかかる|||みて|||けた|けた||わらう Hollo laughs at Lawrence, who is hurriedly getting ready for departure. それ でも 笑い ながら てきぱき と 荷台 に 乗り込んで 、寝 崩した 毛皮 を 手早く 纏めて 覆い を かける あたり 、仕事 に ついた ばかりの 小僧 より か は 断然 使え そうだった。 ||わらい||||にだい||のりこんで|ね|くずした|けがわ||てばやく|まとめて|おおい||||しごと||||こぞう||||だんぜん|つかえ|そう だった Still, he was laughing and prompt, climbing into the back of the truck and quickly putting together and covering up his tucked-in furs, looking a lot more useful than a kid who had just gotten to work.

「川 は 機嫌 が 悪い。 かわ||きげん||わるい The river is in a bad mood. 少し 離れて 歩く の が よか ろ」 すこし|はなれて|あるく|||| It's better to walk a little further away."

馬 を 起こし 、桶 を 片付け 、手綱 を 握って 御者 台 に つく と 、ホロ も 荷台 から ひらり と 飛び乗って きた。 うま||おこし|おけ||かたづけ|たづな||にぎって|ぎょしゃ|だい||||||にだい||||とびのって| He got his horse up, put away the bucket, grabbed the reins, and got on the driver's stand, and Holo jumped off the back of the cart.

一人 で は 少し 広 すぎる そこ も 、二人 で は 少し 狭い。 ひとり|||すこし|ひろ||||ふた り|||すこし|せまい It is a little too big for one person, but a little too small for two.

ただ 、寒 さ は しのげ る ので ちょうど よい。 |さむ||||||| However, the cold is just right to keep us warm.

奇妙な 二人 旅 が 、馬 の いななき と 共に 始まった のだった。 きみょうな|ふた り|たび||うま||||ともに|はじまった| The strange journey of two people began with the whinnying of a horse.

土砂降り 、と いう 言葉 が 見事に 当てはまる ほど の 雨 だった。 どしゃぶり|||ことば||みごとに|あてはまる|||あめ| It was a downpour, and the word "downpour" was so aptly applied. 昼 過ぎ 頃 に 後ろ から 迫って きた 雨 に ついに 追いつかれた ロレンス 達 は 、雨 で 煙る 視界 の 中 、教会 を 見つけて これ 幸い と 飛び込んだ。 ひる|すぎ|ころ||うしろ||せまって||あめ|||おいつかれた||さとる||あめ||けむる|しかい||なか|きょうかい||みつけて||さいわい||とびこんだ After lunch, the rain finally caught up with them, and they found a church in the rain-smoky field of vision and jumped into it. 修道院 と 違い 、ロレンス 達 の ような 行商人 や 旅人 、それ に 巡礼者 など を 泊めたり 道中 の 無事 を 神 に 祈ったり して その 寄付 で 運営 を して いる ところ だから 、ロレンス 達 の 突然の 訪問 に も 歓迎 こそ した もの の 嫌な 顔 一 つ し なかった。 しゅうどういん||ちがい||さとる|||ぎょうしょう じん||たびびと|||じゅんれい しゃ|||とめたり|どうちゅう||ぶじ||かみ||いのったり|||きふ||うんえい|||||||さとる||とつぜんの|ほうもん|||かんげい|||||いやな|かお|ひと||| Unlike a monastery, it was a place where pilgrims, peddlers, and travelers like Lawrence and his friends stayed and prayed to God for their safety along the way, and the monastery was run with their donations, so Lawrence and his friends' sudden visit was not only welcome, but also not at all unpleasant.

ただ 、いくら なんでも 教会 の 中 で 狼 の 耳 と 尻尾 を 持った 娘 を 大手 振ら して 歩か せる わけに も いか ない。 |||きょうかい||なか||おおかみ||みみ||しっぽ||もった|むすめ||おおて|ふら||あるか||||| But you can't just let a girl with wolf ears and a tail walk around in a church waving a big flag. とっさに 妻 と 称し 、顔 に やけど を 負って いる ため に フード を 外し た がらない 、と 噓 を ついて 薄手 の 外套 を かぶせて おいた。 |つま||そやし|かお||||おって||||ふーど||はずし||がら ない|||||うすで||がいとう||| He quickly called her his wife, lied and put a thin cloak over her, saying he did not want to take off her hood because of the burns on her face.

ホロ が 外套 の 下 で ニヤニヤ 笑って いた の が わかった が 、ホロ も 自分 と 教会 と の 関係 が わかって いる ようで 演技 も それなり だった。 ||がいとう||した|||わらって||||||||じぶん||きょうかい|||かんけい|||||えんぎ||| I could see that Horo was smiling under his cloak, but he seemed to understand the relationship between himself and the church, and his performance was adequate. 何度 か 教会 から ひどい 目 に あった と いう の も 噓 で は ない のだろう。 なんど||きょうかい|||め||||||||||| I lied about having been mistreated by the Church on several occasions.

それ に 、例え ホロ が 悪魔 憑 き で は なく 狼 の 化身 であった と して も 、それ は 教会 に とって 問題 に なら ない。 ||たとえ|||あくま|ひょう|||||おおかみ||けしん|||||||きょうかい|||もんだい||| And even if Holo were a wolf incarnate rather than demon-possessed, that would not be a problem for the Church. 教会 に とって は 教会 の 崇める 神 以外 すべて が 異 教 の 神 であり 、悪魔 の 手先 な のだから。 きょうかい||||きょうかい||あがめる|かみ|いがい|||い|きょう||かみ||あくま||てさき|| For the Church, everything other than the God it worships is a pagan god and an agent of the devil.

そんな 教会 の 門 を くぐり 難なく 部屋 を 一 つ 借りて 、ロレンス が 雨 に 濡れた 荷物 の 手入れ を して から 部屋 に 戻る と 、件 の ホロ は 上半身 裸 に なって 髪 の 毛 を 絞って いた。 |きょうかい||もん|||なんなく|へや||ひと||かりて|||あめ||ぬれた|にもつ||ていれ||||へや||もどる||けん||||じょうはんしん|はだか|||かみ||け||しぼって| When Lawrence returned to his room after cleaning up his rain-soaked belongings, he found the holo naked and shrugging his hair. 綺麗な 茶色 の 髪 の 毛 から 、ぼ た ぼ た と 品 無く 水 が 落ちる。 きれいな|ちゃいろ||かみ||け|||||||しな|なく|すい||おちる Water drips decently from her beautiful brown hair. 穴 だらけ の 板張り の 床 な ので 今さら 多少 水 を 落とした ところ で 文句 を 言わ れる こと もない だろう が 、ロレンス は どこ に 目 を やる べき か と そっち に 困る。 あな|||いたばり||とこ|||いまさら|たしょう|すい||おとした|||もんく||いわ|||も ない|||||||め||||||||こまる The floor is full of holes and planks, so there is no reason to complain about a few drops of water, but Lawrence is wondering where his eyes should be.

「ふ ふ 、わっち の やけど を 冷たい 雨 で 冷やし ん す」 ||||||つめたい|あめ||ひやし|| "Hmm, I'll cool my burns with a cold rain."

そんな ロレンス を よそ に 、あの 噓 が 愉快な の か 不愉快な の か ホロ が 少し 笑う。 ||||||||ゆかいな|||ふゆかいな|||||すこし|わらう While Lawrence is distracted, Holo laughs a little, as if he is amused or displeased by the lie. それ から 顔 に 張り付いた 髪 の 毛 を どける と 前髪 を 豪快に かき上げた。 ||かお||はりついた|かみ||け||||まえがみ||ごうかいに|かきあげた Then he moved his hair out of his face and brushed his bangs out of his face.

そんな 勇まし さ は 確かに 狼 の それ と いって も いい ような 気 が する し 、水 に 濡れて ば さば さ に なった 髪 の 毛 は 狼 の 力強い 毛 に 見え なく も なかった。 |いさまし|||たしかに|おおかみ||||||||き||||すい||ぬれて||||||かみ||け||おおかみ||ちからづよい|け||みえ||| Such bravery could certainly be described as that of a wolf, and the hair, wet and bristly, could easily be likened to a wolf's strong tresses.

「毛皮 は 大丈夫だった じゃ ろ。 けがわ||だいじょうぶだった|| The fur was fine, wasn't it? あれ は よほど 良い テン の 毛皮 じゃ。 |||よい|||けがわ| That's a very good marten pelt. あの テン の 育った 山 に はわっち の ような の が いる の かも しれ ん」 |||そだった|やま||||||||||| Maybe there are others like us in the mountains where the marten grew up.

「高値 で 売れる か」 たかね||うれる| "Will it sell for a higher price?"

「そりゃ あわ か りんせん。 That's aw ka rin sen. わっち は 毛皮 商人 じゃ ご ざん せ ん」 ||けがわ|しょうにん||||| I am not a fur trader.

至極 もっともな 答え に ロレンス は うなずいて 、ずぶ濡れ の 自分 の 服 も 脱いで 絞り 始めた。 しごく||こたえ|||||ずぶぬれ||じぶん||ふく||ぬいで|しぼり|はじめた Lawrence nodded in agreement and began to undress and wring out his soaking wet clothes.

「ああ 、そうだ。 |そう だ Oh, yes. あの 麦 だ が 、どう すれば いい」 |むぎ||||| What am I going to do with that wheat?"

そう 言い ながら 上着 を 絞り 終え 、ズボン も 絞ろう と 思った が ホロ が いる こと を 思い出し 、手 を 止めて ホロ の ほう を 見れば ホロ は まったく ロレンス など そこ に いない か の よう に 真っ裸 に なって 服 を 絞って いる。 |いい||うわぎ||しぼり|おえ|ずぼん||しぼろう||おもった|||||||おもいだし|て||とどめて|||||みれば|||||||||||||まっはだか|||ふく||しぼって| I finished wringing out my jacket and was about to wring out my pants, but then I remembered that Hollo was there, and I stopped and looked at him. なんとなく 悔しくて 、ロレンス も 大胆に 裸 に なって 服 を 絞る。 |くやしくて|||だいたんに|はだか|||ふく||しぼる Somewhat frustrated, Lawrence also boldly strips naked and pulls on his clothes.

「ん 、どうって どういう こと か や? What do you mean, "How?

「脱穀 すれば いい の か 、と か 、あの まま の ほう が いい 、と か。 だっこく|||||||||||||| I was asked if threshing would be enough, or if it would be better to leave it as it is. もっとも 、あの 麦 に お前 が 宿って いる と いう 話 が 本当ならば 、だが」 ||むぎ||おまえ||やどって||||はなし||ほんとうならば| That is, if it is true that you reside in that wheat.

少し からかう よう に そう 言って やった が 、ホロ は 口 の 端で 少し 笑った だけ で 相手 に し なかった。 すこし|||||いって|||||くち||はしたで|すこし|わらった|||あいて||| I said this in a slightly teasing way, but Hollo only smiled a little at the edges of his mouth and did not take it seriously.

「わっち が 生きて いる 限り 、あの 麦 が 腐ったり 枯れたり する こと は あり ん せ ん。 ||いきて||かぎり||むぎ||くさったり|かれたり||||||| As long as you are alive, that wheat will never rot or wither. ただ 、食べられたり 燃やされたり すりつぶして 土 に 混ぜられたり する と 、わっち は い なく なって しまう かも しら ん。 |たべられたり|もやされたり||つち||まぜられたり||||||||||| However, if they are eaten, burned, or ground up and mixed into the soil, they may disappear. 邪魔 なら 脱穀 して 保管 して おいて も 大丈夫じゃ し 、そっち の ほう が よい かも しら ん」 じゃま||だっこく||ほかん||||だいじょうぶじゃ||||||||| If it gets in the way, we can thresh it and store it, and that might be better.

「なるほど。 じゃあ あと で 麦 粒 に して 袋 に でも 入れて おく か。 |||むぎ|つぶ|||ふくろ|||いれて|| Then I'll just make them into barley grains and put them in a bag for later. 自分 で 持って いたい だろう? じぶん||もって|| You want to keep it for yourself, don't you? "

「助かる の。 たすかる| It helps. 首 から 提げられる と なお よい」 くび||さげられる||| It would be better if it could be worn around the neck."

ホロ が そう 言う ので つい 首 の 辺り に 視線 を やって しまい 、ロレンス は 慌てて 視線 を そらした のだった。 |||いう|||くび||あたり||しせん||||||あわてて|しせん||| When Hollo said this, Lawrence's gaze fell on his neck and he hurriedly averted his eyes.

「ただ 、あの 麦 は 別の 土地 に 売り込み に 行きたい ん だ が な。 ||むぎ||べつの|とち||うりこみ||いきたい|||| I'd like to sell the wheat to another place. それ くらい の 麦 は 残して おいて いい か」 |||むぎ||のこして||| Can we keep that much wheat?"

気 を 落ち着け つつ そう 質問 した 直後 、ば さば さ と 音 が した ので 何かと 思えば ホロ の 尻尾 が 勢い よく 振られて いた。 き||おちつけ|||しつもん||ちょくご|||||おと||||なにかと|おもえば|||しっぽ||いきおい||ふられて| Immediately after I asked this question while trying to calm down, I heard a rustling sound and thought I heard something, but it was Hollow's tail wagging vigorously. ふさふさ の 尻尾 は 毛 の 質 も 良い ようで 、実に よく 水 を はじく。 ||しっぽ||け||しち||よい||じつに||すい|| The fluffy tail seems to have good quality fur, and it flicks water very well. ロレンス は 飛び散る 水 に 顔 を しかめた が 、ホロ は 少しも 悪びれ なかった。 ||とびちる|すい||かお||||||すこしも|わるびれ| Lawrence frowned at the splashing water, but Horo was not the least bit offended.

「作物 は その 土地 に ある から こそ よく 実る 、と いう もの が 多い。 さくもつ|||とち||||||みのる|||||おおい Crops are only as good as the land they are grown on. まあ 、すぐに 枯れる の が 落ち じゃ。 ||かれる|||おち| Well, it will soon wither and die. 行く だけ 無駄 と いう もの よ」 いく||むだ|||| It's a waste of time.

絞り 終えた 服 を 前 に 少し 思案 顔 の ホロ だった が 、代え の 服 などない ので 諦めた よう に しわ しわ の それ を 再び 着る。 しぼり|おえた|ふく||ぜん||すこし|しあん|かお|||||かえ||ふく|など ない||あきらめた||||||||ふたたび|きる Holo looked a little thoughtful as she looked at the clothes she had just finished wringing, but there was no alternative, so she gave up and put the wrinkled clothes back on. ロレンス が 今 着て いる ような 安物 で は ない ので 水 の 切れ も いい。 ||いま|きて|||やすもの|||||すい||きれ|| The water runs clear because it's not the cheap stuff that Lawrence wears now. ロレンス は 少し 理不尽な 何 か を 感じ つつ も 、同じく 絞り 終えた 自分 の 服 を 着 終わって から うなずいた。 ||すこし|りふじんな|なん|||かんじ|||おなじく|しぼり|おえた|じぶん||ふく||ちゃく|おわって|| Lawrence nodded after putting on his own clothes, which he had also finished wringing out, while feeling a little unreasonable.

「まあ 、大広間 の ほう に 行って 服 を 乾かそう。 |おおひろま||||おこなって|ふく||かわかそう Well, let's go to the hall and dry our clothes. この 雨 だ。 |あめ| It's this rain. 俺 ら の ような 連中 を 見込んで 暖炉 に 火 が 入って いる はずだ」 おれ||||れんちゅう||みこんで|だんろ||ひ||はいって|| The fireplace is supposed to be lit in anticipation of guys like us."

「うん。 それ は よい 案 じゃ 、と」 |||あん|| That's a good idea.

ホロ は そう 言って 薄手 の 外套 で すっぽり と 頭 を 包む。 |||いって|うすで||がいとう||||あたま||つつむ Saying this, Hollo wraps his head completely in a thin cloak. 包んで から 、また ケタ ケタ と 笑った。 つつんで|||けた|けた||わらった After wrapping it up, he laughed again.

「何 か おかしい か? なん||| "Something funny?

「ふ ふ 、やけど した から 顔 を 隠す 、なんて の はわっち に は ねえ 発想 だから よ」 |||||かお||かくす|||||||はっそう|| Haha, covering your face because you've been burned is not an idea I've ever had.

「ほう。 なら 、お前 は どう 思う ん だ? |おまえ|||おもう||

ホロ は 外套 を 少し めくって 顔 を 覗かせる と 、誇らしげに 言った のだった。 ||がいとう||すこし||かお||のぞかせる||ほこらしげに|いった| He pulled up his cloak a little to reveal his face, and said proudly, "I'm not a good person.

「そんな やけど は わっち の 証。 |||||あかし Such burns are a testament to Wachi. この 尻尾 と 耳 と 同じ。 |しっぽ||みみ||おなじ Same with this tail and ears. 二 つ とない わっち の 証 と 思う まで よ」 ふた||と ない|||あかし||おもう|| It's a testament to our unique and unparalleled way of life.

なるほど な 、と ちょっと そんな 口上 に 感心 する。 |||||こうじょう||かんしん| I was a little impressed by his words. ただ 、それ は ホロ が 実際 に そんな 傷 を 負って いない から こそ 言える ので は ない か 、なんて 意地悪な こと も 思って みたり した。 |||||じっさい|||きず||おって||||いえる||||||いじわるな|||おもって|| But I thought to myself, "That's only because Holo hasn't actually been hurt in that way.

ホロ の 言葉 が 、そんな 胸中 に 入り込む。 ||ことば|||きょうちゅう||はいりこむ Hollow's words enter into such a heart.

「ぬし が 何 を 考え とる か わかる よ」 ||なん||かんがえ|||| I know what you're trying to do.

外套 の 下 で ホロ が いたずらっぽく 笑う。 がいとう||した|||||わらう Holo smiles wickedly under his cloak. に やり 、と 釣り 上がった 唇 の 右側 辺り に 、鋭い 牙 が 顔 を 出した。 |||つり|あがった|くちびる||みぎがわ|あたり||するどい|きば||かお||だした The sharp fangs appeared on the right side of the lip, which had been lifted up with a grin.

「ためしに 傷つけて みる か や? |きずつけて||| "Let's try hurting it, shall we?

その 挑戦 的 な ホロ の 表情 に ロレンス は 意地 を 張り たく なく も なかった が 、ここ で ロレンス が 挑発 に 乗って 短 剣 を 出せば 本当に 引き下がれ なく なる かも しれ ない。 |ちょうせん|てき||||ひょうじょう||||いじ||はり||||||||||ちょうはつ||のって|みじか|けん||だせば|ほんとうに|ひきさがれ||||| The challenging expression on Hollo's face made Lawrence want to be stubborn, but if Lawrence took the challenge and pulled out his dagger, he might not be able to back down.

ホロ は なんとなく 本気で こういう こと を 言い そうだ。 |||ほんきで||||いい|そう だ Hollo seems to be saying this kind of thing in all seriousness. ただし 、それ を わざと 挑発 的に 言う の は 茶目っ気 だろう。 ||||ちょうはつ|てきに|いう|||ちゃめっけ| However, it would be mischievous to say so in a deliberately provocative manner.

「俺 も 男 だ。 おれ||おとこ| I'm a man, too. そんな 綺麗な 顔 に 傷 は つけられない な」 |きれいな|かお||きず||つけられ ない| You can't scratch a pretty face like that."

だから 、そんなふうに 答えたら ホロ は 待ちかねて いた 贈り物 を もらった か の よう に 笑い 、いたずらっぽく 身 を 寄せて きた。 ||こたえたら|||まちかねて||おくりもの|||||||わらい||み||よせて| When I responded in this way, Hollo laughed as if he had received a long-awaited gift, and leaned closer to me mischievously. その とたん 、ふわり 、と どことなく 甘い 匂い が ロレンス の 体 を 刺激 する。 |||||あまい|におい||||からだ||しげき| Just then, a soft, slightly sweet smell arouses Lawrence's body. 思わず 手 が 動いて 抱きしめ そうだった。 おもわず|て||うごいて|だきしめ|そう だった Unintentionally, my hand moved and I was about to hug her.

ただ 、ホロ は そんな ロレンス の こと など お構いなしに 、露骨に くん くん 鼻 を ならす と 少し 離れて 言った のだった。 ||||||||おかまいなしに|ろこつに|||はな||||すこし|はなれて|いった| The only thing that he didn't care about was the fact that he was a bit too far away from Lawrence.

「ぬし は 雨 に 濡れて も まだ 臭い の。 ||あめ||ぬれて|||くさい| You still stink even in the rain. 狼 の わっち が 言う ん じゃ。 おおかみ||||いう|| That's what the wolves say. 間違い ない」 まちがい| No doubt."

「ぬ 、こっの」 "No, no, no."

半ば 本気で 拳 を 放った が 、ひょいと かわされて たたら を 踏む。 なかば|ほんきで|けん||はなった||||||ふむ He half-seriously threw a fist at her, but she ducked and stepped on his foot. ホロ は ニヤニヤ 笑い ながら 、小 首 を かしげて 後 を 続けた。 |||わらい||しょう|くび|||あと||つづけた Hollo followed with a smirk and a cocked head.

「狼 でも 毛づくろい は する。 おおかみ||けづくろい|| Even wolves groom. ぬし は ええ 男 じゃ と 思う よ。 |||おとこ|||おもう| I think you are a good man. 少し は 身 奇麗に し や さんせ」 すこし||み|きれいに||| Let's go clean ourselves up a little.

それ が からかい か 本気 か は わから なかった が 、ホロ みたいな 娘 に 言わ れる と 少し その 気 に なって しまう。 ||||ほんき||||||||むすめ||いわ|||すこし||き||| I wasn't sure if she was teasing me or being serious, but a girl like Holo made me feel a little better about it. これ まで 身 奇麗 と は 商談 に おいて それ が 有利に 働く か どう か と いった 、そんな こと ばかり を 基準 に 判断 して いた ので 、それ が 女 に 気 に 入ら れる もの か どう か など 考えた こと も ない。 ||み|きれい|||しょうだん|||||ゆうりに|はたらく||||||||||きじゅん||はんだん||||||おんな||き||はいら|||||||かんがえた||| I had always judged personal appearance based on whether or not it would be advantageous in business negotiations, and I had never considered whether or not it would be attractive to a woman.

相手 が 女 商人 ならば さ も あり な ん だ が 、生憎 と 女 商人 など 見た こと が ない。 あいて||おんな|しょうにん|||||||||あいにく||おんな|しょうにん||みた||| If it were a woman merchant, that would be one thing, but unfortunately, I have never seen a woman merchant.

ただ 、どう 答えた もの か わから ない。 ||こたえた|||| I just don't know how to answer that question. だから ロレンス は そっぽ を 向いて 、黙り 込んだ。 |||||むいて|だまり|こんだ So Lawrence turned away and remained silent.

「ま 、その 髭 は わっち も 良い と 思う」 ||ひげ||||よい||おもう Well, I think I like your beard.

下あご を 適度に 覆って いる 髭 は なかなか 評判 が 良い。 したあご||てきどに|おおって||ひげ|||ひょうばん||よい The beard that adequately covers the lower jaw is quite popular. この 点 は 素直に 受け取り 、ロレンス は 少し 誇らしげに ホロ の ほう を 振り向く。 |てん||すなおに|うけとり|||すこし|ほこらしげに|||||ふりむく Lawrence accepted this point and turned to Hollo with a bit of pride.

「ただ 、わっち は もう 少し 長い ほう が 好きじゃ な」 ||||すこし|ながい|||すきじゃ| I just think I'd like it a little longer.

長い 髭 は あまり 商人 受け が 良く ない。 ながい|ひげ|||しょうにん|うけ||よく| Long beards are not popular with merchants. ロレンス は 反射 的に そう 思った のだ が 、ホロ は 両手 の人差し指 で 鼻 の 辺り から 頰 に かけて ピッピッ と 線 を 引いた のだった。 ||はんしゃ|てきに||おもった|||||りょうて|の ひとさしゆび||はな||あたり|||||||せん||ひいた| Lawrence thought so reflexively, but Holo drew a line from his nose to his cheeks with both index fingers.

「こう 、狼 の よう に の」 |おおかみ|||| Like a wolf.