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ソードアート・オンライン1 アインクラッド (Sword Art Online 1: Aincrad), ソードアート ・オンライン 1 アインクラッド (9)

ソードアート ・オンライン 1 アインクラッド (9)

これ を 金 に 替えれば 瞬間 転移 アイテム など 欲しい だけ 買える だろう し 、俺 は 危険 を 減らす べく この 場 から アルゲード まで 帰還 して しまう こと に して 、腰 の 小物入れ を 探った。

つまみ出した の は 、深い 青 に きらめく 八 面 柱 型 の 結晶 だ。 《魔法 》の 要素 が ほとんど 排除 されて いる この 世界 で 、わずかに 存在 する マジックアイテム は 全て この よう に 宝石 の 形 を 取って いる。 ブルー の もの は 瞬間 転移 、ピンク だ と HP 回復 、緑 は 解毒 ──と いった 具合 だ。 どれ も 即効 の 便利な アイテム だ が 値 が 張る ので 、たとえば 回復 なら 、敵 から 離脱 して 安価な ポーション 類 で 回復 する の が 常道 と なる。

今 は 緊急の 場合 と 言って よかろう と 自分 に 言い訳 する と 、俺 は 青い 結晶 を 握って 叫んだ。

「転移! アルゲード!

沢山の 鈴 を 鳴らす ような 美しい 音色 と 共に 、手 の 中 で 結晶 が はかなく 砕け 散った。 同時に 俺 の 体 は 青い 光 に 包ま れ 、周囲 の 森 の 風景 が 溶け 崩れる よう に 消滅 して いく。 光 が ひときわ 眩しく 輝き ──消え去った 時 に は 、転移 が 完了 して いた。 先刻 まで の 葉擦れ の ざわめき に 代わって 、甲高い 鍛冶 の 槌音 と 賑やかな 喧騒 が 耳朶 を 打つ。

俺 が 出現 した の は アルゲード の 中央 に ある 《転移 門 》だった。

円形 の 広場 の 真ん中 に 、高 さ 五 メートル は あろう か と いう 巨大な 金属 製 の ゲート が そびえ 立って いる。 ゲート 内部 の 空間 は 蜃気楼 の よう に 揺らいで おり 、他の 街 に 転移 する者 、あるいは どこ から か 転移 して きた者 たち が ひっきりなしに 出現 と 消滅 を 繰り返して いる。

広場 から は 四方 に 大きな 街路 が 伸び 、全て の 道 の 両脇 に は 無数の 小さい 店 が ひしめき あって いた。 今日 の 冒険 を 終えて ひととき の 憩い を 求める プレイヤー たち が 、食い物 の 屋台 や 酒場 の 店先 で 会話 に 花 を 咲か せて いる。

アルゲード の 街 を 簡潔に 表現 すれば 、《猥雑 》の 一言 に 尽きる。

はじまり の 街 に ある ような 巨大な 施設 は ひと つ と して 存在 せ ず 、広大な 面積 いっぱい に 無数の 隘路 が 重層 的に 張り巡らされて 、何 を 売る と も 知れ ぬ 妖し げ な 工房 や 、二度と 出て こられ ない ので は と 思わ せる 宿屋 など が 軒 を 連ねて いる。

実際 、アルゲード の 裏通り に 迷い 込んで 、数 日 出て こられ なかった プレイヤー の 話 も 枚挙 に 暇 が ない ほど だ。 俺 も ここ に ねぐら を 構えて 一 年 近く が 経つ が 、いまだに 道 の 半分 も 覚えて いない。 NPC の 住人 たち に して も 、クラス も 定かで ない ような 連中 ばかり で 、最近 で は ここ を ホーム に して いる プレイヤー も 一癖 二 癖 ある 奴 ら ばかり に なって きた ような 気 さえ する。

だが 俺 は この 街 の 雰囲気 が 気 に 入って いた。 路地裏 の 奥 の 奥 に ある 行きつけ の 店 に しけこんで 、妙な 匂い の する 茶 を 啜って いる 時 だけ が 一 日 で 唯一 安息 を 感じる 時間 だ と 言って も いい。 かつて よく 遊び に 行って いた 電気 街 に 似て いる から だ 、など と いう 感傷 的な 理由 だ と は 思い たく ない が。

俺 は ねぐら に 戻る 前 に 件 の アイテム を 処分 して しまう こと に して 、馴染み の 買い取り 屋 に 足 を 向けた。

転移 門 の ある 中央 広場 から 西 に 伸びた 目抜き通り を 、人ごみ を 縫い ながら 数 分 歩く と すぐに その 店 が あった。 五 人 も 入れば いっぱいに なって しまう ような 店 内 に は 、プレイヤー の 経営 する ショップ 特有 の 混沌っぷり を 醸し出した 陳列 棚 が 並び 、武器 から 道具 類 、食料 まで が ぎっしり と 詰め込まれて いる。

店 の 主 は と 言えば 、今 まさに 店頭 で 商談 の 真っ最中 だった。

アイテム の 売却 方法 は 大まかに 言って 二 種類 ある。 ひと つ は NPC 、つまり システム が 操作 する キャラクター に 売却 する 方法 で 、詐欺 の 危険 が ない かわり に 買い取り 値 は 基本 的に 一定 と なる。 通貨 の インフレ を 防ぐ ため に 、その 値 付け は 実際 の 市場 価値 より も 低目 に 設定 されて いる。

もう 一 つ が プレイヤー 同士 の 取引 だ。 こちら は 商談 次第 で は かなり の 高値 で 売れる こと も 多い が 、買い手 を 見つける の に 結構な 苦労 を する し 、やれ 払い すぎた だの 気 が 変わった だの と 言いだす プレイヤー と の トラブル も ない と は 言え ない。 そこ で 、故買 を 専門 に して いる 商人 プレイヤー の 出番 と なる わけだ。

もっとも 、商人 クラス の プレイヤー の 存在 意義 は それ だけ で は ない。

職人 クラス も そう だ が 、彼ら は スキルスロット の 半分 以上 を 非 戦闘 系 スキル に 占領 されて しまう。 しかし 、だからと言って フィールド に 出 なくて いい わけで は ない。 商人 なら 商品 を 、職人 なら 素材 を 入手 する ため に モンスター と 戦う 必要 が あり 、そして 当然 ながら 戦闘 で は 純粋な 剣士 クラス より も 苦労 を 強いられる。 敵 を 蹴散らす 爽快 感 など 味わう べく も ない。

つまり 彼ら の アイデンティティ は 、ゲーム クリア の ため に 最 前線 に 赴く 剣士 の 手助け を しよう 、と いう 崇高なる 動機 に 求められる。 その 点 で 、俺 は 商人 や 職人 たち を 秘か に 、深く 尊敬 して いる。

──のである が 、いま 俺 の 視線 の 先 に いる 商人 プレイヤー は 、自己 犠牲 など と いう 単語 と は 遥かに 縁遠い キャラクター な の も また 事実 だった。

「よし 決まった! 《ダスク リザード の 革 》二十 枚 で 五百 コル!

俺 が 馴染み に して いる 買い取り屋 の エギル は 、ごつい 右腕 を 振り回す と 、商談 相手 の 気 の 弱 そうな 槍使い の 肩 を ばんばん と 叩いた。 そのまま トレードウインドウ を 出し 、有無 を 言わ せ ぬ 勢い で 自分 側 の トレード 欄 に 金額 を 入力 する。

相手 は まだ 多少 悩む ような 素振り を 見せて いた が 、歴戦 の 戦士 と 見紛う ほど の エギル の 凶 顔 に 一 睨み さ れる と ──実際 エギル は 商人 である と 同時に 一流 の 斧 戦士 で も ある のだ が ──慌てて 自分 の アイテムウインドウ から 物 を トレード 欄 に 移動 さ せ 、OK ボタン を 押した。

「毎度 !! また 頼む よ 兄ちゃん!

最後に 槍 使い の 背中 を バシン と 一 回 どやす と 、エギル は 豪快に 笑った。 ダスクリザード の 革 は 高 性能 な 防 具 の 素材 と なる。 どう 考えて も 五百 は 安 すぎる だろう と 俺 は 思った が 、慎み深く 沈黙 を 守って 、立ち去って いく 槍 使い を 見送った。 故 買 屋 相手 に 遠慮 して は なら ない 、と いう 教訓 の 授業 料 込み だ な と 心 の 中 で 呟く。

「うっす。 相変わらず 阿漕 な 商売 して る な」

エギル に 背後 から 声 を かける と 、禿頭 の 巨漢 は 振り向き ざま 、ニンマリ 笑った。

「よ ぉ 、キリト か。 安く 仕入れて 安く 提供 する の が ウチ の モットー なんで ね」

悪びれる 様子 も なく うそぶく。

「後半 は 疑わしい もん だ なぁ。 まあ いい や 、俺 も 買取 頼む」

「キリト は お 得意 様 だ しな 、あくどい 真似 は しません よっ、と……」

言い ながら エギル は 猪首 を 伸ばし 、俺 の 提示 した トレードウインドウ を 覗き込んだ。

SAO プレイヤー の 仮想 体 は 、ナーヴギア の スキャン 機能 と 初期 の 体型 キャリブレーション に よって 現実 の 姿 を 精緻に 再現 して いる わけだ が 、この エギル を 見る たび に 、俺 は よくも ま ぁ こんな ハマ る 外見 を した 奴 が いた もん だ と 感嘆 を 禁じ 得 ない。

百八十 センチ は ある 体軀 は 筋肉 と 脂肪 に がっちり と 包ま れ 、その 上 に 乗った 顔 は 悪役 レスラー さながら の 、ごつごつ と 岩 から 削り 出した か の ような 造作 だ。 その うえ 唯一 カスタマイズ できる 髪型 を つるつる の スキンヘッド に して いる もの だから 、その 怖 さ は 蛮族 系 モンスター に も 引けを取らない。

しかし それでいて 、笑う と 実に 愛嬌 の ある 、味な 顔 を して いる のだ。 年齢 は 二十 代 後半 だろう が 、現実 世界 で 何 を して いた 男 な の か 想像 も つか ない。 《向こう 》で の こと は 尋ね ない の が この 世界 の 不文律 である。

分厚く せり出した 眉 稜 の 下 の 両眼 が 、トレードウインドウ を 見た 途端 驚き に 丸く なった。

「おいおい 、S 級 の レアアイテム じゃ ねえ か。 《ラグー ・ラビット の 肉 》か 、オレ も 現物 を 見る の は 初めて だ ぜ……。 キリト 、お め え 別 に 金 に は 困って ねえ んだ ろ? 自分 で 食おう と は 思わ ん の か?

「思った さ。 多分 二度と 手 に は 入ら んだろう しな……。 ただ なぁ 、こんな アイテム を 扱える ほど 料理 スキル を 上げて る 奴 なんて そう そう……」

その 時 、背後 から 誰 か に 肩 を つつかれた。

「キリト 君」

女 の 声。 俺 の 名前 を 呼ぶ 女性 プレイヤー は それ ほど 多く ない。 と 言う より この 状況 で は 一人 しか いない。 俺 は 顔 を 見る 前 から 相手 を 察して いた。 左肩 に 触れた まま の 相手 の 手 を 素早く 摑 む と 、振り向き ざま に 言う。

「シェフ 捕獲」

「な ……なに よ」

相手 は 俺 に 手 を 摑まれた まま いぶかしげ な 顔 で 後ずさった。

栗色 の 長い ストレート ヘア を 両側 に 垂らした 顔 は ちいさな 卵型 で 、大きな はしばみ 色 の 瞳 が 眩しい ほど の 光 を 放って いる。 小ぶりだ が スッと 通った 鼻筋 の 下 で 、桜色 の 唇 が 華やかな 彩り を 添える。 すらりと した 体 を 、白 と 赤 を 基調 と した 騎士 風 の 戦闘服 に 包み 、白 革 の 剣帯 に 吊るされた の は 優雅な 白銀 の 細 剣。

彼女 の 名 は アスナ。 SAO 内 で は 知ら ぬ者 は ほとんど いないで あろう 有名 人 だ。

理由 は いくつか ある が 、まず 、圧倒 的に 少ない 女性 プレイヤー であり 、なおかつ 文句 の つけよう が ない 華麗な 容姿 を 持つ こと に よる。

プレイヤー の 現実 の 肉体 、とくに 顔 の 造作 を ほぼ 完全に 再現 する SAO に おいて 、大変 言い難い こと ながら 美人 の 女性 プレイヤー と いう の は 超 S 級 と でも 言う べき レア な 存在 だ。 おそらく アスナ ほど の 美人 は 両手 の 指 に 満たない 数 だろう。

もう ひと つ 彼女 を 有名 人 たらしめて いる 理由 は 、純白 と 真 紅 に 彩られた その 騎士 服 ──ギルド 《血盟 騎士団 》の ユニフォーム だ。 《Knights of the Blood 》の 頭文字 を 取って KoB と も 呼ば れる それ は 、アインクラッド に 数多 ある ギルド の 内 でも 、誰 も が 認める 最強の プレイヤー ギルド である。

構成 メンバー は 三十 人 ほど と 中 規模 だ が 、その 全て が ハイレベルの 強力な 剣士 であり 、なおかつ ギルド を 束ねる リーダー は 伝説 的 存在 と でも 言う べき SAO 最強 の 男 な のだ。 アスナ は 可憐な 少女 の 外見 と は 裏腹に 、その ギルド に おいて 副 団長 を 務めて いる。 当然 、剣 技 の ほう も 半端で は なく 、細 剣 術 は 《閃光 》の 異名 を 取る 腕前 だ。

つまり 彼女 は 、容姿 に おいて も 剣 技 に おいて も 六千 の プレイヤー の 頂点 に 立つ 存在 な わけで 、それ で 有名に なら ない ほう が おかしい。 当然 プレイヤー の 中 に は 無数の ファン が いる が 、中 に は 偏執 的に 崇拝 する者 やら ストーカー まがい 、更に は 反対に 激しく 敵視 する者 も いて 、それなり の 苦労 は ある ようだ。

もっとも 、最強 剣士 の 一 人 たる アスナ に 正面切って ちょっかい を 出そう と いう者 は そう は いない だろう が 、警護 に 万全 を 期する と いう ギルド の 意向 も ある ようで 、彼女 に は たいてい 複数 の 護衛 プレイヤー が 付き 従って いる。 今 も 、数 歩 引いた 位置 に 白 の マント と 分厚い 金属 鎧 に 身 を 固めた KoB メンバー とおぼしき 二人 の 男 が 立ち 、ことに 右側 の 、長髪 を 後ろ で 束ねた 瘦せた 男 が 、アスナ の 手 を 摑んだ まま の 俺 に 殺気 に 満ちた 視線 を 向けて いる。


ソードアート ・オンライン 1 アインクラッド (9) |おんらいん| Schwertkunst Online 1 Aincrad (9) Sword Art Online 1 Aincrad (9) Épée Art Online 1 Aincrad (9) Sword Art Online 1 Aincrad (9)

これ を 金 に 替えれば 瞬間 転移 アイテム など 欲しい だけ 買える だろう し 、俺 は 危険 を 減らす べく この 場 から アルゲード まで 帰還 して しまう こと に して 、腰 の 小物入れ を 探った。 ||きむ||かえれば|しゅんかん|てんい|あいてむ||ほしい||かえる|||おれ||きけん||へらす|||じょう||||きかん||||||こし||こもの はいれ||さぐった I decided to return to Algade from this place to reduce the risk, and searched in my glove compartment.

つまみ出した の は 、深い 青 に きらめく 八 面 柱 型 の 結晶 だ。 つまみだした|||ふかい|あお|||やっ|おもて|ちゅう|かた||けっしょう| 《魔法 》の 要素 が ほとんど 排除 されて いる この 世界 で 、わずかに 存在 する マジックアイテム は 全て この よう に 宝石 の 形 を 取って いる。 まほう||ようそ|||はいじょ||||せかい|||そんざい||||すべて||||ほうせき||かた||とって| ブルー の もの は 瞬間 転移 、ピンク だ と HP 回復 、緑 は 解毒 ──と いった 具合 だ。 ぶるー||||しゅんかん|てんい|ぴんく|||hp|かいふく|みどり||げどく|||ぐあい| Blue is for instantaneous transference, pink for HP recovery, green for detoxification, and so on. どれ も 即効 の 便利な アイテム だ が 値 が 張る ので 、たとえば 回復 なら 、敵 から 離脱 して 安価な ポーション 類 で 回復 する の が 常道 と なる。 ||そっこう||べんりな|あいてむ|||あたい||はる|||かいふく||てき||りだつ||あんかな||るい||かいふく||||じょうどう|| All of these items are useful and fast-acting, but they are expensive, so for example, if you want to heal, you should always leave the enemy and use inexpensive potions to heal.

今 は 緊急の 場合 と 言って よかろう と 自分 に 言い訳 する と 、俺 は 青い 結晶 を 握って 叫んだ。 いま||きんきゅうの|ばあい||いって|||じぶん||いいわけ|||おれ||あおい|けっしょう||にぎって|さけんだ

「転移! てんい アルゲード!

沢山の 鈴 を 鳴らす ような 美しい 音色 と 共に 、手 の 中 で 結晶 が はかなく 砕け 散った。 たくさんの|すず||ならす||うつくしい|ねいろ||ともに|て||なか||けっしょう|||くだけ|ちった 同時に 俺 の 体 は 青い 光 に 包ま れ 、周囲 の 森 の 風景 が 溶け 崩れる よう に 消滅 して いく。 どうじに|おれ||からだ||あおい|ひかり||つつま||しゅうい||しげる||ふうけい||とけ|くずれる|||しょうめつ|| 光 が ひときわ 眩しく 輝き ──消え去った 時 に は 、転移 が 完了 して いた。 ひかり|||くら しく|かがやき|きえさった|じ|||てんい||かんりょう|| 先刻 まで の 葉擦れ の ざわめき に 代わって 、甲高い 鍛冶 の 槌音 と 賑やかな 喧騒 が 耳朶 を 打つ。 せんこく|||はかすれ||||かわって|かんだかい|かじ||つちおと||にぎやかな|けんそう||みみたぶ||うつ

俺 が 出現 した の は アルゲード の 中央 に ある 《転移 門 》だった。 おれ||しゅつげん||||||ちゅうおう|||てんい|もん|

円形 の 広場 の 真ん中 に 、高 さ 五 メートル は あろう か と いう 巨大な 金属 製 の ゲート が そびえ 立って いる。 えんけい||ひろば||まんなか||たか||いつ|めーとる||||||きょだいな|きんぞく|せい||げーと|||たって| ゲート 内部 の 空間 は 蜃気楼 の よう に 揺らいで おり 、他の 街 に 転移 する者 、あるいは どこ から か 転移 して きた者 たち が ひっきりなしに 出現 と 消滅 を 繰り返して いる。 げーと|ないぶ||くうかん||しんきろう||||ゆらいで||たの|がい||てんい|する もの|||||てんい||きた しゃ||||しゅつげん||しょうめつ||くりかえして|

広場 から は 四方 に 大きな 街路 が 伸び 、全て の 道 の 両脇 に は 無数の 小さい 店 が ひしめき あって いた。 ひろば|||しほう||おおきな|がいろ||のび|すべて||どう||りょうわき|||むすうの|ちいさい|てん|||| 今日 の 冒険 を 終えて ひととき の 憩い を 求める プレイヤー たち が 、食い物 の 屋台 や 酒場 の 店先 で 会話 に 花 を 咲か せて いる。 きょう||ぼうけん||おえて|||いこい||もとめる|ぷれいやー|||くいもの||やたい||さかば||みせさき||かいわ||か||さか|| Players seeking a break from the day's adventures are enjoying conversation at food stalls and taverns.

アルゲード の 街 を 簡潔に 表現 すれば 、《猥雑 》の 一言 に 尽きる。 ||がい||かんけつに|ひょうげん||わいざつ||いちげん||つきる

はじまり の 街 に ある ような 巨大な 施設 は ひと つ と して 存在 せ ず 、広大な 面積 いっぱい に 無数の 隘路 が 重層 的に 張り巡らされて 、何 を 売る と も 知れ ぬ 妖し げ な 工房 や 、二度と 出て こられ ない ので は と 思わ せる 宿屋 など が 軒 を 連ねて いる。 ||がい||||きょだいな|しせつ||||||そんざい|||こうだいな|めんせき|||むすうの|あいろ||じゅうそう|てきに|はりめぐらされて|なん||うる|||しれ||あやし|||こうぼう||にどと|でて|こら れ|||||おもわ||やどや|||のき||つらねて| There is not a single huge facility like in the first town, but a vast area filled with countless bottlenecks, bewitching workshops selling anything and everything, and inns that make you wonder if you will ever come out again.

実際 、アルゲード の 裏通り に 迷い 込んで 、数 日 出て こられ なかった プレイヤー の 話 も 枚挙 に 暇 が ない ほど だ。 じっさい|||うらどおり||まよい|こんで|すう|ひ|でて|こら れ||ぷれいやー||はなし||まいきょ||いとま|||| In fact, there are countless stories of players who wandered into the back streets of Algade and didn't come out for days. 俺 も ここ に ねぐら を 構えて 一 年 近く が 経つ が 、いまだに 道 の 半分 も 覚えて いない。 おれ||||||かまえて|ひと|とし|ちかく||たつ|||どう||はんぶん||おぼえて| It's been almost a year since I set up my roost here, and I still can't remember half of the roads. NPC の 住人 たち に して も 、クラス も 定かで ない ような 連中 ばかり で 、最近 で は ここ を ホーム に して いる プレイヤー も 一癖 二 癖 ある 奴 ら ばかり に なって きた ような 気 さえ する。 npc||じゅうにん|||||くらす||さだかで|||れんちゅう|||さいきん|||||ほーむ||||ぷれいやー||ひとくせ|ふた|くせ||やつ|||||||き|| Even the NPC residents are of uncertain class, and it even seems that the players who call this place home nowadays have their own quirks.

だが 俺 は この 街 の 雰囲気 が 気 に 入って いた。 |おれ|||がい||ふんいき||き||はいって| But I liked the atmosphere of this town. 路地裏 の 奥 の 奥 に ある 行きつけ の 店 に しけこんで 、妙な 匂い の する 茶 を 啜って いる 時 だけ が 一 日 で 唯一 安息 を 感じる 時間 だ と 言って も いい。 ろじ うら||おく||おく|||ゆきつけ||てん||しけ こんで|みょうな|におい|||ちゃ||せつって||じ|||ひと|ひ||ゆいいつ|あんそく||かんじる|じかん|||いって|| I can say that the only time I feel at ease in a day is when I take my favorite store in the back alley and sip a cup of tea that smells strangely. かつて よく 遊び に 行って いた 電気 街 に 似て いる から だ 、など と いう 感傷 的な 理由 だ と は 思い たく ない が。 ||あそび||おこなって||でんき|がい||にて|||||||かんしょう|てきな|りゆう||||おもい||| I don't want to think that it is because of sentimental reasons, such as the resemblance to the Electric Town where I used to hang out.

俺 は ねぐら に 戻る 前 に 件 の アイテム を 処分 して しまう こと に して 、馴染み の 買い取り 屋 に 足 を 向けた。 おれ||||もどる|ぜん||けん||あいてむ||しょぶん||||||なじみ||かいとり|や||あし||むけた

転移 門 の ある 中央 広場 から 西 に 伸びた 目抜き通り を 、人ごみ を 縫い ながら 数 分 歩く と すぐに その 店 が あった。 てんい|もん|||ちゅうおう|ひろば||にし||のびた|めぬきどおり||ひとごみ||ぬい||すう|ぶん|あるく||||てん|| A few minutes' walk through the crowds on the main street west of the central plaza with the transfer gate soon brought us to the store. 五 人 も 入れば いっぱいに なって しまう ような 店 内 に は 、プレイヤー の 経営 する ショップ 特有 の 混沌っぷり を 醸し出した 陳列 棚 が 並び 、武器 から 道具 類 、食料 まで が ぎっしり と 詰め込まれて いる。 いつ|じん||はいれば|||||てん|うち|||ぷれいやー||けいえい||しょっぷ|とくゆう||こんとんっぷり||かもしだした|ちんれつ|たな||ならび|ぶき||どうぐ|るい|しょくりょう|||||つめこまれて| The store, which can hold up to five people, is filled to overflowing with the chaos characteristic of a player-owned store, with display shelves crammed with everything from weapons to tools to food.

店 の 主 は と 言えば 、今 まさに 店頭 で 商談 の 真っ最中 だった。 てん||おも|||いえば|いま||てんとう||しょうだん||まっさいちゅう| The owner of the store was in the middle of a business discussion.

アイテム の 売却 方法 は 大まかに 言って 二 種類 ある。 あいてむ||ばいきゃく|ほうほう||おおまかに|いって|ふた|しゅるい| There are two general methods of selling items. ひと つ は NPC 、つまり システム が 操作 する キャラクター に 売却 する 方法 で 、詐欺 の 危険 が ない かわり に 買い取り 値 は 基本 的に 一定 と なる。 |||npc||しすてむ||そうさ||きゃらくたー||ばいきゃく||ほうほう||さぎ||きけん|||||かいとり|あたい||きほん|てきに|いってい|| One is to sell to an NPC, i.e., a character controlled by the system, and there is no risk of fraud, but the purchase price is basically fixed. 通貨 の インフレ を 防ぐ ため に 、その 値 付け は 実際 の 市場 価値 より も 低目 に 設定 されて いる。 つうか||いんふれ||ふせぐ||||あたい|つけ||じっさい||いちば|かち|||てい め||せってい||

もう 一 つ が プレイヤー 同士 の 取引 だ。 |ひと|||ぷれいやー|どうし||とりひき| こちら は 商談 次第 で は かなり の 高値 で 売れる こと も 多い が 、買い手 を 見つける の に 結構な 苦労 を する し 、やれ 払い すぎた だの 気 が 変わった だの と 言いだす プレイヤー と の トラブル も ない と は 言え ない。 ||しょうだん|しだい|||||たかね||うれる|||おおい||かいて||みつける|||けっこうな|くろう|||||はらい|||き||かわった|||いいだす|ぷれいやー|||とらぶる|||||いえ| Although we are often able to sell at a very high price, it is quite difficult to find a buyer, and there is no guarantee that there will not be problems with players who claim that they are overpaid or have changed their minds. そこ で 、故買 を 専門 に して いる 商人 プレイヤー の 出番 と なる わけだ。 ||こ か||せんもん||||しょうにん|ぷれいやー||でばん||| This is where the merchant player, who specializes in buying and selling, comes in.

もっとも 、商人 クラス の プレイヤー の 存在 意義 は それ だけ で は ない。 |しょうにん|くらす||ぷれいやー||そんざい|いぎ|||||| However, this is not the only reason for the existence of merchant-class players.

職人 クラス も そう だ が 、彼ら は スキルスロット の 半分 以上 を 非 戦闘 系 スキル に 占領 されて しまう。 しょくにん|くらす|||||かれら||||はんぶん|いじょう||ひ|せんとう|けい|||せんりょう|| Like the Craftsman class, they have more than half of their skill slots occupied by non-combat skills. しかし 、だからと言って フィールド に 出 なくて いい わけで は ない。 |だからといって|ふぃーるど||だ||||| However, this does not mean that they do not have to go out into the field. 商人 なら 商品 を 、職人 なら 素材 を 入手 する ため に モンスター と 戦う 必要 が あり 、そして 当然 ながら 戦闘 で は 純粋な 剣士 クラス より も 苦労 を 強いられる。 しょうにん||しょうひん||しょくにん||そざい||にゅうしゅ||||||たたかう|ひつよう||||とうぜん||せんとう|||じゅんすいな|けんし|くらす|||くろう||しいられる Merchants need to fight monsters to obtain goods and craftsmen need to fight monsters to obtain materials, and naturally they have more difficulty in combat than the pure swordsman class. 敵 を 蹴散らす 爽快 感 など 味わう べく も ない。 てき||けちらす|そうかい|かん||あじわう||| There is no way to experience the exhilaration of kicking off the enemy.

つまり 彼ら の アイデンティティ は 、ゲーム クリア の ため に 最 前線 に 赴く 剣士 の 手助け を しよう 、と いう 崇高なる 動機 に 求められる。 |かれら||あいでんてぃてぃ||げーむ|くりあ||||さい|ぜんせん||おもむく|けんし||てだすけ|||||すうこうなる|どうき||もとめられる In other words, their identity is sought in the noble motive of helping the swordsman who goes to the front line to clear the game. その 点 で 、俺 は 商人 や 職人 たち を 秘か に 、深く 尊敬 して いる。 |てん||おれ||しょうにん||しょくにん|||ひ か||ふかく|そんけい|| In this respect, I secretly and deeply respect merchants and craftsmen.

──のである が 、いま 俺 の 視線 の 先 に いる 商人 プレイヤー は 、自己 犠牲 など と いう 単語 と は 遥かに 縁遠い キャラクター な の も また 事実 だった。 |||おれ||しせん||さき|||しょうにん|ぷれいやー||じこ|ぎせい||||たんご|||はるかに|えんどおい|きゃらくたー|||||じじつ| I was not sure what to expect, but the merchant player in front of my eyes was a character far removed from words like "self-sacrifice".

「よし 決まった! |きまった 《ダスク リザード の 革 》二十 枚 で 五百 コル! |||かわ|にじゅう|まい||ごひゃく|

俺 が 馴染み に して いる 買い取り屋 の エギル は 、ごつい 右腕 を 振り回す と 、商談 相手 の 気 の 弱 そうな 槍使い の 肩 を ばんばん と 叩いた。 おれ||なじみ||||かいとり や||||ご つい|みぎうで||ふりまわす||しょうだん|あいて||き||じゃく|そう な|やり つかい||かた||ばん ばん||たたいた そのまま トレードウインドウ を 出し 、有無 を 言わ せ ぬ 勢い で 自分 側 の トレード 欄 に 金額 を 入力 する。 |||だし|うむ||いわ|||いきおい||じぶん|がわ||とれーど|らん||きんがく||にゅうりょく|

相手 は まだ 多少 悩む ような 素振り を 見せて いた が 、歴戦 の 戦士 と 見紛う ほど の エギル の 凶 顔 に 一 睨み さ れる と ──実際 エギル は 商人 である と 同時に 一流 の 斧 戦士 で も ある のだ が ──慌てて 自分 の アイテムウインドウ から 物 を トレード 欄 に 移動 さ せ 、OK ボタン を 押した。 あいて|||たしょう|なやむ||そぶり||みせて|||れきせん||せんし||みまがう|||||きょう|かお||ひと|にらみ||||じっさい|||しょうにん|||どうじに|いちりゅう||おの|せんし||||||あわてて|じぶん||||ぶつ||とれーど|らん||いどう|||ok|ぼたん||おした

「毎度 !! また 頼む よ 兄ちゃん! まいど||たのむ||にいちゃん "Thank you! I'll be counting on you again, brother!

最後に 槍 使い の 背中 を バシン と 一 回 どやす と 、エギル は 豪快に 笑った。 さいごに|やり|つかい||せなか||||ひと|かい|ど やす||||ごうかいに|わらった ダスクリザード の 革 は 高 性能 な 防 具 の 素材 と なる。 ||かわ||たか|せいのう||ふせ|つぶさ||そざい|| どう 考えて も 五百 は 安 すぎる だろう と 俺 は 思った が 、慎み深く 沈黙 を 守って 、立ち去って いく 槍 使い を 見送った。 |かんがえて||ごひゃく||やす||||おれ||おもった||つつしみぶかく|ちんもく||まもって|たちさって||やり|つかい||みおくった 故 買 屋 相手 に 遠慮 して は なら ない 、と いう 教訓 の 授業 料 込み だ な と 心 の 中 で 呟く。 こ|か|や|あいて||えんりょ|||||||きょうくん||じゅぎょう|りょう|こみ||||こころ||なか||つぶやく I muttered to myself, "That's the lesson I've learned from the lesson of not being shy about dealing with a dealer who has bought a house for a long time.

「うっす。 相変わらず 阿漕 な 商売 して る な」 あいかわらず|おもね こ||しょうばい||| You're still in business as usual."

エギル に 背後 から 声 を かける と 、禿頭 の 巨漢 は 振り向き ざま 、ニンマリ 笑った。 ||はいご||こえ||||とくとう||きょかん||ふりむき||にんまり|わらった

「よ ぉ 、キリト か。 安く 仕入れて 安く 提供 する の が ウチ の モットー なんで ね」 やすく|しいれて|やすく|ていきょう||||うち||もっとー|| Our motto is to source cheaply and offer cheaply.

悪びれる 様子 も なく うそぶく。 わるびれる|ようす||| He lies without showing any sign of being offended.

「後半 は 疑わしい もん だ なぁ。 こうはん||うたがわしい||| The second half is questionable. まあ いい や 、俺 も 買取 頼む」 |||おれ||かいとり|たのむ Well, okay, I'll take care of the purchase, too."

「キリト は お 得意 様 だ しな 、あくどい 真似 は しません よっ、と……」 |||とくい|さま||||まね|||| Kirito is my best customer, so I won't do anything bad about it. ......

言い ながら エギル は 猪首 を 伸ばし 、俺 の 提示 した トレードウインドウ を 覗き込んだ。 いい||||いのしし くび||のばし|おれ||ていじ||||のぞきこんだ

SAO プレイヤー の 仮想 体 は 、ナーヴギア の スキャン 機能 と 初期 の 体型 キャリブレーション に よって 現実 の 姿 を 精緻に 再現 して いる わけだ が 、この エギル を 見る たび に 、俺 は よくも ま ぁ こんな ハマ る 外見 を した 奴 が いた もん だ と 感嘆 を 禁じ 得 ない。 sao|ぷれいやー||かそう|からだ||||すきゃん|きのう||しょき||たいけい||||げんじつ||すがた||せいちに|さいげん||||||||みる|||おれ||||||はま||がいけん|||やつ||||||かんたん||きんじ|とく| Every time I see Egil, I can't help but marvel at how anyone could have such an attractive appearance.

百八十 センチ は ある 体軀 は 筋肉 と 脂肪 に がっちり と 包ま れ 、その 上 に 乗った 顔 は 悪役 レスラー さながら の 、ごつごつ と 岩 から 削り 出した か の ような 造作 だ。 ひゃくはちじゅう|せんち|||からだ 軀||きんにく||しぼう||||つつま|||うえ||のった|かお||あくやく|れすらー|||||いわ||けずり|だした||||ぞうさく| その うえ 唯一 カスタマイズ できる 髪型 を つるつる の スキンヘッド に して いる もの だから 、その 怖 さ は 蛮族 系 モンスター に も 引けを取らない。 ||ゆいいつ|||かみ かた||つる つる|||||||||こわ|||ばんぞく|けい||||ひけ を とら ない The only hairstyle that can be customized is a smooth skinhead, which makes them as frightening as barbarian monsters.

しかし それでいて 、笑う と 実に 愛嬌 の ある 、味な 顔 を して いる のだ。 ||わらう||じつに|あいきょう|||あじな|かお|||| 年齢 は 二十 代 後半 だろう が 、現実 世界 で 何 を して いた 男 な の か 想像 も つか ない。 ねんれい||にじゅう|だい|こうはん|||げんじつ|せかい||なん||||おとこ||||そうぞう||| 《向こう 》で の こと は 尋ね ない の が この 世界 の 不文律 である。 むこう|||||たずね|||||せかい||ふぶんりつ|

分厚く せり出した 眉 稜 の 下 の 両眼 が 、トレードウインドウ を 見た 途端 驚き に 丸く なった。 ぶあつく|せりだした|まゆ|りょう||した||りょうがん||||みた|とたん|おどろき||まるく| Both eyes under the thickly protruding brow ridges rounded in surprise as soon as they saw the trade window.

「おいおい 、S 級 の レアアイテム じゃ ねえ か。 |s|きゅう||||| 《ラグー ・ラビット の 肉 》か 、オレ も 現物 を 見る の は 初めて だ ぜ……。 |||にく||おれ||げんぶつ||みる|||はじめて|| Raghu Rabbit meat? This is the first time I've seen it in the flesh. ...... キリト 、お め え 別 に 金 に は 困って ねえ んだ ろ? ||||べつ||きむ|||こまって||| Kirito, you don't have any money problems, do you? 自分 で 食おう と は 思わ ん の か? じぶん||くおう|||おもわ||| Don't you want to eat it yourself?

「思った さ。 おもった| I thought. 多分 二度と 手 に は 入ら んだろう しな……。 たぶん|にどと|て|||はいら|| ただ なぁ 、こんな アイテム を 扱える ほど 料理 スキル を 上げて る 奴 なんて そう そう……」 |||あいてむ||あつかえる||りょうり|||あげて||やつ||| But hey, not everyone has the culinary skills to handle an item like this. ......"

その 時 、背後 から 誰 か に 肩 を つつかれた。 |じ|はいご||だれ|||かた|| At that moment, someone poked me on the shoulder from behind.

「キリト 君」 |きみ

女 の 声。 おんな||こえ 俺 の 名前 を 呼ぶ 女性 プレイヤー は それ ほど 多く ない。 おれ||なまえ||よぶ|じょせい|ぷれいやー||||おおく| There aren't that many female players who call me by name. と 言う より この 状況 で は 一人 しか いない。 |いう|||じょうきょう|||ひとり|| There is only one person in this situation. 俺 は 顔 を 見る 前 から 相手 を 察して いた。 おれ||かお||みる|ぜん||あいて||さっして| I knew who they were before I even saw their faces. 左肩 に 触れた まま の 相手 の 手 を 素早く 摑 む と 、振り向き ざま に 言う。 ひだり かた||ふれた|||あいて||て||すばやく||||ふりむき|||いう

「シェフ 捕獲」 しぇふ|ほかく Chef Catch.

「な ……なに よ」

相手 は 俺 に 手 を 摑まれた まま いぶかしげ な 顔 で 後ずさった。 あいて||おれ||て||摑 まれ た||いぶかし げ||かお||あと ず さった

栗色 の 長い ストレート ヘア を 両側 に 垂らした 顔 は ちいさな 卵型 で 、大きな はしばみ 色 の 瞳 が 眩しい ほど の 光 を 放って いる。 くり いろ||ながい|すとれーと|へあ||りょうがわ||たらした|かお|||たまご かた||おおきな|は しば み|いろ||ひとみ||くら しい|||ひかり||はなって| 小ぶりだ が スッと 通った 鼻筋 の 下 で 、桜色 の 唇 が 華やかな 彩り を 添える。 こぶりだ||スッ と|かよった|はなすじ||した||さくら いろ||くちびる||はなやかな|いろどり||そえる すらりと した 体 を 、白 と 赤 を 基調 と した 騎士 風 の 戦闘服 に 包み 、白 革 の 剣帯 に 吊るされた の は 優雅な 白銀 の 細 剣。 ||からだ||しろ||あか||きちょう|||きし|かぜ||せんとう ふく||つつみ|しろ|かわ||けん おび||つるされた|||ゆうがな|しろがね||ほそ|けん

彼女 の 名 は アスナ。 かのじょ||な|| Her name is Asuna. SAO 内 で は 知ら ぬ者 は ほとんど いないで あろう 有名 人 だ。 sao|うち|||しら|ぬ もの|||い ないで||ゆうめい|じん| He is a well-known figure in SAO who is almost universally known.

理由 は いくつか ある が 、まず 、圧倒 的に 少ない 女性 プレイヤー であり 、なおかつ 文句 の つけよう が ない 華麗な 容姿 を 持つ こと に よる。 りゆう||||||あっとう|てきに|すくない|じょせい|ぷれいやー|||もんく|||||かれいな|ようし||もつ||| There are several reasons for this, but the first is the overwhelmingly small number of female players, and their unquestionably gorgeous appearance.

プレイヤー の 現実 の 肉体 、とくに 顔 の 造作 を ほぼ 完全に 再現 する SAO に おいて 、大変 言い難い こと ながら 美人 の 女性 プレイヤー と いう の は 超 S 級 と でも 言う べき レア な 存在 だ。 ぷれいやー||げんじつ||にくたい||かお||ぞうさく|||かんぜんに|さいげん||sao|||たいへん|いいがたい|||びじん||じょせい|ぷれいやー|||||ちょう|s|きゅう|||いう||||そんざい| In SAO, where the players' real-life bodies, especially their facial features, are reproduced almost perfectly, it is difficult to say that a beautiful female player is a rarity, even an extremely rare one. おそらく アスナ ほど の 美人 は 両手 の 指 に 満たない 数 だろう。 ||||びじん||りょうて||ゆび||みたない|すう| There are probably fewer than two fingers on a hand that are as beautiful as Asuna.

もう ひと つ 彼女 を 有名 人 たらしめて いる 理由 は 、純白 と 真 紅 に 彩られた その 騎士 服 ──ギルド 《血盟 騎士団 》の ユニフォーム だ。 |||かのじょ||ゆうめい|じん|たら しめて||りゆう||じゅんぱく||まこと|くれない||いろどられた||きし|ふく|ぎるど|ち めい|きし だん||ゆにふぉーむ| Another reason that makes her a celebrity is the pure white and crimson uniform of her guild, the Knights of the Blood Guild. 《Knights of the Blood 》の 頭文字 を 取って KoB と も 呼ば れる それ は 、アインクラッド に 数多 ある ギルド の 内 でも 、誰 も が 認める 最強の プレイヤー ギルド である。 knights|||blood||かしらもじ||とって|kob|||よば||||||かずおお||ぎるど||うち||だれ|||みとめる|さいきょうの|ぷれいやー|ぎるど| Also known as KoB, an acronym for "Knights of the Blood," it is the most powerful guild of players in Aincrad, by all accounts.

構成 メンバー は 三十 人 ほど と 中 規模 だ が 、その 全て が ハイレベルの 強力な 剣士 であり 、なおかつ ギルド を 束ねる リーダー は 伝説 的 存在 と でも 言う べき SAO 最強 の 男 な のだ。 こうせい|めんばー||さんじゅう|じん|||なか|きぼ||||すべて||はいれべるの|きょうりょくな|けんし|||ぎるど||たばねる|りーだー||でんせつ|てき|そんざい|||いう||sao|さいきょう||おとこ|| The guild is a medium-sized one with about 30 members, but all of them are high-level powerful swordsmen, and the leader of the guild is the most powerful man in SAO, who should be called a legendary figure. アスナ は 可憐な 少女 の 外見 と は 裏腹に 、その ギルド に おいて 副 団長 を 務めて いる。 ||かれんな|しょうじょ||がいけん|||うらはらに||ぎるど|||ふく|だんちょう||つとめて| 当然 、剣 技 の ほう も 半端で は なく 、細 剣 術 は 《閃光 》の 異名 を 取る 腕前 だ。 とうぜん|けん|わざ||||はんぱで|||ほそ|けん|じゅつ||せんこう||いみょう||とる|うでまえ| Naturally, his swordsmanship is also not half bad, and his fine swordsmanship has earned him the nickname of "Flash".

つまり 彼女 は 、容姿 に おいて も 剣 技 に おいて も 六千 の プレイヤー の 頂点 に 立つ 存在 な わけで 、それ で 有名に なら ない ほう が おかしい。 |かのじょ||ようし||||けん|わざ||||ろくせん||ぷれいやー||ちょうてん||たつ|そんざい|||||ゆうめいに||||| 当然 プレイヤー の 中 に は 無数の ファン が いる が 、中 に は 偏執 的に 崇拝 する者 やら ストーカー まがい 、更に は 反対に 激しく 敵視 する者 も いて 、それなり の 苦労 は ある ようだ。 とうぜん|ぷれいやー||なか|||むすうの|ふぁん||||なか|||へん と|てきに|すうはい|する もの||||さらに||はんたいに|はげしく|てきし|する もの|||||くろう|||

もっとも 、最強 剣士 の 一 人 たる アスナ に 正面切って ちょっかい を 出そう と いう者 は そう は いない だろう が 、警護 に 万全 を 期する と いう ギルド の 意向 も ある ようで 、彼女 に は たいてい 複数 の 護衛 プレイヤー が 付き 従って いる。 |さいきょう|けんし||ひと|じん||||しょうめんきって|ちょっか い||だそう||いう しゃ|||||||けいご||ばんぜん||きする|||ぎるど||いこう||||かのじょ||||ふくすう||ごえい|ぷれいやー||つき|したがって| However, not many people would dare to mess with Asuna, who is one of the strongest swordsmen in the guild, but it seems that the guild wants to make sure she is well protected, and she is usually accompanied by several guards. 今 も 、数 歩 引いた 位置 に 白 の マント と 分厚い 金属 鎧 に 身 を 固めた KoB メンバー とおぼしき 二人 の 男 が 立ち 、ことに 右側 の 、長髪 を 後ろ で 束ねた 瘦せた 男 が 、アスナ の 手 を 摑んだ まま の 俺 に 殺気 に 満ちた 視線 を 向けて いる。 いま||すう|ふ|ひいた|いち||しろ||まんと||ぶあつい|きんぞく|よろい||み||かためた|kob|めんばー|と お ぼ しき|ふた り||おとこ||たち||みぎがわ||ちょうはつ||うしろ||たばねた|瘦 せた|おとこ||||て||摑 ん だ|||おれ||さっき||みちた|しせん||むけて| Even now, two men who look like KoB members wearing white cloaks and thick metal armor stand a few steps away from me, and on the right side, a thin man with long hair tied back gives me a murderous look while holding Asuna's hand.