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ソードアート・オンライン1 アインクラッド (Sword Art Online 1: Aincrad), ソードアート ・オンライン 1 アインクラッド (10)

ソードアート ・オンライン 1 アインクラッド (10)

俺 は 彼女 の 手 を 離し 、指 を その 男 に 向って ひらひら 振って やり ながら 言葉 を 返した。

「珍しい な 、アスナ。 こんな ゴミ溜め に 顔 を 出す なんて」

俺 が アスナ を 呼び捨て に する の を 聞いた 長髪 の 男 と 、自分 の 店 を ゴミ 溜 め 呼ばわり された 店主 の 顔 が 同時に ぴくぴく と 引き攣る。 だが 、店主 の ほう は アスナ から 、お 久しぶりです エギル さん 、と 声 を かけられる と 途端 に だらしなく 顔 を 緩ま せる。

アスナ は 俺 に 向き直る と 、不満 そうに 唇 を 尖ら せた。

「なに よ。 もう すぐ 次の ボス 攻略 だから 、ちゃんと 生きて る か 確認 に 来て あげた んじゃ ない」

「フレンドリスト に 登録 して んだから 、それ くらい 判る だ ろ。 そもそも マップ で フレンド 追跡 した から ここ に 来られた んじゃ ない の か」

言い返す と 、ぷいっと 顔 を そむけて しまう。

彼女 は 、サブリーダー と いう 立場 で あり ながら 、ギルド に おいて ゲーム 攻略 の 責任者 を 務めて いる。 その 仕事 に は 、確かに 俺 の ような ソロ の 勝手 者 を 束ねて 対 ボスモンスター の 合同 パーティー を 編成 する こと も 含ま れる が 、それにしても わざわざ 直接 確認 に 来る と は 生真面目に も 程 が ある。

俺 の 、呆れ 半分 感心 半分 の 視線 を 受けた アスナ は 、両手 を 腰 に 当てる と つんと 顎 を 反ら せる ような 仕草 で 言った。

「生きて る なら いい の よ。 そ ……そんな こと より 、何 よ シェフ どうこう って?

「あ 、そう だった。 お前 いま 、料理 スキル の 熟練 度 どの へん?

確か アスナ は 酔狂 に も 、戦闘 スキル 修行 の 合い間 を 縫って 職人 系 の 料理 スキル を 上げて いた 覚え が ある。 俺 の 問い に 、彼女 は 不敵な 笑み を 滲ま せる と 答えた。

「聞いて 驚き なさい 、先週 に 《完全 習得 》した わ」

「なぬっ!

ア ……アホ か。

と 一瞬 思った が 、もちろん 口 に は 出さ ない。

熟練 度 は 、スキル を 使用 する 度 に 気 が 遠く なる ほど の 遅々と した 速度 で 上昇 して ゆき 、最終 的に 熟練 度 一〇〇〇 に 達した ところ で 完全 習得 と なる。 ちなみに 経験 値 に よって 上昇 する レベル は それ と は また 別で 、レベル アップ で 上昇 する の は HP と 筋力 、敏捷 力 の ステータス 、それ に 《スキルスロット 》と いう 習得 可能 スキル 限度 数 だけ だ。

俺 は 今 十二 の スキルスロット を 持つ が 、完全 習得 に 達して いる の は 片手 直 剣 スキル 、索敵 スキル 、武器 防御 スキル の 三 つ だけ である。 つまり この 女 は 途方 も ない ほど の 時間 と 情熱 を 、戦闘 の 役 に たた ない スキル に つぎ込んだ わけだ。

「……その 腕 を 見こんで 頼み が ある」

俺 は 手招き を する と 、アイテムウインドウ を 他人 に も 見える 可視 モード に して 示した。 いぶかし げ に 覗きこんだ アスナ は 、表示 されて いる アイテム 名 を 一瞥 する や 眼 を 丸く した。

「うわっ!! こ ……これ 、S 級 食 材!?」

「取引 だ。 こいつ を 料理 して くれたら 一口 食わせて やる」

言い 終わら ない うち に 《閃光 》アスナ の 右手 が 俺 の 胸倉 を がっし と 摑 んだ。 そのまま 顔 を 数 センチ の 距離 まで ぐいと 寄せる と、

「は ・ん ・ぶ ・ん!!」

思わぬ 不意打ち に ドギマギ した 俺 は 思わず 頷いて しまう。 はっと 我 に 返った が 時 すでに 遅く 、アスナ が やった と 左手 を 握る。 まあ 、あの 可憐な 顔 を 至近 距離 から 観察 できた んだから 良し と しよう 、と 無理やり 納得 する。

ウインドウ を 消去 し ながら 振り向き 、エギル の 顔 を 見上げて 言う。

「悪い な 、そんな 訳 で 取引 は 中止 だ。」

「いや 、それ は いい けど よ……。 なあ 、オレ たち ダチ だ よ な? な? オレ に も 味見 くらい……」

「感想 文 を 八百 字 以内 で 書いて きて やる よ」

「そ 、そりゃ あ ない だろ!!」

この世 の 終わり か 、と いった 顔 で 情けない 声 を 出す エギル に つれなく 背 を 向け 歩き 出そう と した 途端 、俺 の コート の 袖 を ぎゅっと アスナ が 摑 んだ。

「でも 、料理 は いい けど 、どこ で する つもりな の よ?

「うっ……」

料理 スキル を 使用 する に は 、食 材 の 他 に 料理 道具 と 、かまど や オーブン の 類 が 最低 限 必要に なる。 俺 の 部屋 に も 簡単な もの が ある に は あった が 、あんな 小汚い ねぐら に KoB 副 団長 様 を 招待 できる はず も 無く。

アスナ は 言葉 に 詰まる 俺 に 呆れた ような 視線 を 投げかけ ながら、

「どうせ 君 の 部屋 に は ろくな 道具 も ない んでしょ。 今回 だけ 、食 材 に 免じて わたし の 部屋 を 提供 して あげ なく も ない けど」

とんでもない こと を サラリと 言った。

台詞 の 内容 を 脳 が 理解 する まで の ラグ で 停止 する 俺 を 気にもとめず 、アスナ は 警護 の ギルド メンバー 二 人 に 向き直る と 声 を かけた。

「今日 は ここ から 直接 《セルムブルグ 》まで 転移 する から 、護衛 は もう いい です。 お 疲れ 様」

その 途端 、我慢 の 限界 に 達した と でも 言う よう に 長髪 の 男 が 叫んだ。 SAO に もう すこし 表情 再現 機能 が あったら 、額 に 青筋 の 二 、三 本 は 立って いる であろう 剣幕 だ。

「ア ……アスナ 様! こんな スラム に 足 を お 運び に なる だけ に 留まら ず 、素性 の 知れ ぬ 奴 を ご 自宅 に 伴う など と 、と 、とんでもない 事 です!

その 大仰 な 台詞 に 俺 は 内心 辟易 と さ せられる。 《様 》と 来た 、こいつ も 紙一重 級 の 崇拝者 な んじゃ なかろう か 、と 思い ながら 目 を 向ける と 、当人 も 相当に うんざり と した 表情 である。

「この ヒト は 、素性 は ともかく 腕 だけ は 確かだ わ。 多分 あなた より 十 は レベル が 上 よ 、クラディール」

「な 、何 を 馬鹿な! 私 が こんな 奴 に 劣る など と……!

男 の 半分 裏返った 声 が 路地 に 響き渡る。 三白眼 ぎみ の 落ち 窪んだ 目 で 俺 を 憎憎し げ に 睨んで いた 男 の 顔 が 、不意に 何 か を 合点 した か の よう に 歪んだ。

「そう か ……手前 、たしか 《ビーター 》だ ろ!

ビーター と は 、《ベータテスター 》に 、ズル する 奴 を 指す 《チーター 》を 掛け合わせた 、SAO 独自の 蔑称 である。 聞き 慣れた 悪罵 だ が 、何 度 言われて も その 言葉 は 俺 に 一定 量 の 痛み を もたらす。 最初に 俺 に 同じ こと を 言った 、かつて 友人 だった 奴 の 顔 が ちらり と 脳裏 を よぎる。

「ああ 、そう だ」

俺 が 無表情に 肯定 する と 、男 は 勢いづいて 言い 募った。

「アスナ 様 、こい つら 自分 さえ 良きゃ いい 連中 です よ! こんな 奴 と 関わる と ろくな こと が ない んだ!

今 まで 平静 を 保って いた アスナ の 眉根 が 不愉快 そうに 寄せられる。 いつのまにか 周囲 に は 野次馬 の 人垣 が でき 、《KoB 》《アスナ 》と いう 単語 が 漏れ 聞こえて くる。

アスナ は 周囲 に ちらり と 目 を 向ける と 、興奮 の 度合い を 増す ばかりの クラディール と いう 男 に、

「ともかく 今日 は ここ で 帰り なさい。 副 団長 と して 命令 します」

と そっけない 言葉 を 投げかけ 、左手 で 俺 の コート の 後ろ ベルト を 摑 んだ。 そのまま ぐいぐい と 引き摺り ながら 、ゲート 広場 へ と 足 を 向ける。

「お ……おいおい 、いい の か?

「いい ん です!

まあ 、俺 に は 否 や の あろう はず も ない。 二 人 の 護衛 と 、いまだに 残念 そうな 顔 の エギル を 残して 俺 たち は 人ごみ の 隙間 に 紛れる よう に 歩き 出した。 最後に ちらり と 振り返る と 、突っ立った まま こちら を 睨む クラディール と いう 男 の 険悪な 表情 が 、残像 の よう に 俺 の 視界 に 貼りついた。

セルムブルグ は 、六十一 層 に ある 美しい 城塞 都市 だ。

規模 は それほど 大きく も ない が 、華奢 な 尖塔 を 備える 古城 を 中心 と した 市街 は 全て 白亜 の 花崗岩 で 精緻に 造り 込ま れ 、ふんだんに 配された 緑 と 見事な コントラスト を 醸し出して いる。 市場 に は 店 も それなり に 豊富で 、ここ を ホームタウン に と 願う プレイヤー は 多い が 、部屋 が とんでもなく 高価であり ──多分 アルゲード の 三 倍 は する だろう ──、よほど の ハイレベルに 達さ ない かぎり 入手 する の は 不可能に 近い。

俺 と アスナ が セルムブルグ の 転移 門 に 到着 した 時 は すっかり 陽 も 暮れかかり 、最後 の 残照 が 街並み を 深い 紫色 に 染め 上げて いた。

六十一 層 は 面積 の ほとんど が 湖 で 占められて おり 、セルムブルグ は その 中心 に 浮かぶ 小島 に 存在 する ので 、外周 部 から 差し込む 夕陽 が 水面 を 煌か せる 様 を 一幅 の 絵画 の ごとく 鑑賞 する こと が できる。 広大な 湖水 を 背景 に して 濃紺 と 朱色 に 輝く 街並み の 、あまり の 美し さ に 俺 は しばし 心 を 奪われた。 ナーヴギア が 持つ 新 世代 の ダイアモンド 半導体 CPU に とって は 、このような ライティング 処理 など 小手先 の 技 な のだろう が。

転移 門 は 古城 前 の 広場 に 設置 されて おり 、そこ から 街路 樹 に 挟まれた メイン ストリート が 市街 地 を 貫いて 南 に 伸びて いる。 両脇 に は 品 の いい 店舗 やら 住宅 が 立ち 並び 、行き交う NPC や プレイヤー の 格好 も どこ か 垢抜けて 見える。 空気 の 味 まで アルゲード と 違う ような 気 が して 、俺 は 思わず 両手 を 伸ばし ながら 深呼吸 を した。

「うーん 、広い し 人 は 少ない し 、開放感 ある なぁ」

「なら 君 も 引っ越せば」

「金 が 圧倒 的に 足りません」

肩 を すくめて 答えて から 、俺 は 表情 を あらためた。 遠慮 気味に 訊ねる。

「……そりゃ そう と 、本当に 大丈夫な の か? さっき の……」

「…………」

それ だけ で 何の こと か 察した らしく 、アスナ は くるり と 後ろ を 向く と 、俯いて ブーツ の かかと で 地面 を とんとん 鳴らした。

「……わたし 一 人 の 時 に 何度 か 嫌な 出来事 が あった の は 確かだけど 、護衛 なんて 行き過ぎ だ わ。 要ら ないって 言った んだけど ……ギルド の 方針 だから 、って 参謀 職 たち に 押し切ら れちゃって……」

やや 沈んだ 声 で 続ける。

「昔 は 、団長 が 一 人 ずつ 声 を 掛けて 作った 小規模 ギルド だった の よ。 でも 人数 が どんどん 増えて 、メンバー が 入れ替わったり して ……最強 ギルド なんて 言わ れ 始めた 頃 から 、なんだか おかしく なっちゃった」

言葉 を 切って 、アスナ は 体 半分 振り向いた。 その 瞳 に 、どこ か すがる ような 色 を 見た 気 が して 、俺 は わずかに 息 を 吞んだ。

何 か 言わ なければ いけない 、そんな こと を 思った が 、利己 的な ソロ プレイヤー である 俺 に 何 が 言える と いう の か。 俺 たち は 沈黙 した まま 数 秒間 見つめ あった。

先 に 視線 を 逸ら した の は アスナ だった。 濃紺 に 沈み つつ ある 湖面 を 見やり 、場 の 空気 を 切り替える よう に 歯切れ の いい 声 を 出す。

「まあ 、大した こと じゃ ない から 気 に し なくて よし! 早く 行か ない と 日 が 暮れちゃ う わ」

先 に 立った アスナ に 続いて 、俺 も 街路 を 歩き 始めた。 少なから ぬ 数 の プレイヤー と すれ違う が 、アスナ の 顔 を じろじろ と 見る ような者 は いない。

セルムブルグ は 、ここ が 最 前線 だった 半年 ほど 前 に 数 日 滞在 した こと が ある くらい で 、思えば ゆっくり と 見物 した 記憶 も なかった。 改めて 美しい 彫刻 に 彩られた 市街 を 眺める うち に 、ふと 一 度 は こんな 街 に 住んで みたい と いう 気 が わいて くる が 、観光 地 は たまに 訪れる くらい が いい のだろう と 思い直す。

アスナ の 住む 部屋 は 、目抜き通り から 東 に 折れて すぐ の ところ に ある 小型の 、しかし 美しい 造り の メゾネット の 三階 だった。 もちろん 訪れる の は 初めて だ。 よくよく 考える と 、いま まで この 女 と は ボス 攻略 会議 の 席上 で 話す くらい が せいぜい で 、一緒に NPC レストラン に 入った こと すら ない。 それ を 意識 する と 俺 は 今更 ながら 腰 の 引ける 思い で 、建物 の 入り口 で 躊躇 して しまう。


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俺 は 彼女 の 手 を 離し 、指 を その 男 に 向って ひらひら 振って やり ながら 言葉 を 返した。 おれ||かのじょ||て||はなし|ゆび|||おとこ||むかいって||ふって|||ことば||かえした I let go of her hand and waved my finger at the man, waving it in his direction. 나는 그녀의 손을 떼고 그 남자를 향해 손가락을 흔들며 말을 돌려주었다.

「珍しい な 、アスナ。 めずらしい|| "특이하네, 아스나. こんな ゴミ溜め に 顔 を 出す なんて」 |ごみ たま め||かお||だす|

俺 が アスナ を 呼び捨て に する の を 聞いた 長髪 の 男 と 、自分 の 店 を ゴミ 溜 め 呼ばわり された 店主 の 顔 が 同時に ぴくぴく と 引き攣る。 おれ||||よびすて|||||きいた|ちょうはつ||おとこ||じぶん||てん||ごみ|たま||よばわり||てんしゅ||かお||どうじに|ぴく ぴく||ひきつる The long-haired man who heard me call out Asuna and the store owner who called his store a dump simultaneously twitch. だが 、店主 の ほう は アスナ から 、お 久しぶりです エギル さん 、と 声 を かけられる と 途端 に だらしなく 顔 を 緩ま せる。 |てんしゅ|||||||ひさしぶりです||||こえ||||とたん|||かお||ゆるま| But the owner's face immediately slackens when Asuna says, "It's been a long time, Mr. Egil. 하지만 가게 주인은 아스나가 "오랜만이에요, 에기르 씨"라고 인사를 건네자 갑자기 얼굴이 풀렸다.

アスナ は 俺 に 向き直る と 、不満 そうに 唇 を 尖ら せた。 ||おれ||むきなおる||ふまん|そう に|くちびる||とがら| Asuna turned to me and her lips were pouting in dissatisfaction.

「なに よ。 もう すぐ 次の ボス 攻略 だから 、ちゃんと 生きて る か 確認 に 来て あげた んじゃ ない」 ||つぎの|ぼす|こうりゃく|||いきて|||かくにん||きて||| We're about to attack the next boss, so I just wanted to make sure you were still alive."

「フレンドリスト に 登録 して んだから 、それ くらい 判る だ ろ。 ||とうろく|||||わかる|| "You're on my friends list, so you know what you're doing. そもそも マップ で フレンド 追跡 した から ここ に 来られた んじゃ ない の か」 |まっぷ|||ついせき|||||こられた|||| I think you came here in the first place because you tracked your friends on the map."

言い返す と 、ぷいっと 顔 を そむけて しまう。 いいかえす|||かお||| When I retorted, he turned his head away.

彼女 は 、サブリーダー と いう 立場 で あり ながら 、ギルド に おいて ゲーム 攻略 の 責任者 を 務めて いる。 かのじょ|||||たちば||||ぎるど|||げーむ|こうりゃく||せきにん しゃ||つとめて| その 仕事 に は 、確かに 俺 の ような ソロ の 勝手 者 を 束ねて 対 ボスモンスター の 合同 パーティー を 編成 する こと も 含ま れる が 、それにしても わざわざ 直接 確認 に 来る と は 生真面目に も 程 が ある。 |しごと|||たしかに|おれ|||そろ||かって|もの||たばねて|たい|||ごうどう|ぱーてぃー||へんせい||||ふくま|||||ちょくせつ|かくにん||くる|||きまじめに||ほど||

俺 の 、呆れ 半分 感心 半分 の 視線 を 受けた アスナ は 、両手 を 腰 に 当てる と つんと 顎 を 反ら せる ような 仕草 で 言った。 おれ||あきれ|はんぶん|かんしん|はんぶん||しせん||うけた|||りょうて||こし||あてる|||あご||そら|||しぐさ||いった

「生きて る なら いい の よ。 いきて||||| It's okay as long as you're alive. そ ……そんな こと より 、何 よ シェフ どうこう って? ||||なん||しぇふ|| That ...... is not the point. What do you mean, chef?

「あ 、そう だった。 Oh, that's right. お前 いま 、料理 スキル の 熟練 度 どの へん? おまえ||りょうり|||じゅくれん|たび|| What is your current level of cooking skill?

確か アスナ は 酔狂 に も 、戦闘 スキル 修行 の 合い間 を 縫って 職人 系 の 料理 スキル を 上げて いた 覚え が ある。 たしか|||すいきょう|||せんとう||しゅぎょう||あい あいだ||ぬって|しょくにん|けい||りょうり|||あげて||おぼえ|| As I recall, Asuna drunkenly took time out from training in combat skills to improve her artisanal cooking skills. 俺 の 問い に 、彼女 は 不敵な 笑み を 滲ま せる と 答えた。 おれ||とい||かのじょ||ふてきな|えみ||にじま|||こたえた She answered my question with a wry smile.

「聞いて 驚き なさい 、先週 に 《完全 習得 》した わ」 きいて|おどろき||せんしゅう||かんぜん|しゅうとく|| Listen, be surprised. I've mastered it perfectly in the last week.

「なぬっ! な ぬっ Nah-nuh! "

ア ……アホ か。 A ...... idiot.

と 一瞬 思った が 、もちろん 口 に は 出さ ない。 |いっしゅん|おもった|||くち|||ださ| I thought for a moment, "What is this?" but of course I didn't say it out loud.

熟練 度 は 、スキル を 使用 する 度 に 気 が 遠く なる ほど の 遅々と した 速度 で 上昇 して ゆき 、最終 的に 熟練 度 一〇〇〇 に 達した ところ で 完全 習得 と なる。 じゅくれん|たび||||しよう||たび||き||とおく||||ちちと||そくど||じょうしょう|||さいしゅう|てきに|じゅくれん|たび|ひと||たっした|||かんぜん|しゅうとく|| Proficiency increases at a mind-numbingly slow rate with each use of a skill, and finally reaches 10000 when it is fully mastered. ちなみに 経験 値 に よって 上昇 する レベル は それ と は また 別で 、レベル アップ で 上昇 する の は HP と 筋力 、敏捷 力 の ステータス 、それ に 《スキルスロット 》と いう 習得 可能 スキル 限度 数 だけ だ。 |けいけん|あたい|||じょうしょう||れべる||||||べつで|れべる|あっぷ||じょうしょう||||hp||きんりょく|びんしょう|ちから||||||||しゅうとく|かのう||げんど|すう|| Incidentally, the level of a character's skill is not the same as the level raised by experience, and what is raised by leveling up is only HP, muscle and agility status, and the number of "skill slots," the limit to the number of skills a character can acquire.

俺 は 今 十二 の スキルスロット を 持つ が 、完全 習得 に 達して いる の は 片手 直 剣 スキル 、索敵 スキル 、武器 防御 スキル の 三 つ だけ である。 おれ||いま|じゅうに||||もつ||かんぜん|しゅうとく||たっして||||かたて|なお|けん||さくてき||ぶき|ぼうぎょ|||みっ||| I have twelve skill slots, but I have only mastered three of them: one-handed straight sword skill, search-and-rescue skill, and weapon defense skill. つまり この 女 は 途方 も ない ほど の 時間 と 情熱 を 、戦闘 の 役 に たた ない スキル に つぎ込んだ わけだ。 ||おんな||とほう|||||じかん||じょうねつ||せんとう||やく||||||つぎこんだ| In short, she invested an inordinate amount of time and passion into a skill that was useless in combat.

「……その 腕 を 見こんで 頼み が ある」 |うで||みこんで|たのみ|| "......, I need you to do me a favor, given your skills."

俺 は 手招き を する と 、アイテムウインドウ を 他人 に も 見える 可視 モード に して 示した。 おれ||てまねき||||||たにん|||みえる|か し|もーど|||しめした いぶかし げ に 覗きこんだ アスナ は 、表示 されて いる アイテム 名 を 一瞥 する や 眼 を 丸く した。 |||のぞきこんだ|||ひょうじ|||あいてむ|な||ひと べつ|||がん||まるく|

「うわっ!! こ ……これ 、S 級 食 材!?」 |||s|きゅう|しょく|ざい

「取引 だ。 とりひき| こいつ を 料理 して くれたら 一口 食わせて やる」 ||りょうり|||ひとくち|くわせて| If you cook him up, I'll let you have a bite."

言い 終わら ない うち に 《閃光 》アスナ の 右手 が 俺 の 胸倉 を がっし と 摑 んだ。 いい|おわら||||せんこう|||みぎて||おれ||むなぐら||||| Before I could finish, "Flash" Asuna's right hand firmly grasped my chest. そのまま 顔 を 数 センチ の 距離 まで ぐいと 寄せる と、 |かお||すう|せんち||きょり||ぐ いと|よせる|

「は ・ん ・ぶ ・ん!!」 Ha-ha-ha-ha!

思わぬ 不意打ち に ドギマギ した 俺 は 思わず 頷いて しまう。 おもわぬ|ふいうち||||おれ||おもわず|うなずいて| はっと 我 に 返った が 時 すでに 遅く 、アスナ が やった と 左手 を 握る。 |われ||かえった||じ||おそく|||||ひだりて||にぎる I came to my senses, but it was already too late. まあ 、あの 可憐な 顔 を 至近 距離 から 観察 できた んだから 良し と しよう 、と 無理やり 納得 する。 ||かれんな|かお||しきん|きょり||かんさつ|||よし||||むりやり|なっとく| I force myself to accept the fact that I was able to observe that lovely face from a very close distance.

ウインドウ を 消去 し ながら 振り向き 、エギル の 顔 を 見上げて 言う。 ||しょうきょ|||ふりむき|||かお||みあげて|いう

「悪い な 、そんな 訳 で 取引 は 中止 だ。」 わるい|||やく||とりひき||ちゅうし|

「いや 、それ は いい けど よ……。 なあ 、オレ たち ダチ だ よ な? |おれ||||| Hey, we're friends, right? な? オレ に も 味見 くらい……」 おれ|||あじみ|

「感想 文 を 八百 字 以内 で 書いて きて やる よ」 かんそう|ぶん||はっぴゃく|あざ|いない||かいて||| "I'm going to write you a book report of no more than eight hundred words.

「そ 、そりゃ あ ない だろ!!」 ||||だ ろ "Well, of course not!"

この世 の 終わり か 、と いった 顔 で 情けない 声 を 出す エギル に つれなく 背 を 向け 歩き 出そう と した 途端 、俺 の コート の 袖 を ぎゅっと アスナ が 摑 んだ。 このよ||おわり||||かお||なさけない|こえ||だす||||せ||むけ|あるき|だそう|||とたん|おれ||こーと||そで|||||| As I was about to turn my back on Egil, who was making a pathetic "is this the end of the world?" face, Asuna grabbed my coat sleeve tightly.

「でも 、料理 は いい けど 、どこ で する つもりな の よ? |りょうり|||||||||

「うっ……」

料理 スキル を 使用 する に は 、食 材 の 他 に 料理 道具 と 、かまど や オーブン の 類 が 最低 限 必要に なる。 りょうり|||しよう||||しょく|ざい||た||りょうり|どうぐ||||おーぶん||るい||さいてい|げん|ひつよう に| To use cooking skills, you will need at least some cooking utensils and a stove or oven, in addition to the ingredients. 俺 の 部屋 に も 簡単な もの が ある に は あった が 、あんな 小汚い ねぐら に KoB 副 団長 様 を 招待 できる はず も 無く。 おれ||へや|||かんたんな|||||||||しょう きたない|||kob|ふく|だんちょう|さま||しょうたい||||なく I had some simple things in my room as well, but there was no way I could invite the KoB Deputy Commander to such a dirty place to roost.

アスナ は 言葉 に 詰まる 俺 に 呆れた ような 視線 を 投げかけ ながら、 ||ことば||つまる|おれ||あきれた||しせん||なげかけ| Asuna was at a loss for words and gave me a dumbfounded look,

「どうせ 君 の 部屋 に は ろくな 道具 も ない んでしょ。 |きみ||へや||||どうぐ||| I'm sure you don't have any good tools in your room, do you? 今回 だけ 、食 材 に 免じて わたし の 部屋 を 提供 して あげ なく も ない けど」 こんかい||しょく|ざい||めんじて|||へや||ていきょう|||||| For once, I'd be willing to offer you my room in exchange for some food.

とんでもない こと を サラリと 言った。 |||さらりと|いった

台詞 の 内容 を 脳 が 理解 する まで の ラグ で 停止 する 俺 を 気にもとめず 、アスナ は 警護 の ギルド メンバー 二 人 に 向き直る と 声 を かけた。 せりふ||ないよう||のう||りかい||||||ていし||おれ||き に もとめ ず|||けいご||ぎるど|めんばー|ふた|じん||むきなおる||こえ|| Asuna turned to the two guild members on guard and called out to them, paying no attention to the lag time it took for my brain to comprehend her words.

「今日 は ここ から 直接 《セルムブルグ 》まで 転移 する から 、護衛 は もう いい です。 きょう||||ちょくせつ|||てんい|||ごえい|||| I'm going to transfer directly from here to Selmburg today, so I don't need any more guards. お 疲れ 様」 |つかれ|さま

その 途端 、我慢 の 限界 に 達した と でも 言う よう に 長髪 の 男 が 叫んだ。 |とたん|がまん||げんかい||たっした|||いう|||ちょうはつ||おとこ||さけんだ At that moment, the long-haired man shouted, as if he had reached the end of his patience. SAO に もう すこし 表情 再現 機能 が あったら 、額 に 青筋 の 二 、三 本 は 立って いる であろう 剣幕 だ。 sao||||ひょうじょう|さいげん|きのう|||がく||あお すじ||ふた|みっ|ほん||たって|||けんまく| If SAO had a facial expression reproduction function, there would be two or three blue streaks on his forehead.

「ア ……アスナ 様! ||さま こんな スラム に 足 を お 運び に なる だけ に 留まら ず 、素性 の 知れ ぬ 奴 を ご 自宅 に 伴う など と 、と 、とんでもない 事 です! |すらむ||あし|||はこび|||||とどまら||すじょう||しれ||やつ|||じたく||ともなう|||||こと| It is a terrible thing that you would not only visit such a slum, but also bring a stranger into your home!

その 大仰 な 台詞 に 俺 は 内心 辟易 と さ せられる。 |だい あお||せりふ||おれ||ないしん|へきえき|||せら れる 《様 》と 来た 、こいつ も 紙一重 級 の 崇拝者 な んじゃ なかろう か 、と 思い ながら 目 を 向ける と 、当人 も 相当に うんざり と した 表情 である。 さま||きた|||かみひとえ|きゅう||すうはい しゃ||||||おもい||め||むける||とうにん||そうとうに||||ひょうじょう| When I turned my eyes to him, thinking that he must be a paper-thin worshipper, I found that he too had become quite fed up with the situation.

「この ヒト は 、素性 は ともかく 腕 だけ は 確かだ わ。 |ひと||すじょう|||うで|||たしかだ| I am sure of this person's skill, regardless of his background. 多分 あなた より 十 は レベル が 上 よ 、クラディール」 たぶん|||じゅう||れべる||うえ||

「な 、何 を 馬鹿な! |なん||ばかな "What, what nonsense! 私 が こんな 奴 に 劣る など と……! わたくし|||やつ||おとる||

男 の 半分 裏返った 声 が 路地 に 響き渡る。 おとこ||はんぶん|うら かえった|こえ||ろじ||ひびきわたる The man's half-turned voice echoes through the alley. 三白眼 ぎみ の 落ち 窪んだ 目 で 俺 を 憎憎し げ に 睨んで いた 男 の 顔 が 、不意に 何 か を 合点 した か の よう に 歪んだ。 みっしろ がん|||おち|くぼんだ|め||おれ||にく にくし|||にらんで||おとこ||かお||ふいに|なん|||がてん||||||ゆがんだ The man who had been staring at me hatefully with hollowed eyes, almost as if they were trifocals, suddenly twisted his face as if he had reached a point of agreement.

「そう か ……手前 、たしか 《ビーター 》だ ろ! ||てまえ|||| I think it's a beater, right before ......!

ビーター と は 、《ベータテスター 》に 、ズル する 奴 を 指す 《チーター 》を 掛け合わせた 、SAO 独自の 蔑称 である。 |||||||やつ||さす|||かけあわせた|sao|どくじの|さげす そや| Beater is a derogatory term unique to SAO, a cross between "beta tester" and "cheater," which refers to a person who cheats. 聞き 慣れた 悪罵 だ が 、何 度 言われて も その 言葉 は 俺 に 一定 量 の 痛み を もたらす。 きき|なれた|あく ののし|||なん|たび|いわれて|||ことば||おれ||いってい|りょう||いたみ|| 最初に 俺 に 同じ こと を 言った 、かつて 友人 だった 奴 の 顔 が ちらり と 脳裏 を よぎる。 さいしょに|おれ||おなじ|||いった||ゆうじん||やつ||かお||||のうり|| The face of my former friend, who first said the same thing to me, flickers in my mind.

「ああ 、そう だ」

俺 が 無表情に 肯定 する と 、男 は 勢いづいて 言い 募った。 おれ||むひょうじょうに|こうてい|||おとこ||いきおいづいて|いい|つのった When I gave him a blank stare of affirmation, he became more forceful in his insistence.

「アスナ 様 、こい つら 自分 さえ 良きゃ いい 連中 です よ! |さま|||じぶん||よきゃ||れんちゅう|| Asuna-sama, these people are good as long as they are good enough! こんな 奴 と 関わる と ろくな こと が ない んだ! |やつ||かかわる|||||| It's not good to have anything to do with him!

今 まで 平静 を 保って いた アスナ の 眉根 が 不愉快 そうに 寄せられる。 いま||へいせい||たもって||||まゆ ね||ふゆかい|そう に|よせられる いつのまにか 周囲 に は 野次馬 の 人垣 が でき 、《KoB 》《アスナ 》と いう 単語 が 漏れ 聞こえて くる。 |しゅうい|||やじうま||ひとがき|||kob||||たんご||もれ|きこえて| Before I knew it, a crowd of onlookers had formed around me, and I could hear the words "KoB" and "Asuna" leaking out.

アスナ は 周囲 に ちらり と 目 を 向ける と 、興奮 の 度合い を 増す ばかりの クラディール と いう 男 に、 ||しゅうい||||め||むける||こうふん||どあい||ます|||||おとこ| Asuna glanced around her at the man named Cladir, who seemed to be getting more and more excited,

「ともかく 今日 は ここ で 帰り なさい。 |きょう||||かえり| Anyway, leave here today. 副 団長 と して 命令 します」 ふく|だんちょう|||めいれい|

と そっけない 言葉 を 投げかけ 、左手 で 俺 の コート の 後ろ ベルト を 摑 んだ。 ||ことば||なげかけ|ひだりて||おれ||こーと||うしろ|べると||| He then grabbed the back belt of my coat with his left hand. そのまま ぐいぐい と 引き摺り ながら 、ゲート 広場 へ と 足 を 向ける。 |||ひきずり||げーと|ひろば|||あし||むける

「お ……おいおい 、いい の か?

「いい ん です!

まあ 、俺 に は 否 や の あろう はず も ない。 |おれ|||いな|||||| 二 人 の 護衛 と 、いまだに 残念 そうな 顔 の エギル を 残して 俺 たち は 人ごみ の 隙間 に 紛れる よう に 歩き 出した。 ふた|じん||ごえい|||ざんねん|そう な|かお||||のこして|おれ|||ひとごみ||すきま||まぎれる|||あるき|だした Leaving the two guards and Egil, who still looks disappointed, we walk out into the crowd. 最後に ちらり と 振り返る と 、突っ立った まま こちら を 睨む クラディール と いう 男 の 険悪な 表情 が 、残像 の よう に 俺 の 視界 に 貼りついた。 さいごに|||ふりかえる||つったった||||にらむ||||おとこ||けんあくな|ひょうじょう||ざんぞう||||おれ||しかい||はり ついた

セルムブルグ は 、六十一 層 に ある 美しい 城塞 都市 だ。 ||ろくじゅういち|そう|||うつくしい|しろ ふさ|とし| Selmburg is a beautiful fortified city on 61 levels.

規模 は それほど 大きく も ない が 、華奢 な 尖塔 を 備える 古城 を 中心 と した 市街 は 全て 白亜 の 花崗岩 で 精緻に 造り 込ま れ 、ふんだんに 配された 緑 と 見事な コントラスト を 醸し出して いる。 きぼ|||おおきく||||きゃしゃ||せんとう||そなえる|こじよう||ちゅうしん|||しがい||すべて|しろ あ||かこうがん||せいちに|つくり|こま|||はいされた|みどり||みごとな|こんと らすと||かもしだして| The city is not very large, but it is centered on an ancient castle with slender spires, all finely built of white granite, which contrasts beautifully with the abundance of greenery. 市場 に は 店 も それなり に 豊富で 、ここ を ホームタウン に と 願う プレイヤー は 多い が 、部屋 が とんでもなく 高価であり ──多分 アルゲード の 三 倍 は する だろう ──、よほど の ハイレベルに 達さ ない かぎり 入手 する の は 不可能に 近い。 いちば|||てん||||ほうふで||||||ねがう|ぷれいやー||おおい||へや|||こうかであり|たぶん|||みっ|ばい||||||はいれべるに|たっさ|||にゅうしゅ||||ふかのうに|ちかい

俺 と アスナ が セルムブルグ の 転移 門 に 到着 した 時 は すっかり 陽 も 暮れかかり 、最後 の 残照 が 街並み を 深い 紫色 に 染め 上げて いた。 おれ||||||てんい|もん||とうちゃく||じ|||よう||くれかかり|さいご||ざんしょう||まちなみ||ふかい|むらさきいろ||しめ|あげて|

六十一 層 は 面積 の ほとんど が 湖 で 占められて おり 、セルムブルグ は その 中心 に 浮かぶ 小島 に 存在 する ので 、外周 部 から 差し込む 夕陽 が 水面 を 煌か せる 様 を 一幅 の 絵画 の ごとく 鑑賞 する こと が できる。 ろくじゅういち|そう||めんせき||||こ||しめられて|||||ちゅうしん||うかぶ|おじま||そんざい|||がいしゅう|ぶ||さしこむ|ゆう よう||すいめん||こう か||さま||ひと はば||かいが|||かんしょう|||| Most of the 61st layer is occupied by lakes, and Selmburg is located on a small island in the center of the lake, so you can admire the way the setting sun shining in from the periphery makes the surface of the water sparkle like a painting. 広大な 湖水 を 背景 に して 濃紺 と 朱色 に 輝く 街並み の 、あまり の 美し さ に 俺 は しばし 心 を 奪われた。 こうだいな|こすい||はいけい|||のうこん||しゅいろ||かがやく|まちなみ||||うつくし|||おれ|||こころ||うばわれた The beauty of the cityscape, with its vast lake in the background, shining in dark blue and vermilion, captivated me for a while. ナーヴギア が 持つ 新 世代 の ダイアモンド 半導体 CPU に とって は 、このような ライティング 処理 など 小手先 の 技 な のだろう が。 ||もつ|しん|せだい||だいあもんど|はんどうたい|cpu||||||しょり||こてさき||わざ||| For Nerve Gear's new-generation diamond semiconductor CPUs, this kind of lighting processing is probably just a trivial technique.

転移 門 は 古城 前 の 広場 に 設置 されて おり 、そこ から 街路 樹 に 挟まれた メイン ストリート が 市街 地 を 貫いて 南 に 伸びて いる。 てんい|もん||こじよう|ぜん||ひろば||せっち|||||がいろ|き||はさまれた||すとりーと||しがい|ち||つらぬいて|みなみ||のびて| The gate is located in the plaza in front of the old castle, from where the main street, flanked by trees, runs through the city to the south. 両脇 に は 品 の いい 店舗 やら 住宅 が 立ち 並び 、行き交う NPC や プレイヤー の 格好 も どこ か 垢抜けて 見える。 りょうわき|||しな|||てんぽ||じゅうたく||たち|ならび|ゆきかう|npc||ぷれいやー||かっこう||||あかぬけて|みえる 空気 の 味 まで アルゲード と 違う ような 気 が して 、俺 は 思わず 両手 を 伸ばし ながら 深呼吸 を した。 くうき||あじ||||ちがう||き|||おれ||おもわず|りょうて||のばし||しんこきゅう||

「うーん 、広い し 人 は 少ない し 、開放感 ある なぁ」 |ひろい||じん||すくない||かいほう かん|| "Well, it's big, there's few people, and it's very open."

「なら 君 も 引っ越せば」 |きみ||ひっこせば Then you should move in, too.

「金 が 圧倒 的に 足りません」 きむ||あっとう|てきに|たりません

肩 を すくめて 答えて から 、俺 は 表情 を あらためた。 かた|||こたえて||おれ||ひょうじょう|| After shrugging my shoulders, I changed my expression. 遠慮 気味に 訊ねる。 えんりょ|ぎみに|じん ねる I ask him shyly.

「……そりゃ そう と 、本当に 大丈夫な の か? |||ほんとうに|だいじょうぶな|| さっき の……」

「…………」

それ だけ で 何の こと か 察した らしく 、アスナ は くるり と 後ろ を 向く と 、俯いて ブーツ の かかと で 地面 を とんとん 鳴らした。 |||なんの|||さっした||||||うしろ||むく||うつむいて|ぶーつ||||じめん|||ならした Asuna seemed to know what he was talking about, so she turned around, turned her head, and thumped the ground with the heel of her boot.

「……わたし 一 人 の 時 に 何度 か 嫌な 出来事 が あった の は 確かだけど 、護衛 なんて 行き過ぎ だ わ。 |ひと|じん||じ||なんど||いやな|できごと|||||たしかだけど|ごえい||ゆきすぎ|| I'm sure I've had some bad experiences when I've been on my own, but escorting me is going too far. 要ら ないって 言った んだけど ……ギルド の 方針 だから 、って 参謀 職 たち に 押し切ら れちゃって……」 いら||いった||ぎるど||ほうしん|||さんぼう|しょく|||おしきら| I told them I didn't want it, but the counsellors insisted that it was ...... guild policy. ......"

やや 沈んだ 声 で 続ける。 |しずんだ|こえ||つづける

「昔 は 、団長 が 一 人 ずつ 声 を 掛けて 作った 小規模 ギルド だった の よ。 むかし||だんちょう||ひと|じん||こえ||かけて|つくった|しょうきぼ|ぎるど||| でも 人数 が どんどん 増えて 、メンバー が 入れ替わったり して ……最強 ギルド なんて 言わ れ 始めた 頃 から 、なんだか おかしく なっちゃった」 |にんずう|||ふえて|めんばー||いれかわったり||さいきょう|ぎるど||いわ||はじめた|ころ||||

言葉 を 切って 、アスナ は 体 半分 振り向いた。 ことば||きって|||からだ|はんぶん|ふりむいた Asuna turned around halfway through her speech. その 瞳 に 、どこ か すがる ような 色 を 見た 気 が して 、俺 は わずかに 息 を 吞んだ。 |ひとみ||||||いろ||みた|き|||おれ|||いき||吞 ん だ I felt as if I could see the desperate look in her eyes, and I gulped slightly.

何 か 言わ なければ いけない 、そんな こと を 思った が 、利己 的な ソロ プレイヤー である 俺 に 何 が 言える と いう の か。 なん||いわ||||||おもった||りこ|てきな|そろ|ぷれいやー||おれ||なん||いえる|||| I felt I had to say something, but as a selfish solo player, what could I say? 俺 たち は 沈黙 した まま 数 秒間 見つめ あった。 おれ|||ちんもく|||すう|びょうかん|みつめ| We stared at each other for a few seconds in silence.

先 に 視線 を 逸ら した の は アスナ だった。 さき||しせん||はやら||||| Asuna was the first to look away. 濃紺 に 沈み つつ ある 湖面 を 見やり 、場 の 空気 を 切り替える よう に 歯切れ の いい 声 を 出す。 のうこん||しずみ|||こめん||み やり|じょう||くうき||きりかえる|||はぎれ|||こえ||だす

「まあ 、大した こと じゃ ない から 気 に し なくて よし! |たいした|||||き|||| Well, it's no big deal, so don't worry about it! 早く 行か ない と 日 が 暮れちゃ う わ」 はやく|いか|||ひ||くれちゃ|| We'd better get going, or we'll lose the day."

先 に 立った アスナ に 続いて 、俺 も 街路 を 歩き 始めた。 さき||たった|||つづいて|おれ||がいろ||あるき|はじめた 少なから ぬ 数 の プレイヤー と すれ違う が 、アスナ の 顔 を じろじろ と 見る ような者 は いない。 すくなから||すう||ぷれいやー||すれちがう||||かお||||みる|ような しゃ|| Although they pass by more than a few players, none of them look Asuna in the face.

セルムブルグ は 、ここ が 最 前線 だった 半年 ほど 前 に 数 日 滞在 した こと が ある くらい で 、思えば ゆっくり と 見物 した 記憶 も なかった。 ||||さい|ぜんせん||はんとし||ぜん||すう|ひ|たいざい|||||||おもえば|||けんぶつ||きおく|| I had only stayed in Selmburg for a few days about half a year ago, when it was at the front line, and I had no memory of taking my time to see the sights. 改めて 美しい 彫刻 に 彩られた 市街 を 眺める うち に 、ふと 一 度 は こんな 街 に 住んで みたい と いう 気 が わいて くる が 、観光 地 は たまに 訪れる くらい が いい のだろう と 思い直す。 あらためて|うつくしい|ちょうこく||いろどられた|しがい||ながめる||||ひと|たび|||がい||すんで||||き|||||かんこう|ち|||おとずれる||||||おもい なおす As I gazed once again at the beautiful sculptures of the city, I suddenly felt a desire to live in such a city, but then I remembered that it is probably best to visit a tourist destination only occasionally.

アスナ の 住む 部屋 は 、目抜き通り から 東 に 折れて すぐ の ところ に ある 小型の 、しかし 美しい 造り の メゾネット の 三階 だった。 ||すむ|へや||めぬきどおり||ひがし||おれて||||||こがたの||うつくしい|つくり||||みっかい| The room Asuna lived in was on the third floor of a small but beautifully constructed maisonette just off the main street on the east side. もちろん 訪れる の は 初めて だ。 |おとずれる|||はじめて| よくよく 考える と 、いま まで この 女 と は ボス 攻略 会議 の 席上 で 話す くらい が せいぜい で 、一緒に NPC レストラン に 入った こと すら ない。 |かんがえる|||||おんな|||ぼす|こうりゃく|かいぎ||せきじょう||はなす|||||いっしょに|npc|れすとらん||はいった||| Come to think of it, I've only talked to this woman at boss strategy meetings, and we've never even been to an NPC restaurant together. それ を 意識 する と 俺 は 今更 ながら 腰 の 引ける 思い で 、建物 の 入り口 で 躊躇 して しまう。 ||いしき|||おれ||いまさら||こし||ひける|おもい||たてもの||いりぐち||ちゅうちょ|| With that in mind, I still hesitate at the entrance of the building with a feeling of reluctance.